フィアナ伝説:水の暴竜
古老たちの語らい
レンスターの王は言った。
「カイールテ殿、あなたお一人だけだったとしても大変な歓迎を致しましたでしょう。
タドグの娘があなたの母親なのですからここにいる権利を持っていらっしゃる。
しかし、一つお教え願いたいのですが、ここの土塁の入り口にある泉はどうしてスカースデルクの泉と呼ばれているのでしょうか。」
クウァルの娘、スカースデルクがラーガンの湖にいる竜≪スミルドリス≫を目の当たりにして溺れてしまった。
後にブルーム山と呼ばれることになるエドレカイルの息子スウォーイルの山の頂上からラーガンの湖の渦巻く冷たい水が湧き上がって撒き散り、はるばるここからこの国中に広がる恐れがあったのはこの泉のことなのだ。
それからフィンは後にも先にも誰もなしえないような偉業を打ち立てた。
彼は東方の地≪インディア≫から(湖を)吸う者を、ゲルマン人の地≪アルウァーン≫から魔法使いを、サクソン人とフランク人の地から女戦士たちを連れてきて、彼らは渦巻く冷たい湖から水を引かせた。
このようにカイールテは答えた。
フィン・マックールの最初のフィアナたちは尊かった、とレンスターの王は言った。
カイールテが言葉を継いで、
「彼らはあなたの時代まで生き残りはしなかったけれども、どの者も生き残った者に劣るということはなかった。
羊飼いと牧童たちは遠くガレーイン≪レンスター≫の国のラサラハから来たフィン・マックールとイウォマンの息子フェルドウォンのフィアナの三つの大隊のために武具や衣類を喜んで集めた。」
レンスター王エオハド・レスデルグ≪赤の側≫は尋ねた。
「カイールテ殿、ラーガンの湖のスミルドリスに沈められた全ての仲間とその出身地を教えていただけないでしょうか。」
「コノートの国からフィンロッホのフェーラン。レンスターの国からアンガスとドヴァルフー。デリーからドルム・デルグ。北方のケネール・ゴニルからドゥブ・ダ・デート。イヴァル、アイヘル、アイド、そしてアートら今はオソリーと呼ばれるコスヌウァの四人の王子。カリル、カヘル、コーマック、カイムら北方のダール・ナラディの四人の王子たち。マイネ、アート、アラルトらスコットランド≪アルバ≫の三人の王子たち。イオブラーン、アイド、イオーガンらブリテンの三人の王子たち。アイラ島の王ブライーと彼の二人の息子にして北方のヘブリディーズ諸島≪インシ・ガル≫の二人の王ケルナとケルナブログ。ディウレ、バライそしてイダエらスカンジナビア≪ロッホラン≫の三人の王子たち。ルアス、インデル、イオーガンらマンスターの小国マルティンの三人の王子たち。グラシュ、デルガ、ドゥブネらミデ及びブレガの民の三人の王子たち。イルラン、アイド、イオーガナーンら北方のケネール・ネオガンの三人の王子たち。サマシュク、アルトゥール、インヴィルら異国のゲール人の三人の王子たち。
これらはラーガンの湖のスミルドリスによって沈められたフィン・マックールの最初のフィアナの領地の王子や長そして人々の名前だ、」
とカイールテは答えて、言葉をつづけた。
「私の力と槍投げは衰えてしまったけれども、透き通った青い水の溢れんばかりの湖だったこの平野を覚えているよ。」
カイールテはそれから歌った。
「輝く流れの水、つんざくようなすすり泣き、イチイの槍の飛び来る音、
戦士団の装いは牛飼う少年を誘う。
十と百二十と千人、それほど多く、偽りなく高貴な強く恐ろしい戦士は皆、死んだ。
今まで戦ってきた全ての戦闘で私がもっぱら気にしていたのは、
王子たちや偉大な者をそこで殺すこと。
姿かたちは老いてしまって私はのろまな臆病で不幸せ、
精神も肉体も失い、嘆きだけが木霊する。」
以上、「古老たちの語らい」からラーガン湖の竜、スミルドリスとフィン・マックールの伝承を抜粋して訳したものです。
「古老たちの語らい」はフィン・マックールたちフィアナのほとんどが姿を消して、わずかに生き残っているカイールテたちが5世紀頃にアイルランド宣教を行った聖パトリックに出会って旅をしながらその土地にゆかりのあるフィアナ伝承を語るという長大な物語です。
