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初体験!当日閉店&解雇〜いきなり仕事がなくなった毎日がハードでポップ過ぎる社不〜



5年間勤めたシーシャ屋が突然閉店した、それはもう本当に突然の出来事だった、人生初の当日閉店、当日解雇である。

人間驚き過ぎると状況を理解することができなくなると言うのは本当だ。
目の前で『この店は本日を持って閉店です、今までありがとう!』と大声で宣言しながら何故か涙ぐむオーナーを見てもこいつは何を言ってるんだ?と言う気持ちにしかならない、ただ唐突に渡された花束を抱え必要以上に強く握られぶんぶんと上下に振り回される手の痛さだけははっきりと認識できた。
まだ『君、明日から来なくて良いから』は経験する事はあれどこれは流石に無いだろう。
閉店1時間前、まだ店内にはまばらにお客さんも残る中での解散宣言にぼーっとする頭でこの店に来てから今までを思い返した。


5年前の私は色々な理由がありほぼほぼ仕事をしておらず基本的に当時の恋人に日々の面倒を見ていただいている状態だった。しかしながらその状況があまりにも耐え難くなり週3.4で家事とも両立できそうで尚且つ家から近いアルバイトを探しに探した、恋人との約束でバーテンに復帰する事はまずNG、当時は黒髪ロン毛、眉なし、タトゥーまみれという到底普通の昼のアルバイトを出来る風体でも無かったのでかなり厳しい条件の中で探し出したのがこの店だった。
そもそも私は一つの仕事が全く続かず長くても2年ちょっと勤めると『もう嫌だ!』といきなり転職を繰り返す典型的なタイプでこの店も初めはそんなに長く続けるつもりもなく本当になんとなく、シーシャ屋って響きかっこいいし条件合うし、いっか!という至極馬鹿馬鹿しい理由で働き出した。

スタッフは当時自分を含め3人、正直にいうと店長を筆頭に全員が普通の店では働けないだろうな...と言うような人間だった。
ボクシングジムでオーナーに何故か気に入られ、うちで働け!と言われるがままに当時の仕事を辞め8年間海外でラーメン屋やらされたり、唐揚げを売らされたりと向こうで楽しく過ごしていたのに『日本でシーシャ屋するからやっぱり帰ってこい』というオーナーの鶴の一言でまた日本に呼び戻された中身はほぼほぼ外人の様な物事をオブラートに包む事を知らないが素直で本当に心根の優しいスキンヘッドの元ボクサーの店長。
そしてもう1人私が死ぬほど仲が悪かった同期が『俺は絶対に売れる!才能がある!』が口癖のよくわからないダンサーで非常に自己顕示欲が強くて喋りも存在もうるさい同じ歳の男だった、こいつは後にコロナの給付金詐欺にまんまとひっかかり我々にも『100万必ず儲けれる話がある!』と持ちかけてきた末に店を飛んだ。

こんな3人だったが全員根は真面目だったので営業はそれなりに成り立ったし評判も悪くなかった様に思う、コロナでの蔓延防止法で営業が出来なくなった時も給付金詐欺絡みで同期が飛んだ時もなんとかかんとか店長と2人やいやい言いながらも頑張って営業を続け、やっとコロナも落ち着きなんなりとやってきたのだ。

やってきてはいたのだ。

丁度1か月前程前だ、普段は連絡もほぼなく電話などかけてこない店長から珍しく着信が入っていた。
寝起きで折り返し『なんかありましたか?』と聞くと『すまん、しばらく店でれんわ』と伝えられた、体調を崩して入院する事になった、しばらく開けれる日はお前が営業してくれたらそれでいい10月位には退院するからそれまで店は頼んだぞ、まぁあまり心配はいらないからと。

その連絡からの突然の閉店だ、正直納得はいっていないが所詮私はただの雇われでオーナーからすれば損切りとしては当たり前の事をしただけかも知れないただあまりにも突然だし花束なんか買う余裕があるなら閉店も解雇も前もって伝えられなかったか?とかいやいや、店長の退院も待たずに閉店ってなんだよと言いたいことは山程あったがそれが一つも口からは出てこなかった。

オーナーが帰った後に入院中の店長にすぐに連絡をしてお互いの言い分や今まで聞いていた話が食い違いまくり何がどうだあれはどうなってるんだと言い合った結果、店長は店が閉まる事を全くもって知らされてなかった、あくまでも休業で私がクビになる事も知らなかったと。
普通なら店長が何も聞かされないなんてそんな事あり得るのか?と思うかもしれないが私は今までの5年間でこの人間が如何に誤魔化す事が下手でどうしたって嘘がつけない事を知っていたし、疑う気にもならなかった。

『まぁ!俺も失業や!』

『こんな身体なったら正直、復帰は厳しいって思われたんやろな』

『実は入院の期間も伸びてな』

『まぁ、しゃあない!なんとかなるやろ』

そんな風に言う店長に対して私は心底この人は優しくて大馬鹿でお人好しだなと思った、この人とだから私のような人間でも5年間も一緒に働けたんだろうな、と。

電話を切り、荷物をまとめ、店の鍵を閉める、店長からの『5年間、お疲れ様』のLINEの文字だけがやけに沁みて、私は花束を床に放り投げた。




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