フィアナ伝説:ヴィントリーの戦い

世界の王が率いる大軍の襲来

****MS Rawlinson B. 487より
  ヴィントリーの戦いを、つまりアイルランドのフィアナ騎士団とフィンの非業の死及び世界の大王ダーレ・ドンの死をここに語ろう。
 とある王が全世界の統治権と支配をほしいままにしていた。それはすなわちロスゲン・ロムグルネフの息子ダーレ・ドンのことである。
 さて、この王の前に世界の軍勢がかき集められ、集結していた。フランス王ボルカンとギリシャ王マルグレータとインド王ファガルタッハとサクソン王ルグマン・レサナルマッハとガイリアン王フィアフラ・フォルタレバルとスペイン王、ブリオガーンの息子トールとケプダの民の王、センガルブの息子スリゲフとドレガンの民の王、ドゥレの息子ドレガンの息子ヘロデと犬頭人の王コヴル・クロウゲンと猫頭人の王のカトヘンとロッホランの王カシェル・クルヴァハと彼の三人兄弟のフォルネ、グランゲル、ガシュゲダッハと海のモンガッハとタハと地中海の王ダーレ・デドソラスと沼地の王、ドンの息子マダン・ムンカスと東の日出処の三人の王、すなわちフィルマスの息子ドゥブケルタン、フィルルトの息子ムレン、フェブルグラスの息子クレンとこれまでの世界で最高の女戦士、ギリシャ王の娘オーガルヴァハとここに列挙されぬ大勢の王侯が来た。
 さて、この重厚な陣容が世界の大王にはせ参じると、彼らは皆、ある計画の責務を負った。つまりそれは、手段を選ばずアイルランドを攻め落とすということだった。ことの発端はこのようなことであった。
 かつてフィン・マックールがアイルランドから広い世界へと追放され、東方へ行ってフランス王ボルカンに一年間軍役奉仕を行った。そしてフランス王の妻と娘が双方平等に彼に愛を授けて駆け落ちしたのだ。
 このようなわけでアイルランド人に征きて復讐せんと千軍万馬の軍勢が集められた。これらの勇士たちは一人のアイルランド人が彼らに向けたあの侮辱と傲慢を名誉であるとも礼儀にかなっているとも思わなかったからである。

 そうして全世界の王が尋ねた。
「アイルランドの港湾に余の案内をする者は誰じゃ」
「私が陛下をご案内いたします」
ドレヴァンの息子グラスが言った。
「私自身がフィン・マックールにより追放されておりますれば、アイルランドの穏やかで広い港湾にご案内いたしましょう」
そう彼が言った。
 そうしてその膨大な軍勢と誇り高い従者たちが港に来た。そこでは彼らによって船や帆船、つまり小舟や艀や革船や壮麗な船が艤装されており、撓まぬ軸と固いへらが取り付けられた真っすぐな櫂が揃えられていた。そして彼らは力強く熱心にテンポよく櫂をこいだので、軽快な櫂さばきが立てた泡のような白波を航跡に残し、それはさながら青い川の白い飛沫か、高い石の白い石灰のようであった。そうして、その船団は波打つ大海原と大きな青き波濤を越えていった。
 その後、風が吹き波が高くうねり、人魚の狂ったような泣き声と轟く澄んだ碧い海の上で恐懼して羽ばたく鳥の狂ったようにわめく鳴き声しか聞こえないほどとなった。荒れ狂い冷たく深い海を行軍する者は波濤と船を呑み込むような強風により……またその泡は……張り詰めたロープがきしみ、強風によって帆柱が激しく手が付けられないほどはためき、本当に歓迎されていなかったのである。もしも彼らの近くに助けようという者がいなかったのなら、彼らの船はことごとく肋材がきしみ、……装備が壊れ、その板が……、鋲が震え、側部は脆くなり、……は傷ついて、船倉は水がなく……は大きく裂けて、……大いに動揺し、……帆柱はひっくり返り、赤い帆布は……、小舟は引き裂かれ、彼らの迅速な航海は極限の強風によって止まっていただろう。
 さて、この嵐で英雄たちは弱みを見せず、勇者たちは疲労することもなく、吹き上がって空高く滞空した。その後、海は穏やかになり、波はおとなしくなって湾の海原はのどかで静かだった。
 そして目いっぱいまで風を孕んだ帆を張った船は誰が働いたり漕いだりせずとも澄んだ涼しい風の音とともに進んでいって、ついに彼らは世界でも善き島、今日スケリッグ・マイケル島と呼ばれる岩島の湾にたどり着いて港に上陸した。
 そこで彼らの案内をした者の名はドレヴァンの息子グラスだった。彼は冷たい水のレーン湖、ドルム・ドロベルの隠された地の出身であり、鹿や思慮のない獣がフィアナ騎士団に追われている時にはその後を追うのに猟犬も人手も必要とされずドレヴァンの息子グラスによって生け捕りにされるのであった。
 そして彼はこのような理由でフィアナ騎士団に雇われて、彼らとしばらく行動を共にしていたが、フィンを裏切ってアイルランド上王コーマックに売り渡すように追い込まれると、そのためにアイルランドを去らなければならなくなって広い世界に出て行った。そしてこの時、世界の大王の案内役を務めたのが彼だった。
「おお、ドレヴァンの息子グラスよ」
世界の大王は言った。
「我が艦隊が目にするとそちが約束したのはこのような岸辺ではなく、いつでも戦うことなく我が軍が集会のために集まれることのできる白い砂浜だったのだぞ」
「そのような浜辺がアイルランドの西にございます」
グラスは言った。
「すなわちコルカ・ドゥブネのヴィントリーの浜辺のことです」
そこから彼らはヴィントリーの浜辺へ向かい、海が見えないほど隙間なく湾全体の波打ち際を埋め尽くし、最初に世界の大王の巨艦が浜辺についたのでそこはリン・ナ・バルキ(船場)と呼ばれるようになった。
 そして色とりどりに染められた白いリネンの帆を下ろし、紫の入り口のあるまだらなテントを張って、美食に舌鼓を打ち、うっとりする美酒と竪琴が持ち出されて長い間饗応され、詩人が彼らを歌い、彼らは慢心した。
「ドレヴァンの息子グラスよ、」
世界の大王は言った。
「アイルランドを分割することになって東方に帰国する前に戦利品の分配として最初に我らが踏み入ったこの土地は誰が治めるべきじゃろうか」
「スペインの王、ブリオガーンの息子トールにこの土地は属しています」
グラスは言った。
「スペイン王よ、この度はそちがありがたくも骨を折って褒美を手に入れることになって今宵、我らはとても頼もしく思うぞ」
世界の王は言った。
 それからスペイン王は彼と同じように揃えた赤備えの四つの大隊と共に起ち、一挙にその領地の国境を越えた。そしてそこにはカシュ砦、アイダ砦、ケルバン砦という三つの砦があったのだが、王侯はおろか女子供まで犬と人の区別もなく、器、角杯やコップに至るまで、そして砦一つにつき百五十人の従者、それらの全てが彼らによって燃やされたのだった。

若き監視兵コンクリスィルの奮闘

 さて、フィンとアイルランドのフィアナ騎士団は、全世界の王たちの大軍がアイルランドに攻め入ってくるだろうと、予言されていたかの如く知っていた。偵察兵が見渡せない上陸地点はアイルランドにはなかった。そしてこの浜辺を監視していたのはルアフラ・テヴァルの出身のフェバルの息子ブランの息子コンクリスィルだった。
 彼はクルアハン・アルダンと呼ばれるフィアナ騎士団の円形の丘から西にいったところにその夜いて、そこで眠ってしまった。そして彼の目を覚まさせたものは盾が張り裂け、剣が激しく打ち合い、槍が真の戦士の肉体を切り裂いて突き、炎の中で女子供、犬や馬に至るまでが悲鳴を上げていた喧噪だったのだ。
 コンクリスィルはこれらの悲鳴を聞いて飛び起き、このように言った。
「今夜の俺の失態でとんでもない被害を出してしまった」
彼は言った。
「なんということだ、俺を産んでくれた母よ。しかし、眠ってしまったが最後、もはやフィン様とフィアナ騎士団に生きてまみえることはあるまい。かくなるうえは異国の者どもの真っただ中に斬り込み、幾人かでも道連れに果てるまでよ」
彼は戦装束に身を包み、素早く鋭い剣を抜き放って異国の者たちをめがけて走った。
 そして彼はそう遠くまで進まないうちに道で三人の娘を見つけた。彼女らはいずれも甲冑に身を包んでおり、彼は彼女たちを追いかけたが追いつくことはできず、槍を持ち上げて投げた。
「おやめください、戦士殿」
彼女らの一人が言った。
「私たちで武器を血に濡らすことをあなたは正しくないと知っておいででしょう、私たちは女性なのですよ」
「そなたらは何者なのだ」
コンクリスィルは言った。
「私たちは東方のティベリアス湖の岸辺のドラーの息子テルグの三人の娘です」
彼女らは言った。
「私たちはあなたを助けに来ていたのです。なぜなら、あなたが異国人たちに対して抵抗するフィアナ騎士団の最初の人になるだろうと知っていましたから」
「俺を助けるとはどういうことだ」
コンクリスィルは言った。
「私たちの助けは上手くいくでしょう」
彼女らは言った。
「だって、サナシュの幹、そしてクレソンの葉をあなたを取り巻くドルイドの魔法の軍隊に変えます。それらはあなたの周囲で殺されてしまうでしょうが、外敵に叫びをあげて、打ち据えて手から武器を落とさせ、力と視覚を奪うのですから。それでスペイン王と彼の配下の四百人の軍勢はあなたに殺されるでしょうが、ヴィントリーの戦いは一年と一日続き、その間はあなたは毎日回復して戦うでしょう。奮闘なさい、たとえ毎日殺されたとしても、あなたは朝になれば無傷になっているでしょうから。それというのも私たちはあなたのために癒しの水を持っています。そしてあなたがフィアナ騎士団で最も敬愛する戦士は同じものを持つことになっているのです」
 さて、スペイン王の軍勢はヴィントリーの南、その当時、ムルバッハと呼ばれていた北のトラグ・モドゥルンで金銀などの略奪品を獲た。
 フェバルの息子ブランの息子コンクリスィルがドルイドの魔法の軍隊とともに彼らのところに来たのはその後になってからのことで、彼らから奪い返したのだった。そしてドルイドの魔法の軍隊は彼らから力と視覚を奪い、スペイン王の軍勢はスペイン王がいる平野まで敗走していき、コンクリスィルはそこで彼らを壊滅させたのだった。
「私と立ち会ってもらおうか、武人の王よ。」
スペイン王は言った。
「私が我が部下のために戦おう、彼らではおぬしに太刀打ちできず、虐殺されのだからな」
 そうして両雄は相打ち、柔らかい絹の戦旗を緑為す大地に突き立て、素早く荒っぽい手を青い切っ先の赤いソケットを持つ槍に伸ばし、近づいて耐えきれぬ傷を残す黒い一撃を互いに見舞いった。そしてついに傷口が痛み、槍の柄がへし折れ、楯が割れ、鎖かたびらが切り裂かれると彼らは幅広の刃をした紫焔の剣を抜き、互いに最期のために構えた。彼らは一日中ずっと戦い続けていた。そして最後にはコンクリスィルが陽動で誘ってスペイン王の兜と美しい鎖帷子をつなぐ首めがけて凄まじい一撃を繰り出し、胴体から首を切り落としたのだった。そしてコンクリスィルは首級を持ち上げ、戦果を勝ち誇ってこのように言った。
「真実に誓うが」
彼は言った。
「アイルランドのフィアナ騎士団が多かれ少なかれ俺のところまで着くまでは殺されない限りはこの首を切り落とさせはしないぞ」
世界の大王はそれを聞いてこのように言った。
「あの戦士の放言は大したものじゃ」
彼は言った。
「ドレヴァンの息子グラスよ、立ち上がって彼が何者なのか、アイルランドのフィアナ騎士団の音に聞こえる高貴な勲のオスカーかどうか見てきてまいれ」
それからグラスは浜辺に行って、コンクリスィルに近づいた。
「戦士よ」
彼は言った。
「きみが言ってのけたことは大したものだ、血筋と一族を伺いたいのだが」
「俺はコンクリスィル、フェバルの息子ブランの息子で、テヴァル・ルアフラの出身だ」
彼は言った。
「もしそうなら」
グラスは言った。
「きみの血筋と一族は私にとって近しいな。私はドレヴァンの息子のグラス、テヴァル・ルアフラの出身であるから」
「異国人の側に立って俺と戦うようなことは控えてくれ」
コンクリスィルは言った。
「嘆かわしいことだ」
彼は言った。
「もしもフィン殿とアイルランドのフィアナ騎士団が私を信頼していたのであれば、きみはおろかアイルランドのどのような者であっても敵対して戦うことはないのだが、世界の大王から財宝を受け取るような次第になってしまった」
「そのようなことは言うな」
コンクリスィルは言った。
「フィン様にはご自身の子息のほかに十五人の息子たちがいるのだが、俺の武器と力に誓おう。たとえそなたがこれらの者を皆殺しにしてしまっていたのだとしてもフィン様の保護下に置かれるように取り図るから彼を恐れることはないのだぞ」
その後、グラスは言った。
「私がきみと共に戦う日が来た。世界の大王に行って伝えてこよう」
そして彼は世界の大王がいる場所に行った。
「おお、グラスよ」
王は言った。
「あそこにいたのはオスカーじゃったか」
「彼ではありませんでした、大王陛下」
グラスは言った。
「もしも彼が来てしまっていたのであれば陛下の軍勢のためにはなりません。そこにいたのは私の知り合いで、同胞でした。彼が独りでいるのを気が咎めますので、彼のところに行って助けてやりたいのです」
「もしそちが行くというのなら」
世界の大王は言った。
「我が軍によって命を落としたアイルランドのフィアナ騎士団の数と、連中によって命を落とした我が軍の数、そして誰によって殺されたのかを毎日、伝えに来るのじゃ」
「陛下にお願いがございます」
グラスは言った。
「私の申し上げるように、アイルランドのフィアナ騎士団が我らのところに車で陛下の軍勢を船出させないでいただきたい。今日、我々に他の制約はありません。一騎討ちを申し込みます」
 そして二人の異国人がこの日彼らに対して送り込まれた。コンクリスィルは彼の長いスリングをつかみ、それに真っすぐで平らな石を押し込んで一直線に投げつけると彼の対戦相手の眉間を突き抜け、脳髄を血の塊にして後頭部から吹き飛ばした。
 これらの二人は彼らによって殺された。そして彼らはそれぞれ一名につき二人の異国人と戦うことを要求した。この要求はすぐさまかなえられた。
コンクリスィルは太い戦闘用の槍を持ち上げ、敵側の向き合った者に鋭く素早く致命的に投擲したのでそれは胸元を突き抜けた。そしてもう一人はそれを見て咄嗟に彼の後ろに隠れたので槍は二人を諸共に貫いて彼らは死んだのだった。そしてすぐにグラスの対戦相手の二人も死んだ。夜になるまでに彼らは二十七人を殺した。そしてコンクリスィルは日中を通して傷だらけとなっておりグラスに話しかけた。
「東方のティベリアス湖の岸辺から三人の女性が来て、私に約束したのだ。たとえヴィントリーの戦いで私が毎日殺されるのだとしても、翌朝には生き返る。そして私がフィアナ騎士団で最も敬愛しているお方が同じものを得るのだと。だから私が彼女らを探しに行けるようにそなたが今夜浜辺を監視していてくれ」
 そして彼は彼女らを探しに行き、彼女らが彼を癒しの泉に浸からせると彼は無傷となって出てきたのだった。一方、ドレヴァンの息子グラスはというと、彼は浜辺に行っていた。
「世界の大王よ」
彼は言った。
「沼地の王、ドンの息子の曲がった首のマダンという私の友が艦隊におりますが、彼は東方の広い世界にいた時にアイルランドを陛下のために奪取するのは彼自身で十分であり、陛下への敬意を払って手段を問わずそのようにするつもりだと言っておりました。ですから、アイルランドをかけて我らのどちらが勝っているのをはっきりさせるために、今夜彼との一騎討ちを陛下にはお許しいただきたい」
 それからその二人は互いに攻撃しあって狂ったように勇ましく激しく戦ったのだが、グラスはそこで死ぬ定めではなかったので、沼地の王は彼に殺されたのだった。
 その少し後になってコンクリスィルが彼のところに来て、グラスの成し遂げた功績を褒め讃え始め、大いに彼を称賛した。

