老人とネコ

田舎で過ごした幼少期、近所にすみつくネコがいた。おびえぬように、おどさぬように、静かにゆっくり近づくけれど、いつもの距離では逃げ去ってゆく。

ある日、まどろむネコを膝にのせ、ベンチにたたずむひとりの老人。その光景への羨望の眼差しは、今でも忘れず、この胸にある。

人生は等価交換。悲しみの数の喜びと、同じぶんだけ泣き笑う。目覚めて、起きて、歩いてゆけば、それまで、どれだけ繰り返すのか?

人生は等価交換。失くしたものにはすぐ気づくのに、手にしたものは見えにくい。新たなキズに、新たな気づき。僕を呼び覚ます、その声に、また起き上がり、目をこらす。

人生は等価交換……そう思えるならば、もっと遠くへ歩いてゆける。あとを追うように、導かれるように、やわらかなぬくもりに手を伸ばす。

人生は等価交換。やさしい空気につつまれて……日々のかすかな戸惑いと、道のわずかなつまずきも、木々に花咲くこもれびの、四季にまどろむベンチのもとへ……
































































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