原作者(小説、漫画、演劇、シナリオ等)と映画制作者のための、映像化案件に権利を許諾する、『原作(原案)利用許諾契約書』のひな型を公開します。
<2023/06/06追記>
こんばんは。ネコテガシです。
この記事は、五反田バレーのベンチャー企業でバックオフィス全般を担当し、経理財務中心ですが、契約書を作ったり、相手方文書のレビューをしたり、条件面の交渉をしていた時期に作成したものです。
<追記おわり>
趣味の分野では、自主制作映画を作っており、独学だけでなく、デジタルハリウッド大学大学院といった専門性の高いところから、(いま話題の)ENBUゼミナールの映像監督コースで学んだりしました。仕事でもデジタルコンテンツを販売している会社、スマホのネイティブゲームの会社、ゲームでないスマホアプリの会社で働いてきたので、企業の法務担当としては、エンタメ業界には詳しいと自負しています。
さて、制作費300万円でつくった自主制作映画「カメラを止めるな!」が、作品の素晴らしさとはべつのところで話題になっています。
私は、この作品の製作をおこなったENBUゼミナールの卒業生なので、多少のポジショントークが含まれますので、割り引いて読んでいただきたいです。
この問題の、争点が多岐に渡りますが、なにが重要なのでしょうか。
原作なのか原案かは、法律的には裁判までいけわわりとあっさりと答えはでそうですが、そこには論評しません。
私が考えるに、最初の問題は、上田監督が制作にあたり、演劇側に義理を欠いたのが発端だと感じています。
上田監督は、件の演劇をみて、演劇の戯曲家をいれて映画化の企画を立ち上げます。しかし、その企画は結果として実現しませんでいした。その後、ENBUゼミナールの市橋代表(映画のプロデューサー)から、オリジナル作品の長編映画の話があり、そのプロジェクトに、企画を復活させ、長編を作り上げます。そのなかに、演劇側の戯曲家ははいっていませんでした。そこえあの大ヒットですから、揉めるのは当然と言えるでしょう。
次に考える、最大の問題は、プロデューサーの市橋氏が、拡大ロードショーの前に、問題を収められなかったことです。ENBUゼミナールのリリースでも、「都度協議をおこなっており」といまだ決着がついていないことをみとめています。
契約に関しては、演劇側の演出家、和田氏は、
と権利がほとんどもてないということに不満があるようですが、契約実務をしている者からすると、プロデューサーが、1次ドラフトでそのような極端な条件をだすのは、まあ理解出来る範囲で、結局は、和田氏も市橋氏もまともな交渉をしてない(と感じる)のがこじれた原因ではないでしょうか。
前置きが長くなりましたが、では、どうしたら良かったのか、それは「事前に契約書を巻いておけばよかった」です。自主制作の世界は困ったことに、事前に契約を巻きません。それは、今回の原作、原案に関してはというより、キャストやスタッフに依頼をする際もです。もちろん、自主制作は、あまりお金にならないので問題が顕在化するケースはありませんが、当たってしまったとき、2次利用(パッケージやネット配信)するとき。いったい誰がどんな権利を根拠に、作品を利用できるか、全く不明確になります。
そこで、今回、原作者や原案者と映画制作者に向けた、契約書のひな型をつくりました。
商業、同人にかかわらず、小説、漫画、演劇は、映画化のニーズは多くあります。できれば、原作者も映画制作者も、もめずに済めばよいと思い、契約書のひな型を作成しました。
昔、作品を作っていて当てることが出来なかった人間が、話題作のスキャンダル・炎上に便乗して、変わった形の嫉妬や、叩きをしている面も否定しません。なので、そういうのが苦手な方は、これ以上読まないことをおすすめします。
あと、キャスト(映画、演劇)やスタッフとの契約書もつくったらよいかと思ってますので、これはまた後日公開できれば・・・。
エンタメ・コンテンツに詳しいバックオフィス担当が、得られる情報を騒動員して約1日がかりでつくりましたが、何か不備があるかもしれません。
必ず、弁護士などの専門家にレビューを受けることをおすすめします。ゼロから作成をいらいするよりは、ある程度のひな型があるとタイムチャージが少なく済む可能性があります。
ネットにある各種契約書のサンプルに着想を得ましたが、ただ僕としてはその後、自らが加筆・修正・解説して作ったオリジナル作品だと思っています。
なお、契約書には著作権が無いというのが判例なので、どうぞご自由に使ってください。ひな型のリンク(googleドキュメント)では、そのまま使えるように成形していますので便利かと思います。
また、自身の権利を確保するためだけに条文を作成するのではなく、お互い、クリエーターとして尊重できるように交渉して合意することが大切だと思います。
以下目次です。
■原作と原案の違いは
■主な条文の逐条解説(途中から有料です)
(以下、有料です)
■原作(原案)利用許諾契約書、ひな型リンク(Googleドキュメント)
原作と原案の違いは?