フィアナ騎士団の伝令タシュテラッハ

 その後、アイルランドのフィアナ騎士団の勇士、すなわち勇士タシュテラッハが彼らに向かってきた。
「若造たちよ」
彼は言った。
「お前たちに大虐殺された者たちの首級は誰の者だ」
「そいつらの一つはスペイン王の首です」
コンクリスィルは言った。
「そいつは俺に殺されました。そしてもう一つは沼地の王の首で、ドレヴァンの息子グラスによって殺されたました。俺たちにフィン様とアイルランドのフィアナ騎士団の知らせは何かありませんか」
彼らは言った。
「吾輩は北のスナーヴ・ジャ・エーンで彼らと別れて来た」
タシュテラッハは言った。
「行って彼らを探してきてくれませんか」
彼らは言った。
「もしも俺たちの命を助けようというのであれば、彼らを連れてきてください」
「そんなことは恥ずかしくてできぬ」
勇士は言った。
「世界の諸王のうち二人の王をお前たちが殺したのにひきかえ、この浜辺を離れる前に吾輩の手が血に濡れておらぬのだ」
そして彼は浜辺に行った。
「おい、世界の王め」
彼は言った。
「アイルランドのフィアナ騎士団の勇士が戦いを求めてここに来てやったぞ」
「あの勇士に応えてやる義務を負っているのは私だ」
トイセヴの息子コイヴレサンが言った。つまり彼は世界の大王に仕える勇士であり、そして彼は浜辺に進み出た。
 彼はこのような姿であった。背の高さは男の拳で二百個分であり、幅も同じであった。そのうえ彼は竜と獅子と蛙と毒蛇の血に浸かって、幅広の丈夫な革鎧を着ていた。
 そして猛々しいこれらの英雄たちは荒波の如く強靭な肉体で航海する素早い革船の如く幅広な足取りで彫刻家が激しく斬るように互いに攻撃しあった。そして毛深い眉毛の下の偉大な灰色の瞳が輝き(?)、灰色の梁の如く強靭な骨のように、噛みしめ、広い顎の板のような歯をきしらせた。そのうえ、小さな梁のような恐ろしい広い穴の曲がった鼻を捻じ曲げて、この二人の戦士たちは互いに攻撃しあった。そして黒く、強く、固く握りしめられた、不滅の手を背中に回して互いにきつく不均等にねじりあった。
 それから世界の大王に仕える勇士はタシュテラッハを力強く押し込めたので彼は指の先端から真っ赤な血を流し、唇から真っ黒な血反吐を吐き出した。そして彼を肩に担ぎあげ、世界の大王がいるところに運ぼうと走った。
するとタシュテラッハは言った。
「おお、コイヴレサン。吾輩をどうするつもりだ」
「世界の大王の御前に連れて行って」
彼は言った。
「体から首をもぎとってやろう。そして世界の軍勢の前で杭に打ち付けて晒してやる」
「そいつは面白くない考えだな」
タシュテラッハは言った。
「吾輩を下ろしたほうがいいぞ、そうすれば吾輩は世界の軍勢の面前で貴様にひざまずいてやろう。全アイルランドの勇士は吾輩にひざまずいたのだから、貴様にそうするようになるだろう。それに、世界の大王が名誉を獲るよりも貴様自身がすぐにアイルランドの勇士たちから名誉を獲るほうが東方の広大な世界で喧伝するには気分がよかろうよ」
「信念に懸けて誓おう」
コイヴレサンは言った。
「お前をそうしてやると」
 そうして彼を地面に下した。タシュテラッハは彼に首を垂れた。彼はこれを挨拶だと思った。
 タシュテラッハは腕を伸ばして彼に抱きつき、力強く怒りを込めて押しつぶしてついに彼の肩口にとりついた。彼は近くにあった石を投げつけると体、つまり皮の内の骨髄が血の塊となった。そして彼の幅広の足で強く肩を踏みつけ、身体から首をもぎ取って戦功を誇ったのだった。

トゥアハ・デ・ダナンの援軍

「ご武運のあらんことを」
コンクリスィルは言った。
「では、今夜はルアフラ・テヴァルの俺の父、すなわちフェバルの息子ブランの屋敷に行って俺たちを助けるためトゥアハ・デ・ダナンの全軍を集めるように伝えて、そこからあなた自身は翌朝にアイルランドのフィアナ騎士団のところへ行ってください。」
 そしてタシュテラッハはあの戦いの後にフェバルの息子ブランの砦への道を行き、全ての報告をした。
 それからフェバルの息子ブランはトゥアハ・デ・ダナンを招集するために出立し、イー・ゴニル・ガヴラのセスナン・センガヴラの砦に向かった。そこでは饗宴が催され、トゥアハ・デ・ダナンの大勢の若者がいた。そこにトゥアハ・デ・ダナンの三人の高貴な息子たち、すなわち、マナナンの息子イルブレクとオィングスの息子ネヴァナハ、そしてミディールの孫シグヴァルがいた。そしてフェバルの息子ブランは歓迎され、留まるように望まれた。
「若者たちよ」
ブランは言った。
「あなたがたの望みよりもこちらは大変な用事があるのだ」
彼は彼らに話を伝えて、彼の息子のコンクリスィルが窮地に立たされていると述べた。
「今夜は私たちと共に留まられよ」
セスナンが言った。
「この私、セスナンが息子のドルブにダグザの息子ボドブ・ジャルグのもとへ向かわせてトゥアハ・デ・ダナンを私たちのところへ召集しましょうぞ」
彼らはそのようにして、セスナンの息子ドルブはマグ・フェミンにある白き女の妖精塚<シイ・バン・フィン>へ向かわせた。その時、そこにはダグザの息子ボドブ・ジャルグがいて、ドルブは彼にこれらの話を伝えたのだった。
「若者よ」
ボドブ・ジャルグは言った。
「我らはそのような窮地に立たされているアイルランドの者たちを救出する義務はないのだぞ」
「そのようなことはおっしゃらないでください」
ドルブは言った。
「アイルランドのフィアナ騎士団の王子や君子や指導者たちには、妻や母、養母、あるいや恋人がトゥアハ・デ・ダナンの出身ではない者はいないのですよ。そしてあなたが必要とした時にはいつでも彼らは大いに助けとなってくれたのです」
「我らの信念にかけて誓おう」
ボドブ・ジャルグは言った。
「そなたの伝令の素晴らしい働きには応じてやるのが道理に適っておる」
 そして彼らはそれぞれの場所にいるトゥアハ・デ・ダナンに伝令を送り、彼らはことごとくボドブ・ジャルグのもとへはせ参じた。彼らはセスナンの砦に到着するとそこでその夜を過ごし、明くる早朝に出立した。そして豪勢な絹のシャツと裾の翻ったたくさんの飾りがつけられた式典用のチュニック、長い丈の鎖帷子と宝石や金で飾られた兜、緑の守りの楯と幅広で重く強力な剣、鋭い切っ先で分厚い穂の槍を身に着けていた。
 この時の彼らの王侯はすなわち、ミーシュ山の三人のガルブ、三人のリアス・ルアフラ、マジェの三人のムレダッハ、シュア川の三人のシハリィス、アーニェの三人のエオハド、赤い石の三人のロイガレ、クロムリーの三人のコナル、フィンバルの三人のフィン、ブルー・アン・スカルの三人のスカル、ライグネの三人のロダナッハ、ドルム・フォルナフタの三人のディスケルタハ、バダーンの息子ルアドの滝のエダンの三人の息子、カーン山のタスブレッハ、サンブの平野のソヘルン、セガス(泉、井戸)のセグサ、リーシュのフェルドロン、ブルネ・ブレグのグラス、シャノン川のアーガトラヴ(銀の腕)、マインマグのオグラジェ、レヴァンのスウィルゲハ、シャノン川のセンハ、ブリー・レスのミディール、ノヘダルの息子のフェリム・ヌアクロサッハ、小川の妖精塚<シイ・ベク・ウィスキ>のドン、ドレガン・ドロンヌアラッハ、ボイン川のフェル・アン・ベーラ・ビン、ベルナン・エリーの王カサル・クリスホサッハ、ドン・フリトグリネ、ドン・ドゥマ、ドン・テヴェハ、ドン・センフヌイク、ドン・フヌイク・アン・ドーシュ、ブラット・リャバッハ、あの妖精塚のドルブ・デドソーラス、シイ・カーン・ハンのフィンの五人の息子、メガ・シウルのフィンバル、ミディールの孫のシグヴァル、マナナンの息子イルブレク、オィングスの息子ネヴァナハ、シイ・フィナハドのリル、イルダサッハの子アヴァータ、そしてここに列挙されない大勢のトゥアハ・デ・ダナンの貴族たちだった。
 さて、これらの軍勢がキアライゲ・ルアフラ(ケリー)に入り、ミーシュ山へ来てそこからヴィントリーの浜辺に向かった。
「トゥアハ・デ・ダナンの者たちよ」
アヴァータは言った。
「ヴィントリーでの戦いに臨み、そなたらの気高き志と勇気を奮い起こそうではないか。この戦いは一年と一日の間続き、そなたら一人一人の活躍が世界の果てまで伝わるのだから。さあ宴席での大言を実行しよう」
「立て、ドレヴァンの息子のグラスよ」
ダグザの息子のボドブ・ジャルグは言った。
「世界の大王に私の宣戦を布告してくるのだ」
グラスは世界の大王がいる場所に行った。
「おお、グラスよ」
世界の大王は言った。
「あの者たちがアイルランドのフィアナ騎士団か」
「彼らではありません」
グラスは言った。
「しかし、アイルランドのもう一つの勢力です。彼らはトゥアハ・デ・ダナンと呼ばれており、敢えて地上におらず、地下の妖精塚の棲家で生活しています。彼らからの宣戦布告を伝えに私が来たのです」
「誰ぞある、余のためにトゥアハ・デ・ダナンに応じよ」
世界の大王は言った。
「私共が彼らに応戦いたしましょう」
 世界の諸王のうちの二人、すなわち犬頭人の王コヴル・クロウゲンと猫頭人の王カトヘンが五つの赤備えの大隊を従えて赤く激しい波となって浜辺に進み出でた。
「余のために犬頭人の王と決闘せんという者は、誰ぞある」
ボドブ・ジャルグが言った。
「私が彼奴に応じてやろう」
シイ・フィナハドのリルが言った。
「世界広しといえど彼奴ほど武勇に優れた者はおらぬと聞いたぞ」
「猫頭人の王と戦う者ぞあるか」
「私が戦いましょう」
イルダサッハの子アヴァータが言った。彼は重々しく輝く鎖帷子と四つの縁を持つ頭飾りのついた兜と剣を身に着け、

