シー・ナ・マン・フィンの狩猟とフィンの死
1
フィンと勇猛なる赤き武器を携えたアイルランドのフィアナ騎士団は、シー・ナ・マン・フィンとシー・アル・フェヴィンとフェヴィンの平野の東部及びルアフラ・デガ山地にかけて広大な狩猟を行った。フィアナ騎士団の隊長たちや部族の貴族たちは騎士団長とともに狩猟を開催しに行った。それはバスクナ、モーナ、ドゥブディスリー、ネヴァン、ロナン、スモルの子弟やドゥブダボレンの一族やその他全てのフィアナ騎士団の者たちだった。
2
狩猟の準備が整うと、彼らの狩りは近くの土地の森林や荒れ地や谷の斜面、穏やかで明るい平野、そして鬱蒼とした森林や広く大きな茂みのオークの木々に広がって行った。いつもと同じように獲物が狩りでたくさん獲れるように、アイルランドのフィアナ騎士団の者たちはそれぞれ分かれて、狩りに適した丘や投擲を行える場所や危険な裂け目に行った。しかしその日はいつもと勝手が違い、狩猟が不首尾に終わって、その日の彼らは野豚も兎も狼もアナグマも牡鹿も牝鹿も子鹿も、一匹たりとてその血で手を汚すことができなかったのである。その夜、彼らは意気消沈して過ごし、夜が明けて朝になると立ち上がった。そして藍青色に流れるシャノン川に沿って、高くそびえたつオーティ山地やアダー・マクウモルの古き平野に狩りを広げた。しかしその日もまた運に恵まれなかったのか、初日と同様に狩りは不首尾に終わった。
3
しかし三日目の朝に彼らは執拗で足の速い猟犬の群れをそろえて、セスギン・ナ・ナイと近隣の地区に放った。しかしその日もそれまでと同じように手ごたえがなかった。その場にいたフィンと並み居るフィアナ騎士団の驚きは並大抵ではなかった。それから彼らは三日間の徒労となった旅路を終えてセスギン・ナ・ナイの山腹の丘に集ろうと、フィンが座った。大小の分隊に分かれて広く散らばって行ったフィアナ騎士団の軍勢は三々五々、続々とひっきりなしに彼の元に集まって来た。それからフィアナ騎士団の中にフィンに訊ねる者があった。
「今我々がいるこの場所は墓所に眠る戦士は誰なのですか、フィン」
彼が訊ねるとフィンは答えた。
「私は真実を知っている。これはファルヴェ・フィンマイセフの墓だ。私の家臣の勇敢な隊長だった。彼は七年前の今日、猪に殺されたのだ。荒野の大猪に。そしてその猪は私の猟犬五十匹と戦士五十人を彼と共にその日に殺した。この墓に眠るのはフィアナ騎士団の戦いがあった時の勇敢な戦士だ」
そしてフィンはファルヴェを讃える詩を歌った。
”ファルヴェの墓、その戦士はセスギン・ナ・ナイの山腹に埋葬されるまで、彼は近くとも遠くともフィアナ騎士団に応じた。
かつて五十匹の猟犬と五十人が彼と一緒に行った。
逃げ出した一匹の猟犬と一人を除いて。
彼らは獰猛でがっしりとした体躯の猪の牙で死んだ。荒野の大猪は猟犬も人も殺した。
彼は暗い褐色の鋭い牙を持った猪を見つけて、戦いを挑もうとした。
それは猟犬も人も打ち倒した。その戦いでこの墓が掘られた。
外国人たちを殺戮した日、ファルヴェは私にとってかけがえのない人だった。
困難や挑戦に応えたものだ、その彼はこの墓に眠っている。”
フィンは言った。
「お前たち、フィアナ騎士団よ。狩猟の獲物が得られないのなら、我々は翌朝にその猪を狩ろう。これまでの狩りが失敗したのはこのためだったのだ。なぜならその豚に出会うことは既にわかっていた。我らで汚名挽回しようではないか。」
4
その夜、フィンは部下を引き連れて、自らの仲間で高貴な戦士であるマレン・マクミーナの砦に行った。彼らの期待に対して、マレンはフィンとアイルランドのフィアナ騎士団のために素晴らしい宴を準備した。宴会場には真新しい藁が敷かれており、小机が並べられていた。そして大勢の者たちが職能や学位、身分や富、名声に応じて宴席についた。食卓にはサテンや絹、綾織り、錦、鮮やかな色合いの布などの輝かしいテーブルクロスがかけられており、様々な豪華な料理が供された。彼らは水晶や白銀の浮彫が入ったゴブレットや宝石を象嵌した美しい宝飾の角杯を掲げた。そしてフィン自らも自分の角杯を掲げた。それはミズレハンという名前の角杯で、イアラタハとアーフンゲフという名前の二人の従者に運ばせていた。この二人の特権には価値があった。それというのは、彼らのうちの一人が注いで渡したその角杯で一杯を飲み干した者はその者に対して同等の金や銀を渡すことになっていたことが理由で彼らは富豪になったのである。そしてその夜、互いの憎悪と怒りが爆発したので彼らはフィアナ騎士団の目の前で殺し合った。
