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【AIのべりすと小説】雪の中のツバメ Re:Snowfall 完全版

この作品は私が以前AIのべりすとで書いた小説【雪の中のツバメ Re:Snowfall】を一部添削した上でChatGPTを使って製作した挿絵を追加したものになっています。



 2023年12月29日、人々がクリスマスを終え年末へと進んでいく中、私は北海道と青森県を繋ぐ旅客フェリー【ゴールドフェリー】のデッキに立っていた。他に人はいなくて私1人、空からはパラパラと雪が降っている。

「予報じゃ雪は降らないって言ってたんだけどな」

 そう独り言ちながら私は青森県の方角を見る、このフェリーの目的地は【青森県群青市】私の生まれた場所であり……逃げるように飛び出した場所だ。

「あれから5年か……まさか、戻ってくることになるとはね」

 そう言いながら私はパーカーのポケットから手紙を取り出す、これはいわば過去からの手紙……私の恋人だった人から送られた……と思わしき手紙だ。少なくとも手紙の名前には私の恋人の名前が書いてある。


「コウ……本当に群青市にいるのかな……」

 白銀コウ、それが私の恋人……元恋人というべきか、ともかくそれが名前、私が群青市から飛びだす少し前に行方不明になり、今も見つかっていない。

「コウ、今どこにいるの?」

 私はもう1度手紙を見てそう呟く、手紙には「群青市で待ってる」という一文と白銀コウという名前が書かれていて、他には何も書かれていなかった。それを確認すると私は手紙をパーカーのポケットの中にしまう。するとデッキにあるスピーカーから到着を知らせるアナウンスが流れた。

「うん……行こう」

 私はキャリーケースを持ってデッキを後にした。



 5年ぶりの群青市は随分と冷え切っていて、まるで私を歓迎していないかのような……そんな気がした。もちろんそれは私の気のせいだとは思うのだけれど、それでもそう感じてしまう。

「それともこれは……私がここから逃げたっていう後ろめたさからくるものなのかな……」

 そんなことを言いながら私はキャリーケースを引きずりながらフェリーターミナルの外に向かう。予定通りなら私の友人がここで待っているはず、そう思いながら辺りを見渡すと、眼鏡をかけたロングヘアの女性が私に向かって手を振っているのが見えた。私は小走りで彼女の元に駆け寄る。

「久しぶりね、ツバメ。北海道はどうだったかしら?」
「うん、まぁ……寒かったよ……久しぶりだね、トワコ」
「そういうこと聞いたんじゃなかったけど、まぁいいわ」

 彼女の名前は笹木トワコ、友達作りが下手だった私の数少ない友人で、私が群青市を飛び出したあとも私の事を気にかけてくれたとてもいい子……。

「ねぇトワコ……私……」
「まぁつもる話は車の中でしましょ、北海道ほどじゃないにしてもここも寒いでしょ?」
「うん……そうだね、ごめんね」
「いいのよ、私もツバメに直接会いたかったし、いい機会だわ」

 私たちは駐車場まで移動するとそこにはトワコの車があった。可愛らしいデザインの白い軽自動車、トワコらしい車だ。


「はい、乗って」

 私はトワコに促されるまま助手席にのり、車は群青市の中心部へと走り出した。

「本当に久しぶりね、ツバメ。電話とかメールで連絡は取り合ってたけど、直接会うのは5年ぶりってところになるかしら」
「うん……そうだね」
「あっちではどうよ?元気に過ごせてる?」
「元気かどうかはわからないけど……ちゃんと生きてるよ」
「そう……まぁいいわ、ところでツバメ、あんたのお母さんとは……」
「その話はしないで……お願い」
「……ごめん、無神経だったわ」
「……別にいいよ」

 私がそう言うとともに信号が赤になり車が止まる。それはなんだかこの車の中に漂う気まずい雰囲気を現しているみたい……なんてことを思いながら私はガラス越しに景色を見る。久しぶりの群青市は5年前とあまり変わっておらず、それは今の私も5年前から変わっていないのだと街が言っている気がした。そんなことを考えているうちに信号が青になってトワコの車が走り出す。

「ねぇ、ツバメ」

 トワコが運転しながら私に声をかける。私はそれに反応してトワコの方を向く。

「今日はさ、あんたが久しぶりに帰ってきたことだし……何か美味しいもの食べに行きましょうよ、せっかくなんだし」
「うん……そうだね」
「そうだ、アヤカも呼びましょうよ、あんたが帰ってきたって聞いたらアヤカの奴驚くわよ」

 是川アヤカ……私とトワコの1つ下の後輩に当たる人物、トワコとは小学校の頃からの幼馴染だけどアヤカとは高校の時に知り合った。アヤカとトワコは高校では図書委員をやっていて彼女はとてもトワコに懐いていた。その縁で私も彼女とよく一緒に過ごしていた。

「アヤカちゃんも……そうだね、久しぶりに会いたいかも」
「決まりね、じゃあレストランに着いたら連絡してみるわ」
「うん」

 私がそう返事をした後、また会話はなくなった、でもそれはさっきのような気まずい空気じゃなくて、無理に何かを話す必要がないという……そんな沈黙だった。


 【ドッキリコング】それは私たちが一緒だった時によく通っていたレストランの名前だ。ハンバーグをメインとした洋食レストランで、私、トワコ、アヤカ、そしてコウの4人でいつもこのレストランで食事をしていた。

「懐かしいなぁ……ところでトワコ、アヤカちゃんとは連絡取れたの?」
「ええ、さっき電話したらすぐ来るって、今は駅の方にいるって言ってたから、5分もすればここにくるでしょ。先に中に入りましょ」
「うん」

 私たちはレストランの中に入り、席に着く。トワコはメニュー表を見て「私は決まったわ」と言いながら【飛び出す爆弾ハンバーグ】を指差さす。

「いつもそれだね……5年前と変わってない」
「5年じゃそう変わらないわよ、人の好みも、何もかもね……ツバメはどうするの?」
「うーん……じゃあ私は【プレーンハンバーグ】で」
「あんたもよくそれ頼んでるわね、5年前から変わってない」
「うっ……基本は大事よ、トワコ」
「あはは、冗談よ、じゃあ店員さん呼ぶわね」
「うん、お願い」

 トワコが店員を呼ぼうとしたその時、高校の制服を着た金髪ツインテールの女の子が慌てた様子で店内に入ってくるのが見えた。女の子は私たちの席に来ると息を切らせながら口を開く。

「はぁ……はぁ……ツ……ツバメ先輩……本当にいた……」

 女子高生の知り合いはいなかったはずだけど……そう思いながら女の子の顔を見るとそれが私のよく知る後輩の顔に似ていることに気づいた。

「もしかして……アヤカちゃん?」
「そ……そうです!あの……お久しぶりですツバメ先輩!」

 そう言ってアヤカちゃんは頭を下げた。5年ぶりの再会だからもっと変わっているかと思ったが、昔とほとんど変わってなくて……いや、いくらなんでも変わらな過ぎというか……なんで高校の制服を着てるのかという疑問が頭に浮かぶが、今は再開を喜びたかった。