****RIA MS 29より

「私が戦いましょう」
イルダサッハの子アヴァータが言った。彼は重々しく輝く鎖帷子と四つの縁を持つ頭飾りのついた兜と避けることのできない赤い刀身の剣、そして禍々しい戦いの腕には端の青い二つの腕輪を身に着けた。彼は来て、そのようないで立ちで戦った。二人は激しく殺し合った。
 一方、シイ・フィナハドのリルと犬頭人の王は接敵し、狂ったように激しく戦った。そしてリルはしばらく戦って斬られた。
ボドブ・ジャルグはこれを見て言った。
「リルよ、このような苦しい目に遭うとは悲しいぞ」
彼は言った。
「彼を助けるために奮闘する者はおるか」
それから、マナナンの息子イルブレクとオィングスの息子ネヴァナハはそれぞれ犬頭人の王に痛ましい傷を負わせたが、それにもかかわらず犬頭人の王は応戦して、リルは苦戦した。
ボドブ・ジャルグはこれを見て言った。
「リルよ、この時を見ているのは痛ましいぞ」
彼は言った。
「どうすれば助けられるのか」
「私が助けに行きましょうぞ」
ミディールの孫シグヴァルが言った。
 そして彼は決闘の場に赴いて、犬頭人の王に傷を負わせた。それにもかかわらず犬頭人の王は指導者(シグヴァル)に同じように仕返して応戦した。リルは楯に身を隠して嘆息した。
ボドブ・ジャルグはこれを見て言った。
「リルが苦しんでいるのを見るのは悲しい。若者よ、彼を早く助けに立ち上がるのだ」
 シイ・カーン・ハンのフィンの五人の息子が戦いの場に進み出て、皆が犬頭人の王に傷を負わせたが、リルのために戦ったこれらの者たちも反撃を受けて傷を負った。
 さらにトゥアハ・デ・ダナンの二十七人の者たちが犬頭人の王に傷を負わせたが、多くの者が犬頭人の王から傷を負わされ、リルは悲嘆した。
 一方、イルダサッハの子アヴァータは猫頭人の王を倒すとリルが戦いの中で悲嘆にくれるのを聞いた。
 彼は急いで彼のところに行こうと槍の柄をつかんで跳躍し、リルの肩の上に両足で飛び乗り、次いで犬頭人の王とリルの間に飛び込んだ。
「戦いから引いてください、リル殿」
アヴァータは言った。
「今度は私があの王と決闘します」
 イルダサッハの子アヴァータは左手に剣を、右手に槍を持って犬頭人の王の胸甲に傷を負わせた。犬頭人の王は首元まで盾を持ち上げて、そこでアヴァータが剣の柄で殴ると膝から崩れ落ち、そうして犬頭人の王は盾を取り落とした。そしてアヴァータは彼の首を斬った。
 犬頭人の王はその日にいたトゥアハ・デ・ダナンを潰走させ切り刻んだが、悩みの種がなくなると、槍を持った戦士たちは虐殺し彼らを打ちのめした。

フィアナ騎士団の到来

 一方、スナヴ・ジャ・エンにいたフィン・マックールとアイルランドのフィアナ騎士団は、その時にはソニンの北、テヴァル(・ルアフラ)の領地におり、彼らのもとに向かってくる勇士タシュテラッハを見つけた。そしてフィン自らが会って相談しに進み出た。なぜなら、軍の伝令を包み隠さず報告したり軍議を行うのが習わしであったからである。
 また、彼自身が予想される悪い知らせに接してはまだ若い戦士が祈りにすがらないのと同じようにすがることに耐え、危険な知らせに接しては報告を都合よく解釈することに耐えるということを流儀にしていたのだ。
 そしてタシュテラッハの報告は世界の大王がもたらしたヴィントリーの湾での全ての出来事とこれまでの所業を伝えた。
「アイルランドのフィアナ騎士団よ」
フィン・マックールは言った。
「アイルランドは未曽有の戦時であり、冷たい大海の如き苦境に立たされている。炎に包まれている人々から恩を受けた者が今、ただ座して見ているだけという巨悪を断じて許してはならない。彼らがそれを許すまで痛めつけるのだ」
 フィンとアイルランドのフィアナ騎士団はその日早々に出立し、死に逝く者に対して輝かしき刃、金に飾られた虐殺を起こす武器を携え、荷車と彼らは北から流れる川を越え、そして美しきコヴル・ガヴラを越えキアライゲ・ルアフラの国境を越え、そして西のカハル・ナ・クロンラーハに向かって白く細長い砂浜の左手にたどり着いた。そしてフィアナ騎士団は夜にはラヴロイネの河口にいた。ラヴロイネはそこの波間に溺れたイスパニアのミレシウスの娘だった。そして彼女はそこの島嶼に埋葬された。彼女の慰霊に因んで名づけられ、そして今は戦いの島と呼ばれている。
 そして、フィン・マックールは親指を知識の歯に押し当て、真実を明るみに出して言った。
「時が来るだろう」
彼は言った。
「聖職者が現れ、ここで生きて死んでいるターングレハ・ウィレホーヴァハタハ(?すべての痛みに打ち克つ者?)に、生まれてきたり斬られた息子たちや人々に、悪意のある世界の大王に仕えるだろう。そしてそこに住処と聖職者がおられるのだ」
その後に、オスカーはカイールテとマク・ルガハと一緒にいて言った。
「私と共に行こう」
彼は言った。
「最高の二人組として評判の最高の傭兵たち、コンクリスィルとドレヴァンの息子グラスの二人に会いに行って、フィアナ騎士団が明日我々に追いつく前に異国の者たちを血祭りにしよう」
そしてヴィントリーの監視の円丘<フィンハーン・ナ・ファレ>の前に到着すると眠気がオスカーを襲った。
「オレが戦えるほうが良いので、眠気がすっかりなくなるまで守ってくれよ、みんな」
彼はそう言って円丘に横たわり、カイールテが彼の右側を、マク・ルガハが左側を(守った)。
 一方、世界の大王は家臣の軍勢を呼び出して、フィン・マックールとアイルランドのフィアナ騎士団が来る前に侵略をしようとした。世界の大王の軍勢がその地に来て、三人は五十人の勇士と対決し、槍を掲げて鬨の声を上げ、対する世界の大王の軍勢も応戦せんと槍衾を作って鬨の声を上げた。そして驚くべきことに息をつく間もなく、彼らが狂乱するほど互いの装備は熱を帯びた。
「世界の軍勢の進攻は全て僕たち三人に集中している」
カイールテは言った。
「僕に言ったことはナシだ、かつてない状況で一人では掛かりっきりになるほど大勢だぞ」
 そしてオスカーはその円丘から九つの嶺を越えるほど跳ね出て飛び上がり、左手に槍を右手に剣を持ち、片っ端から次々と剣と槍を振るって斬りかかった。かつて剣を振るったどんな者よりも、現れた者は並外れて打ちのめしたと誰もが言った。なぜなら、彼の行くところで彼の肩、膝、肘に倒れ伏した死傷者を投げ落としてしまえば穀物の貯蔵槽が九つ分になるほどだったからである。そして彼は猛烈に世界の大王の配下の軍勢に攻撃を仕掛けた。そこではコンクリスィルとドレヴァンの息子グラスが刃を振るって戦いの火花を散らしており、最初にやってくると片っ端から斬っていたのだった。
 オスカーは異国勢と戦い蹴散らして死体を引きずり首を落とし鎧を切り裂き血塗れになりながら猛烈に突進していった。夜が訪れるまでオスカーに会って生き延びた者はいなかった。異国勢はそこでアイルランドのフィアナ騎士団が到着して、接近戦で血を流させ、ヴィントリーの地の丘を埋め尽くすように布陣しているのを目の当たりにした。そこからフィンの丘と呼ぶようになった。

決戦を避けて小部隊での攻撃作戦

「フィアナ騎士団長、」
オシーンは言った。
「異国の者どもに徒党を組んで攻め込むのでしょうか」
「いやそうしないつもりだ、」
フィンは言った。
「彼らに対して会戦では優勢にならないが、それでも我らには貴族や賤民に頼る他にない。
私は毎日、王や貴族の息子を送ってその部隊で世界の大王と戦おう。我が軍の少数精鋭を送って異国の軍勢を相手に戦闘を始めるまで全軍は待機させておいて、その後に会戦するつもりだ。そして首領や領主に血を流させてはならない。なぜならば首領や領主が倒れたとき、彼の民にとって敗北となるからだ」
そしてバスクナ氏族のトレンモールの息子のクウァルの息子フィンは言った。
「誰か明日の戦いを引き受けようという者はいるか」
「私がやりましょう」
マンスターのフィアナの指導者、フィン・マック・ドゥバンが言った。
「とにかく貴方は行ってはならない」
フィンは言った。
「なぜなら、私は貴方が明日の戦いで死んでしまうと予知しているからだ。」
フィン・マック・ドゥバンが言った。
「私は全人生をかけて彼奴らに裁きを下した後に苦境に陥ろうとも、我が領地から出て痛い目に遭って、そのことで最前線で怨嗟の声を上げようとも、手がけている戦いから逃げない」
 そしてフェルグス・フィンベルがフィン・マック・ドゥバンの挑戦を世界の大王に知らせた。
「誰が余のためにフィン・マック・ドゥバンに応じるのじゃ?」
世界の王は言った。
「私が応じましょう、」
ギリシャの偉大なる王マルグレータが言った。
「そして三つの大隊と二十人の勇士がそこで私と応戦します」
 そして詩人フェルグスは(フィン)マック・ドゥバンと、砂洲に向かっている彼の元気の良い二人の息子、すなわち、ファルヴェとマーネとマンスターのフィアナ騎士団の総員のもとに行った。
 そして彼と彼の仲間たちは荒れ狂ったとても痛ましい攻撃にさらされ、仲間の元に彼が到達することに必死になって倒れた百人の勇士たちは驕らなかった。そして彼らは敗走せず、とうとう胸と胸を突き合わせるほどであった。 そしてそこで、ギリシャ王は勝ち誇って命を奪う青い穂先の槍をフィン・マック・ドゥバンに狙い定めて勇猛果敢に投げ、へそと背中の両方に刺さり、つまりフィン・マック・ドゥバンは背の高い白い背骨を破壊されて、ついに前から後ろまで貫かれたために医者が…(手の施しようもなく?)…仰向けに倒れることもなかった。
 フィン・マック・ドゥバンは槍に貫かれ、……そしてギリシャ王に迫るまで攻撃はとどまるところを知らなかった。つまり、不運にも投槍で背まで貫かれた立ち姿でありながら倒れる寸前に見事な剣の黄金の柄に手をかけて、ギリシャ王に一撃を見舞って戦闘用ベルトを切り裂き、鎖帷子を斬って、ついに背骨まで両断して、天晴な両雄は果てたのである。


ギリシャ軍との戦闘の後はアルバの王子ゴル・ガルヴと三人の王の戦い(めんどいので省略)