5
そのことがフィンの心に重くのしかかって、彼は飲み食いもしないで心が晴れることもなく長い間黙り込んでいた。そこでマレン・マクミーナは言った。
「フィアナ騎士団長、あの二人が殺し合ったからといって黙って悲しまないでください。なぜなら不正に得た富が原因となる以前の問題に、大勢の勇敢な戦士は命を落とすのですから」
フィンは口を開いた。
「私は二人のことを悔やんでいる。しかし、彼らの死よりも、死を招いた物のことが心配だ。角杯を持ってこさせなさい」
そのようにフィンが言うと、それが彼のところにもたらされた。
「戦士たちよ、私にこの角杯を授けたのは誰か、どこでこれを私が手に入れたのかわかるか」
フィンの問いに彼らは答えた。
「騎士団長、我々にはわかりませぬ」
「教えてあげよう」
フィンはこのように言った。
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「お前たちと私が森や荒野で狩りをしてたくさんの獲物をとっていた、ある日のことだ。私は自らが受け持つ狩場の丘に居て、そこには二人の戦士、キールタとオシーンが付き従っていた。それというのも、私がいる狩場ではフィアナ騎士団の者が二人組で方々を見回りながら私を警護していたのだ。その日はキールタとオシーンが私の警護役に割り当てられていた。そして私たちは周りのあちこちから聴こえる戦士たちの騒ぐ声や、群衆の喧騒、勢子たちの声、猟犬たちの吼える声や狩人たちの口笛、戦士たちが猟犬に指図する声や少年たちの叫び声などの狩猟の騒ぎに耳を傾けていた。私たちがそこにいたのはそう長いことではなく、暗く黒い魔法の霧が私の周りに立ち込めて、三人とも他の者の顔を見ることもできなくなった。そして私たちは丘を去り、近くにあった森を手さぐりに抜けて行き、滝のある河口と川を見つけた。私たちは全ての者と猟犬のためにまだらなヒレの鮭を川で獲った。私たちは掘っ立て小屋を建てて、大きな火を焚くといっぱいに鮭を食べた。」
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「それから私たちは幽玄で雅な妖精の音楽が私たちの近くで奏でられるのが聞こえた。キールタはオシーンに話しかけた。
『起きろ、私たちで妖精の音楽に欺かれないように守るぞ』」
フィンは物語をつづけた。
「そして、そのようにして夜を過ごした。フィアナ騎士団は総出で近隣の領域を探していた。明くる早朝に、私たちは元にいた狩場の丘に行くと、暗く不格好な巨人が目の前の丘に座っているのを見かけた。彼は私たちの前に立って挨拶をした。そして胸元に手を入れて二本の金管を取り出して心地よい音楽を奏でてくれた。それは傷ついた男女や大勢の病人、負傷した戦士や重傷を負った英雄は素晴らしい音楽で眠ることが出来るほどだった。音楽が終わると彼は衣装で隠れたところから金で装飾された角杯を取り出して私の手に渡した。それには飲むと心地よくなりうっとりするような蜂蜜酒が満杯になっていた。私はそれを一口飲むとオシーンに手渡した。彼はそれを飲むとキールタの手に渡し、彼もまた飲んだのだった。そしてキールタはその角杯を巨人の手に返した。」
8
「角杯はこのようなものだった。つまり、鋲がどれも精妙に配置された美しく細工された黄金の美しい五通りの列があって、列の間の空間には二人分に十分な飲み物が入っていた。そして私たちは楽しくしていると、勇猛で力強く誇り高い大勢の一団が我々のいる山のほうに来るのが見えた。その背の高い巨人は私に訊ねた。
