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ラボラトリーオートメーションの現状

 高齢化に伴う人手不足や人件費の高騰を背景に、各職場で様々な方法による業務効率化が検討されている。それは研究開発の分野でも例外ではなく、注目を集めているのがラボラトリーオートメーション(実験室自動化)である。これは様々な実験プロセスを自動化することで研究者の負担を軽減し、より効率的な研究を可能にするものである。本記事では、ラボラトリーオートメーションの現状、課題、そして今後の展望について解説する。

ラボラトリーオートメーションとは

 ラボラトリーオートメーションとは、実験室で行われる作業を自動化することである。具体的には、試薬の分注、細胞の培養、データの収集など、従来は手作業で行われていた作業をロボットやソフトウェアによって自動化する技術や仕組みの概要である。実験や分析のプロセスを標準化して単純作業の負荷を軽減し、研究者がより創造的な活動に集中できる環境を整えることを主な目的としている。また、ヒューマンエラーのリスクも抑えられるため、より再現性の高いデータ取得が可能になる。

ラボラトリーオートメーションの課題

 一方、ラボラトリーオートメーションの導入には以下のような課題が挙げられる。

装置間の連携が難しい

 実験室で使用される装置は、各装置メーカーが独自のソフトウェアを開発・組み込みをしている場合が多く、互換性が低いことが一般的である。そのため、ある装置で取得されたデータを別の装置に入力する際に​​、フォーマットや通信プロトコルの違いによって装置間でスムーズな情報交換が難しいケースが多い。このような装置やシステム間の「分断」は、オートメーション化を進めるにあたり大きな懸念となっている。
 仮に無理やり連携させようとして仲介用のソフトウェアやインターフェースを導入すると、システム全体が複雑になり却って効率を損なったり高コスト化してしまうこともある。

定型化可能な実験プロセスが少ない

 大量生産をする工場と異なり、研究現場の作業内容は都度変化する。化学合成にしても、目的となる化合物は状況によって変化し、具体的な実験プロセスも変わってくる。分析についても、同じ分析機器を使用する場合でも測定条件やサンプル調整方法はバラバラだったりする。このように作業手順の固定化が難しい研究業務においては、自動化可能な定型業務に落とし込めるプロセス自体が少なく、それを見出すところから苦労する場合がある。
 また、研究では手作業での「直感」や「判断」が必要な場面も多く、これを機械的に置き換えるのは技術的にも運用的にも困難である。

自動化による効果が小さい

 自動化と相性の良い工場の場合、成果が製品コストに直結して費用対効果が明確になりやすい。省人化による人件費削減だけでなく、品質向上にも繋がり、企業としても取り組むモチベーションを出しやすい。一方で研究開発の場合、人件費をコストではなく「投資」と位置付けており、省人化に対する動機が薄い。さらにスケールメリットも低いため、工場と比べて効率化による効果も低い。

課題解決に向けた動向・事例紹介

 近年、このような課題を抱える中でラボラトリーオートメーションの関係各所では以下のような動きがみられている。

標準規格策定

 業界全体での相互接続性向上を目的とした標準規格の策定が進行している。 具体例として、分析機器の相互運用性標準「LADS(Laboratory Automation and Data Standardization)」の策定や分析機器の共通データフォーマット「MaiML(Measurement analysis instrument Markup Language)」の開発が挙げられる。これらの標準規格を策定することで、異なるメーカーの装置間でデータの共有や操作の連携が可能となり、実験室全体の効率化をより進めやすくなる。

単純作業の自動化

 デンソーは、研究者が気軽に使えるラボラトリーオートメーション向け小型ロボット「COBOTTA」を開発している。このロボットは複雑な作業を行うことはできないが、秤量、調合、ピペッティングなどの単純作業を補助することで、研究者の負担を軽減する。これらの作業は多くの化学実験で発生するため、実験全体に対してはわずかな作業量だがほぼ全ての実験で取り入れることができ、自動化の恩恵を受けやすいプロセスである。

"DIY"ロボットによる自動化

 既製品だけではなく、ロボットやAI技術を活用してラボラトリーオートメーションを「自作」する動きもある。これにより、研究者自身の意志を細かく反映させ、より精度の高い自動化が見込める。工場と違ってプロセスが頻繁に変わる研究現場では、使い捨て前提のDIY的な開発が有効な場合もある。

まとめ

ラボラトリーオートメーションは、研究の効率化に大きな可能性を秘めているが、課題も残されている。標準規格のさらなる策定整備や、柔軟な自動化システムの開発など、今後の技術革新に期待したい。

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