ラーガン湖の竜スミルドリスは明らかにフェルグス・マク・レーティが戦った海中の竜ミルドリスと同種の怪物です。
物語に出てくるラーガン湖≪ロッホ・ラーガン≫はゴールウェイ湾のことだとされますが、アイルランド西岸のコノートにあります。このロッホという言葉は湖や入り江のことを意味します。
しかし、作中のラーガン湖の水が湧きだしたブルーム山はフィン・マックールが幼少期を過ごした場所で、アイルランドの内陸にありました。
スミルドリスはこのように広大な土地を水没させてしまうような恐るべき存在でしたが、「古老たちの語らい」ではこの後、竜がどうなったのか語られません。
スコットランド伝承
さて、ラーガン湖の竜に類似するものはスコットランドで収集された民話にも登場します。
「ケルト諸国の妖精信仰」には以下のような話が記録されています。
アーマー州から逃亡した時のこと、フィン・マックールは彼の母の足を抱えて肩車した。
しかし彼の移動はあまりにも速かったので湖の畔についた時には彼の母は二本の足以外何も残っていなかった。そして彼はそれらを投げ捨てた。
しばらくして、フィアナたちがフィンを探しに来る間に同じ湖の畔を通り過ぎた。
彼らのうちの一人であったキネン・モウルはフィンの母親の脛の骨と、その中に一匹のワームがいるのを見て言った。
「そのワームは水を十分に得ることができたなら大いなるものになるだろうな」
「俺が十分に水をくれてやろう」
追跡者たちの別の者が言ってそれを湖の中に投げ込んだ。後にフィン・マックールの湖と呼ばれるようになった。
即座にそのワームは巨大な水の怪物と化した。
聖パトリックが戦って殺さねばならなかったのはその水の怪物だ。
戦いが繰り広げられ水の怪物の血で赤く染まり、その湖はダーグ湖(赤い湖)と呼ばれるようになった。
「フィアナ:物語、詩及び伝承」にも同様の話がいくつか紹介されていますのでそのうちの一つを紹介します。
彼女は彼を背に負ぶってアルスターの木へと逃げた。
そして疲れたのでフィンを地面に落ろすと、彼は彼女の足を抱えて肩車して、彼女の悲鳴に耳を貸さずに追跡者から逃れることで頭がいっぱいにして森を駆け抜けた。
森を抜けると目の前に湖があり、そしてルアス・ラーガンの二本の脛の骨だけを手に持っていた。
これらを彼は湖に投げ捨て、湖はこの出来事にちなんでラーガン湖と名付けられた。
このルアス・ラーガンはクウァルの姉妹で、フィンを育てた叔母にあたります。
名前の意味はルアス(速い)+ラーガン(脚)で、実際に物語の中でも足が速いとされています。
クウァルの死後、ルアス・ラーガンは密かにクウァルの双子を養育して男子を鍛え上げ、ついに彼はフィンという名を得ました。
その直後、ルアス・ラーガンと有名になったフィンは追手を避けて逃げることになりますが、ルアス・ラーガンは死んで彼女の脛の骨が投げ捨てられたのでラーガン湖という名の由来となったのです。
彼女は肩車された状態でフィンがあまりにも速く動いたので、脛の骨だけを残して死んだとのことです。
ちなみに参考までに戦闘機の射出座席から600ノット(ほぼマッハ1)で打ち出されるとあちこち骨折する可能性があるそうです。
ですので、養母が消し飛んだフィンの肩車走行はそれを軽く上回る速度でしょう(笑)
同書の話の中に、追跡者はマク・モーナ一族だと書かれています。
類推するに、「ケルト諸国の妖精信仰」の追跡者キネン・モウルとはコナン・マク・モーナのことでしょう。
さて、「ケルト諸国の妖精信仰」と「フィアナ:物語、詩及び伝承」は、一貫して”フィンが名を得た後の逃亡でフィンの母(養母)が死んでその脛(ラーガン)の骨が湖の名前の名前となったと”主張しています。
さらに前者はその骨とワーム(竜・大蛇)から水の怪物が生まれたと付け加えます。
