KQおとぎ舞台 華子とヘクター 泡沫の永遠
※この記事は「KQおとぎ舞台」に登場するキャラクター、華子とヘクターに関するショートストーリーです。上記村を読んでいる事が前提になりますので、ご注意ください。
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一時の情熱が過ぎ去り、静けさが戻って来た薄暗い部屋。狭いベッドの上から二つの声が響く。
「ねえ、ヘクター・ブラック。貴方と私がもし二人共舞台を生き抜いていたら…その時は、貴方から私を誘ってくれた?」
「そりゃ、誘うだろ。せっかく約束したお楽しみだ、据え膳食わねえタマじゃないぜ?」
「どうかなぁ…貴方って悪ぶってるけど、本当のところはちゃんと相手の気持ち考えて行動してそうだし。」
「お前なぁ…あんまり人を見透かすような事を言うと、可愛げがなくなるぞ?」
「お生憎様、それが私だし。貴方だってそんな私がいいんでしょ?」
華子はそう言うとへクターの首に手をまわして唇を近づける。
「ははは、お前らしい。違ぇねえや。」
ヘクターはにやりと笑い華子を受け止め、ゆっくりと唇を重ねる。今までと同じように、煙草とルージュが混じりあった匂いが互いの口腔を満たす。少しの間時が止まったかのように動きを止める二人。暫くして唇を離した華子が、くすりと笑いながら呟いた。
「…でもね。そういうの考えるのって、楽しいと思わない?」
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キラークイーンおとぎ舞台。脱落者は生きて還れぬ死のステージ。私とヘクター・ブラックは幸運にも恵まれ、かろうじて最後まで舞台に立ち続ける事が出来た。
最後まで生き残った者は願いを叶える権利がある。私の願いは決まってた。ウォーレン・ウィーバー、この舞台を創り上げた舞台芸術家。彼に私を主役とした舞台を作ってもらう。勿論人が死んだりしない、世間にきちんと公演できる舞台。彼に出来る全力の舞台を創ってもらい、私も全力でそれに臨む。そうやって、本物になった私を世間に知らしめるのだ。
そして…この舞台にはもう一人、一緒に出て欲しい人がいた。ヘクター・ブラック、悪の華。本物になった今の私なら彼を堂々と誘える、そう思えた。
終幕のドタバタで、彼とはまだ話せてなかった。公演前にしたあの「約束」の事も。…大体、あの話があるんだから、向こうから私を口説きに来るべきなんじゃないかしら?なんなのよ、あの男。よく考えると腹が立ってきたわ。
私はヘクター・ブラックを探しに、劇場内を捜索しはじめた。
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「よう、華子。お互い最後まで舞台に立てて何よりだったな。俺に抱かれにきたか?」
誰もいない場所に1人佇んでいたヘクター・ブラックは、私に気が付くとにやりと笑った。
「貴方ねぇ…開口一番それなの?」
「だってよ、お前が言ったんだぜ?『終わったら付き合うんだから頑張れ』って。」
「そっ、それは貴方が弱気な事いうから、その…発破をかけたのよ!それに、付き合って欲しい事があるのも本当。その話をしに来たの。」
「ほう、どんな話だ?」
私はウォーレン・ウィーバーに舞台を依頼すること、それにヘクター・ブラックも一緒に出て欲しい事を伝えた。
「お前、付き合うってそれかよ。別に舞台に出るのは構わねぇんだが、なんで俺なんだ?」
「………っしょに出かったのよ……」
「あん?聞こえねぇよ、もうちょっとはっきり言ってくれ。」
「………貴方と対等の立場で、一緒の舞台に出たかったのよ!」
私の声に一瞬面くらった顔をするヘクター・ブラック。が、すぐにニヤリと笑い。
「あー、華子。お前、俺のファンか?そうか、そうか。そりゃ気づかなくて悪かった。」
「ファンとかじゃなくて…いや、貴方の演技はずっと好きだけど、そうじゃなくて、その…あんな約束したんだから、貴方から私を口説きに来てくれるべきでしょ!なんで私が探しに来てるのよ、もう!」
駄目だ。彼に似合う大人の女として接しようとしたけど、気持ちが抑えられなかった。涙まで出てきた。こんな面倒くさい女、ヘクター・ブラックは嫌がるに決まってる。
「ごめんなさい…こんなの、貴方に迷惑よね。今言ったことは忘れて。」
私は涙で崩れた顔を見せないように後ろを向き、ヘクター・ブラックから立ち去ろうとした。その時、彼が背中から私を抱きしめた。
「ああ…本当に悪かったな。ちゃんと俺から探して口説くべきだった。女をそんな気持ちにさせるなんて、このヘクター・ブラック一生の不覚だぜ。改めて言わせてくれ。華子、俺と付き合わねぇか?舞台は勿論、男女としてもだ。」
ヘクター・ブラックは私を彼の方に向き直らせ、じっと目を見つめてきた。
「でも…私、こんなよ。貴方、面倒じゃない?」
「女は多少面倒なくらいが可愛いってな。それにお前の涙…ちょいと反則だぜ?」
ヘクター・ブラックの節くれ立った指が私の涙を拭い、そのままおとがいを持ち上げ顔を近づけてくる。こんなのずるい、それこそ反則よ。やっぱりヘクター・ブラックはひどい悪役だわ。私は体の力を抜き、彼に全てを委ねることにした。
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「…華子、お前ちょっと夢想しすぎじゃねぇか?」
「そうかなぁ、結構あり得ると思うけど。」
薄暗い部屋の狭いベッドの上で、二人の会話は続いていた。
「まあ、現実としちゃ俺達はもうすぐこの世からオサラバなんだがな、残念なことに。」
「そうね。…舞台は泡沫の夢、幕が閉じればはじけて消える。でも、この舞台は物語となって何度も繰り返されるの。ユンカーがそうするって言ってくれた。物語の中の人になった私達は、繰り返される永遠の舞台で全力で演じ、そして何度も結ばれる。それって、なんだか素敵だと思わない?」
「お前と何度も結ばれるのか、そいつは確かに悪くねぇな。」
「でしょ?みんな羨ましがるわよ。」
二つの影はお互いを見つめ合い、再び一つに重なり合った。
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