魅惑の海底2万マイル:サブマリン・ホックシステムを考える
モビリス!こんにちは。
アルバスと申します。東京ディズニーシーが好物です。よろしくお願いします。
さっそくですが、皆さんは東京ディズニーシーにあるアトラクション「海底2万マイル」に乗ったことがありますか?
ディズニーファンの方ならもちろん、そうでない方も一度は乗ったことがあるのではないでしょうか。今回はそんな「海底2万マイル」について妄想しようと思います。お付き合いください。
海底2万マイルに並ぼう
では、まずは海底2万マイルを体験していきましょう。ミステリアスアイランドの雄大なカルデラを望みながら、特徴的ならせんスロープを下っていきます。綺麗ですね。
地階ではネモ船長の書斎をめぐります。この辺りにも魅力的なプロップスがたくさん転がっています。
そして乗降場へと列は進みます。小型潜水艇がガラガラと音を立てて運ばれてくる様子を見ると、これに乗って未知の海底探索をするんだ………って誰もがドキドキしますよね。
質問です。
乗降場にいる皆さんは今、どこを見ていますか?
多くの方は恐らく正面を向いてらっしゃいますよね。潜水艇、意外としっかり作られてるんだな〜なんて思ってらっしゃるところだと思います。
ここで、ちょっとだけ上を見てみてほしいんです。
おやおや。
なんだか洗濯バサミみたいな機構がありますね。これは何でしょう。
本日の主役
そうです、これこそ本日の主役「サブマリン・ホックシステム(The Submarine Hook System)」です。洗濯バサミのように潜水艇を掴んでいるアーム機構が開閉することで、何台もの小型潜水艇の運搬・入水・引揚を効率よく行います。
だって、だってここはミステリアスアイランド。世界中からたくさんの研究家がこの地を訪れます。彼らを早くそして大量に捌き、より多くの人に海底の神秘を伝えることが何よりも大切なミッションです。これをクリアする画期的なシステムなんですね。流石ネモ船長。
だって、だってここは東京ディズニーリゾート。世界中からたくさんのゲストがこの地を訪れます。彼らを早くそして大量に捌き、より多くの人の顧客満足度を上げることが何よりも大切なミッションです。これをクリアする画期的なシステムなんですね。流石かがみん。
このように、ストーリーとしてもリアルとしても、車輪のない潜水艇を大量に運搬するのにこのシステムは適しているのです。
では、サブマリン・ホックシステムの仕組みについて少しだけ調べてみましょう。
システムの仕組み
仕組みを妄想するうえでとても参考になるのが、Scott Sherman氏が手掛けたコンセプトアートです。
サブマリン・ホックシステムに関してだけでなく、TDS海底2万マイルのコンセプトアートが驚くほど載っています。しかも説明がびっしり。これには誰もがニヤけてしまいます。
ありました。The Submarine Conveyor System と説明が書いてあります。
“サブマリン・コンベアシステム―サブマリン・ホックシステムは、ハサミ型のアーム機構を使っており、これは潜水艇の上部に付けられた金具を掴んでいる。それらの上部で、カウリングが潜水艇を梁に沿って進行するのに必要な車輪とエンジンを守っている。”
訳すとこんな感じでしょうか。カウリングとは、航空機などに用いられるエンジンカバーのことだそうです。洗濯バサミの上にある四角い箱の中には車輪やエンジンが入っているんですね。
“潜水地点に向けて梁の角度は下がり、鎖車と押し棒によってホックが開かれる。引き揚げ地点では、この逆の動作が行われることによって潜水艇が引き揚げられる。シュートによって潜水艇の位置をホックが掴む場所へ正確に導く”
引き揚げのほうが難しそうですね。アトラクションとしても、入水の感覚の圧倒的なリアリティに比べて、引き揚げの感覚は微妙な感じがします。海底人が交通整理ミスって詰まることも多いし。
こちらのコンセプトアートには、ホックの開閉についてより詳しく書いてありそうです。
① 鎖が鎖車を駆動する
② 鎖車が押し棒を下へ駆動する
③ ハサミ型のホックが開く
④ 潜水艇の金具がホックから解放される
達筆で解読が難しく、スペル自体間違っているかもしれませんが、だいたいこんな内容かと思われます。
文字だけではイメージしにくいので、アニメーションにしてみました。
イラスト下部がシステム全体の流れ、上部がアーム機構の細かい動きとなっています。オレンジの矢印で、鎖車→押し棒→アーム機構、と力が伝わる様子を表しました。サブマリン・ホックシステムの仕組みとしてはこんな感じでしょうか。
以上のような仕組みでサブマリン・ホックシステムは稼働しています。めでたしめでたし。
