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【ファンタジー小説部門】ぜんぶ、佐野くんのせい(第3話)#創作大賞2024

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 市民公園の敷地内にあるイングリッシュガーデンでは、薔薇が競い合うように咲き誇っていた。全体的に淡い色合いの落ち着いた配色だが、鉄のアーチに絡まったピンクと白の蔓薔薇は茂りすぎて、迫りくるような威圧感がある。

 レンガ敷きの小道を歩いていくと、庭のちょうど中央あたりに大きな噴水があった。浮き草の間を縫うように赤や黄、黒の金魚が泳いでいる。親子連れや年配の男女のグループがスマホをかざして写真を撮っていた。

 丈太郎と佐野は薔薇の数に負けずと劣らない人だかりの中から、ようやく開いてるベンチを見つけた。すぐ横にはローズマリーとラベンダーが寄せ植えされた大きめの木製プランターが設置されていて、スーッと鼻が通るような爽快な香りが漂っている。

 噴水の水をかけあってワイワイやっている小学生を眺めながら、二人は今そこの売店で買ったばかりの冷たいハーブティーを喉に流し込んだ。

「で、お前はサードアイが開いたって言いたいんだな?」
 佐野はカップの氷をガラガラいわせながら胡散臭そうに丈太郎を見た。
「佐野くん、俺の頭がおかしくなったと思ってんだろ?」
 丈太郎が幼稚園時代からの幼馴染である佐野を「くん」付けで呼ぶのは、親しき仲にも礼儀ありということを、暗に知らしめるためでもあった。

 佐野はときどき、丈太郎との距離の取りかたを間違えることがある。ここまでがボーダーラインという線引きがあったほうが、お互いのためにもいいのだ。本人は嫌がっていたが、悠利と下の名前で呼ばれるのはもっと嫌らしく、仕方なく妥協していた。

「だって、普通信じられるかよ。そんな馬鹿げた話」
「確かに馬鹿げてるよ。でも、よく考えてみろ。俺だぞ。ギリギリあり得ない話でもないと思わないか?」
「純真で? 無垢で? 写真を撮れば被写体が躍動して? フォロワーを軒並み虜にして、挙げ句の果てには山本さんを振り向かせて?」
 佐野はため息をつきながら「はいはい、いつものね」と付け加えた。

「よくご存知で」
「毎日のように聞かされてたら覚えるわ!」
「でも本当に、俺だからこの能力が芽生えたと思うんだよな。佐野くんみたいによこしまな心の持ち主じゃ、絶対無理」
「はぁー全然ムカつかねぇ!」
 佐野はベンチから立ち上がると、近くの手洗い場に気だるそうに歩いて行った。

 丈太郎はその背中を目で追う。白シャツが六月の太陽の光にさらされて、まぶしすぎて目を開けていられない。細く開いたまぶたの間には、ハーブティーのカップに水道水を入れている佐野が映った。

「だって、サードアイが開いてなにがどうなったかって、ただ動物の声が聞こえるようになったって話だろ? なにそのお花畑なオチ。乙女か」
戻ってくると、佐野は今しがた注いだばかりの水道水を一気に飲み干した。

「仮に、魔物が見えるようになったとか魔法が使えるようになったとか言うならスゲェーッてなるけどな。よりにもよって……」
「佐野くん、その中二病的発言、痛すぎる」
「それを言うならワンちゃんネコちゃんの心の声が分かりますぅ〜のほうだろ!」
 佐野の頬がわずかに赤らんだのを丈太郎は見逃さなかった。指摘して困らせてやろうかとも思ったが、こういうときなぜか丈太郎は母性のようなものが芽生えて、包み込んでやりたい気持ちになる。

 きっと、俺って心が広いんだな。大海原なんだよ、そもそもが。だからサードアイが開いたんだ。うん。きっとそうだ。


#創作大賞2024
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月縞翠夢
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