ファンネルマン


絶句した。
海外に在住の絵描きさんが好きな歌手の誕生日を祝う為に描いたファンアートを
日本のベテラン漫画家がトレースし、それを金銭の発生するお仕事として
世の中に出していると言う。
慣れない日本語でアナウンスを出した絵描きさんは余程辛く悔しい思いをされたのではないだろうか。

トレースって結局どうなん?じゃあどうしたらいいの?

トレースが駄目なら世の中の絵描きはみんな想像でイラスト描いてんの?と思われる人もいるだろう。
イラストに説得力を出すには資料は絶対に必要で、
イラスト上達テクニックを紹介するネット記事や本では
「想像で物を描くな」といわれていたりする。
じゃあどうするのか。
例えば、自力で取材旅行をし、可能な物であれば写真撮影をして
それを参考に絵を描いてみたり、
「絵の資料にご自由にお使いください」とフリー素材として公開してくれている方の写真をお借りしたりする。
そういうものでも「商用利用はしないでください」と明記されているものもそこそこあるので、
自分がどういう目的でその写真や素材を使わせていただくのか。は常にしっかりと考えていないといけない。
(そもそも技法としての「トレース」と、今回の件のように「トレパク」と呼ばれるものは実は細かい所で意味が違っていたりする。)
上手な人の手法や線の引き方の技術を読み取るために行うトレースは
実はやってはいけない事ではない。
トレースをして出来上がった誰かの作品をなぞった物を自分の作品だとして発表することが悪なのだ。
イラストは〇〇さんという方が描かれたこちらをトレースしましたよ、参考にしましたよ。という記述は必須だと思う。
流行った作品をトレースして少しだけ改変するパロディも実は褒められたことではなく、
出版社や作者さんが見て見ぬふりをしてくれているだけなので
権利者が辞めてくれといえば辞めなきゃならないし、
訴えられれば負けると思う。

カプコンはバイオハザード8を発売した際、
1からデザインしました。と発表された敵キャラクターの衣装が
スウェーデン北方民族博物館が所有するドレスの写真や、
既存のファッションブランドの商品の写真と酷似していたことが発覚し問題になった。
とある映画の敵クリーチャーそのままのデザインの敵キャラがいると
映画監督から指摘を受けたというニュースもあった。
https://buzzcutangler.com/shoking/28316/
https://front-row.jp/_ct/17451941

刀剣乱舞は初期のUIやゲームシステムがあまりにも艦隊これくしょんのそれに似ていた事や
UIやアイテムの画像がトレパクであったこと、
人気キャラクターの戦闘立ち絵がとある流派がネットにアップしている写真とほぼ同じであったことなどが大問題になり、
UIは一新、アイテムの画像も差し替え、戦闘立ち絵に関しては差し替えができないのか、パクリ元とされる流派へ謝罪とあたらめて写真の使用許可をお願いし、許可を受けたと言う過去がある。
https://wikiwiki.jp/tukntusk/

東京BABYLONは新作アニメが制作されていたが、
キャラクターの衣装が既存のファッションブランドの衣装や
ドールの衣装そのままで大問題になりアニメ化計画自体が頓挫した。
https://natalie.mu/comic/news/422222

色々言いたいことはあるがそういうのを完全に取っ払って考えると
・他者が描いた作品を出展も作者も明らかにせずトレースを行ったこと
・トレースを行った作品が商業のお仕事として納品されている事(金銭が発生している)
・解決していない(きたがわ先生がご自分で「謝罪を申し入れている最中」であることを明言している)のに一方的に経緯と今後についての文章を発表してしまったこと
ではないかと思っている。

例えば本でも参考にした資料は出展が明記されていなくてはいけない
wikipediaですら、この記述の出展はこれです。と記事の下部にずらずらと参考にしたネット記事のアドレスや、書物やテレビ番組のタイトル、それが世の中に出た日時が明記されているし
出展が不明な記述に関しては注意書きと出展が分かる人はここに追記してくれという記述がなされている。

このトレパクイラストを曲のジャケットに使用してしまった歌手の方や
それを購入したファンに対しても謝罪はあってしかるべきだとも思う。
元のイラストの作者さんも「ジャケットの差し替えをして頂ければ」と仰っているわけだし。

そして個人的に一番もやもやとしてしまうのが
「まだ解決していないのに一方的に経緯と今後について発表してしまった」ことだ。
「加害者が謝ったんだから被害者はどんな思いを抱いていても許してあげなくてはいけない」
子供の頃、喧嘩を制裁する大人からこういわれて
私はまだ許していないのに…と胸のうちにやりきれない思いを抱えたまま押し殺した経験はないだろうか。
意識的にか、無意識にか、これをやっているのだ。
きたがわ先生は大ベテランである。ファンも非常に多い。
実際にこの一連のツイートで「先生は悪くない」「先生大好き」「グチグチ言う側がおかしい」という反応をちらほらと見かける。
一部の過激なファンは「大切な作家を傷つける不届きものだ」と被害者である元のイラストの作者に突撃するのだ。
先生が謝罪してるんだから許してあげて。と。
所謂「ファンネル」という奴である。
https://kimu3.net/20190124/12866
このファンネルという奴、
飛ばすつもりがなくても勝手に飛んでいくのがとても厄介なのだ。