オシーン&オスカーVSフランス王ボルカン

****
 赫赫たる勲のオスカーは、けたたましく荒れ狂う奔流の瀑布が薄く狭い岩に注ぐかの如く、あるいは王の宮殿の広い屋根を貫いて高く燃え立つ赤い火の如く、あるいは大海の大音声で白い泡を立てる波頭と碧い水で一杯の波の轟きの如く、異国勢の真っただ中を蹂躙したので、オスカーが異国勢に行った虐殺により打ち破られ、まき散らされ、打たれ、引き裂かれて、斬り刻まれて細切れになった。
 それからフランス王ボルカンとオスカーは互いに動いて交戦し、二人は緑なす丘の斜面に柔らかな絹の軍旗を突き立て、数多の勝利を得た楯を互いに相手に向けて掲げ、滑らかな白銅の恐ろしい剣を抜き放ち、手早く虐殺を行った。そして、オシーンはそれに心を痛めたので彼らの一方(ボルカン)に攻撃が仕掛けられた。
 オシーンの息子のオシーンがこれを見て、彼らのところへやって来て、オシーンはフランス王に一撃を見舞い、王はオシーンの戦闘行為に反撃した。オシーンの二人の息子、すなわちエフタハとウラドはこれを見てフランス王を負傷させ、彼は傷と引き換えに二人ともに傷を負わせた。彼はオシーンから彼ら皆への心痛を引き起こさせた。そしてマク・ルガハがこれを見てフランス王に一撃を見舞い、王はオシーンの戦闘行為に反撃した。それからバスクナ氏族の子弟、百五十人がやって来て彼らの誰もが彼を傷つけたが、彼は彼らの誰をも負傷させてオシーンに嘆息させたのだった。
 そして不倒の柱、猛毒の蛇、戦いの狼、圧倒的な大波、境界を越える破壊、百の戦いの裂け目、誰も敢えて触れぬ手、不惑の心、衆寡に拘わらず一歩も引かぬ足、すなわち高貴なる行いのオスカーがこれを聞いた。そして彼は父をそのような窮地に陥れた者を探し、怒って真っすぐで残酷な襲撃を仕掛けてやってきて、彼らを打ちのめした恐怖はあたかも雷電に騒ぐ五十頭の馬のように、その浜辺を震わせたのだった。
 そしてフランス王は自分のところに向かってくる彼を見て、美しさや端正さは消え失せて、地上のどこにも身を隠す場所がないものと思って、空か天上に行くより他になく、雲を見てそこが彼らからの隠れ場所だと考えた。そして心と精神が軽くなり、彼は地面から身体を引っ張り、東の国境にあるボルカンの谷に行くまで止まることなく、世界の軍勢の目の前から風と狂気と共に飛んで行った。そして、世界の軍勢からは哀悼の、アイルランドのフィアナ騎士団からは歓喜の喚声が上がった。

ガルヴの九人の息子との戦い

 さて、アイルランドのフィアナ騎士団は夜が訪れるまでこのような様であり、フィンは言った。
「今夜の世界の大王はさぞ悲しく痛ましいことだろう、」
彼は行った。
「しかし、今夜彼は諸君らにこの浜辺での攻撃を仕掛けてくるだろう。そこで諸君らの誰かに今夜の浜辺を監視してもらおう」
「私がやりましょう、」
オシーンが言った。
「今日、私と共に戦ったのと同じ兵力で。アイルランドのフィアナ騎士団のためには一昼夜戦うことも大儀ではありませんから」
そして彼らは浜辺へ行った。その時間に世界の大王が言った。
「世界の軍勢よ、今日は武運拙かったようだ」
彼は行った。
「諸君らの幾らかでアイルランドのフィアナ騎士団に攻撃を仕掛けて参れ」
 それからタハルの息子のガルヴの九人の息子、すなわち、ワイトの海の王ガルヴの息子のドン・マラ、ロンヴァル、ロドラ、ヨフラ、トロイグレサン、タライン、トヴナ、ドラー・ドゥルバが起った。そして彼らの人数は千六百で、ガルブの息子たちの長男であるドラー・ドゥルバを除いてすべて浜辺に行き、バスクナの子弟たちはすぐにそして彼らに応戦した。
 そして彼らは激しく斬り合い、手を切り落とし、わき腹を斬り、身体をぐちゃぐちゃにして、そしてそのような戦いを朝になって日が昇るまで続けたのだった。翌朝になってガルヴの三人の息子と、オシーンとオスカーのほかに武器を持てる者はいなかった。そして彼らは互いに逃そうとせずに突進して、彼らのうちの二人がオスカーを攻撃し、三人目とオシーンは互いに攻撃た。そして互いに攻撃し合い、戦いは激しく互角に応酬し合い、彼ら二人はオスカーによって死に、自らの弱さと死の恍惚が訪れた。そのことはオシーンを奮起させるのに十分だった。
 オシーンと異国人は武器を放って海に行き、身体の細いところ(つまり腰)に頑丈で王の優雅な手をまわして締めあげ、男らしく正々堂々と勇敢に互いに引っ張り合った。世界の東から西の者たちの土地の果てまで戦士たちの戦いを見るために来る価値があった。それから異国の者はいきなり強い力でオシーンを海に引込んだ。なぜなら彼は水泳や潜水が得意だったからである。
 そしてオシーンは彼を引っ張った。それというのも、戦う場を拒否することは彼に相応しくないとみなしていたからである。それで彼らは一緒に海に入り、澄んだ海中の砂と砂利に出くわすまで、お互いを溺れさせようとしていた。 さて、オシーンがそのような窮地に立たされていることはフィアナ騎士団にとって心苦しいことだった。
「起て、フェルグス・フィンベル」
フィンは言った。
「私のために息子を称賛し、彼を奮起させるために」
フェルグスは白く輝く泡の港湾に行った。
「オシーンよ」
フェルグスは言った。
「そなたの行う戦いは善きものであり、大勢の者が見守っている。アイルランドのフィアナ騎士団と世界の軍勢がそなたを注視しているのだから。
さあ、勇気を出して、以前にそなたが成し遂げてきた善き戦いを思い出すのだ」
 それからオシーンはフェルグスから励まされて数多くの偉大な勝利を思い出し、勇気凛凛、挫けない腕で異国人の背中の細いところ(腰)を締めて、澄んだ海中の砂に引きずり倒して砂地に仰向けにさせて魂が離れるまで起き上がらせなかった。そして彼を浜辺に運んで行き、頭を体から切り落として、そして誇らしげにアイルランドのフィアナ騎士団のもとに勝ち誇ってやって来た。

 それから、タハルの息子たちの長男、ワイトの海の王、すなわちドラー・ドゥルバが起ちあがった。
「世界の大王様、」
彼は言った。
「俺を兄弟と共にアイルランドのフィアナ騎士団に対決させなかったのは、貴方様にとって悔やまれることだろう。俺が彼らを一緒にいたならアイルランドのフィアナ騎士団は我らを殺すことができなかったのだから。
俺が存分に彼らに復讐する。彼らを皆殺しにするために、毎日百人を殺すと言葉に出して誓う」
彼は言った。
「俺は、もしも世界の軍勢の誰かの武器が血に濡れてるのを見かけたなら、そいつを殺す」
 そして彼は浜辺に行き、百人のフィアナ騎士団に戦いを挑んだ。そして彼らから彼に軽蔑と嘲笑の叫びが投げかけられ、その日、百人が彼に対峙した。しかし、彼らに対する彼の攻撃は粗野なライオンが突進するかのようであり傷ひとつ負うことなく彼らを殺すと彼は首塚と胴体の山と彼らの身に着けていた鎖帷子の塚を築いたのだった。
 その後、その異国人は戦闘用の服を脱いで素晴らしく優雅な服に着替え、棍棒と球を手に取ると、浜辺の西から東へ向かって球を打ち、それが落ちてくる前に右手で捕球してから、次にそれを足に載せて、浜辺の西から東へ勢いよく飛び跳ねて、手を触れることなく地に落とすこともなく足から足へ飛ばした。三度目に彼はそれを膝に置いて、地面に放ることなく、膝から膝へと渡した。それからそれを肩の上に置いて、五月の風のように浜辺の端から端へと驀進して、次に肩から肩へ手で触れず地に放ることもなく渡した。そして彼は全てのフィアナ騎士団にその曲芸を行うことで挑戦したのだった。
 さて、オスカーとマク・ルガハが行ってその曲芸を行おうとしていた。
「待ちなさい、若者たちよ」
フィンは言った。
「アイルランドの者がその曲芸をしたことはないしこれからもない。しかし例外は三人のみ、つまりエスネの息子のルーがマグ・トゥレドの戦いで、タルティウでクー・フーリンが行った。そしてそれをやる若者がコノートから来るだろう」
 その後、異国人は彼の船に乗り込み、翌日やって来て、百人の戦いを求めた。それを受け入れる人は誰もいなかったので、フィアナ騎士団はくじを引いた。そしてその日に彼に対決した百人のうち、彼らの一人も知らせを伝えるために逃げることがなかった。そして彼らはすぐに彼のそばに倒れた。そして彼は夜の間は船に行った。
 彼は翌朝に彼らのところにやって来て、彼よりも時間が長くフィアナ騎士団に戦いを挑んで応答がない者はいなかった。そして返答がなかった時に彼らがくじを引くことは大変だった。そして、その日に彼に対峙しなければならなかった百人は、二度と戻ってこないことを知っていたので、アイルランドのフィアナ騎士団に健勝を祈って去った。その異国人が彼らに近づいてきて、その日は武器を持っていなかったほど怒って、彼らの間を突進して、隣にいた男の足首をつかんで、その隣の男の頭に目掛けて力いっぱい投げつけた。そして百人が彼のそばで死に、彼は虐殺を勝ち誇って、頭頂から戦士の声を出した。そして彼はその夜の間に船に行った。
 さて、この異国人と彼がフィアナ騎士団にもたらした損害の話は、アイルランドの四隅まで届いた。それからアルスター王フィアフラ・フォルタレバル(長い髪のフィアフラ)はこれを聞いて言った。
「アイルランドのフィアナ騎士団に降りかかった災厄の甚大さのあらましを聞いて、また、私自身が彼らと共に戦えないことを悲しく思う」
 そして彼には十三歳になるたった一人の息子がいて、彼はアイルランドで最も美しい容貌の王子だった。
「できるかもしれません」
少年は言った。
「つまり、父上ご自身が戦うことができないので、アルスターの全ての若者を僕と一緒に送り込むということです」
「そのようなことは言うものではない」
王は言った。
「十三歳の子供は戦いに相応しくない。なるようになるものだ」
 そして王は、少年がアイルランドのフィアナ騎士団にはせ参じずに生きることを望んでいないと悟った。
 そこで一緒にいた里子兄弟だったアルスターの王と首長の十二人の息子たちと彼は捕らえられて鍵のかかった部屋に入れられた。
「若者たちよ」
少年は言った。
「君たちが僕と一緒にアイルランドのフィアナ騎士団にはせ参じれば成功するだろう。なぜなら、君たちの名声はアルスターの王権の添え物だけど、自分の名声を持っていれば、君たちは良いんだ。
コンホヴァル王が勇敢な行いの輝かしさという点で彼らよりも霞んでいたにも拘らず、アウェルギンの息子のコナル・ケルナッハやスアルダウの息子のクー・フーリンや、ウシュナの高貴な栄えある子供たちはアルスターの王権を獲得していなかったのだから。さらに言葉に出して誓おう」
彼は言った。
「その食べ物や食事は、君たちの過ちのために僕の唇を通ることはない。そうすれば、僕は死を見いだし、異国の王は僕の父の後にアルスターの王権を奪い、君たちに間違った判断を下すだろう」
 その演説が若者たちに朗々と響いた頃、王は眠っており、彼らは武器庫に行って全ての少年がそれぞれ盾、剣、兜、二本の戦闘用槍、二匹の狩猟犬の子犬を持ち出した。
 そして彼らは北方のバダーンの息子のエス・ルアドの滝を渡って、カルブレの肥沃な土地を通り過ぎ、多くの氏族がいるコノートの国を通って、ロガ・カハ・リギとフィロノル・カハ・フィリド(全ての王の選択と全ての詩人の名誉)と呼ばれるカレ・アン・ホスナ(守りの森)とを通って、アナジ川を渡って、ケリー州に入り、西部のカハル・ナ・クラインラス(坂の土塁の町)の近くを通って、ヴィントリーの浜辺に到着した。
 ちょうどその時、異国人、すなわちダラー・ドゥルバがフィアナ騎士団を煽って罵倒するためにその岸にやって来て、その顛末はオシーンを大いに恥じ入らさせた。
「アイルランドのフィアナ騎士団よ」
彼は言った。
「我が軍の大勢がダラー・ドゥルバに殺されて、私はヴィントリーでの戦いから我らの多くの者が生還できると思っていない。死ぬというのが私の運命なら、奴がフィアナ騎士団に毎日もたらす破滅を目の当たりにするよりも私はむしろダラー・ドゥルバにそれを見出して、彼と勇敢に戦おうと思う」
オシーンのそれらの言葉にフィアナ騎士や詩人、歌人、学士から悲しく重苦しい叫びが上がった。
 ちょうどその時、彼らは雑多な若者たちが東から彼らのほうの浜辺に真っすぐにやってくるのを見かけた。
「待ちなさい、息子よ」
フィンは言った。
「今まで見た中で最も美しい容貌の、私は見かけたこの雑多な若者の軍勢が誰かということを知っている」
 それから彼らは近づいて、アルスターの王子はフィアナ騎士団長の前で右膝を折って、上品に賢く挨拶した。彼は同じやり方で応え、フィンは彼に誰であるかということと、どこに家があるのかという報告について訪ねた。
「エウィン・ヴァハが僕たちの家です」
少年は言った。
「僕はアルスターの王子ゴルと呼ばれており、貴方様がご覧になっている他の子どもたちは僕の里子兄弟です」
「このような時に何のために出かけたのだ」
フィンは言った。
「僕たちは全世界の軍勢が毎日貴方様と戦っていると聞きました。僕たちはあなたから強力で勇ましい武芸を教わりたい。僕たちは選抜された勇士たちの戦闘に相応しい年齢ではないので、僕たちのような貴族の子弟が世界の王に付き従っていれば、フィアナ騎士団長様、同じ数の彼らを撃退いたします」
「諸君らの到着を歓迎しよう」
フィンは言った。
「そなたの父の一人息子を異国勢に対決させるのは素晴らしいことであるが、アルスターの民にはそなたを置いて他に王家の継承者はいない」
ちょうどその時、あの異国人がフィアナ騎士団に刃向かうために頭の天辺から戦士の声を出した。
「僕が見ているあの戦士は何者でしょうか」
アルスターの王子は言った。
「ありゃ一人で百人に挑戦している戦士さ」
モーナの息子のコナンが言った。
「どうして一騎打ちをしないんでしょう」
少年は言った。
「悲しいことに、」
コナンは言った。
「フィアナ騎士団の五百の戦士が五日の間に次々と彼に殺され、今や彼の挑戦に応じようと言う者はほとんどいないんだ」
「あなた方の名声は素晴らしいけれど、」
その若者は言った。
「一方では世界のたった一人の戦士があなた方に戦いを拒まれている。僕が彼に立ち会います」
アルスターの王子は言った。
「二度とそんなことは言うなよ」
コナンは言った。
「俺たちに言わせてみれば、奴に殺されたの五百人の誰であろうと、お前さんの相手になるだろうよ」
「僕は今までフィアナ騎士団のことを知らなかった」
その若者は言った。
「モーナの息子のコナンさん、あなたはフィアナ騎士団の中でも作法と言葉遣いがなっていないと思います」
「俺のことを言いやがったな」
コナンは言った。
「言葉に出して誓います」
アルスターの王子は言った。
「あなたと向こうの戦士と五百人の戦士が一方にいたとしても、あなた方の誰の前からも僕は一歩も引かないでしょう」
そしてその少年は異国人に会いに行った。
「ローナーンの息子たちよ」
フィンは言った。
「お前たちの誓いと名誉によって命じる、アルスターの王子を異国人のところに行かせるな」
 カイールテと全てのローナーンの子弟は出発した。そして彼ら皆で彼を縛り付けるのは大変な仕事であり、足枷や拘束具が彼につけられた。
 そして彼らが彼を拘束している間に、彼の十二人の里子兄弟はその異国人に戦いに行ったが、フィアナ騎士たちは彼らに注意せず、仕舞には彼らは彼に殺されて十二人の首が落とされたのだった。そして彼は前に出て戦士の声を頭頂から発して、その戦功を誇った。
「あの異国人はこれを何のためにやっているんですか」
アルスターの王子は言った。
「その理由はお前さんにとって悲しいことだろう」
モーナの息子のコナンは言った。
「何故かというとお前さんの十二人の里子兄弟のことで奴は勝ち誇っているのさ」
「その話は悲しい、」
アルスターの王子は言った。
「僕をこんな風に捕らえていて、あなた方、アイルランドのフィアナ騎士団は責められるべきだ。なぜなら僕は怒りと恥ずかしさのあまり死んでしまって、その非難はあなた方が負うだろうから」
彼は言った。
「そしてあなた方とアルスターの者たちはこれから永遠に仇敵になる。こんな風に僕を縛り付けるよりむしろ、僕が向こうの異国人によって殺されてしまったほうが、あなた方が失うものはすくないでしょう」
 さて、この演説がアイルランドのフィアナ騎士団に朗々と響くと、彼はこのために開放された。それからその少年は古参や年長者から武器を受け取って…絹のシャツ…鈍色の丈の長い鎖帷子、紫のふちがねの黄金の楯、飾りで細かくしわ付けされた形の白い襟、二つの青い切っ先の幅広の頑丈な穂先の槍、黄金の十字形の柄の宝剣を身に着けた。
 そしてこのような様で彼はその異国人目掛けて突進していった。その異国人は彼が近づいてきているのを見た時に笑顔になり、世界の全軍は彼を嘲笑し、嘲笑する叫び声を上げた。そして、その少年の勇気は増して、彼自身が傷つけられる前にその異国人に六つの傷を負わせた。彼らは鋭く、血塗れになって、技巧を尽くし(?)、互角に戦い、勇猛果敢で、力強く、誇り高く、殺意を込めて、走り、わき腹を赤くして、急に傷つき、残酷で、素晴らしく、聞いたこともなく、吼えて、素早く、呻き、手を赤く染めて、勇ましく、素早く傷つけ、熱心に、間近で、狂ったように、怒って傷を負わせ、槍を赤く染め、勇気を振り絞って二人は戦った。紅海のキルバウ島の東の境から西の人々の島までそのその一騎打ちよりも勇敢な戦いぶりは見つけることができなかっただろう。そして全世界の軍勢とアイルランドのフィアナ騎士団は彼らを駆り立てた。
 そして夜が訪れた。慣わしでは夜になると戦いを止めるのであるが、武器が壊れて盾が裂けても、彼らは互いから離れようとせずに力強く怒って恐ろし気に突進し合って、機敏で力強い腕で互いを抱き締めて素早く器用に引っ張って、彼らは白い砂浜を沸騰させた。そして、彼らは取っ組み合いを続けて、とうとう海の潮が満ちて彼らは浸かり、そのように怒り狂った二人はついに、海の潮に沈んで、二人とも全世界の軍勢とアイルランドのフィアナ騎士団の目の前で溺れ死んだのだった。全世界の軍勢とアイルランドのフィアナ騎士団は絶大な叫び声を上げて、二人を哀悼した。
 そして翌朝、彼らは互いの見事な背中に腕をがっしりと回して、両足は互いに固めて、アルスターの王子の鼻は異国人の口の中にあり、異国人の顎は少年の口の中にあった。そして彼らを離すために異国人を切断する必要があった。アルスターの王子は埋葬され、墓が掘られ、墓の上に敷石が置かれて、アイルランドのフィアナ騎士団によって葬儀のための競技会が執り行われた。そして彼以上に大勢に哀悼を捧げられた若者がそこで英雄の武器によって死ぬということはかつてないことだった。