「古老たちの語らい」ではフィンの姉妹スカースデルグが死に、ラーガン湖の源流であるスカースデルクの泉の名前の由来となりました。そして水の竜も登場します。
フィン・マックールがまだ駆け出しの若い時期であることも共通しているのではないかと私は考えています。
「古老たちの語らい」でフィンの最初のフィアナと呼ばれる戦士たちに言及されるのは、ラーガン湖の竜退治がフィンの長い人生の中の初期の出来事として考えられていたからではないでしょうか。
これらの話を構成する要素は非常によく似ています。
ところで「古老たちの語らい」では竜がどうなったのかは語らないのは、物語の意図が別にあったからのようにも思えます。つまりラーガン湖の竜という怪物退治はどちらかといえば副次的な要素で、その本質はアイルランドやウェールズなどのケルト語圏にみられる”爆発的な水の噴出”の伝説にあったのではないでしょうか。
(少しだけ竜退治から脱線します。)
では、フィン・マックールと爆発的な水の噴出をつなげるものはなんなのでしょうか。次に鍵となるかもしれない女神ボアンの爆発的な水の噴出の伝承を紹介します。
ボアンのディンシェンハス
ネフタンの妖精塚≪シイ・ネフタン≫はこの山の上の名前、
ラブラドの全く鋭い息子の墓、
そこから流れ出す穢れなき川、
その名は絶えず水を湛えるボアン。
我らの数えたところ、議論により確かめた15の名前が、ネフタンの妖精塚からアダムの楽園まで至るというこの川に与えられている。
セガシュは妖精塚での彼女の名前、どの土地でもそなたに歌われる。
その場から聖職者モフアの深淵までの彼女の名前がセガシュ川。
正しき聖職者モフアの泉からミデの広大な平原までが、ヌアザの妻の腕と脚という二つの高貴な名前。
良きミデの境から碧海に至るまでの彼女は大いなる銀のくびき、そしてフェドリミドの白い骨髄と呼ばれる。
そこから先、クアルンゲの半島までは荒波。
険しいクアルンゲから赤い剣のエオフの湖までが白いハシバミの木の川。
ネイ湖からはバン川が彼女の名前。
咎のないスコットランドでは彼女はルナン川。
あるいはその意味に従えばトラン川である。
十全なサクソンの土地ではセヴァーン川。
ローマの城郭ではテヴェレ川。
それから東方ではヨルダン川。
そして広大なユーフラテス川。
永遠の楽園のティグリス川、さまよう時間は長く彼女は東方にあり、楽園から再びこちらの妖精塚の小川に戻る。
ボアンは妖精塚から海壁までの彼女の普遍的で心地よい名前。
私はラブラドの息子の妻の水がどのような由来で名付けられたか知っている。
大胆なラブラドの息子ネフタン、彼の妻がボアンだと私は考えている。
彼のためにそこには秘密の泉があり、そこからあらゆる神秘的な邪悪が噴出した。
底を見通してしまった者はいなかったのだが、そうであれば彼の輝く両目は破裂してしまっただろう。
万が一左か右に避けていれば、彼は無傷で出てくることはなかっただろう。
だからこそネフタンと彼の酌取りを除いては誰も近づこうとしなかった。
フレシュクとラムとルアムが輝かしい偉業で知られる者たちの名である。
それからある日、白きボアンは喉が渇いてもいないのに、彼女の高貴なる矜持が高揚させたのか、その力を試しに泉に来た。
不注意にも彼女が泉を三周すると、三つの波がそこから噴出してそれによってボアンは死んだのだった。
手足に向かって波が起こり、柔らかく咲くようなその女性を傷つけた。
一つの波は足を、次の波は目を、三番目の波は片手を粉砕した。
彼女は(そのほうが彼女にとって良かったため)傷を避けて海に走って行ったので、誰も彼女の傷害を目にしなかっただろう。
彼女は自らの咎により命を落とした。
妖精塚から海まで(勢いよく)彼女の行く道全てに白く冷たい水が流れた。ゆえにそれはボイン川と呼ばれるのだ。
大いなる川の土手の胸元のボアンは偉大で善良なるオェングスの母だった。
彼女が産んだダグザの息子―輝かしい誉れ!