「久しぶり、アヤカちゃん」

 私はそう言うとアヤカちゃんが感極まった様子で私に抱き着いてくる。

「先輩だ……本物のツバメ先輩が帰ってきてる……」

 アヤカちゃんは私に抱き着きながらそう言う。私はアヤカちゃんの頭を優しく撫でながら「ただいま」と伝える、するとアヤカちゃんは泣きながら「おかえりなさい」と答えてくれた。それを黙って見ていたトワコが咳払いをしながら口を開いた。

「えーっと、感動の再会のところ申し訳ないけどそろそろいいかしら? 周りの人たちもこっち見てるからさ、ちょっと恥ずかしいんだけど……」

 トワコがそう言うとアヤカちゃんは慌てて私から離れる。

「す……すみません、ツバメ先輩」
「いいよ別に……それよりアヤカちゃん、少し気になることがあるんだけど」
「なんですか?先輩」
「もうとっくに高校卒業してるはずなのになのに、なんで高校の制服着てるの?」
「あー、確かに気になりますよね、まぁ私今大学生で、今年度で卒業するんですけど、未だにこう、女子高生だった頃の感覚というか……中々抜けないんですよねぇ……それにこの制服可愛いですし」
「まぁ可愛いのはわかるけど……でも、もう5年も前になるのによく着れるね」
「あはは……」

 アヤカちゃんが曖昧に笑う。その様子を見ていたトワコがメニューを指差しながら言う。

「アヤカは注文どうすんの?」
「あっそっすね、じゃあ私は【チョコレートパフェ】で」
「ハンバーグはいいの?」
「実は言うともう夕食べてきちゃったんですよね、だからデザートだけで大丈夫です」
「じゃ、今度こそ店員さん呼ぶわね」
「お願いしまーす」

 トワコが店員さんを呼ぶとすぐ男性の店員さんがやってきた、知らない人だが流石に5年も経っている、知らない店員さんがいてもおかしくはない。というかそもそも店員さんの顔なんてちゃんと覚えてはいないのだけれど。そんなことを考えているうちに注文が終わったようでトワコが「お願いします」と店員さんに伝えていた。

「はい、では少々お待ちくださいね」

 店員さんはそう言って立ち去っていく、するとアヤカちゃんが「はぁ……」と安心したように息を吐いた。

「どうしたの?アヤカちゃん」
「いや、わたし先輩がいなくなった時すごく心配したんですよ、後から北海道にいるってトワコ先輩から聞いた時はすごく驚きましたし、なんで私に黙って行っちゃったんだろうって……」

 なんでアヤカちゃんに黙って群青市を出て行ったのか……言ってしまえば私は怖かったのだ、あの事件から逃げ出すように飛び出したこと……それをアヤカちゃんに知られたら失望されるんじゃないかって……だからトワコにだけ群青市を出ることを伝えて……逃げたのだ。

「……」
「ツバメ先輩……本当に心配してたんですから……だから……」
「アヤカ……ストップ、その辺の話は私がするわ」
「トワコ……」
「大丈夫よツバメ、アヤカは私に任せて」

 そう言ってトワコはアヤカちゃんの手を優しく握る。まるで小さい子供を安心させるように。

「アヤカ……ツバメはね、この街で辛いことがいっぱいあったのよ。だから群青市を離れたの、でもそれはね、アヤカを嫌いになったとかじゃないわ、だからそのことをちゃんとわかってあげてね」
「トワコ先輩……」

 トワコは優しい声でアヤカちゃんに語り掛ける。その言葉でアヤカちゃんは少し落ち着いたようだ。

「とりあえず理由はなんとなく分かりました……でもそれじゃあなんで今のタイミングで戻ってきたんですか?もう一回言いますけど私、先輩が帰ってきたって聞いてすごく驚いたんですよ?」

「うん、それはね……手紙が届いたのよ、私宛にね」

 私はそう言ってパーカーのポケットから手紙を取り出す、それはコウから届いた手紙だ。私ははアヤカちゃんにその手紙を手渡す。

「これは……手紙ですか?」
「うん、これを読んでみて」

 アヤカちゃんは言われるがままに手紙を読み始める。最初は真剣な表情で読んでいたアヤカちゃんだが、次第にその表情は変わっていき、なんだかよくわからないものをみるような顔つきに変わっていった。

「なんですか……これ?白銀コウって確か、ツバメ先輩の恋人ですよね?」
「そうね、私が群青市を離れる直前に行方不明になっちゃった私の恋人……そな人からの手紙よ」
「でも【群青市で待ってる】とだけ書かれてもって感じですよね、群青市だってそれなりに広いですし……イタズラの可能性とかは無いんですか?」
「あんまり考えたく無いけど……でも私はこれに何か運命……みたいなものを感じたの」
「うん……それにそろそろ里帰りもしたかったしね、だから戻ってきた」
「まぁツバメ先輩がそう言うなら、私も何も言わないですけど……」

 アヤカちゃんはあまり納得がいってない様子だ、まぁ彼女はコウとはあまり面識がないし、仕方ないだろう。そんなことを考えているとハンバーグとパフェが運ばれてきた。そういえばフェリーに乗ってから食べ物を口に含んでいない。私のお腹は空腹を訴えていた。

「美味しそうですね」
「あげないからね」
「わかってます、でも一口だけ……」
「チョコレートパフェで我慢しなさい」
「はーい……」

 トワコとアヤカちゃんの会話を聞きながら私は懐かしさを感じた。昔は3人でよくここでハンバーグを食べながら話をしていたものだ。

「ねぇ、トワコ」
「なに?」
「私ね……今すごく楽しいの……」
「そう、それは良かったわ」
「トワコは?」
「私も楽しいわよ、久しぶりにあんたと再会できたし」
「そうだよね、うん……」


 それ以降は会話もなく、私たちは黙々とハンバーグを食べ続けた。


「それじゃ、私はとりあえず失礼します、先輩、また会いましょう……明日になったらまたいなくなってるっていうのは勘弁ですよ」
「流石にそれはないから安心して、今日はありがとね、アヤカちゃん」
「こちらこそ会えて嬉しかったです、それでは、また会いましょう」

 アヤカちゃんがレストランを後にするのを見送り、私たちも帰る準備をする。トワコが車の準備をしている間、私はレストランの外で景色を眺めていた。駅の近くのこのレストランから見える景色は私が高校生の頃とほとんど変わっていない、少し寂れたビル、遠くに見える海、5年前と何も変わっていない。

「懐かしい……」

 そう呟いた時、私の背中に誰かが抱き着いてきた。私は突然のことに驚き、振り向くがそこには誰もいない、トワコかな?と思ったが彼女は今車を準備しているはず。もう一度前を向くとそこは先程まで見ていた景色はなくただ一面の雪……雪だけが降り注ぐ景色が広がっていた。

「え……」

 私は思わず声を漏らす。さっきまでは……いや、確かに雪は降っていたけどここまでではなかったはず……それにさっきまでいたトワコの姿が見当たらない、それどころかここにあるのは雪だけだ。他には何も無い、ただ雪だけが降り注ぐ。