船団からの夜襲の警戒

「今夜、浜辺を監視するのは誰だ」
フィンは言った。
「私共があちらへ行ってまいりましょう」
 フィアナ騎士団の九人のガルヴ、すなわち、ミーシュ山のガルヴ、クア山のガルヴ、クラー山のガルヴ、クロット山のガルヴ、ムキ山のガルヴ、フーイド山のガルヴ、アサ・モール山のガルヴ、ダンドークのガルヴ、ソヴァルフィのガルヴ、そして彼らの麾下のフィアナ騎士たちが一緒に言った。
 そしてややあってドレガンの民の王、ドゥレの息子ドレガンの息子ヘロデが彼らのところに来るのを見て、互いに攻撃し、虐殺し破滅させ合った。しかし彼らの戦いぶりは筆舌に尽くしがたく、誰も語ることはできなかった。
なぜなら、一日が終わる頃には三人のガルヴとドレガンの民の王以外に立っている者はいなかったのだから。そして、彼らの周りで引き起こした大虐殺が彼らを弱め恐れさせるということはなかった。彼らは首を曲げ、腕を機敏に動かし、正気を失い、彼らは身体を槍で貫いたので、たくましい背中から赤い血の固まりが泡だって飛沫になって出た。そして彼ら四人は一緒に足と足、唇と唇とくっつけて戦場に倒れた。

コーマック上王の冷ややかな対応とカルブレの救援

 その後、フィンの息子のフェルグス・フィンベルはアイルランドのフィアナ騎士団が大勢倒れているのを目の当たりにして、躊躇なく相談もせずに王都タラに向かった。そこにはアイルランドの上王、アルトの息子のコーマックがいて、彼はフィンとアイルランドのフィアナ騎士団が窮地に立たされていることを伝えた。
「余にとっては喜ばしいことだ」
コーマックは言った。
「フィンが窮地に立たされているとは。なぜなら、豚や牛、マスやサケ、雄ノロジカに敢えて触れないのは我らが百姓ではないからだ。道端でそれが死んでいるのを見かけた時に、管理のために敢えて持ち上げるということもしない。そしてフィンに金を支払わないで敢えて故国から古い町に行く百姓はいない。フィアナ騎士団の夫か恋人がいるかどうかを尋ねられるまで、敢えて百姓の女性は男性に嫁ぐこともしない。そして(夫や恋人が)いないなら、彼女は嫁ぐ前にフィンに金を支払わなければならない。そしてフィンが我らに言い渡した間違った裁定は多い。彼よりも異国人どもが勝利したほうが我らにとっては良いのだ」
そしてフェルグス・フィンベルは緑地に行って、そこでコーマックの息子のカルブレ・リフィハーが輪と球の遊びに興じていた。
「カルブレ・リフィハー殿」
フェルグス・フィンベルは言った。
「久しく勝利も得ずにくだらない遊びに興じているとはあなたはアイルランドの防衛に醜態をさらしている。まさにこの時に彼女(アイルランドの女擬人化概念)は連れ去られようとしているのですぞ」
 そして彼は促し叱咤すると、カルブレはことのあらましを聞いて大いに恥じ入り、棍棒を投げ捨て、タラの民衆の中に入って行って、全ての若者を連れていったのでその場で千と二十人になった。そして彼らはアルトの息子のコーマックに相談することもなく休むことなく出発して、ついにヴィントリーの浜辺に到着した。そして全てのフィアナ騎士がカルブレの前に立って、歓迎の挨拶をした。
フィンは言った。
「カルブレ殿」
彼は言った。
「今のような戦いの手助けが必要な時よりも、吟遊詩人や歌人、貴婦人や紳士があなたを陽気にさせるかもしれないという時に我々のところに来てくれたほうが良かったのだが」
「私が来たのはあなたと(宴に)参列するためではない」
カルブレは言った。
「戦いであなたに加勢するためだ」
「私は経験の浅い若者を戦いの真っただ中に連れていったことはない」
フィンは言った。
「なぜならそんな風に来た者は死地を見つけて行ってしまうことがよくあることなのだから。私は経験の浅い若者が私をすり抜けて行って死んでしまうことを望んではいないのだよ」
「我が信念に懸けて誓う」
カルブレは言った。
「あなたがあなたのためにそうしないというのなら、私は私のために戦いに赴く」
そしてフェルグス・フィンベルはカルブレの宣戦布告を世界の王に伝えに行った。
「余のためにアイルランド上王の息子に応戦するのは誰じゃ?」
世界の王は言った。
「私が彼に応戦しましょう」
 ケプダの民の王、センガルブの息子スリゲフが言って、彼は三つの赤備えの大隊と共に岸に行った。カルブレは彼らを迎え討ち、彼ら(?)に付き従った全ての若者たちはカルブレの近くにいた。
「カルブレ様」
彼の軍勢の者が言った。
「勇敢に戦ってくださいませ。なぜなら、フィアナ騎士団は、あなたの幸運に異国勢のそれよりも満足することはないからです。それというのも、貴方様の祖父がフィンの父である、トレンモールの息子のクウァルを殺したから、あなたは身に覚えがなくとも、彼らはそれを忘れていないのです」
 カルブレはそれを聞くと異国勢の大隊に突撃して、彼らを打ちのめしたので果敢な戦いぶりを前にして強力な戦士は体を斬られ、貴族は殺された。
 それから、怒った破壊的な男、つまりセンガルブの息子スリゲフが彼に出会い、戦闘で彼に出くわすことは予定された死と突然の破壊と確実な破滅を意味したが、彼らはお互いに打ち合い、二人は多くの勝利の美しい盾を手に取って、彼らは素晴らしい縁金のまだら模様の誇らしい盾から高名な顔を覗かせ、彼らは磨かれた剣を振るって、身体に穴を開け、接近して、力強く戦い身体を切り刻んだ。

****RIA MS 29より
……彼らは素晴らしい縁金のまだら模様の誇らしい盾から高名な顔を覗かせ、彼らは幅広の鋭く磨かれた剣を振るって、身体に穴を開け、接近して、力強く戦い身体を切り刻み、カルブレは異国人を狂ったように強打して、そこで死に至らしめ、彼はフィン・マックールとアイルランドのフィアナ騎士団の前に勝利を誇って来た。
その後、フィン・マックールは言った。