妖精塚の男でありながら。
あるいは、ボアンとは輝かしいグアレの山から出でる流水とこの妖精塚の川、二つの高貴な流れが合流した牛≪ボー≫と白い≪フィン≫のこと。
ダビラ、それは偉大で気高いネフタンの妻に属する忠実なる犬の名、高名なボアンの子犬、それは彼女が亡くなった時に追いかけていった。
それを海の流れは石だらけの岩山まで押し流した。
そしてそれの二つの部分を形成したので、そこから名付けられた。
入り江の青い水面の二つの石、それは広大なブレガの東に立っている。
その日から今日まで、クノック・ダビラは妖精塚の小犬にちなんでそう呼ばれている。
これは爆発的な水の噴出により女神ボアンが死に、ボイン川が形成されたという土地伝承≪ディンシェンハス≫です。
この女神ボアンの泉は直接的にそうと語られたわけではありませんが、智慧の鮭とハシバミの木の神話の泉と同じと見なされます。
そしてフィン・マックールに強く関係しているのが英知を授けるという智慧の鮭です。
まだ若いフィンが親指について智慧の鮭の脂を舐めて智慧をつけたのはボイン川のほとりフェックの深淵でのことでした。
爆発的な水の噴出とフィン・マックールの智慧の獲得は恐らくこの神話と関連しています。
ここで「フィアナ:物語、詩及び伝承」の伝承について時系列と事件を整理してみます。
「フィン」名前獲得
↓
・近親の女性の死
・湖の異変(竜・水の噴出・地名命名)
↓
ハシバミの木がある泉の智慧の鮭を獲得
「古老たちの語らい」のラーガン湖の竜伝承は時期を明言されていませんが、それでもフィンにとって最初のフィアナがいた初期の時期であることを考慮すると、時系列としては大きくずれていないはずです。
そしてボアンのディンシェンハスは、母神の死、水の噴出、神秘的な智慧が関係する神話です。
このようにラーガン湖の伝説はボアンのディンシェンハスとモチーフを共有しているのかもしれません。
最後に竜退治の伝承、ジョン・オダリーの収集したオシァン詩の手稿の「トルム山の狩猟」を見てみましょう。(ちなみにフィン歌集にもほぼ同じ内容の「トルム山の狩猟」が収録されています。)
そこでは様々な竜をフィンが退治したと伝わります。
トルム山の狩猟
狩りをしようと思い立ち、我ら赤ら顔の戦闘大隊、フィンのフィアナはトルム山からクアンの入り江にまで行進した。
我らは入り江に竜≪ピースト≫を見つけ―、益体もなく―、行く末に視線を投げれば、丘より大きなるその頭!
威容を誇る塚のようにその顎は広く開き、激しい怒りを潜ませる目の穴には百人の勇士(が映っていた)。
その最も恐るべき牙は森のいかなる木よりも長く、我らに近づく大蛇の耳は都市の門より巨大だった。
その後ろから突き立つ尾は八人の男よりも高く、尾の最も細い部分でさえ洪水で沈んだ森のオークの木よりも太かった!