「なんなの……これ」

 私がそう呟いた瞬間、私の前に1人の男の子が姿を現した。とても見覚えがある……それは私が探していた恋人……白銀コウの姿だった。彼は5年前と変わらない姿でそこに立っていた。

「ツバメ……」

 声がする。そうだ、コウの声だ。間違えるはずがない。私は彼の名前を呼びながら走って抱きしめる。

「コウ……会いたかった」
「ツバメ……僕もだよ……5年ぶりだね」

 コウは私に微笑みかける。あぁ……よかった、生きててくれたんだ……私がそう思った瞬間、視界が暗転して、気づけば私は元いたレストランの前に立っていた。先程まで私が抱きしめていたコウはもうそこにはいない。

「あれ……?」
「ツバメー、何してるのー、早く行くわよ」

 トワコが車の運転席から私を呼ぶ。私は慌てて助手席に乗り込む。

「あんたどうしたのよ、心ここにあらずって感じだったけど……」
「いや……なんでもない」

 私は車の座席に座りながら先程のことを思い出す。あれはなんだったのだろう?夢?幻覚?……それとも……いや、正直訳がわからな過ぎる、一旦トワコには黙っておくことにしよう。

「そう?ならいいんだけど……とりあえず車出すわね」

 そう言ってトワコは車のエンジンをかける。

「よっしゃ、エンジンついたわね。ところでツバメ、あんた今日はどこに泊まるつもりなのよ?」
「あー、どうしよう」

 私の実家は今もこの群青市にあるのだけれど……正直あの家には泊まりたく無い。あの事件は私が原因なのだ、母親と顔を合わせてまともに話せる自信なんて無い。

「……わかったわ、ここにいる間は私の家に泊まっていいから、そんな顔しないで」
「いいの?」
「いいわよ、あんたは大事な友達だし、考えてみると子どもに頃はお泊まり会とかした事なかったしね、いい機会だわ」
「ありがとうトワコ……助かるよ……」


 そのまま車は走り出す、私はトワコの横顔を眺めながら眠気が襲ってくるのを感じ、座席に体を預けた。


「眠り姫さん、着いたわよ」
「ん……うーん」

 私はトワコに体を揺すられ、目を覚ます。窓を見るとそこは住宅街で、もう目の前にはトワコの家が見えていた。

「寝てた……ごめん」
「別にいいわよ、長旅で疲れてるでしょうし」

 トワコはそう言いながら車を家の前に停める。そして車から降りると私に手を差し出してきた。眠り姫の目を覚ました王子様のつもりだろうか、そんな事を考えながらも私はトワコの手を握って車から降りる。


「とりあえず、中に入りましょうか」
「うん、トワコの家って確か本屋さんだっけ?最近SNSで話題に上がってたのを見たよ」
「最近って言ってもかれこれ2年は話題になってるけどね、うちの店をSNSに載せたのは私なのよ」
「あぁ、そうなんだ……」

 トワコの家は言ってしまえば街の本屋さんで、地元の人にはとても愛されているお店だ。私はあまり本を読まない方だったから、この本屋さんを利用した事はあまりなかったのだけれど……ともかく私たちはトワコの家に入ることにした。既に閉店の時間になっていて、中には誰もいなかった。

「ところでトワコ、あなたの両親は?」
「あー、今はちょっと早い年末旅行に行ってるのよ。京都に行くって、正月まで戻らないってさ」
「そうだったんだ……トワコは行かなくてよかったの?」
「この店をほっとく訳にもいかないでしょ、それにあんたに会いたかったしね」
「トワコ……ありがとう」

 私たちはそう会話しながら店内を歩く、5年ぶりとはいえ店の中の配置は変わってない。

「来て、2階が家になってるのよ、使ってない部屋があるからツバメはそこを使って」

 トワコがそう言って2階に案内してくれる。そこは少し広めの和室で、倉庫として使われてるようで、色々な本が置かれていた。

「まぁちょっと汚れてるけどね、でも少しの間泊まる分には問題ないでしょ?」
「うん、全然平気だよ」
「じゃあ私はここで失礼するわ、今日はもう寝なさい、布団はタンスの中に入ってるから好きに使ってくれていいから」
「わかった、ありがとねトワコ」

 トワコは笑いながら手を振って去っていく、私はトワコを見送った後、タンスから布団を取り出して寝る準備をする。それにしてもレストランに出た後に見たあの雪景色……あれは一体なんだったんだろう……コウ……あなたは今どこにいるの……そんな事を考えながら私は眠りについた。



 気がつくと私はまたあの雪景色の中にいた、確か私はトワコの家で眠って……だからこれは夢?そんなこと思いながらも辺りを見渡す、ただただ雪が降っている、他には何も無い……いや、目の前に1人の少年が立っていた。

「コウ……」

 私がそう呟くと少年は笑顔を浮かべた。
「また会ったね、ツバメ」

 少年は5年前と変わらない姿でそこに立っていた。

「うん……ねぇコウ……ここってどこなの?」
「スノーフォール、僕はここをそう呼んでる」
「スノーフォール……」
「うん、ここは僕たち以外は誰も来れないし、僕たち以外は誰もいないんだ」
「え……それってどういう……」
「簡単なことだよ、ここは僕の夢の中……ツバメ、君はここに迷い込んだんだ」
「え?」
「ツバメ、僕を探し出して……現実の世界で……」
「待って!コウ!」

 私がそう叫んだ瞬間、目の前の光景は消え去り、私はトワコの家の和室にいた。今のは夢だったのだろうか、それとも幻?わからない、私は混乱したままスマホを起動して時計を見る、時間は9時、やや遅いがまぁいいだろう、そう思って着替えた後部屋を出るとトワコがリビングでテレビを見ていた。

「おはようトワコ」
「おはようというにはちょっと遅いわね、まぁいいわ。朝ごはんはテーブルの上に置いてるから、適当に食べといて」
「わかった、ありがとねトワコ」

 私はそう言ってテーブルの前に座り、用意されていた朝食(といっても菓子パンが一つ置いてるだけである、トワコはあまり料理が得意じゃ無い)を頬張る。

「そういえばさ、トワコ」
「なに?」
「私、さっき夢の中にコウが出てきてさ」
「夢?」
「そう……その夢の中でさ、僕を探し出してって言ってたんだ……」
「探し出して……ね、それでその夢の中のコウはどんな感じだったの?」
「それは……なんていうか、5年前と何も変わらなかった……何も……」
「ふむ……」

 トワコは考えごとをする時の癖なのか、右手で顎を触りながら私を真剣な目で見ている。私はそんなトワコを見ながら菓子パンを頬張る。しばらくの沈黙の後、トワコが口を開く。

「まぁそうね、とりあえず群青市を巡ってみたら、例えばそうね……思い出の場所とかに行けば何かわかるかもよ」
「そうだね、元々そういうことはするつもりだったし、トワコはついてきてくれる?」