カイールテの戦い

「アイルランドのフィアナ騎士団よ」
彼は言った。
「アイルランドのフィアナ騎士団のために戦うことなく、首長たる王の息子に頼ることなかれ。世界の王とその軍勢に悠々と戦いを挑むのだ」
「私に異国人に挑戦させてください」
カイールテ・マク・ローナーンは言った。
「勇敢であれ」
フィン・マックールは言った。

~この後、中略
オスカー、ゴル・ガルヴらが立候補するものの、カイールテが戦うことになる。そしてフェルグスが恒例の宣戦布告を世界の大王に伝える。
応戦したスペイン王子トロイグレサンがカイールテと戦って死ぬ。
ところ変わってフィンの母方の祖父のタドグがフィンに使者マク・エウィンを派遣する。

祖父タドグがフィンに武具を贈る

****MS Rawlinson B. 487より

 それから、マク・エウィンは燕や野兎や小鹿の素早さで、平原や野道の上を冷たい風が突如として吹き荒れるように進み、とうとう、日が昇る頃にヴィントリーの浜辺に到着した。
 ちょうどその頃、大きな戦いに向けてフェルグス・フィンベルがフィアナ騎士たちを激励していた。そして彼はこのように言った。
「アイルランドのフィアナ騎士団よ」
彼は言った。
「一日が一週間であれば、今日のあなた方のための彼らの働きがこれだ。それというのも、今日のような一日の働きはアイルランドにこれまでなく、これから行われるのだろうから」
 それからフィアナ騎士たちは立ち上がって、そこにいると、マク・エウィンが彼らのほうへと突進してくるのを目の当たりにした。そして、フィンは彼に知らせを聞き、どこから来たのか尋ねた。
「ヌアザの息子のタドグの宮殿から参りました。」
マク・エウィンは言った。
「私があなたに遣わされたのは、どうしてあなたが世界の王に対決して、その兵器や多くの武器を彼で血に染めないのかを聞くためです。」
「信念に懸けて誓う」
フィンは言った。
「私の武器が彼の血で赤くならないなら、私は彼を鎧を着たまま潰すだろう」
「フィアナ騎士団長殿、」
マク・エウィンが言った。
「私は彼を死なせる運命の武器を持っています。あなたの母君の御兄弟である、長い手のラヴラドはそれらをドルイドの魔術によって送りました。」
 そして彼はそれらをフィンの手に置き、覆いを剥ぐと、激しい雷の閃光と毒の泡が生じて、戦士たちは直視できなかった。そしてフィンと共にそれを見た時、全てのフィアナ騎士に技と力と勇気と魂の三分の一が宿った。武器が生み出した火球について、衣服は耐えることができなかったが、それらは魔法の毒の矢のように身体をすり抜けていった。

決戦を告げる

「行け、フェルグス・フィンベル」
彼は言った。
「今日の大きな戦いにどれほどのフィアナ騎士が残っているのかを見てくるのだ」
「フィアナ騎士団に残っているのは正規の一個大隊です」
彼は言った。
「そして彼らの多くは、三人、九人、三十人、百人と戦うことができる者たちです」
「起て、そうであるならば」
フィンは言った。
「世界の大王がいるところに行って、自ら大戦の場に出向くように伝えよ」
フェルグスが世界の大王のところに行くと、世界の大王がちょうど寝椅子にいて、竪琴と笛の音楽が彼に演奏されていた。
「世界の大王よ」
フェルグス・フィンベルが言った。
「眠りが恋しかろうが、恥じることはありませぬ。なぜなら、それがあなたの最後の眠りなのですからな。さて、フィアナ騎士団は戦いの場に赴きました。あなたが戦いに応じてください」
「思うに、」
世界の王は言った。
「余と戦うことのできる若者がおらぬようじゃ。アイルランドのフィアナ騎士団はいかほど残存しておる」
「正規の一個大隊のみです」
フェルグスは言った。
「世界の軍勢はいかほど残っておりますか」
「余たちは三十個の大隊でアイルランドに来た」
彼は言った。
「そして二十個の大隊がフィアナ騎士団との戦いで斃れた。赤備えの正規十個大隊が残っておる。とはいえ、余たち八人がおれば、全世界の軍勢が余に反逆したとしても打倒可能じゃ。すなわち、余自身と、戦功多大なるコンマイル、余に次ぐ世界最高の使い手のギリシャ王女オーガルヴァハ、家臣団の長であるロッホランの王フィナフタ・フィアクラハ、その三人の兄弟のカシル・クルヴァハ、フォルネ・グランギル・ガシュダッハ、トハ、そして海のモンガハじゃ」

決戦(ロッホラン勢)

「真に、言葉に出して誓おう」
ロッホランの王と彼の兄弟は言った。
「世界のいかなる軍勢であれ我らの前に彼らに対決しに行こうものなら、行かないぞ。そのことは奴らの血で武器を赤く染める機会ではなく、我らがいつも通りのように満足したと彼らに思わせるべきではないのだから。それというのも流血で満たさない限り、我らの武器を赤くすることはゲッシュで禁じられているのだ」
「私が一人で奴らのところに行きます」
 最も若い家族、つまりフォルネ・グランギル・ガシュダッハがそこにいる者たちの一人、つまりオシーンに向かっていき、オシーンは打ちのめされたので不利な戦いにため息をついた。オシーンは危機にさらされたことで死と背中合わせになり、戦士を支える意思を失い、彼は悲痛な叫び声を上げた。
「言葉に出して誓おう、詩人よ」
フィンはフェルグスに言った。
「異国人に立ち向かう我が息子にそなたが行った激励を残念に思った。彼が窮地に立たされているのを目の当たりにするよりも、私とフィアナ騎士団の全部が死んでしまうほうがましだ。勇気を奮わせ勇敢に戦えるように、私のために息子を讃えに行くのだ」
 フェルグスは英雄たちが戦っている場所に行った。
「オシーンよ」
フェルグスは言った。
「フィアナ騎士たちはこの戦いでの君の不甲斐なさを大いに恥じているぞ。そしてそなたの戦いぶりに注目している王の娘やアイルランドの君主たちから遣わされた徒歩伝令や騎手が大勢いる」
 フェルグスの煽りによってオシーンは勇気を奮い、賛辞によって元気になって、彼の二本の肋骨の間を生後一か月の赤子が部屋にできるほど、身体を伸ばした。そして全てのフィアナ騎士は彼の骨が互いに圧迫して軋む音を聞き、彼は持っていた戦闘用の赤い穂先の槍を投げつけたので、それは鎖帷子の胸部に刺さり、青い鉄に接続された硬い四枚刃を持つ腕の長さの柄が彼の背から突き抜け、そこで彼(フォルネ)は死んだのだった。そして彼(オシーン)はフィアナ騎士団のところに戻った。
 そして彼を哀悼する世界の軍勢が叫び声をあげた。そして彼を讃えるフィアナ騎士団がもう一つの叫び声をあげた。しかし、この英雄を失ったことは、兄弟たちに弱さや恐れを引き起こさなかった。彼らは、彼がフィアナ騎士団の戦士に倒れてしまったのは良くないと見なしていたか、またはそう思っていたのだ。
 それからロッホラン王の息子のトハと呼ばれる本当に猛烈な戦士が起ち上って弟の復讐をするため岸に行った。彼はこのような出で立ちだった。足の裏から頭の天辺まで猛毒の雨を浴びたような鉄の表皮に覆われており、彼を見た者は攻撃しなくとも顔色を変えて、勇敢な兵士の顔色に陰が差し、英雄は彼を見ると正気を失った。そして彼は部隊の側面にとどまらず、フィアナ騎士団のど真ん中を行き、英雄の身体や真の戦士の肩や王族の戦士の肩を餌食にする優雅で磨かれた剣を振るった。
 そして彼らはその異国人に背を向けて敗走して彼の前から逃亡した。さてこの窮地は大きな恥だったにもかかわらず、マク・ルガハが彼に向き合うまで誰もロッホランの王子を撃退することを引き受ける者はいなかった。
「俺に付き合え、王族の戦士よ」
マク・ルガハは言った。
「俺がフィアナ騎士団のためにお前と戦おう、彼ら皆はお前との会敵を引き受けようとしないのだから」
 さて、(マク・ルガハは)彼が繰り広げていた真っ赤な虐殺から離れることで自らの名誉が損なわれるということ、すなわち、誰かとの決闘を断ることを自らに相応しいと思っておらず、ロッホランの王子に向かって勢いよく突進した。
 それから、その二人は絶え間なく、休むことなく、弱さと恐れと逃走もなく、惨たらしく多くの傷を負わせて聞いたことがないような激しい戦いを行った結果、槍が戦いで折れ、剣は絶え間ない打撃により曲がり、楯は鋭い英雄の刃に砕かれ、金色の楯は失われた。それからさらに戦いは激しさを増して、そして二人は同時に誇るべき恐ろしく速い反撃を行い、剣の鋭い刃がかち合い、マク・ルガハの剣が異国人の剣を断つ形になって、それからもう一度剣を振るって、兜を割り、鎖帷子を素早く斬り、楯を裂き、精妙な剣捌きで心臓を真っ二つにした。そして彼はアイルランドのフィアナ騎士団のところに誇らしげに意気揚々とやって来た。
 それから、ロッホランの王子たちのもう一人の愚かで向こう見ずで勇敢な息子が起った。その名はモンガハであり、世界の軍勢が彼と共に起ちあがった。
「世界の軍勢よ、お前たちは引っ込んでいろ」
彼は言った。
「我が兄弟の復讐の代償を要求するのはお前たちではなく、俺自身がアイルランドのフィアナ騎士団から復讐の代償を行って要求しなければならないのだ」
 そして彼は岸に行った。彼は鉄のフレイルを手にしており、それには七つの浸炭した鉄球、それから五十の鉄の鎖、それぞれの鎖からは五十の鉄の弾、弾には五十の毒針を備えていた。そして彼はこのような姿で彼らに突撃して麻の如くして壊滅させたので、あたかも鷹の前から逃げる小鳥の群れのようにフィアナ騎士団は彼によって散り散りに敗走した。
 このような有様にフィアナ騎士団のとある戦士、つまりブリトン人の王子フィダッハは大いに恥じ入って、言った。
「来い、そして私を賛美せよ、フェルグス・フィンベル」
彼は言った。
「そなたが私を賛美している間、異国人に向かって戦えるように、勇気と元気が増して私の戦いぶりがもっと勇敢になるように」
「あなたを賛美するのはたやすいことです、若者よ」
 フェルグスは言って、長い間彼を賛美し続けた。それから彼ら二人は粗野で傲慢で汚い言葉を交わして対峙した。それから海のモンガハは強靭な鉄のフレイルを振り上げてブリトン人の王子に激しく殴りつけた。ブリトン人の王子は異国人の左側に素早く跳躍して剣で一撃を見舞ったので、刃が両手の関節に通って、そのようにして両手を一緒に斬り落としたのだった。そしてその有名な精鋭の輝かしい英雄はそれだけにとどまらず、その戦士を真っ二つに斬った。しかし、彼が死ぬと毒針のついたフレイルの鉄の弾がブリトン人の王子の美しい口の中に飛び込んで、舌と歯とそして血塗れになった白っぽい脳の塊が後頭部からはじけ飛び、それでその場で足と足、唇と唇がくっついたようになって、彼ら二人は一緒にそこで死んだのだった。
 それから、ロッホランの王の長男が立ち上がった。彼は耐えがたい破壊、黒い大洪水の流出、百の毀損の埋め合わせ、国境を越えた破壊、圧倒的な波濤、そして敵の多寡に拘わらず一歩も退いたことがない男、すなわち、ロッホランの上王カシル・クルヴァハだった。
 その軍が壊滅したり、損害を受けることはエリンに入寇するまでなかったのだがその理由は、彼のために地獄の鍛冶師が作った猛毒の炎の楯を持っていたからである。それは海に沈めたとしても炎は消えず、彼自身はそれによって熱されることもなかった。しかし、彼がそれを受け取ってから友も仇も敢えて間合いに近寄ろうとしなかった。
 そして彼はそのような姿でフィアナ騎士団の中に突入したが、護身用の剣の他には武器を持たなかった。それというのも武器を敵に向けるのではなく、楯の毒(炎)を彼らに放つために来たからだった。彼は彼らに火の球を放つと毒矢のように戦士たちの身体を貫き、武器や衣服や装飾品は耐えることができず、誰もが武器や衣服とともに炎に包まれ、これに触れた者も炎に捕まることになった。一年間燻されていた海中の樫の木の破片(楯のこと)は誰よりも、武器や衣服や装飾品よりも燃えず、これまでアイルランドに侵入してきた巨悪といえどその悪と比べれば卑小だった。
 それから、フィンは言った。
「アイルランドのフィアナ騎士団よ、手を挙げよ」
彼は言った。
「そしてあの異国人を少しでも遅らせて幾らかでも走って逃げることができるように挨拶代わりの雄たけびを三度上げるのだ」
 そしてアイルランドのフィアナ騎士団は前に進み出てその叫び声をあげた。その叫びを異国人が聞いて笑みをこぼした。その異国人の近くにはアルスターのフィアナの指導者、ドルハゼの息子のドラーの息子のドルヴデルグがおり、クラン・ルズリゲが代々伝えるクロデルグという名の毒槍を持っていた。そして彼は、口元以外は鎧に覆われていたもののフィアナ騎士団を見て口を大きく開けて笑っていたロッホランの王を見つけた。それからドルヴデルグは彼に向けてクロデルグを投げて口の中に一撃を入れたので、身体の前よりも後ろのほうがより酷く凄惨になった。そして彼はそこで楯を落とし、持ち主が死ぬと炎は消えたのだった。そしてドルヴデルグは彼に近づいて首を斬り落とし、戦功を誇った。フィアナ騎士団の一人の力によってフィアナ騎士団がこれ以上ないほど救われたのであった。