原作と原案の違いには、いくつかの視点による分類があります。
1.原作者と映像制作者との関係性による違い
映像作品で元になる作品が有る場合、クレジットには「原作」と書かれることが多いです。これは原作者と話し合い作品が「円満」に作られるときにこう書かれることが多いです。
逆に、原作と制作者と意見の違いや設定やストーリーの改変なのにより、原作者が、「原作」クレジットを拒否したり「円満」にならなかったケースが「原案」となる場合があります。連続モノなどでも途中から「原作」から「原案」に変わったり、いつの間にか名前がなくなることもあります。
2.法的な著作物かどうかの違い
原作は、著作物として法的に保護されているものに対し、原案は、アイデアと考えられ、著作件法上に保護された権利といえません。
国によって多少の相違点はあるものの、日本に限らず、諸外国においても単なるアイデアは著作物ではないと解されています。
ただし、「原案」は著作物ではないから対価は発生せず、「原作」は著作物だから対価が発生する、ひとがいますが、これは誤りで、原案であっても経済的価値を有するものも存在します。
3.結局
映画製作の実務上、原案とクレジットするか、原作とクレジットするかの問題と、権利処理が必要か否か、対価を支払うべきか否かの問題は別個の問題です。なので、個別に契約をして、権利処理をすべきです。
主な条文の逐条解説
原著作物が何か。それをつかつ何に使えるのか、定義する必要があります。今回は映画を想定していますが、テレビドラマや舞台作品に変えて使用することも出来ます。その場合、放送や上演期間や、場所などを限定することが考えられます。
本作品を乙がどのようなかたちで利用できるかを定めます。
まず1項では独占的な制作権を定め,2項では,1項に基づき制作した本作品をような媒体で利用することが出来るかを定めています。
「独占的か非独占的か」「乙だけが配信等できるのか,乙がさらに第三者に許諾することが出来るのか」についても定めることも考えられます。
2項3号の媒体としては「その他将来開発される全てのオーディオ・ビジュアル媒体」4号には、「その他将来開発される放送技術」という文言を入れています。
将来的に,インターネットや衛星放送,ケーブルテレビに代わる新たなメディアが出現することが考えられます。また,DVDやBDについても新たな記録媒体が開発される可能性もあります。
以下有料ページです
ここは、色々な書き方が考えられます。上記は原作者の許可を要すると決める場合。
上記は、乙の著作者人格権を制限し、実質、甲が自由に変更できるようにするなど。
クレジットをどう記載するかは契約書で決めてしまったほうが良いと思います。クレジット表記が「原作」なのか「原案」なのかは、対価が発生するかどうかや、法的権利があるかどうかというよりも、もっとウェットな問題な気がします。
使用料をどう決めるかは、十分検討してください。印税方式なのか、買取なのか、印税方式の場合、売上を基準にするのか利益を基準にするのか。
印税の場合、ライセンシーの売上や利益を明らかにしてもらわないと使用料の算定が出来ないので,売上や利益に関する報告書やその裏付けとなる原資料を,定期的にライセンサーに提出することを義務づけるのが通常です。(第6条参照)
また,利益基準の場合,売上から経費として何を控除するかを明確に定めておかないと、トラブります。
明確に費目を特定できない場合は,「売上の●%を販売経費として控除する」という決め方をする事も考えられます。
利用の場面や媒体が多岐に渡る場合、意図して不正を行うつもりがなくても、誤りが発生する場合があります。そのため、立ち入り調査権や,報告書の基礎となる資料の提出義務を明記することもあります。
作品制作には、様々な演者やスタッフが加わります。場合によっては、外注スタッフに独自の著作権が発生することがありますが,そのような著作権についても,きちんと乙側において権利処理(具体的には,乙が当該著作権を譲り受ける旨外部スタッフと合意)をする義務があります。
利用許諾を受けた作品が実は盗作だった、ということはあり得ます。
知らずに利用許諾を受け,当該著作物を利用たところ「著作権侵害だ」としてクレームを受けるというケースを想定しています。
それ以外にも、誰かしらの何かしらの権利を侵害していたケースを想定し、保証を記載する必要があります。
この条文について、第6条のように、損害賠償規程を加えることも検討すべきです。
解説は以上です。ひな型は、全17条あります。
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