 私の質問に対しトワコは残念そうにしながら首を横にふる。

「いや、残念ながら明後日まで仕事なのよ」
「あー、そういえばそんなこと言ってたね……ごめんね、仕事前に」
「別にいいわよ、まぁ代わりといってはなんだけど……」

 トワコが何かを言いかけたその時、チャイムが鳴り響く。

「おっいい時間に来たわね。ツバメ、ちょっと玄関まで行ってちょうだい」
「えっ、まぁいいけど……」

 私は何故家主であるトワコが出ないのかと疑問に思いながらも玄関に向かい扉を開ける。そこには見覚えにある金髪ツインテールブレザー制服女子大生の姿があった。


「どうもツバメ先輩、昨日ぶりですね」
「あれ、アヤカちゃん?」
「来たわねアヤカ」
「あ、トワコ先輩もおはようございます」

 アヤカちゃんはそう言いながら私とトワコにお辞儀をする。

「それでアヤカちゃん、急にどうしたの?」

 私がそう聞くとアヤカちゃんはトワコを指さして「そこのトワコ先輩に頼まれましてね、ツバメ先輩に付き合ってくれって」と言った。

「トワコが?」

 私が聞くとトワコは誇らしげに笑いながら答える。

「私がツバメに付き合えない代わりにアヤカを行かせようと思ってね、私って結構用意がいいでしょ?」

 ふふんと笑いながらトワコは自信満々に答える。

「トワコ先輩人使い荒いんですから……まぁ私もツバメ先輩ともっと話したかったですし、結構暇なんで、全然いいですけど」

 アヤカちゃんは呆れたようにため息をつくと、私の手を引いて歩き出す。

「じゃ行きましょうかツバメ先輩、トワコ先輩、また後ほど」
「しっかりやるのよー」
「はーい」

 私はトワコに手を振りながらアヤカちゃんに引っ張られていく。昔と同じで元気な子だなとか考えながら私はアヤカちゃんに連れられるのだった。



 で、それから数分後。私はアヤカちゃんは住宅街を歩いていた。最初は引っ張られるがままにされていたのだがふとアヤカちゃんが「それで、先輩はどこに行きたいんですか?」と聞いてきたので特に決めてなかったと話すと少し呆れた様子で「とりあえずそこから決めましょうか……」と言ってきたのだ。

「あはは……ごめんね、何も考えてなくて」
「まぁ先輩が少し抜けてるところがあるのは知ってますけど……ちなみに行きたいところとかは?」
「うーん……とりあえずコウに関係ありそうな場所かな、私とコウの思い出の場所というか……とにかくコウと関係ありそうな場所にいきたいな」
「なるほど、でも私はコウさんについては詳しく無いのでー、とりあえずそういう場所に覚えは無いんですか?例えば……コウさんと昔遊んだ場所とか、そういう思い出の場所とか」
「そうだなぁ……」

 そう言いながら私は考える、私とコウの遊び場所といえば……

「廃墟とか?」

 私がそう答えるとアヤカちゃんは少しギョッとした様子で「廃墟ですか?」と聞き返してくる。

「うん、コウが廃墟マニアでね、私はそこまででもなかったんだけど。よく付き合わされてたんだよね」
「へぇ……そうだったんですね」
「よく行ってた廃墟があってね、駅前にある大きなビルなんだけど……」

 私はスマホで地図を見せながらアヤカちゃんに説明する。すると、何かに気づいたのか彼女は「あ」と声をもらす。

「あーすいません、ここ、もう取り壊されて別のビルが立ってますね」

 アヤカちゃんがスマホの画面を動かして写真を見せる、確かにそこには古びたビルではなく、新しい大きなビルが立っていた。


「今は映画館とかゲームセンターとかが入った商業施設になってるっす、まぁ駅前にずっと置いておくには危険ですからね、仕方ないですよ」
「そっか、うーん……」
「でもまぁ、試しに行ってみます?もしかしたら何か残ってるかもですし」
「そうだね、とりあえず行ってみようか」

 私はアヤカちゃんの言葉に頷き、2人でバスに乗り、商業施設に向かうことにした。



「ここですよ」

アヤカちゃんはバス停で降りると、そのまま商業施設の入口に向かっていく。私も同じようにして後をついていく。

「最初に群青市に戻った時は何も変わってないなと思ったけど、変わってるところもあるんだね……」
「まぁここ最近は再開発とか言って結構色々やってるみたいですからね、ほら、見てください」

 アヤカちゃんはそう言いながら商業施設の入口の前に立ってるパネルを指差す。そこにはとある企業の広告が表示されている。

「再京リソースによる再開発計画?」
「そう、再京リソースっていうのは北海道函館市に拠点をおく企業のことですね、まぁ簡単に言うと再京リソースがこの群青市の駅前周辺を買い取って再開発するって話ですよ」
「へえーそうなんだ……」

 再京リソースの名前は私も知っている、京を再び函館に……そんなスローガンをかかげて最近頭角を現している企業だ、代表が土方歳三の末裔を自称してたり……ともかく、なんでそんな企業が北海道から離れた群青市の再開発なんてしているのか、アヤカちゃんにそれを聞くと、アヤカちゃんは待ってましたと言わんばかりに説明を始めた。

「再京リソースは元々函館を盛り上げる為に色々な企業に声をかけていて、その中のひとつに群青市の企業があったんですよ、で、再京リソース側がその企業に再開発の提案をされた結果、再京リソース主導での再開発案が通ったって感じですね」
「なるほどね……」
「まぁ再京リソースのやり方は結構強引なところがあって、再開発への反対意見も結構あるんですけど、でもまぁ元々寂れてはいましたし、そこに新しいビルを建てて、観光地として発展させるっていう試みは私としては良いと思いますね」


 アヤカちゃんはそう言いながらパネルから離れて商業施設の入口に向かう。

「とりあえず中に入ってみましょうか、もしかしたら何かわかるかもしれませんよ?」

 アヤカちゃんにそう言われ、私は商業施設の中に入った。



「結構広いね」
「まぁ、映画館とかゲームセンター以外にもレストランやカラオケ、とにかく色々入ってますからね、今群青市で遊ぶならここで遊ぶのがベターですね、ところでどこか行きたいとこあります?先輩って結構なゲーム好きでしたよね?」
「昔はともかく、今はあまり触れてないからけどね、でもコウとはよくゲームセンターにも行ってたし……そうだね、ゲームセンターに行ってみようかな」
「了解です、じゃあ行きましょうか」

 私とアヤカちゃんでエスカレーターを上がり、ゲームセンターに向かう。群青市にはバイキング……遊園地とかに置いてある船が揺れる乗り物がおいてあるゲームセンターがあって、コウとよくそこに行っていた事を思い出す。

「そういえばさ、バイキングがあるゲームセンターがあったじゃん、あれって今もやってるの?」
「あそこは今もやってますよ、一回バイキングを撤去しようって事になったんですけど、撤去中止の署名が集まっちゃって、それで結局撤去されずにそのままになってるんですよ」
「なんていうかそれを聞いて安心した、私の好きだったものが無くなるっていうのはやっぱり残念だからね、5年も戻ってないのに何言ってるんだって感じだけど」
「まぁ、その気持ちはわかりますけどね……おっと、ここですね」

