ゴル・マクモーナとルーイー・ラーウの喧嘩
①
我らが主君マックコンの呼出しを誇りに思い、我々は遥々とターラの祝宴会場に急いだ。王の喜びを分かち合うため、そこには大勢の勇敢な首長たちが集っていた。貴公子の風格を湛えるコーマックや、名高きわが王の友や兄弟たちがいて、剣で得た名誉によってターラの宴席に座る権利と名誉を主張できる有名なフィアナ騎士団の隊長たちもいた。古今、血と犯罪により得る恩賞というのはあまりにも多いのである。そしてクルアハンの西の国より器量と武勇に優れた者もやって来た。
②
戦士たちがきらめく酒器を掲げて、誇らしげなターラの祝宴会場の中、怒りっぽいルーイーは勇敢なマクモーナの隣に座っていた。彼は巨躯の首長であり、逞しい手足と胸板の持ち主だった。そして抑えきれない激しい感情が顔つきにあらわれていた。闘争にこの上ない喜びを見いだすばかりか、烈しい闘争心を掻き立てることを愛してさえいたのだが、祈りを捧げることは決してなかった。彼は悪の道具である力で殴り、傷つけ、殺すことを喜んだ。略奪し、抑圧した。傷つける嘲りと狂ったような戯言で、恐ろしい口論をふっかけようとした。今、彼はマクモーナの近くに座っているのである。ガイ・ブレサルと若きフェルグスのそばで。ルーイーの軽はずみな弁舌はこのように始まった。同時に私たちの周りを憤慨の気が駆け巡っていった。
③
ルーイー「言ってみな、勇ましいゴルよ。今までこれほどの集会を目にしたことはあるまい。てめえにはめったに見られないことだろうよ。今、このターラでお目見えできるような王侯貴族や真の英雄に対して、以前の誰を比べられようか」
ゴル「果敢に最前線に立って戦う偉大で善良な大勢の英雄と、王の戦列にいる長たちと、そして有名な百戦の王コンと、夜を楽しく過ごしたものだ。ああ、今俺が見ているようなターラの宴会場にいる善良な真の戦士とだ」
ルーイーは大声を出した。
ルーイー「てめえが褒めそやすコンも同じで、戦場の荒野でも轟く波の上でも、奴の部下は我々の部下ほど勇敢ではないわ。我々の鋼の名剣はもっと多く、我が方の王侯貴族は遥かに多い。百も戦ったと言えど、その栄光は大したことがない。そいつはすっかり失われてしまった。ベルナン・エーラの小道※がお前の君主の不名誉の証となっておるわ」
※ベルナン・エーラ(現在のデビルズビット)においてムグ・ヌアザが百戦のコンに大勝したという伝承に基づく。
胸を張り誇らしげな表情で、マクモーナは朗々と答えた。
ゴル「悪意のある怒りによって我々の王の栄光を汚すのはやめよう。彼は二十回以上の勝利を収めたと十回以上も語られた。大きな戦利品を持ち去った。彼は戦場で二人のマンスターの王を殺し、アイルランド全土を手中に収めたのだ」
ルーイー「てめえの王は本当にケチがつく戦いでムグ・ネイドとムグ・ヌアザの命を奪った。だがコンの息子である勇ましいアートに完全に復讐された。この手であの君主を殺したのだ。そしてヤツの息子には死が待っている。もしも俺の手が届くところにカルブレ※がいれば、倒して足に踏み敷いてやるものを。」
(※このカルブレはアートの息子、コーマックのことか。コーマック=”戦車の若者”、カルブレ=”戦車の戦士”であり、類似する名前であるためか置き換え可能であるようだ。ところが冒頭のくだりでターラの宴に”貴公子の風格を湛えるコーマック”という人物が参加していることが述べられている。)
ゴル「そうだな。お前が偉大な長たちを平野に打ち倒したのだから、立ってもう一度戦え! お前が最初に海を渡った時――」
ゴルは嘲笑って言った。
「――お前はコンの息子、偉大なアートを殺すと誓った。首尾よく誓いを果たしてみせた時に、お前は(マック)コンのために農民の胴から切り離した首を持って来たのだ」
④
怒りに駆られたルーイーの、固く握りしめた逞しい拳が大槌かオークの燃え木のように、広い額のゴルのこめかみに触れた。英雄の白く滑らかで手入れされた肌が裂け、血が流れた。この緊迫した雰囲気が続く間、彼は血を流して、額は鮮血に染まっていた。
