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モンガーン伝説:モンガーンが子孫を奪われた理由

モンガーンは7世紀に実在したアルスターの王子でした。彼の歴史的な事跡はほとんど不明ですが、8世紀初頭には既に伝説の人物として竜や狼などに変身することのできる不思議な英雄として語られる存在になっていました。そして、モンガーンは聖コルンバといった7世紀の同時代人と伝説で顔合わせし、時には離れた時代のフィアナ伝説や王たちの伝説を語りました。モンガーンはフィン・マックールの生まれ変わりであるとさえ言われていました。

彼はとても悪戯が好きなトリックスターとして描かれます。その飄々とした受け答えはとても魅力的だと思います。今回は土地の記憶を語る手段としての詩を語り継いでいた詩人に対して、詩の間違いや記憶していないことを指摘して恥をかかせてしまうというお話を紹介します。もちろん、痛い目にもあうのですが……。


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エリンで至高の詩人、エフ・リーゲーゲス(詩人の王)がバイターンの息子フィアフネに詩を作るために招かれていたのは、つまりフィアフネがアルスターの王でありエフがアルスターの者だったからだ。

「私がほかのエリンの王にもましてあなたの御前を避けねばならぬのは、つまりあなたのご子息、モンガーンのためです。」

とエフは言った。

「彼はエリンで最も学識のある若者です。そして(彼は)物語を話して教訓を与えているでしょうが、悪意のある者たちが彼に私と相容れないように仕向けるでしょう。
そしてきっと私は彼を呪い、あなたと私の間でそのためにいさかいが起こります。」
「いいや、そなたに歯向かわぬように私が息子に言い含めておこう。それであの子はそなたに対してこの屋敷で一番好意を示すだろうよ。」

とフィアフネが答えた。

「それでしたら、そうなさるとよろしいでしょう。一年が終わるまでそうであるようになさってください。」

とエフは言った。

ある日のこと、彼(モンガーン)は伝承を引き合いに出して話していた。

「意地の悪いことだね、モンガーン、うそつきの道化を試そうとしないなんて。」

と少年たちは言った。

「いいだろう。」

とモンガーンは答えた。

フィアフネは王としての巡回にエフを伴って出かけた。その道中、彼らは六本の大きな石柱が眼の前に立っていて石の周りに四人の聖職者がいるのに気が付いた。

「ここでなにをしておるのだ、坊主どもよ」

とフィアフネは聞いた。

「ここでわたくしどもは知識と智慧を探求しております。
これらの巨石がどのように据え付けられ並べられたのかをエリンの詩人の王、エフさまに解き明かしていただくよう神がわたしどもを導いたのです。」
「なるほど、私はそのことの全てを記憶しているわけではありませんが、私はクー・ロイの都市を造営するためにデザの子孫たちがそれらを立てたのだと考えています。」

とエフは言った。

「まあ、若い聖職者たちはあなたが間違っていると言っています。」

と彼らの一人が話した。

「彼を責めるでないよ。」

と他のもう一人の者が言った。

「もしかすると彼は知らないのかもしれません。」

と彼と一緒にいた者が言った。

「彼は知らないのさ。」

と他のもう一人の者が言った。

「ほう、ではそれについてのそなたの説明はどうなのだ。」

とエフは言った。

「それではこれは私たちの知っていることなのですが、これらは勇士の一団の三つの石と戦士の一団の三つの石、というものです。
初手柄で三人を殺したイラン、つまりフェルグスの息子とともにコナル・ケルナハがそれらを据え付けたのです。
彼は若さゆえに柱を打ち立てることができませんでしたが、コナル・ケルナハが彼と一緒にそれらを持ち上げました。
アルスターの習わしでは初手柄を挙げたならどんな場所であれ殺した人数を数えるための石柱を立てるのですから。
さあ、行ってください、エフよ、無知なままで。」
「恥じることはないぞ、エフよ、学者たちはそなたを吊し上げにしようとしたのだ。」

とフィアフネは言った。

彼らは前と同じように道を進んで、石灰で磨き上げたような大きな城と門の前に紫の衣服を着た四人の若者が立っているのをを目にした。
エフは敷地の中を進んで行った。

「さて、そなたらの望みはなにか。」

とフィアフネは言った。

「わたくしどもはエフからこれが何の城なのか、そして誰が住んでいるのかを聞きたいのです。」
「城というものは多くの人が建ててきたものですから、それらのすべてが記憶の片隅に残ってはおらぬのです。」

とエフは答えた。

「ほうっておけ、奴は知らないんだから。」

と他の者が言った。

「それでは、そなたらの知っているのはどのようなことなのだ。」

とフィアフネは聞いた。

「難しいことではないよ、本当のところは、
――ちょっとの間、酔いどれさ
緑色のゴブレットで蜂蜜酒を飲んで――
緑の庭の中で、それでもあなたがその名を覚えてはいなかったのだけどね、エフ。」
「いいでしょう。」

とエフは言った。

それから彼らは進んでいって、目の前に別の城があってその入口で四人の若者が喧嘩しているのに気が付いた。

「俺が正しい!」
「お前は間違っている!」
「どうしたというのだ、少年たちよ。」

とフィアフナは尋ねた。

「俺たちはこの城が何なのか、誰によって建てられたのかについて対立しているんです。
でも神が、知らぬことは一切ない男を連れてきて俺たちにその真実を明かしてくれました。」
「彼を辱めるでないよ、彼は知らないのさ。」

と一緒にいた者が言った。

「それについてそなたは何を知っているのだ。」

とフィアフネが聞いた。

「難しいことではないよ、本当のところは、――
・・・(Eleanor女史はこの行を訳出していない)
イウガトの土塁を掘った者のため
イウガトとはその由来となった女性の名前、
ディドラフトの息子ブシェの娘――
ラース・イウガト(イウガトの土塁)がその名前であり、
そしてそれからエフ、あなたがそのことを知らなかったのは不運というものです」

そうしてエフは恥辱に追いやられた。

「お前にはどうでもよいことだ、エフよ。そなたは見くびられるべきではないのだ。」

とフィアフネは言った。

彼らはそのあとに屋敷に帰り、モンガーンと取り巻きがその中にいるのを見かけた。

「おい、お前があれをやったのはわかっているぞ、モンガーンよ。」

とエフは言った。

「きみ、頭に血が上っているな」

とモンガーンは答えた。

「お前にとって良くないことだろうが、それから、お前にその仕返しの咎を負わせてやる。
お前の楽しみのためにしでかした大変な悪戯、その結果としてふざけていられなくなるだろう。
お前には馬丁以外に子孫を残せず、立派な後継者も一切できないし、自身の末裔を見ることもないのだ」

とエフは言った。

このようにしてフィアフネの息子モンガーンは高貴なる後継ぎを奪われたのだった。


参考文献

Kuno Meyer, The Voyage of Bran (1895)

Eleanor Knott , "Why Mongan Was Deprived of Noble Issue" , Eriu (1916)

Geoffrey Keating , Comyn, David (ed.1898), Díonḃrollaċ fórais feasa ar Éirinn (1634)

使用画像出典

James Stephens ,  Arthur Rackham (Illustrator) ,Irish Fairy Tales (1920)

物語は以上となります。ささやかですが、支援してくださる方がいればもっと伝説が楽しめる解説を用意していますので読んでみてください。


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