残念でした。海底2万マイルは、ゲストから見えにくいだけで全編を通して頭上のレールを進むアトラクションです。すなわち、魔法でも妖精の粉でもなく、現代に通ずる物理法則が詰められたサブマリン・ホックシステムはただの“ハリボテ”です。ニューファンタジーランドから見える山と一緒です。
“ハリボテ”がつくるもの
しかも、ニューファンタジーランドの山よりも注目されません。そもそも、サブマリン・ホックシステムを拝めるタイミングは慌ただしくて周りも暗い乗降時のみ。潜水艇の上部に黒塗りで付けられた洗濯バサミにまで気が付く人は、そう多くないはずです。現に、冒頭で海底2万マイルを訪れたときにサブマリン・ホックシステムを見ていた人はどのくらいいたでしょうか。
つまり、サブマリン・ホックシステムは無くても成立するんです。
東京ディズニーランドの「ピーターパン空の旅」を思い出してみてください。海底2万マイルと同じように、レールの下にライド(空飛ぶ海賊船)が吊り下がっている構造です。乗降時だけでなく、本編でも常にレールの存在が目に入ります。
でも別に誰も「空飛ぶ海賊船と言っておきなんてながらレールに繋がってるだけじゃないか!」なんて文句は言いませんよね?
なぜなら、テーマパークには「レールの話はしない、見えなかったことにする」という暗黙の了解が流布しているからです。We don’t talk about tracks no, no, no!ってことですね。
海底2万マイルにもこのルールを適用することができたはずです。あれだけ立派な潜水艇型ライドがあれば、誰もレール構造の正当性なんて気にしません。
しかしながら、海底2万マイルはサブマリン・ホックシステムを作りました。それもネモ船長が考えそうな仕組みを綿密に用意して。
その姿勢が魅惑的だと言いたいのです。私たちの見えないところで潜水艇はレールから解放されて入水しているんだ……と気付いたゲストのイマジネーションを刺激します。これが「海底2万マイル」のすごいところです。
海底2万マイルにおける“ハリボテ”は他にもあります。例えば、潜水艇の後ろに付けられた回転する機構。アトラクション自体は水中を航行しているわけでないので、運営上は全く必要ありません。しかしこれが「後発の潜水艇に乗ったゲストからたまにチラリと見えるとき」のために、水中であることを演出しようと回っているのです。
そういえば、本文冒頭でノーチラス号とネモ船長の肖像画も少し見ましたよね。これらも勿論“ハリボテ”です。ノーチラス号の中には誰も入れませんし、TDSにネモ船長の実体はありません。それなのに、綺麗だよね〜キュンとするね〜と感じられるのは、“ハリボテ”自体が「その文脈における意味を個々人に考察させる」というゆとりを持っているからです。
テーマパークとは、このような“ハリボテ”に五感で触れ、解釈の幅を拡げる場所であるといっても過言ではありません。コレが公園・遊園地とテーマパークの違いであり、映画や演劇とテーマパークの類似性であり、“旅”とテーマパークの類似性なのだと考えます。
魅惑の海底2万マイル
パーク運営において必要なシステムに「海底2万マイル」としてのストーリーを紐づけ、人々の営みや自然の摂理をすべての構造に求める態度は、私たちの住む“地球”の探求をテーマとした「東京ディズニーシー」および「ミステリアスアイランド」が目指す姿そのものです。小さなストーリーが、ゲストに大きなイマジネーションを抱かせる様は、テーマパークのすべてであるとも言えます。
実際に、私自身が「東京ディズニーシー」の魅力に取り憑かれたきっかけはこの「サブマリン・ホックシステム」でした。だってワクワクしませんか?ただレールを進むだけだと思っていた海底2万マイルが、もしかしたらあの機構から本当に海中へ繰り出すのかもしれないって思うと。
海底2万マイルは、テーマパークにおける「暗黙の了解」を意識する機会を排除し、ゲストを“旅”へ連れ出すことに成功しています。その代表的かつ特異的な例が「サブマリン・ホックシステム」という“ハリボテ”による、ストーリーとリアルの共存であるといえるでしょう。
次に皆さんが海底2万マイルを訪れる際には、ぜひ「サブマリン・ホックシステム」に思いを馳せてみてください。あなたのイマジネーションが、未知なる海底の“旅”へあなたを誘ってくれるはずです。
それではモビリス!よい旅を!
出典
https://www.tokyodisneyresort.jp/tdrblog/detail/180124/
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