それは軍勢を前にして、態勢を整え、激しく怒った。
この戦いに割り当てられたのはモーナの息子、そして間違いなく、彼の勇士と猟犬たち。
フィン「お前はアイルランドの竜ではない。見知らぬおぞましい者だ。この渓谷にどこからやってきたのか」
寛大で勇敢なフィンは尋ねた。
竜「ワシはギリシャよりこちらへ参り、進んで着いたのがクアンの入り江よ。
フィアナ騎士団に挑戦し、その軍勢を全滅させるためにのう。
ワシは全ての土地を屈服させ、軍勢は我が力の前に息絶えた。
ワシの挑戦の望みが貴様らから得られぬ限り、一片たりとて生かしてはおかぬぞ。
速やかに戦え、フィンとその偉大な軍勢よ。
波が横切った後、今ワシがそなたらで力試しをするまで。」
フィン「いさおしくおぞましくも我らに伝える心あらば、
我らがお前に武器を向ける前に父母の来歴を伝えるがよい。」
竜「ギリシャの不滅の怪物、その通り名を偽ることなくワシは貴様に教えてやろう。高名な岩のクロウ、彼は東方の海の岩に住む。
強大な力にしておぞましい外見の竜こそ非の打ちどころのない彼の妻。
彼女が破壊しなかった東方の都市はわずかばかり。
そしてワシはその子として生まれたのじゃ。
ワシはすべての国に悲劇をもたらした。
戦いの頂き≪アルド・ナ・ガス≫こそワシの真の名。
大いなる名声と腕前のフィンよ、そなたの軍勢や武具をワシは歯牙にもかけぬわ。
それが貴様がワシに要求した話じゃ。
剣と武具で音に聞こえしフィンよ、早くかかってこい、貴様の軍勢と武勇は強大であるがゆえに」
フィンは厳しい危機であるけれども命令を下し、フィアナたちは奴に撃ちかかった。
奴を撃退するために軍勢は前進し、彼らは奴によって囚われになることとなった。
その竜は我らの戦闘大隊を攻撃し、我らの長の多くが命を落とした。
戦いでの我らの損害は甚大であり、戦うことができなかった。
あの狩猟の記憶を記録に残そう、あの竜は力強く頑丈だった。
我らはあれに火や投げ矢や槍を雨のように投げつけた。
あれは我らを弱々しく悄然とさせた。
戦いによって我らはなんら名誉を得られなかった。
あれは鎧や武器に身を固めた英雄たちを飲み込んだのだ!
あれはフィンを内臓の中に丸呑みした。
アイルランドのフィアナたちは叫び声をあげた!
我らはしばらく助けもないままで、竜は大暴れした。
あれの体の両側に穴を開けたのは、邪まならざる心のフィン。
瞬く間に彼によって飛び出したのは、
あれに飲み込まれたフィアナの一人。
寛大なるフィンは、あの戦いで為して、あの時軍勢を救った。
彼は我々をその手の力強さと勝利の投げ矢の威力によって解放した。
フィアナたちは皆、戦いに参加した。
あれを打ち倒すのには大いに勇気が必要だった。
厳しい戦闘だったけれども彼らは戦い、とうとう奴の身体から魂が抜けて逝った。
フィンによって殺された全ての竜は数えきれない。
その成し遂げられた功業を語れる人間はいないのだ。
彼はクリン湖の竜を殺した。それはクウァルの息子によって上手く退治された。
そして戦いでは決して打ち倒すことのできなかったベン・エダルの巨大な竜も。
他のクリン湖の竜も、黄金のクウァルの息子によって殺された。
彼はネイ湖の竜を殺した。そしてスウォーイルの渓谷の怪物も。
アーン湖の青い竜は彼に殺された。
そしてリアサッハの獰猛な竜も。
彼は、勇敢な心だった竜と猫をアース・クリアフ(現在のダブリン)で殺した。
彼はレーン湖の悪魔≪フアス≫を殺した。その攻撃を仕掛ける手並みは素晴らしかった。
彼はダラムクリフの悪魔と、リー湖の悪魔と竜を殺した。
気高い精神のフィンは主要道路のリーゲの渓谷の悪魔を殺した。
アイルランドの渓谷ですべての竜は彼の鋭い刃の威力により全滅した。
アルウァの渓谷の悪魔と竜は強かったけれどもフィンが殺した。
彼は会いに行った全ての竜を土塁から追放した。
人々を不幸にしていたシャノン川の竜、喜ばしい理由は彼がラウァル湖の戦う竜を殺した。
