KQおとぎ舞台 デートの夢は永い眠りで
※この記事は「KQおとぎ舞台」に登場するキャラクター、華子とヘクターに関するショートストーリーです。上記村を読んでいる事が前提になりますので、ご注意ください。また、今回の話は椎名林檎・トータス松本「目抜き通り」のPVをオマージュした物語になっています。
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重い闇が体中にまとわりつく。息も出来ず体が自由に動かない、まるで深い海の中にいるみたい。私は成すすべもなく、底の見えない闇へ沈んでいく。私は誰、何故ここにいるの?何も…わからない。意識が拡散し、闇に飲まれ消えていく。
どれくらい時間が経ったかわからない。数時間、数日…それとも、もっと長い時間?周囲がキラキラと光り輝き始め、私は意識を取り戻した。星々のような光は次第に地面に広がり、道のようになった。私は、いつの間にかその上に立っていた。一歩一歩慎重に歩いて、足元を確かめる。うん、大丈夫そう。道の向こうに私を呼んでる誰かがいる。そんな気がして、私は歩みを進めた。
◆
「よう華子、おそかったな。」
「ヘクター・ブラック…?」
その人は私を華子と呼び、にやりと笑いかけた。この人はヘクター・ブラック。それだけはわかった。それ以外は何もわからなかったけど、愛おしくて、ようやく逢えた、そんな気持ちが心の奥から湧き上がってくる。
「えっと、あの…」
私が戸惑っていると、ヘクター・ブラックは私の手を取り力強く体ごと引き寄せた。
「なんだ華子、まさか俺の事忘れちまったのか?仕方ねぇな。」
彼はそのまま私に顔を寄せ、唇を奪う。彼の情熱と煙草の匂いが私の中に入ってくる。あの舞台の終わりに何度も交わしたのと同じ口づけ。
…ほんと、相変わらず強引なのね、この人。
「お待たせ、ヘクター・ブラック。」
私は最愛の人、悪の華ヘクター・ブラックに微笑む。
「なに、それほど待ってたわけじゃねぇさ。いこうぜ、華子。そっちが目抜き通りらしい。」
「あら、いいわね。ヘクター・ブラック、あなたステップ踏める?」
「お前、誰に物を言ってるんだ?俺はヘクター・ブラックだぞ。」
「ふふ、ごめんなさい。それじゃ、華やかに行きましょ。」
私とヘクター・ブラックは手をつないでステップを踏みながら、目抜き通りへと踊りだした。
◆
道は大きく広がり、周囲にはキラキラとネオンサインが光る建物が立ち並ぶ。人々の喧騒こそ無いものの、これは間違いなく目抜き通りだった。
「ふふ、綺麗ね。」
「ああ、こいつは俺とお前2人だけのショータイムだな。」
「観てる人いないなんて、勿体ないわ。贅沢ね。」
2人は踊りながら目抜き通りを軽やかに進む。
「つーか、この道はどこに続いてるんだろうな。三途の川か、閻魔様の裁判所にでもたどり着くのか?」
「ヘクター・ブラック、あなたちょっと…センス古いわね。」
「うるせぇ、死後の世界の事なんて興味もなかったんだよ。」
「ふふ、貴方らしいわ。行きつく先は、最後の審判まで魂がさまよう場所かもしれないし、心臓を天秤に乗せられて罪の重さを計られちゃう場所かもしれないわね。」
私も、どこかで聞いたことある死者の審判の話をする。
「罪の重さなんて言われちまうと、俺達どう考えても地獄行きだな。」
「そうね…人の死に加担してるし、私達が死んだからってそれがチャラになるとは思えないし。でも、私は後悔してないの。私は要領良くは生きられなかった。けど、そのおかげであの舞台に出て最高の演技をやりきって、貴方とこうなる事が出来た。それが私の命の使い道だったのよ。」
「ああ、それに関しちゃ俺も後悔してねぇな。」
「それにね…?」
私はヘクター・ブラックの耳元に口を寄せて囁く。
「貴方と一緒に堕ちるなら、そこがどこであれ天国よ。」
「お、嬉しいこと言うじゃねえか。」
「ローズマリー・パルフェは地獄にはいないでしょうし、永遠に貴方を独り占めするわね。」
「お前、今そういう事言うなよ…」
私はヘクター・ブラックにペロリと舌を出す。
「冗談よ。私達の初デート、まだまだ楽しみましょ。」
2人は輝く沢山のネオンサインに囲まれ踊る。道の行く先はまだ見えない。どこへ行きつくのかもわからない。それでも2人は進む。一緒なら、何があってもそこが2人の居場所なのだから。
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