⑤
怒りで燃え上がったゴルが素早く報復を返した。崖から海に落ちるような大きな音をたて、彼は厳めしいルーイーの髭の横っ面を固い拳で恐ろしく殴った。顎が砕ける音が鳴って、裂けた歯槽から歯が飛び抜けていき、ルーイーは死んだように倒れ込んだ。轟音とともに地面に倒れると、肋骨が砕ける乾いた音がした。
(Laoi an Duirn:拳の歌の写しにある④~⑤の戦いの様子の抜粋)
彼はその英雄の頬骨を砕き、脊柱に衝撃を与えた。彼は英雄の体躯の中の五感を傷つけた。その拳はそこ(頬)から、触れずして膝まで勇敢な男をへし曲げた。その強大な拳は明らかに腕の手首まで地面に突き刺さった。
ゴルは急いで、オーエンの息子を返しに殴った。そして彼の口の中の歯が五本、胴体のあばら骨が五本折れた。
⑥
それから集まった全ての戦士が立ちあがって、騒いで乱闘となった。短剣を鞘から抜いて、険しい表情となって、手足を斬った。ターラの城壁は血で汚され、戦士たちは倒れ、さらに立ち上がる者もいなかった。耐えかねて武具を持ち出す者もいて、次第に争いが激しくなってゴルが凸金具付きの楯を持つやルーイーは鋭い名剣を素早く抜き放って戦いを挑んだ。
⑦
即断即決の戦いを喚き叫ぶほどいきり立っているルーイーの心からの怒りを抑え込める有力者は我らの中にいなかったのだが、ただ賢明なる助言をしたマックコンだけが全てのいさかいを止めさせたのだった。そして友情による連帯によって敵を穏便に束縛できるかもしれないと期待していた。彼は言った。
「我々の法廷は平等な法律に基づいて事件を審理し、公正に裁くであろう。だが、面の皮が厚く無礼なコナンには我々の心を逆なでにさせてはならぬ。」
⑧
するとコナンが叫んだ。
「親愛なる友人たちよ、この知らせと素敵な法的訴訟にオレは挑戦するべきだ。オレは誓おう、レンスター地方には肩に首を載せていられる者はいないし、インヴィルデヴリン湖からモニア湾まで、その岸辺どころか戦士の広大な道路でさえマンスター人の子は皆殺しにしよう。そして、オレは誓う。オレたちの威風堂々たるウランの額に無礼なマンスター人の手が置かれたことを、コンの半分(すなわち、北部のこと)によって決して吹聴させぬと。」
このような物言いは若きオスカーの忍耐を試したが、彼は烈火のごとく怒って叫んだ。
「都合が悪くなって、禿頭のコナンめ、そんな嫌らしいことを言えばすぐに後悔するぞ。もし俺が仕返しするなら、お前の心臓から血を流させることになる。そうだ、お前を俺の槍と盾の下に倒して、ヒースの野原で眠りにつかせてやる。お前は虚栄心の強い自惚れ屋だ。愚かしさに酔って鈍った首を臆病な胴体から討ち取ってやろう。王の隊列やマンスターの誇り、レンスターの自慢、全てが一つの強大な軍勢として俺の前に立ちはだかったとしても、戦いのために濃密となった場にいれば、俺一人のために屈することになるのだ。だから、できるものなら報復なんてやめてしまえ。俺は今、お前のようなしょうもない人間ではなく、このターラ玉座に、その広く名声を得た一族全てに跪いていて、恐れを知らずに宣言するぞ。不意の一発か、公然と戦って、マクモーナの頭をもう一度傷つけないうちに、西の地のクルアハンに戻って誇りをもって安静にしていることだな」
⑨
シャノン川の大いなる流れを越えて、医者と病人がいる療養所へ。偉大なゴルは西に向かって、時間が経って健康を取り戻すまでそこに留まった。マクモーナ氏族の密集した隊列の五百の槍が彼の道を守り、月が二度満ちる前に彼は以前の力を取り戻した。
⑩
健康を与える者の助けを求めて、カハルの波に乗って病人の家へ、強いルーイーは行った。— 激痛で内臓が裂けそうなのだから—
長い間、そう、十八か月以上も彼は医者の手当てを受けた。彼が息を引き取る時まで、残酷な苦痛は消え去っていなかった。
Ancient Irish Minstrelsy by William Hamilton Drummond