 話しているうちにエレベーターがゲームセンターのある階に到着する、エレベーターを出ると、目の前にはUFOキャッチャーにプリ機、音ゲーや体感ゲーム機など、いかにも今風のゲームセンターといった光景が広がっている。

「うーん、こう言ってはあれだけどよくあるゲームセンターって感じだね」
「商業施設の中にあるゲームセンターなんてそんなものでしょう、まぁせっかく来たんですからなにかやっていきませんか?」
「確かにそうだね、うーん……あそこのエアホッケーでいいかな、アヤカちゃんもそれでいい?」
「いいですよ、先輩とならなんでも」

 私はそう言いながらエアホッケーの筐体に向かう、年末という事もあってか人が結構いたが、幸いにも空いていたのですぐにプレイできた。

「そうだ、負けた方が今日の昼食を奢るっていうのはどうですか?そういうのがあった方が燃えますし」
「いいよ、今日は何奢ってもらおうかな」
「もう勝った気でいますね、いいですよ、私の実力を見せてあげます!」


 こうして私とアヤカちゃんのエアホッケーが始まった。



「いや、ちょっと強すぎじゃないですか?一点も取れなかったんですけど……」
「ふふん」

 私は得意気に胸を張る。今の戦い、結局アヤカちゃんは一点も取ることができずに私の勝利で終わったのだった。

「正直悔しいですけど……まぁそれはそれとして先輩が楽しそうでよかったですよ、先輩なんというか、あんまり余裕なかった感じだったんで」
「え……」

 アヤカちゃんに言われてハッとする、確かにそうだったかもしれない。群青市に来てから私はずっとコウのことを考えていた、それもあってか少し余裕がなかったのかもしれない。でも……

「今は楽しいよ、アヤカちゃんのおかげだね」
「そうですか?なら良かったです、じゃあ最上階にいきましょうか、そこがレストラン街になってるんてすよ」
「うん、いこうか」

 私とアヤカちゃんはそのまま最上階へと向かう。そこは様々なレストランが並んでおり、どれも美味しそうだ。

「昨日はハンバーグだったんで、今日は……そうですね、海鮮とかいいんじゃないですか?先輩って魚介類好きですし」
「私がお魚好きってよく覚えてたね、いいよ、じゃあそうしよっか」

 というわけで私たちは海鮮のレストランに入る。そこそこ席は埋まっていたが、運良く2人用の席が空いていたのでそこに座る。アヤカちゃんがメニューを見て「先輩はどうします?」と聞いてくる。私は渡されたメニューをパラパラとめくり、サーモン丼を注文する。アヤカちゃんはイカとホタテのバター醤油焼き定食を注文していた。待ってる間少し手持ち無沙汰になっていたがアヤカちゃんが「そういえば……」と話題を切り出した。

「先輩ってあっちでは何やって暮らしてるんですか?」
「んー?」
「職業ですよ職業、先輩、なんというか生活感が無いというか……まぁ私も人のこと言えないんですけど、でもほら、先輩って群青市を離れていた時間が長いじゃないですか?私には連絡くれなかったし、だから先輩今何やってるのかなーっと思いまして」
「あはは、ごめんね、連絡できなくて……私はね、今はススキノでバーテンダーやってる」

 私がそう言うと、アヤカちゃんは意外そうな表情を浮かべていた。

「バーテンダーですか?なんか意外ですね、先輩ってあまりこう……人と話すのが得意って感じじゃなかったから」
「あはは、確かに……でもさ、これでも私結構頑張ってるんだよ、私の事拾ってくれた豊水さんにも恩返ししたいしさ」
「豊水さん?誰ですか?」
「私が働いてるBARのマスター、北海道に行った後行く当てもなく彷徨ってた時に豊水さんに拾ってもらって、それであの人が経営してるBARで働くことになったんだよね」
「へぇ……まぁ、一回行ってみたいですね、そのBAR」
「そうだね、今度来てよ、歓迎するから」
「はい、楽しみにしてますね……あ、注文が来たみたい」

 アヤカちゃんの目の前に、イカとホタテのバター醤油焼き定食が置かれ、私の前にはサーモン丼が置かれる。


「それでは……」
『いただきます』

 2人で手を合わせて食事を始める、アヤカちゃんが「美味しいですね」と言い、私もそれに頷きながらパクパクと食べ進めていく。

「そういえば先輩、群青市にはいつまでいる予定なんですか?」
アヤカちゃんがイカを食べながら聞いてくる。
「んー、お正月が終わったら仕事だからね、長くても1月3日には帰るかな?」
「そうなんですか、少し寂しいですね」
「そうだね……うん、今度北海道に来てよ、案内するからさ、トワコと一緒にさ、そしたらきっと楽しいと思うよ」
「そう……ですね、行きますよ、絶対行きます……でもそうだとすると今日が30日だから……そこまで時間がある訳じゃありませんね……よし」

 アヤカちゃんは何かを決意したような表情で私を見る、私は「どうしたの?」と聞くと彼女は「行きませんか?私達の母校に」と言ってくる。

「母校?」
「そう、市立群青高等学校ですよ、あそこはまさに私達の、そして先輩とコウさんの青春の場所じゃないですか、何かあるかもしれませんよ、だから行きませんか?先輩」

 アヤカちゃんが真剣な様子で尋ねてくる。確かに彼女の言う通り、あの高校に行けば何かわかるかもしれない、だけど……

「あのさ、確かにそうかもしれないけど……私達もう部外者だし、それにもう冬休みでしょ?開いて無いんじゃない?」
「まぁ、外から見るだけでも何かわかるかもですし、誰もいないんならむしろ簡単に侵入できちゃいますよ」
「いいのかなぁ……」

 アヤカちゃんは多分私達が過ごした学校を久しぶりに見たいのだろう、それは私も同じ気持ちだ。でも、やっぱり……私が口を開こうとすると彼女はそれを遮るように喋り出す。

「いいんですよ、それに先輩だって気になるでしょ?私達が過ごしたあの学校、今はどんな感じなのかって」
「確かに……それはそうだけど」

 あの学校に行けば何かわかるかもしれない、そんな予感が確かにある。でも……私はまだ怖がっているのかもしれない……あの場所に行けば……コウとの思い出が、2人で歩いた思い出がどんどん色褪せていく気がする。

「……」
「先輩……やっぱりやめときますか?」

 私が黙っていると、アヤカちゃんが心配そうに見つめてくる。

「……ううん、大丈夫、行こう」
「わかりました、じゃあまずはご飯を食べて元気を出しましょう」

 アヤカちゃんはそう言って私に笑いかける。私もそれに頷き、2人でご飯を食べ始めた。



「さて、もうすぐ着きますね」

 アヤカちゃんが背伸びしながらそう言う。私達は先程レストランを出て、そのまま目的地の群青高等学校に向かっていた。駅前から群青高等学校はそれなりに距離があるのでまたバス移動だ。

