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獅子を纏った男

その男は輝いていた。

ステージに立つ彼ほど、煌びやかで美しいものはない。
ひとたび彼が舞台に登場すると、観客たちの視線は彼に突き刺さる。
また舞台を去る時は、拍手喝采を浴びるのだ。


その男は泣いていた。

ステージに立つ時ほど、怖いものはない。
ひとたび彼が舞台に登場すると、観客たちの視線は彼に矢のように刺さった。
まるで頭の先から爪先まで、観客たちに舐め回されるようにジャッジされる気分になる。
彼に瞳は怯えていた。




ひとたび人選を誤ると、状況は悲惨になる。
今この瞬間に必要なのは
獅子を纏った男。

だがしかしその獅子は
時に内に籠るがゆえ
照明が当たるその時に
獅子を纏った男は不在になるのだ。


代わりの人格がカバーするも、
舞台はうまくいくわけがない。

彼は一人部屋に篭り
ただ、時を過ごす。
人好きの人嫌い。


観客は彼を愛していた。
一度見つめられたら忘れられないあの目つき。
整った顔立ちは、女性たちを虜にした。

「彼のようになれたら」
と、望む者はごまんといた。

「どうしたら彼のようになれるの」
「彼は最高」
「彼と時を共にすることができるのならば、もう望むものは何もない」



誰も彼を知る者はいなかった。
彼は孤独だった。

自分を理解してくれる者はおらず。
それもそのはず、
一度も『自分』を出したことがないのだ。

誰も、舞台裏の彼を知らないのだ。


彼の内側は、絶えず声で溢れていた。
"Ngh.."


在るとき夢に蛇が出てきて彼に言った。
"Time to heal."


その頃の彼は多忙で、
毎日のように舞台に立っていた。

時に監督に連れられて街に出ることも。
街では決まって、彼がいくところには
人だかりができた。

初めてだった、休暇を要請したのは。
スターだった彼を舞台に出さない訳はない。
すぐさま休暇は却下された。



その男は輝いていた。

ステージに立つ彼ほど、煌びやかで美しいものはない。
ひとたび彼が舞台に登場すると、観客たちの視線は彼に突き刺さる。
また舞台を去る時は、拍手喝采を浴びるのだ。


その男は泣いていた。

ステージに立つ時ほど、怖いものはない。
ひとたび彼が舞台に登場すると、観客たちの視線は彼に矢のように刺さった。
まるで頭の先から爪先まで、観客たちに舐め回されるようにジャッジされる気分になる。
彼に瞳は怯えていた。


誰一人として気が付かなかった。
彼の袖から、蛇が覗いていたのを。

誰一人として気が付かなかった。
その蛇には”毒”が在ることを。

・・・彼自身でさえも。



舞え。獅子のように。
煌びやかに。

輝け。獅子を纏って。
誰にも気づかれるな。
己が孤独で在ることなど。


必要な時に
蛇はやってくる。
地べたを這って
お前の元に。

その時まで舞い続けるのだ。


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