決戦(コナンの奮闘)

 そしてその後、これらの二つの互角で士気が高い精鋭の軍隊は、密林のように、黒い大洪水が溢れるように、勝ち誇って騒々しく剣戟を振るって互いに押し寄せた。そして激しく、危険に、怒り、猛烈に、破壊的に、大胆に、激しく、急激で、大いに剣がぶつかり骨は軋み、砕かれた骨がひび割れ、身体はかき混ぜられ、目はつぶれ、母は子を失い、美しい妻は連れ添いを失ったのである。
 それから上空の生き物(鳥?)が戦いに呼応してその日に運命づけられている憎しみと悲しみを予告し、海は喪失を告げてざわめき、波は悲嘆して大きなうめき声をあげ、獣は獣らしく吼え、荒れた丘は攻撃に軋み、森は英雄を哀悼し、灰色の石は英雄の行いに叫び、風は高らかな戦功を告げて息をつき、大地は虐殺を予兆して震え、太陽は灰色の軍勢の叫び声を伴って青い外套に覆われ、その時、雲は暗く輝いていた。そして猟犬と子羊、カラス、谷の女悪魔、空の悪魔、森の狼が一緒になって四方八方から吼えて、悪と過ちへ誘う魑魅魍魎どもが彼らの周りを押し合いへし合いし続けていた。
 その時、アイルランドのフィアナ騎士団の一人の英雄が、バスクナ氏族に対して大きな悪行と過ちを自分と自分の一族が重ねていたと考えていて、そのため、彼は償いたいと望んでいた。そして彼こそモーナの息子のコナンだった。そして彼は幅広の剣を持った手を素早く動かして、情け容赦なくびっしりと身体に突き刺し完全に勇敢だった手を切り落として、顔の美しい人々を剣で殺した。その戦いでの彼の行いは語るのもおぞましかった。
 さて、フィンは陣頭でフィアナ騎士たち、とりわけコナンを鼓舞しており、他方では世界の大王が異国勢を鼓舞していた。フィンはフェルグス・フィンベルに言った。
「私の敵を虐殺することは立派なことなのだから、彼の勇気を奮い立たせるようにコナンを褒めたたえるために発て」
 そしてフェルグスは彼のところへ行った。大きな戦いの熱気が彼を包み、彼は風を取り込むために外に逃れた。
「まったく」
フェルグスは言った。
「バスクナ氏族に対するモーナ氏族の昔の敵意をしっかりと覚えているのでしょうね? バスクナ氏族が壊滅しようものなら、ここで貴方は自ら率先して死ぬのでしょう」
「詩人よ、あんたの名誉には敬意を払ってるから、訳もなく罵倒しないでおくれ。俺は異国勢に対して立派に仕事してやる。俺を戦いに行かせるだけでいいんだ」
「信念にかけて、本当に」
フェルグスは言った。
「あなたがそうするための勇敢な行動するでしょう」
 そして彼はコナンを称賛した。コナンはそれから再び戦いに行き、そして今度の彼の戦いぶりは悪くなかった。そして、フェルグス・フィンベルはフィンがいた場所に行った。

戦況の推移と戦功第一の勇者

「今、戦功第一の者は誰だ」
フィンはフェルグスに言った。
「カナンの息子のカスの息子のドゥバンです」
フェルグスは言った。
「すなわち、あなたの一門の郎党の子です。なぜなら、彼はいかなる者にもたったの一撃だけの二の太刀いらず、誰もその一撃から生きて逃れることはできずに、今まで九人の三倍と八十人の戦士を倒したのですから」
 さて、トーモンド王(マンスター地方北部)にしてカイルギ・レスの王子、ヌアザの息子のドゥバン・ドンがそこにおり、このように言った。
「我が信念にかけて、絶対にだ、フェルグス殿」
彼は言った。
「その証言は全くの真実である。カナンの息子のカスのドゥバンに勝る王侯の息子はいないのだから。そして、我は死地を見つけるか、さもなくば彼を凌駕しようぞ」
 そして彼は、ハリエニシダの荒れた大きな丘の下での極彩色に燃え盛る赤い火炎のように、または白い砂浜に打ちつける圧倒的な勝ち誇る波のように、激しい雷鳴を伴って戦いを駆け抜けた。それは彼が異国勢の真っただ中で行った殺戮と破壊と大虐殺であり、彼は戦いを通して九周して、彼らのすべての周回で九人の九倍を殺した。そしてフィンはフェルグスに尋ねた。
「今、戦功第一の者は誰だ」
「トーモンド王にしてカイルギ・レスの王子、ヌアザの息子のドゥバン・ドンです」
フェルグスは言った。
「なぜなら、彼が七歳の頃から誰も及ばず、今や抜きん出ておりますゆえ」
「彼を褒めたたえよ」
フィンはフェルグスに言った。
「そなたは軍勢が海の酷い浸水の前から逃走していると思っているのだから、異国勢が彼の前から逃走しているように」
そしてフェルグスはドゥバン・ドンのところへ行き、彼の力強さ、勇気、腕前、活力、武器、戦功をそばで褒めたたえた。そして彼はフィンのところへ行くとフィンが言った。
「今、戦功第一の者は誰だ、フェルグスよ」
「勝利数多なるオスカーです」
彼は言った。
「彼は一人で敵の全て、別々に四百人、すなわちフランス勢二百とガイリアン勢二百、そしてガイリアン王フィアフラ・フォルタレバル自身と戦っています。これらの者ども全てがオスカーの楯を打っているところですが、誰も彼に傷を負わせる者はおりません。お返しに彼が傷を負わせるということもありませんが」
「ローナーンの息子のカイールテの戦働きはどのように見えているか」
フィンは言った。
「彼は真っ赤に殺戮を行った後で少し手持ち無沙汰のようです」
フェルグスは言った。
「彼のところにゆけ」
フィンは言った。
「オスカーの受け持つ異国勢のいくらかを撃退するように伝えるのだ」
フェルグスは彼のところへ行った。
「カイールテ殿、」
彼は言った。
「あそこに見えるそなたの友オスカーの窮地は大変なことだ、異国人どもの殴打にさらされている。いくらか手助けをしに行きなさい」
 カイールテはオスカーと異国勢がいるところに行って、手近にいた者を躊躇なく剣で真っすぐ打ち据えて真っ二つにした。オスカーは顔を上げて彼を見た。
「カイールテ、」
彼は言った。
「俺の剣に相対する者に打ち勝つ前に、敢えて君は自分の剣を誰かの血で赤く染めることをしなかったようだ。付け加えると、君は恥ずかしいことに俺の受け持つ戦いを引っ掻き回す前に、全世界の軍勢とフィアナ騎士団が一つところで戦っているのに自分の戦いを見いだすことができなかったんだ。信念にかけて誓う」
彼は言った。
「君は血のベッドに横たわればいいのに」
 それがカイールテを心変わりさせて、彼は再び異国の軍勢に顔を向け、彼の白い顔が怒りで赤らみ、八十人の戦士がその猛攻撃で死んだ。
 それからオスカーは彼の受け持つ戦いで殺戮をしながらとても素早く周って、異国人たちが互いに押し合いへし合いするように包囲を狭め始めた。そしてその後は、尊き川が曲がりくねった低い石の堤防を溢れるように、大平原の羊の飛節と、それらと一緒になって狼が真っただ中を駆り立てるように、そして群れに対するその力はオスカーほどのものではなく、より糸のように横たわった男たちは(彼よりも)厚くなかった。
 そしてこの戦いから逃れた者はだれであれオスカーの受け持ちではなかった。彼は四百人を殺して、再び大軍勢に顔を向けると素早く目覚めた獅子の如く彼らの間を行き、怒りを解き放った。
「今、戦功第一の者は誰だ」
フィンはフェルグスに言った。
「あなたの勇ましいご子息です」
フェルグスは言った。
「すなわち、勝利数多なるオシーンです。彼は異国勢の真っただ中で素早く彼らを殺しています」
「物の見方では、今のこの戦いをどのように捉えているのか?」
フィンはフェルグスに言った。
「これはとても悲惨です」
彼は言った。
「今の有様は、過去でも未来でも言い表すことのできる人は決していないでしょうから。信念にかけて誓います」
フェルグスは言った。
「ヨーロッパの西で最も深く、最も通行不能な、鬱蒼とした低木で覆われた通ることができない森林といえど今の彼らよりも厚く密集しておりません。なぜなら、楯の金属の芯と鎖帷子の胸元が密着するほどなのですから。今一度、信念にかけて誓います」
フェルグスは言った。
「その人々の二人に一人、あるいは三人に一人でも互いに攻撃する時に松明を持っていたとしても、硬い斧の刃と英雄の剣の切っ先によって鉄帽子と兜や鎖帷子から散る火花ほど高く燃え盛る炎より酷いものではないでしょう。今一度、信念にかけて誓います」
フェルグスは言った。
「風と、武器の嵐のような唸りと、軍勢の嘆きの声は天空に投げかけられたのだから、軍勢に降る血の雨は収穫祭の豪雨よりも激しかったのです。今一度、信念にかけて誓います」
フェルグスは言った。
「大森林の木の葉の如く引き裂く、これまでの自然による風ではありません。今や雲と、金色の美しくうねる長い髪、うねる真っ黒な気流の、長く美しい髪のような風に斬り込んで、幅広で鋭い刃の斧によって刈り取られたかのようです。そのため、軍隊に並んで降り注ぐ血と髪の毛が彼らを覆い尽くしたので、彼らの声で認識しない限り、彼らのいずれかを他の誰かと区別できる人は世界にいません。そして大勢の戦士たちがオシーンとオスカーの楯を叩いています。フィアナ騎士団の最も安全な戦士でさえ、九人の戦士がその楯を叩いております。そしてそこには、五十人や六十人あるいは八十人が取りついているもっと大勢の戦士がいます。そしてオシーンとオスカーとカイールテの楯を五百人が打っていて、とりわけ大きな危機に晒されています」
「彼らのところに行け、フェルグスよ」
フィンは言った。
「そして彼らの勇気と元気を増すように、それぞれを相応しく誉め讃えよ」
 それからフェルグスはオシーンとオスカーとバスクナ氏族の貴族たちが英雄を負傷させ、兵士を殺し、殺戮している戦場の真っただ中に行った。そしてフェルグスは英雄を誉め讃え、戦士を奮い立たせ、勇敢にさせ、勇士を誉め讃え、兵士を誉め讃え、仲間を鼓舞して、踏みとどまらさせて、迎撃を強めさせ、攻撃に駆り立てた。そうして、以前も勇敢に振る舞いたいと切望していたけれども、アイルランドのフィアナ騎士団全員の勇気と元気を彼はさらに増したのだった。
そしてフェルグスは再びフィンのところへ行った。
「今、戦功第一の者は誰だ」
フィンはフェルグスに言った。
「信念にかけて、第一はあなたの友軍ではありません。つまり、世界の大王、すなわちロスゲン・ロムグルネフの息子ダーレ・ドンです。彼は燕や野兎や小鹿の素早さで、平原や野道の上を冷たい風が突如として吹き荒れるように進み、あなたを探し戦場でまみえようとして、彼は休まず容赦なく戦場のあちこちを隈なく貴方を探しております。そして彼の部下五十名が後衛として彼と共に戦いに来ました。フィアナ騎士団の二人の戦士、すなわち、カリル・カスブレハとクルアハンのエルキンが彼らを見つけて、世界の大王に会敵しました。彼らはあなたのところへ彼を近づけさせようとしなかったので、大王の後衛を倒せましたが、彼の血で剣を赤く染めることはかなわずに、彼らは共に彼によって殺されたのです。戦いの真っただ中であなたに向かってくる彼の戦いぶりは凄まじいものがあります」

フィン・マックールと世界の王の死闘

 それから世界の王が彼のところへやって来た。そしてフィンの近くにはギリシャの王の息子であるディールグスト以外に誰もいなかった。そして彼は黒い斧のアルカラッハと呼ばれていた。つまり彼は幅広の斧をアイルランドに持ってきた最初の人であり、そこでも得物としていた。
「俺は言ったんだ」
彼は言った。
「フィン殿を俺よりも前に戦いに出させないと」
 アルカラッハは手に持っていた幅広の斧を振り上げて、荒々しく一撃を見舞って大王を撃ち、王冠を切り裂いて髪の毛に達したが、皮膚からは血の一滴も流れなかった。斧の切っ先の向きがそれて、芝生に火花が散った。そして世界の大王は彼に一撃を喰らわせ、真っ二つにしたのだった。