「ねぇアヤカちゃん、確認なんだけどさ」
「なんですか?」
「本当に校舎の中には入ったりしないよね?」
「ハハハ、外から見るだけですって」

 アヤカちゃんはそう言いながら降車ボタンを押す。料金を支払いバスを降りた瞬間、冬の寒さが私とアヤカちゃんを襲った。

「うー、やっぱり寒いね、また雪が降ってきたし……」
「海が近いとはいえ雪国ですからね……とはいえ、懐かしき我が母校ですよ、先輩」

 前を見てみると、群青高等学校と書かれた正門が見える。ここもまた5年前と変わっていない……いや、よく見ると少し新しいかもしれない。


「あー、少し前に改築工事をしてたらしくてですね、まぁ、歴史だけは古い学校なので老朽化が進んでいたそうです」
「なるほど……変わってないと思っていても、やっぱり変わるんだね」
「そうですねぇ……なんか年寄りみたいなこと言ってません?先輩」
「あはは……いやさ、この学校に来たのも本当に久しぶりだから懐かしくて……」
「それで、どうします?中、入ってみますか?」

 アヤカちゃんがイタズラっぽい笑みを浮かべて私に聞いてくる。入ってみたい気持ちがないといえば嘘になるけど……

「いや……やっぱりやめとく、今は私たち部外者だし、勝手に入っていい場所じゃないしね」
「そうですか、先輩がいいならそれで……あ、そういえば」

 アヤカちゃんが何かを思い出したように制服のポケットをゴソゴソと漁り始める。

「これ、忘れ物です」

 アヤカちゃんはポケットから一つのキーホルダーを取り出して私に手渡す、それは可愛らしいイカのキーホルダーだ。

「これは……?」
「先輩が置いてったキーホルダーです、いつかこれを渡そうと思ってたんですよね……先輩っていつも肌身離さずそのキーホルダーを付けてたじゃないですか?」
「うん、これ、コウとお揃いのやつなんだよね……ありがとう、待っててくれて……」

 そう言いながらキーホルダーを手にしたその時、視界がぐにゃりと歪むと、そこは雪景色しかない場所に変わっていた。

「ここは……」

 ふと横を見ると、そこには先程までいたはずのアヤカちゃんがいない……いや、私はこの場所を知っている……そうここは……

「スノーフォール……またここに来たんだね……」
 3度目となると流石に慣れるというか、驚きはそこまでなかった。でも……

「コウは……コウはどこなの……」

 そう、彼がどこにもいない、1度目と2度目はコウがここにいてくれたのだが今度はいない。

「ねぇ、どこにいるの?」

 私は誰もいない空間に声をかけるが当然返事はない、そして吹雪がさらに強くなっていく。

「寒い……コウ……どこに……」

 そう呟きながら私は吹雪の中を進んでいく、すると……吹雪の中で白い光がチカチカと光っているのが見える。

「あれは……」

 私は白い光に向かって走る、そして……そこにたどりついた。それは白い光を放つ宝石の様な物体だった。

「これは……」

 私はそれを手に取ると、視界がまた歪み、私はバスの中にいた。

「先輩!何やってるんですか?」
「……え……あ、アヤカちゃん」
「なんですか?さっきからボーッとして……何かあったんですか?」
「ううん、大丈夫、ごめんね」
「それならいいですけど……ほら、もう着きますし降りましょう」

 私達は荷物を持ってバスを降りる、そしてそのままバス停から少し歩くとトワコの家が見えた、どうやらあの雪景色の中にいる間、私は帰りのバスに乗っていたらしい。

「結構いい時間になったんで、一旦トワコ先輩の家に戻ります、いいですよね、先輩」

 アヤカちゃんはそう言って歩き出す、私もそれに続いて歩き出した。



 トワコの家に戻ると暇そうな顔をしたトワコが本棚の整理をしていた。周りを見てもお客さんはおらず、どうやら暇を持て余している様だった。

「ただいま、トワコ」
「おかえり、ツバメ、どうだった?何かコウくんの手がかりは掴めた?」
「うーん、何というか……よくわからなかったかな……」

 私は曖昧な返事しかできない。実際現実世界でもあの空間でも手がかりらしい手がかりを発見した訳では無い、ただ、コウとの思い出のキーホルダーが手に入っただけだ。

「そっか、でもね、私の方はね……じゃーん、あんたが夢の中でみた雪景色について調べておいたのよ」

 フフンと得意気な顔をしながらトワコは一冊の本を私に見せる、その本には大きく【群青市の伝説について】と書かれていた。

「へぇ……こんなの調べてたんですね、暇だったんですかトワコ先輩」
「年末だからか人が来なくてね……ともかく、ツバメが言ってた雪景色、後から考えたら似た様な話を聞いた覚えがあってね、このページを見て」
「これは……」

 トワコの開いたページには1枚の写真が貼られていて簡単な解説が載ってあった。題して【雪見画坂の伝説】群青市にある雪見画坂では奇妙な現象が起こる、それは雪景色の中にその人の思い出が映し出される、というものだ。

「これって……」
「うん、ツバメの夢の中の状況と酷似している、まるで本当に雪景色にその人の思い出が映し出されるみたいな感じで……」
「ねぇトワコ……それって、まるでコウが私の思い出の中にしかいないみたいじゃない……」
「いや……それは……そうなっちゃうわね……」
「そうなっちゃうわねじゃないよ!!コウが私の中にしかいないなんてありえない!!」

 私は思わず声を荒らげてしまう、トワコは何かを考えるような仕草をする。そして少しの時間が経過した後、トワコは口を開く。

「ねぇツバメ、雪見画坂に行ってみない?」
「え?」
「雪見画坂、そこに行ってみたら何かわかるかもしれないしさ……いいでしょ?ツバメ」

 トワコが私を見つめる。確かにこのまま何もしないでいるのも嫌だし、雪見画坂に行ってみてもいいかもしれない。


「そうだね……じゃあ行こうか」
「えーと先輩方、私はどうすれば……」

 アヤカちゃんが恐る恐るといった様子で聞いてくる。私とトワコは顔を見合わせると、2人で笑った。

「もちろん一緒に行くに決まってるじゃない」
「そうだね、一緒に行こう、アヤカちゃん」
「わかりました……じゃあ、行きましょうか、先輩方」

 アヤカちゃんはそう言って荷物を持ちながら立ち上がる。私達もそれに続いて立ち上がり、雪見画坂に向かう為に歩き出した。



 雪見画坂は群青市の外れにあり、今回はトワコもいたから車で行くことにした。トワコが運転する車に揺られながら私とアヤカちゃんは窓の外の景色を眺めている。

「雪が本格的に降ってきてるね……トワコ、一応気をつけてね」
「わかってるっての、それよりツバメ、もうすぐ着くから準備しなさいよ」

 トワコにそう言われ私はスマホをしまう。そして5分ほど車を走らせると、雪見画坂に到着した。

「ついたわね……」
「何というか……何もない場所ですね、本当にただ雪が積もってるだけというか……人もいないし、本当にここで合ってるんですか?」
「別にここは観光地って訳じゃないからね、それにツバメの夢の話だと何もない雪景色が広がってたって話だし……ツバメ、ここに見覚えはある?」
「うん、夢の中で見た通りだよ、多分だけど……」
「そう……じゃあ車から降りて、散策しましょう」