―大いなる破壊―彼はグリン山の恐ろしい怪物を殺した。
イニーの渓谷の二匹の竜もまた彼の剣によって命を落とした。
メルゲ湖に竜がいたが勇敢な決闘でフィンの手にかかった。
そしてカーラ湖の巨大な竜と一緒にトルム湖の怪物も。
マスグ湖に竜がおり、それはアイルランドの人々を恐怖に陥れた。
いかなる者の手に負えなかったが、彼は勝利の剣によってそれを殺した。
ロイガレ湖に竜がいていつも火を燃やしていた。
あらゆる不実な手段を用いたにも関わらず、彼が武器で首を刎ねたのだった。
ドロヴァーシュの怪物に勇敢な行いを証明した。
そして彼らの戦いは壮絶だったけれど、フィンはマク・アン・ルインでクレアの山の女道化≪アミド≫を殺した。
ラーガン湖の怪物は暴れまわったけれどフィアナ騎士団のフィンによって命を落とした。
奴が軍勢に与えた損害は最後の審判の日まで記録されるべきではない。
バン川の歌う竜は激しく戦うフィンの手によって殺された。
奴らの力で我らが被った損害は甚大なれども、とうとう奴らはフィンによって打ちのめされたのだ。
※ピースト/Piast
ビーストと同語源。獣も意味するが、入江や湖では竜・大蛇を意味する。
※フアス/Fuath
幽霊とあるがバグベアのような悪魔とのことなので、悪魔とした。
※アミド/Aimid
直訳すれば道化だが、語源の"ammait"はウィクショナリーによれば魔女、狂った女の意味であるので女道化とした。しかし単なる道化ではなく、ゲルト/geiltのような人の姿をした怪異だろう。
フィン・マックール大活躍の竜退治の物語、いかがでしょうか。
竜以外にも猫とか悪魔とか女道化とか、いっぱい退治しています。
さて「古老たちの語らい」で語られなかったラーガン湖の竜の結末ですが、こちらの「トルム山の狩猟」ではフィン・マックールによって討伐されたとのことです。
しかし「トルム山の狩猟」でラーガン湖の竜は”軍勢に与えた損害は最後の審判の日まで記録されるべきではない”と言われるほどの損害を与えています。
そしてラーガン湖での損害は「フィン歌集」24歌の”フィアナへの哀悼”では3000名にのぼるとされています。
フィアナへの哀悼はフィアナが大損害を受けた戦いについて言及するのですが、そこでは真っ先にラーガン湖が挙がっています。
ガヴラの戦いの損害が3000名なので、いかにラーガン湖の竜が恐ろしく強かったのか推し量れるでしょう。
出典
Campbell, J. F. Popular Tales of the West Highlands
Campbell, Archibald, Lord, 1846-1913.Waifs and strays of Celtic tradition:
Argyllshire series. v. 4.
Evans-Wentz,W. Y. The Fairy-Faith in Celtic Countries
Gwynn, Edward (ed.), "The Metrical Dindshenchas", Royal Irish Academy Todd Lecture Series, Hodges, Figgis, & Co., Dublin ; Williams and Norgate, London
Transactions of the Ossianic society for the year 1854. vol.2
[ed.] [tr.] MacNeill, Eoin [ed.], Duanaire Finn: The book of the lays of Fionn, 3 vols, vol. 1: Irish text, with translation into English, Irish Texts Society 7, London: Irish Texts Society, 1908.