 それから、高貴なる業績の、強く、頑強で、誇り高く、強力で、毒のある、破壊的で、機敏で、軽蔑的で、黒い狡猾な考えに満ちた世界の大王が来た。多くの氏族を助ける戦士、その生来の権利と王の気風を持つ真に賢明なるフィン。二本の勇気の樫、恐れを知らぬ二頭の熊、偉業を為した二頭の熊、素早く立ち上がった二頭の獅子である彼らは決闘の場に赴いた。そして世界の王はフィンの手にある毒のある剣を見て、毒のある戦いの強力な槍と短剣、それらの毒のある武器を認識した。それらによって彼は死に至る運命にあったのだ。そして彼は怖くてたまらなくなって、優雅さと美しい容貌を失って、指は頼りなくなり、足は震え、フィンの手にあるそれらの武器を見ると、目を細め始めた。
 それから二人の戦士は、青い柄頭の滑らかな鉄製の金で装飾された剣を抜き、激しく、獰猛に、間近で、狂ったように、そして重く撃ち込みで、ゆっくりとした足取りで、積極的に、強く、そして力強く、激しく互いに攻撃した。彼らは肋骨や脇腹から心臓や内臓を強く打った。彼らの雷の技は比類なく、さながら冬の夜の荒々しい突風だったのなら、自ら等しく分かれて東と西から互いに向かい合って来たのだろう。あるいはさながら紅海が完全に均等に二つに分かたれて互いにぶつかったかのように、あるいはさながら恐ろしい審判の二日のように、世界の支配を互いに激しく争っているかのようであった。
 それから、以前には決して負傷することがなかった者、つまり世界の王は戦闘で大いに弱り果てた。それまで武器を彼の血に染めさせたことは一度もなかったからである。そして今、この二人の戦士は、恐ろしい手を同時に振り上げて振るった。世界の王の剣がフィンの盾にぶつかり、上から三分の一ほどを剥いで引き裂いていき、帯から下のほうへ鎖帷子を斬り開くと、手の肉と太ももの白い肌をごっそりとを地べたに落とした。しかし、フィンの剣は世界の王の盾の上部の縁に当たって盾を割り、さらに王の剣を切断していた。そしてまさにその一撃が王の左足に当たったので、剣は脚を切断して地面に刺さった。そして彼は返す刀で色白の胸元から首を斬り離した。フィン自身は恍惚となって気絶し、多くの負傷から血を流して死出の道に立ったのである。

世界の王冠の行方に散る戦乙女

 それから世界の王の筆頭家臣であるフィナフタ・フィアクラハは、大王の王冠をつかむと、それを持って、世界の王の息子であるコンマイルがいたところに走っていき、その頭に彼の父の王冠をかぶせた。
「これがあなたの戦いの幸運と多くの勝利につながることを願っています、王子様」
フィナフタは言った。
 そして、世界の王の武器が与えられると彼は戦いの真っただ中でフィンを探し求めた。フィアナ騎士団の百五十人の戦士がその猛攻撃で彼によって倒された。それから、スコットランドの王子であるゴル・ガルヴが彼を見かけると攻撃をして、怒り狂って、力強く、間近に寄り、大胆不敵で、耐えられないように、そして叫び、時に迅速果断、時にうめき声をあげ、時にため息をつき、柄まで血に濡らした勇気ある一騎打ちを行った。それから世界の王のその息子は左手側の盾の下に身を隠していたけれどスコットランドの王の息子は強打して、彼を真っ二つにした。

 フィナフタ・フィアクラハはそれを見て、大王の王冠に向かって走り、それを持って、ギリシャ王女のオーガルヴァハがいたところへ行った。
「戴冠なさってください」
彼は言った。
「オーガルヴァハ様、世界を女性が手に入れることが運命であり、あなたこそがそれを手にする尊い女性なのです」
 そして王の名が彼女のために高らかに唱えられた。
「どのようにするほうが良いのでしょうか」
オーガルヴァハは言った。
「私が世界の大王の死を誰かに復讐しようにも、フィアナ騎士団は壊滅しています」
 そして、彼女は戦場にフィンを探しに行き、フェルグス・フィンベルは彼女を見て、フィンがいたところに行った。
「フィアナ騎士団長、」
彼は言った。
「たった今行った世界の大王との立派な戦いぶりを思い出してください。そして今までの立派なあなたの数々の勲を。あなたに差し迫っている難局、オーガルヴァハは重大ですぞ」
 その時、戦乙女が彼のほうに来た。
「フィン、」
彼女は言った。
「あなたは、あなたとその部下によって殺された王侯たちのため、私に償っていません。されど、」
彼女は言った。
「あなた自身とあなたの血筋の生き残った者よりも良い償いはないでしょう」
「それは実現しない」
フィンは言った。
「他の皆と同じように、私が血の床に貴様の首を置いてやろう」
 それから、彼らは二人は二頭の怒れる獅子かの如く出会って、あるいは、まるで土手に流れる白い泡のうねるクリーナの波と長く安定したトゥアグの波と勇しく正大なルーリーの波がお互いを窒息させるために生じたかのようだった。そのようにして二人は斬撃と打撃を互いに与えた。戦乙女の狂ったような敏捷な戦いぶり長く続いたけれど決闘は進んで、フィンからの一撃が彼女に届き、王冠を切り裂いて剣が鎖帷子の胸元まで達した。そして彼は二の太刀で彼女の首を体から切り離したのだった。そして彼は血の床に倒れ、その後意識を失ったが再び起き上がった。

クリウァンの息子のカイルによる戦いの決着

 さて、世界の軍勢とアイルランドのフィアナ騎士団はあちこちで倒れ、フィンの養子である”港のクリウァンの息子”と世界の大王の筆頭家臣であるフィナフタ・フィアクラハ以外に立っている者はいなかった。そしてフィナフタ・フィアクラハは死体の山に行き、世界の王の体を彼の船に引き上げて言った。
「アイルランドのフィアナ騎士団め」
彼は言った。
「世界の軍勢にとってこの戦いは失敗だったが、お前たちにとってはもっと失敗だったな。私が東方で世界を手中に収めて支配するが、お前たちはあちこちで斃れてしまっているのだから」
 さてフィンは血の床に倒れておりバスクナ氏族が彼の周りに控えていたところでこれを聞いて言った。
「報告を伝えれられるように世界に生きて還させてしまうと同時に、このような言葉を聞くくらいなら死んだほうがましだ。報告を伝える者が異国に生きて逃げおおせてしまっては、私自身や他のアイルランドのフィアナ騎士団の皆が武功を立てた甲斐がないのだ。誰か周りに無事な者はいるか」
「私がおります」
フェルグス・フィンベルは言った。
「戦いの被害状況や惨状はどうなっている」
「痛ましいものです、フィン様」
フェルグスは言った。
「互いに今日の混戦の中で壊滅しており、相手を前にして異国の者もアイルランドの者も一歩も退かなかったので、ついに彼らは足と足が重なり合って倒れるほどでした。信念にかけて誓います」
フェルグスは言った。
「浜辺に砂も草も視界に入らないほど英雄と兵士たちの死体で埋め尽くされております。今一度、信念にかけて誓います」
彼は言った。
「世界の王の筆頭家臣と、あなたの里子である”港のクリウァンの息子のカイルを除いて、兵はことごとく血の床に伏しております」
「彼を探しに行くのだ、フェルグスよ」
フィンは言った。
 フェルグスはカイルがいたところへ行き、状況を尋ねた。
「誓って言いますが、全身に鎖帷子と兜がなかったのなら、私はバラバラの微塵切りになっていたでしょう。誓いましょう、私が無事でいることよりもあそこに見える戦士が生き延びてしまうことのほうが悲しいのです。どうかご健勝で、フェルグス殿」
カイルは言った。
「私を背負って海に行って下さい。私があの異国人の後を追って泳げるように。彼は私が部下でないということを知らない。私の命脈が尽きたとしても、魂が体から離れる前に私の手にかかって彼が死ぬならば本望です」
 フェルグスは彼を持ち上げて海に連れて行って送り出し、彼は異国人の後を追って泳いだ。異国人は、彼が自分の部下だと思ったので船にたどり着けるまで待っていた。カイルは泳いで船に並ぶと乗りあがった。その異国人は彼に向って手を伸ばした。カイルは細い手首のところでそれを掴むと、固く握られた指を覆うように握り、男らしく勇敢に引っ張って、彼を船外に引き出した。それから彼らは優雅な英雄の手でお互いの体を掴み、一緒に澄んだ海中の砂と砂利に行き着き、そして彼らのどちらもその時以来見つかることはなかった。

 それから、アイルランドのフィアナ騎士団の吟遊詩人と技能者たちが、フィアナ騎士団の王と王子を探して葬るために来て、治癒可能な者たち全員は治療できる場所に運ばれた。そしてクリウァンの息子のカイルの妻である、マク・ルガハの娘のゲイルヘスが来て、死体の山の中で美しい連れ合いを探し、涙を流して声を上げてすすり泣いたその泣き声は四方八方の土地の境を越えて響き渡った。
 そして彼女がそこにいると、草地に白鳥と二羽の小鳥がいて、狐という狡猾なけだものが小鳥を狙っているのを見た。母の白鳥が小鳥の一方を覆いかぶさって守ろうものなら狐は他方に襲い掛かってしまうため、母の白鳥は両方の小鳥の間に身を投げ出す他になく、小鳥たちが殺されるくらいならいっそのこと母の白鳥はその獣によって死ぬほうが良かったのだった。
 そしてゲイルヘスはこれを見て熟慮して言った。
「疑うことなく、」
彼女は言った。
「私は愛しい人を心から愛しています。あの小さな鳥が子について苦しんでいるのですから」
 それから彼女は浜辺の上にある崖、ドルヴ・ルイグレンの牡鹿が嘶くのを聞いた。雌鹿を悼む嘆きは峠をこだました。彼らが一緒になってから九年間、麓の浜辺の森、フィズ・レイスに住んでいた。そして雌鹿はフィンによって殺されてから牡鹿は十九日間、水も草も口にすることなく悼んでいた。
「恥ずべきことではありません」
彼女は言った
「カイルのため悲しんで死ぬことは。牡鹿でさえ雌鹿のことで悲しみ余命を縮めているのですから」
 フェルグスが死体の山の中ほどで彼女に出会った。
「カイルの消息をご存じですか、フェルグス」
彼女は言った。
「知っております」
フェルグスは言った。
「カイルは世界の王の筆頭家臣であるフィナフタ・フィアクラハとともに沈みました」
「私の望みはささやかなもの、」
彼女は言った。
「鳥たちと波が強く泣き悲しむから、カイルとバスクナ氏族のことをただ泣き悲しむだけ」
そして彼女は歌った。

赤いリン・ダ・ヴァルクの(※リン・ナ・バルキ=船場のことか)
高い波の浜辺で音が聞こえます
ロッホ・ダ・ホンの英雄が沈み、
岸に寄せる波が嘆き悲しむ

ドルム・ダ・トレンの沼の
美しい声の白鳥
彼女はとても不安でした
狐が……彼女の小鳥を待ち伏せていました

ドルム・レイスの牡鹿の織りなす
悲しい調べ
ドルム・スリンの雌鹿の死
牡鹿は彼女を悼みました

ドルム・ハインのツグミが織りなす
悲しい歌
リティル・ライグのクロウタドリの織り成す
鳴き声に引けをとれないほど物悲しい

私にとって悲しいことは
私と褥を共にした英雄の死
トイリ・ダ・ドスの出身の母の息子
今はただ頭が痛む

浜辺に寄せる波が織りなす
悲しい調べ
威風堂々たる高貴な男性が死んでしまったから
私にとってはカイルが彼と会ったことが悲しいのです

浜辺の波が織りなす
悲しい旋律
私にとっては、人生は終わりました
まさに私の体は病み衰えています

波が彼に降りかける
重苦しいしぶき
私にとっては、喜びはありません
知らせは白鳥を絶望させたのですから

白鳥は死に、
後を追う彼女の小鳥は陰鬱
大いなる悲しみが私に与えたのは
白鳥を捕らえた嘆き

クリウァンの息子のカイルが沈みました
私にとってかけがえのない宝
彼の手は大勢の君主を斃した
苦しい日に彼の楯は鳴らなかった

 それからクリウァンの息子のカイルを思って嘆くあまり、ゲイルヘスの魂は身体から抜けた。彼女の墓はヴィントリーの上に掘られ、墓石が建てられ、彼女の葬儀のための競技会が執り行われた。
 過不足なく、これにてヴィントリーの戦いはおしまいである。


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