 トワコに言われて私たちは車から降りて雪見画坂を散策し始めた。周りは山に囲まれており、ここには私達以外誰もいない、雪はさらに勢いよく降り始め、寒さが私を襲い始める。

「うう……寒い……」
「正直舐めてたわね……油断すると遭難しそうねこれ……」

 トワコがジャンバーのポケットに手を突っ込みながらそう言う。私も同じようにポケットの中に手を入れると、何か硬いものが入っているのに気がつく。取り出してみると、それは青い宝石だった。

「うん?これは……あれ?」

 私がそれを眺めていると、白い光が私を包み込み、視界がぐにゃりと歪む。そして私は……。

「ここは……」

 私はまた雪景色の中にいた。周りは吹雪が吹いていて、私が歩く度に雪が舞う。雪見画坂に似ている様だけど、何か違う……そして何より、さっきまで一緒にいたはずのトワコとアヤカちゃんがいなくなっていた。

「どうなってるの……群青市に戻ってきてから……ねぇ誰か……いないの……?」

 私は辺りを見渡しながら歩く。しかし、吹雪が私を襲うだけで人影は見えない。トワコもアヤカちゃんも……そしてコウの姿も……。

「コウ……どこなの?出てきてよ、ねぇ、コウ……」
 私はその場にへたり込み、そのまま雪の中に倒れ込んだ。




 気がつくと私はかつて通っていた高校の中にいた、そしてそこには1人の少女が立っている。それはかつての私、高校生だった頃の私、私は昔の私をぼんやりと見ていた。

「これは……昔の記憶?いや、これは私の夢……」

 身体を動かそうとしても動かない、まるで金縛りにあったかの様に身体の自由が効かない、そして昔の私は目の前の友人に嬉しそうに話しかけている。

「ねぇトワコ!!今日ね、お父さんが帰ってくるの!!だからお母さんと一緒にご馳走を作ろうと思ってて!!」
「はいはい……ツバメはほんとにお父さんの事が大好きね……」

 そう……これは過去の私とトワコの会話だ、この光景を私は知っている。そして……この後どうなるかも……。

「うん!!お父さんもお母さんも大好きだし、トワコも大好きだよ!!」
「はいはい、よかったわね、じゃあ私は先に帰るから、お父さんのこと迎えに行くんでしょ?あんたも早く帰りなさいよ」
「はーい!!じゃあねトワコ!!」

 そう言って過去の私は教室から飛び出していく、そして視界がまたぐにゃりと歪み、次に見えたのは……。

「ここは……病院?」

 そう……ここは……この思い出は……。

「や……やだ……やめて……いや……」

 過去の私が病室のドアを開け、ベッドに横たわる男性に泣きながら抱きつく。それは私のお父さんだ、私のお父さんは雪の中で倒れてしまい病院に搬送された……そして……。

「残念ながら……最善は尽くしましたが……」

 医者が淡々とその事実を過去の私に告げる、お父さんの身体には沢山の管が付けられており、その姿はまるで眠っているかのようだった。……いや、実際に眠っている……お父さんは死んでしまったのだ……早く私に会いたくて……急いで車を走らせて……それで……

「う……うう……」

 過去の私が医者の前で泣き始める、それを見ていたお母さんが私を抱きしめる。そしてまた暗転……今度は……。

「ねぇツバメ……悲しいのはわかるけどそろそろ学校に行かなきゃ……」
「いや……行きたくないの」

 泣き腫らした目をした過去の私はお母さんにしがみつき、首を横に振る。

「学校に行きたくないなんて……そんなこと言わないで、ね?ほら、トワコちゃんも待ってるわよ」
「嫌だ……行きたくないの……」

 過去の私はそう言ってお母さんから離れる、すると……。

「いい加減にしなさいよ!!」

 お母さんがそう怒鳴り声を上げる、その目には涙が浮かんでおり……。

「いつまでそうやってウジウジしてるつもりなの!?もう何ヶ月も経ってるのよ!!お父さんはもういないの!!いい加減現実を見なさい!!」
「お母さん……」
「お父さんは……もういないの……」

 お母さんはそう言って泣き崩れる。過去の私も涙をボロボロと流しながらそれを見ているだけだった。そしてまた視界が暗転……次に映されたのは……。



「ふふ、これが私の理想の……ふふ……」

 気がつくとそこは私の部屋だった……そしてその私が座っている椅子の前にはパソコンが置かれていて、そこに映っているのは……

「これって……コウ……?」

 パソコンに映し出されているのはコウだ……間違いない、私の恋人……そこにいたのは3Dグラフィックで表現されたコウだった。

「どうして……私はこんな事を……」

 私はパソコンを操作して、コウの3Dグラフィックを動かす。するとコウが私に対して笑いかける。

「コウ……」

昔の私はパソコンのキーボードを叩いてプログラムを起動する、そして……




 更に暗転……私はまた群青高等学校の校舎の中にいる。目の前では昔の私がトワコとアヤカちゃんと談笑している。

「ツバメ先輩に彼氏が出来たってマジですか?」
「なんかそうみたいなのよ、ちょっと前まで塞ぎ込んでたとは思えないわよねぇ……」
「ふふ……いいでしょ……」

 昔の私は笑いながら言う、それは……思い出した……コウは……私が作り出した……ただのアバター……。

「彼氏さんってどんな人なんですか?」
「ふふ、とても素敵な人よ……」

 過去の私がアヤカちゃんの質問に答える。

「へぇ、私も彼氏欲しいですねぇ……」
「じゃあ好きな人作ればいいじゃない……応援するわよ」
「作ればいいって、なんですかそれ、ハハハ……」

 アヤカちゃんが苦笑いする。そして私の視界は暗転する、今度の景色はフェリー埠頭、そこで私はこの街から出ようとしていた……

「ちょっとツバメ!本気で北海道に行くつもりなの!!」
「うん……もう私ね……ここに居たくないの……だから……」
「あんた……それ本気で言ってるの?」

 トワコが私に近づきながらそう言う。

「本気だよ……トワコ、だからもう私には構わないで……」
「ふざけないでよ!!なんで……いきなりそんな事言いだすのよ!!」
「だから言ったでしょ、ここに居たくないの……これ以上いてもただ苦しいだけだから……」
「……わかったわ、私はもう引き止めないし、あんたがそうしたいならそうすればいい……でも、連絡だけは定期的にしてちょうだい」


