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なぜ、僕は元日本赤軍リーダー重信房子を撮ったのか?
週刊文春6月9日号Catch Up「魔女が見た日の目」に3Pモノクロで掲載されている。TOPの写真がそのオリジナルだ。
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20年の刑期を終えた、日本赤軍最高幹部重信房子を5月28日撮影した。
絶対に、撮りたいと思ったからだ。
というのも、1968年9月12日、僕は彼女を偶然撮っていたからだ。
重信の誕生日は1945年9月28日だからこの時22歳、BUNDの活動家だった。実際は活動のなかで女子の役目を懸命に担っている頃だろう。
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一番手前の黒髪が重信房子22歳 明治大学の学生だ。
KowaSWのストラップが右下に写り込んでいる。僕は19歳。たぶんこの写真は後方の少女を撮ったのだろう、偶然写っていたのだと思っていたら、コンタクトプリントを見ると、さきに重信房子を撮ったカットがある。たぶんヘルメットのなかの黒髪に惹かれたのだろう。
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僕はこの頃、19歳、日大芸術学部写真学科の2年生だった。
学園紛争の時代、1968年5月の日大芸術学部、バリケード封鎖に参加し籠城していた。7月になるとひとりふたりと籠城組は教室から姿を消す。がらんとした当然クーラーもない夏の教室は不快だ。それより何も起こらない退屈。
8月の我が家恒例の夏休みに参加して真っ黒に日焼けし、バリケードにもどるとなんだか決まりは悪く、正直、命令されるだけの一番下っ端に飽きていたのでバリケードから出ることに決めた。
バリケードの中ではカンパやデモに動員されたが、カメラを持たず、一枚も写真を撮らなかったのが不思議だ。なぜ撮らなかったのか覚えていない。
バリケードの中の壁に貼り付けられた、まるで報道写真のような写真。いい瞬間の写真がたくさんあったが、その写真を見ても自分も撮ろうとは思わなかった。あの写真群はどこにいってしまったのだろう。
バリケードを飛び出してから僕はまた写真を撮り始めた。
真面目にデモを撮っていたわけじゃない。せいぜい日大講堂での大衆団交や、9.12の神田、10.21の新宿騒乱、11.22の東大安田講堂での集会を撮ったぐらいだ。
翌年、正月あけ安田講堂の陥落をテレビで見ながら、完全に闘争に興味を失っている自分を知る。もっと違う写真を撮りたくなった。
すでに新左翼は、離合集散を繰り返し、先鋭化し、テロリスト、カルト集団の様相を帯びてくる。
ぼくの興味は、大阪万博直前、ロック、モータリゼーション、日本のファッション誌の始まりananと、高度成長下、上昇する未来へと変わっていった。
そんな左翼運動のとっくの終焉の折に、重信房子は日本赤軍のリーダーとして忽然と現れた。
その思想はともかく、ウーマンリブとは違う次元の女の出現に驚き、まるでビートルズ、ジョンレノンを洗脳したオノヨーコのように。もちろん二人は対局にいるけれど、胆の据わった女性リーダーとして、僕は否定も肯定もすることはなかったし、正直まぶしくもあった。
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この年まで表紙のNUDEはOKだった
その後、20年以上たった1995年、アサヒカメラの表紙のモデルとなり僕のカメラの前に立ったM子が、その頃僕の事務所は代官山にあったのだが、すぐそばにある都立第一商業を卒業したという。彼女のトピックは、卒業生のなか、第一商業唯一のスターは重信房子だと言う。ごくありふれた商業高校から世界に飛び出した重信が誇らしいと。
そして時代は、20世紀最後の年、重信房子は潜伏していた大阪で逮捕された。裁判で20年の刑。
バブルが崩壊し、デジタル化の波とともに出版が落下してゆくさなか僕は、自分の写真は何なのか、ということに直面していた。
さまざまなジャンルの写真を撮っていたが、それじゃ横木安良夫の写真は何なのだよと。原点を見つめる意味で、まだプロ以前、学生からアシスタントを経て写真家になった時までに撮った写真のコンタクトプリントを眺めていた。
僕の本質はここにあるのだなと。
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⇩amazon kindle 電子版 ¥1500 巻末の写真解説が詳しくなっている。
現在、英語版を制作中
2006年、写真集「あの日の彼 あの日の彼女1967-1975」を出版した。
そのなかの写真を見て、何かと世を騒がせ有名だった出版プロデューサー高須基仁に、「この子、重信房子だよ」と指摘された。彼は中央大学でBUNDの活動家だった。六本木防衛庁に突入したと自慢していた。高須は重信本人に会ったこともあるという。だから確実だと。正直驚いた、19歳の僕と重信房子は、1968年9月12日㈭、ほんの1mまで接近遭遇していたのだ。その時、僕は彼女にカメラを向けた。無意識に。
そのことをBlogに書いたことがあった。
2011年、作家の由井りょう子さんから連絡あり写真集の、重信房子の写真を、彼女が発表する単行本「重信房子がいた時代」の表紙に使いたいと連絡があった。由井さんとは、女性誌WITHの女優のインタビューの連載や、俳優や歌手を撮ったSexyのページで何度もご一緒していた。由井さんは重信房子と大学時代同じサークルにいたという。僕が重信を撮った1968年ごろ無名頃の重信の話だ。今回2022年、その後のやりとりなど大幅に加筆して再出版された。ことし5月に出所すると聞き、写真が撮れるようにとお願いしたところ、急遽、週刊文春に載ることになった。何の縁か、週刊文春に現在不定期連載中の「ジュリーがいた」の作家、島崎今日子さんからの依頼だった。ジュリーがいたのTOPの写真は僕が提供したものだったからだ。
*Newsとして、6月30日に、天才早川タケジの沢田研二写真集が発売される。2冊組、500ページ B4サイズ。なんと¥25000だという。その中の3分の1ぐらいは僕の撮った写真だ。人生、騒がしい時には、騒がしくなる。
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今回は、写真は口絵に使用されている。表紙を開いたところだ。
ここまで、書いてなぜ僕が重信房子を撮ったのかの答えは、
昔撮ったからということになるが、実はそうではない。
僕はいろんなジャンルを撮ってきた。ただプロの写真家として一番テクニックから何から勉強したのは、人物写真、それも女性を撮ることだった。
スナップやほかのジャンルの写真は、ある意味、アマチュアリズムを今でも持っている。うまく撮ることなんてナンセンスだと思っている。
それよりも自分らしく、素直に撮ろうと。そういう意味では、22歳の重信を撮ったときも同じだろう。目の前の光景の記録だ。
プロカメラマンとして、女性を撮ることは違う、
それは現実の記録よりもっと違うことを撮ることだと思っている。
オーラを撮ることだと思っている。
僕は、美女だと言われていた重信房子の、かつて僕の撮った1968年の写真が、平凡に思えてしまう。オーラがたりない。まだ無名だったかではない。あの頃僕はアマチュアだったからだろうか。
彼女の他の写真を見ると確かに美しい。キラキラしている。
悔しい。写真は真実が写るわけじゃない。特に女性は、いくらでも化かすことができる。ゲームみたいなものだ。僕は女性をとるプロの写真家として、重信房子のオーラを撮ってみたいと思っている。
今回、撮るに撮ったがニュース写真、しかもマスクをしていた。
マスクを取った写真が撮りたい。しかも1対1で。
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