例えば某企業Vtuberがセンシティブな同人誌を朗読して笑いものにした時(そのつもりがなくても結果そうなっていたわけで)
一部の過激なリスナーは自分の推しのしでかしたことを棚に上げ
作者や苦言を呈していた人たちに突撃し攻撃をした。
https://togetter.com/li/1689692
https://www.excite.co.jp/news/article/Real_Live_200108658/
この事件、騒動の渦中にありながらVtuber達は謝罪も何もせずに
のほほんと配信をしていた…と思いきや、
彼女たちは早い段階で反省をし、同人誌の作者にコンタクトをとり、
謝罪と今後の対応について話し合いを進めていたのだと言う。
しかし彼女たちの一部の過激な狂信者は、彼女たちは悪くない、悪いのはそんな同人誌を世に出した腐女子であると執拗に攻撃を仕掛けた。
彼女たちの為を思って飛び回ったファンネルが
真摯に謝罪と今後についての話し合いをしようと頑張っていた
彼女たちの評判をどんどん貶める結果となったのだった。
未だにこの件の騒動があったからこの箱のVは嫌いだ、絶対見ないと言う人はそこそこに多い。

現在でんぱ組incで活動中のアイドルが
交流のあった絵描きの作風を丸パクリして激怒された事件もあったし、
https://togetter.com/li/858443
地下アイドルが絵描きのイラストを丸パクリし、ファンや事務所がファンネルと化して飛び回ったこともあった。
https://matomame.jp/user/yonepo665/58fdaf676021cf7b4d69?page=1
可愛いから許せは当時爆笑した覚えがある。
可愛かろうがやっちゃ駄目な事はやっちゃ駄目なんだわ。

また、きたがわ先生の今後の対応策も完ぺきとは言いづらい。
「自分のイメージでは限界がある」
「何か私のイメージに合う写真や、こういうものを描いてほしいと言う写真があれば送ってくれ、謝罪はお礼のみ(特に気に入ったものに関しては複製原画をプレゼント)」
と声明を出したのだ。
確かに「安易な画像検索に頼らない」案ではあるが、これにも大きな問題が潜んでいる。
ファンから送ってこられた写真がネットで拾った画像ではないと誰が証明するのだろう。
先述した通り、きたがわ先生は熱心なファンがとても多い。
その中の一人でも、「あぁ、先生のお役に立ちたい」「複製原画欲しい」と
自分で撮影した写真ではなく、画像検索やSNSで拾った第三者の写真を
「私が撮影したものです!」と送ってこないとも限らないのだ。
それをトレースした作品を世に出してしまえば、今回の件の二の舞だ。
世の中の作家はそういったことを避けるために
取材旅行をして沢山の資料を自力で調達したり、
商用利用可の素材を購入して参考にしたりするものだ。
実際にスクウェア・エニックスから発売されたFF15は
ユーザーからいい感じの風景の情報を募り、実際に現地に赴いて
参考にするために撮影を行ったと言う話がある。
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1510/17/news031.html
フィールドに設置する誰が気付くともわからないような岩一つの為に
世界各地を飛び回ったのだ。
「検索に頼らず責任をもって資料集めに時間を費やす」のであれば
ここまでしろとは言わないが
商用利用可の写真誌素材を買うとか、モデルを雇って写真を撮らせてもらうとか、
近場くらい自分で取材に出るとかそのくらいしなくてはいけないのではないか。

冒頭の海外の絵描きの方のへリプライや引用リツイートを見る限り、
直接的なファンネルはまだ飛んでいないように思う。
しかし、こういう声を上げてそのまま何もしないなんてことはありえないので、
この方はネットを検索しきたがわ先生の謝罪文を見ているだろうし、
そこにくっついている信者のよしよしいいこいいこも見ているのだと思う。
何でファンネルが飛んでいないのか?
それはおそらく言葉の壁があるからではないだろうか。
ファンネルは飛んでいく相手を見て
論争ができそうにない相手(言葉の壁があったり、論破されそうか否かだったり)には飛んで行かないようにするとかそういう生態があるのだろう。

私は不勉強だったので今まで知らなかったが
きたがわ先生はずっと昔から他の漫画や雑誌からトレパク、盗作を繰り返しているようで
http://airsoku.doorblog.jp/archives/58651851.html
https://mitsurock.exblog.jp/7068152/
これはもう誰が何を言っても変わらんのだろうな…とげんなりしている。
信者も目を覚ました方がいいのではないか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?