 トワコが私を抱きしめる。すると視界はまたぐにゃりと歪み、暗転した……



 気がつくと私は雪景色の中にいた……ここはまだ夢の中……それとも……そんなことを考えていると声が聞こえた、それは私の恋人……いや、私が作り上げた虚像のコウの声だ。

「やっと……思い出したんだね……」
「うん……思い出したよ……」

 私はコウにそう答える、全てを思い出した、私が失っていたもの全てが……

「そう……よかった、それなら……現実の僕がどこにいるのかもわかるはず……」
「うん……わかるよ……」


 私は雪景色の中でコウの手を握りながらそう答える。コウは微笑んでいた、その笑顔は私を救ってくれた時と全く同じだった。

「ツバメ……これが最後になるだろうから……言っておくね」
「うん……」
「愛していたよ……ツバメ」
「私も……愛してる……」

視界がぐにゃりと歪み、そして暗転する。意識が無くなる寸前、白い宝石が砕ける様な音が耳に残った。



「ツバメ!!大丈夫なの!?」
「ツバメ先輩!!」

目を覚ますと私は車の中にいた、隣にいるのはトワコとアヤカちゃんだった。

「あれ……私は……」
「あんた急に倒れて雪に埋まったのよ!!もう……ほんとに心配したんだから……」

 トワコはそう言って私の顔をぺちぺちと叩く。私は自分の頰が濡れている事に気がつく、そして自分が涙を流していた事に気がついた。

「トワコ……ごめんね、私……全部思い出したの……」
「思い出した?」
「うん……私の家に連れてってちょうだい……」
「え?」
「いいから!!早く!!」
「わ……わかったわよ」

 トワコはそう言って車のアクセルを踏み込む、その横ではアヤカちゃんが不思議そうな顔をして私を見ていた。

「先輩……思い出したって……」

 私はアヤカちゃんの目を見つめながら答える。

「私はね、今までずっと夢を見ていたのよ……自分に都合のいい、理想の夢を……」

 アヤカちゃんは何も言わない、ただ黙って私の話を聞いていた。

「アヤカちゃん……コウのこと見たことないって言ってたじゃない、それはそうなのよ……コウは私がPC上に作ったアバターなんだから……」
「え……」
「でも、私はそんな事さえも忘れてた……ずっと目を背けて生きて来たの……」
「ツバメ先輩……正直理解が追いついていないところもありますが……人間多かれ少なかれそういうところがありますよ、私が高校の制服を未だに着てるのも……まぁツバメ先輩みたいな理由です……」
「うん……ありがとう……アヤカちゃん」

 私はそう言って笑いかける。すると今まで吹雪いていた雪が急に止み、日の光が私達を照らした。

「雪が止んだ……先に進めってことかしら?」
「それを決めるのはツバメ、あんた自身よ」

 トワコが私を見る、そして私は口を開く。

「行こう、私の家に、コウに……会いに」


 スノーフォール、それは私が作り上げた虚構の理想郷だった。でも……それももう終わりだ、私は虚構の理想郷にさよならをする。


 久しぶりの私の家は……やはり何も変わっていなかった、私は自分の家の玄関の前に立ち、そしてドアを開ける。

「ただいま」
「……ツバメ……あんたいつ帰ったの……」

 そこにいたのは私のお母さん……あの後結局仲が元通りになることはなく……私はお母さんと疎遠になり、黙って北海道に行ってしまった。

「ごめんね……お母さん」
「本当に心配したのよ……」

お母さんはそう言って私を強く抱きしめる、私は抵抗せずにされるがままになっていた。

「あんた……痩せたんじゃないの?ご飯ちゃんと食べてるの?」
「食べてるよ……心配しないで」

 私はお母さんから離れ、靴を脱ぐ。そして家に上がった。

「あのさ、お母さん……私の部屋ってまだあるよね?」
「……まだ残してるわよ」
「ありがとう……ちょっと部屋に行ってくるね」
「ツバメ?」

 私は階段を登り、自分の部屋を目指す。そして部屋の前に着くとそこは5年前と何も変わっていなかった。

「ここも……あの時のまま……」

 懐かしさで泣きそうになるが、私はそれをグッと堪える。そして扉を開け部屋の中に入ると……そこには白い宝石が飾られたスノードームとパソコンが机の上に置かれており、パソコンの画面は暗転している。

「ただいま……コウ」

 私はパソコンの前に座り、電源を入れる。そして慣れた手つきでキーボードを叩いた。

「確かこのファイルに……あった」

 私がファイルを開くとそこにはコウの3Dグラフィックが映し出される。これが私の恋人……私の理想、ずっと昔に失ってしまったもの……

「ごめんねコウ……もう全てを終わらせるから……」

 私はコウのデータをデリートする。コウは私の目の前で消えていく、私はそれをじっと見ていた。

「さよなら……私の恋人……」


 気がつくと私の目は涙で濡れていた、でも私はそれを拭わなかった。拭ってしまったら……コウが完全に消えてしまう気がしたからだ。しばらくそうしているとスマホから電話がかかってくる、相手はトワコだった。

「ツバメ?終わった?」
「……うん」
「今日はどうするの?私の家に帰る?」
「ううん、帰らない……今日はここに泊まるから……」
「そう……じゃあまた明日ね」
「うん……」

 私はそう言って電話を切る。そしてパソコンの電源も落とし、ベッドに横になり目を閉じた……



 それから私はお母さんといろんな話をした、お父さんのこと……学校のこと、そして私が5年間何をしていたのか。お母さんは完全には許してくれなかったけど、でも……こうして2人で話すのはいつぶりだろうか……。私達は夜通し話をしていた、気がつくと窓からは朝日が差し込んでいた。その後私はトワコたちと合流して、大晦日を一緒に過ごし、初詣を一緒に行って、おみくじを引いたり……本当に楽しい年末年始を過ごしていた。そして私が北海道に戻る日がやって来た。

「ツバメ先輩、本当に戻っちゃうんですか?」
「うん……仕事があるからね……豊水さんに迷惑かけるわけにはいかないし……」
「まぁ近いうちにそっちに行きますよ、トワコ先輩もお別れの挨拶をしてくださいよ、そんなところで何してるんですか?」

 アヤカちゃんがトワコにそう言う、トワコは私が乗るフェリーをじっと見つめて動かない。

「トワコ……?どうしたの?」

 私がそう聞くとトワコは口を開く。

「……本当に……行っちゃうのね……」
「うん」
「そう……」

 トワコは寂しそうな表情を浮かべ、私に近づく。そしてゆっくりと私に抱きついた。

「トワコ……」

 私は優しくトワコを抱き返す。

「私もアヤカと一緒に今度そっちに遊びに行くわね」
「うん……待ってるね」

トワコがゆっくりと私から離れていく。そしてフェリーの出港準備が整ったというアナウンスが聞こえてきた。

「それじゃあ……行くね」

 私はトワコ達に別れを告げフェリーに乗り込む、そしてドアが閉まりフェリーはゆっくりと発進した。

「トワコ……アヤカちゃん、私はこれから前に進んでいこうと思うの……それがお父さんやコウの望みだと思うから……」

 私はフェリーのデッキに立ち、トワコ達に手を振る。私の恋人はもういない……でもそれでもいい、私の心にはずっと彼がいるのだから。

「トワコ!!アヤカちゃん!!またね!!」

 私は大きな声で2人に叫ぶ。トワコたちも私に手を振りながら叫んだ。

「ツバメ!!元気でねーー!!」
「ツバメ先輩ーーー!!また会いましょうねーーー!!」

フェリーが港から離れ私はふと空を見る、空は青く澄み渡っていた。


「いい天気……」

 私はそう呟いて、デッキから船内へと戻っていった。

〜雪の中のツバメ 終わり〜

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