「向こうに見える大勢の一団はどこの誰の手の者だ」
フィンは言った。l
「あそこのいるのはこの世の誰からも侮蔑されることのない男だ」
巨人はさらに訊ねた。
「向こうにいる別の一団は誰の手の者だ。彼の手の者は三百人(?)以上の精鋭[……][判読不能]。金髪で細くおさげ髪を作っていて[……][判読不能][……]、隻眼だ。そして[……][判読不能]」
フィンは答えた。
「彼はコノート地方のフィアナの隊長だ。友人には誠実であり、[……][判読不能][……]には優しく親切であり、戦いのときには勇猛かつ堅忍不抜、略奪者には手ごわい。一騎打ちだろうが戦争だろうが無敵の手並み。まさしくゴル・マクモーナ。偉大なモーナの息子がネヴァン、ネヴァンの子がコーマック、コーマックの子がモーナ。その息子だ。」
巨人は言った。
「なるほど。では向こうにいる闘争の恐怖を伴っている五十人以上の意気軒高な手練れの戦士たちからなる別の一団は誰の手の者か」
「あの部隊の隊長は[……][判読不能][……]で、明朗で、腕達者、そして快活で[……][判読不能]、まさしく赤き手のマクルーイー。」
巨人は言った。
「あの誇り高く、際立っている色とりどりの服装をした大勢の部隊は、[……][判読不能][……]。[……][判読不能][……]男らしく美しく荒々しく、技量に優れ、大胆不敵、獅子の如き強さと強奪者の如き獰猛さ、強者三千人以上[……][判読不能][……]。」
フィンは答えた。
「教えるのは難しいことではない。彼は海[……][判読不能][……]。そして獰猛さでは獅子、荒々しさでは熊の如く、攻撃の勢いは津波の如く、やんちゃぶりはまるで子熊。万夫不倒の勇者にして戦争でも一騎討でも無敵の者。その部隊長は勇敢で強いオスカー・マクオシーンだ。」
9
「勇猛で戦に手慣れたオスカーの供周りの者たちと猟犬で山は東西から満ち満ちた。」
フィンは話し終えるとこれらの詩を作った。
即応の高貴な戦士マクモーナ、血塗れの赤き刃のゴル、
朝の祈祷時から日が西に沈むまで誰も彼に抗うことができない。
向こうの山のマクレヘと西から彼を取り囲む部下のフィアナ騎士たち――彼を打つ者などありえそうもないことだが、彼の武勇は比類ない。
彼らの隣にいるのがマクルーイ―。百人の戦士が彼に立ち向かったとしても、対面して打ち負かさるまではあっという間のこと。
彼らの後ろから来るオスカーが見えた。彼はよく争いの渦中にいるが、ひとたび荒れると彼の魂は海よりも深く高まる。
彼らは山の東西をすっかり斑点模様に染め上げ、私の孫のオスカーの周りには屈強な戦士の一団で埋め尽くされている。
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フィンは話を続けた。
「さて、ゴルが私たちのところに来た。そして巨人は角杯をゴルの手に渡すと、彼がそれを飲んだ。それから勇敢なアイルランドのフィアナ騎士団が大猟の獲物を赤い積荷して持ってきて、そのたびに彼らは狩猟を誇らしげに語り、フィアナ騎士団の隊長たちは狩場の丘で私の隣に腰を下ろした。
そして巨人は全てのフィアナ騎士団の隊長になみなみと注いだその角杯を渡して、彼らもまた楽しく愉快になった。陽の光がそこに差すとその巨人の姿形は美しく輝かしくなり、彼は光を放って美しくなって、太陽が昇ってから沈むまでは美しさ、大きさと[……][判読不能][……]、均整、明朗さ、知恵と弁舌[……][判読不能][……]において彼に比肩する者はいなかった。そして彼は上級王の威厳を漂わせており、姿には少年のような魅力があった。
ゴルは言った。
「さて、フィアナ騎士団長。あなたの近くにいるあの美しくも様々な姿を披露する見慣れぬ戦士はどなたでしょう」
フィンは答えた。
「ふむ、私も知らないのだ。彼自身のことを私に完全に打ち明けてくれているわけではないから」
すると巨人の戦士は口を開いた。
「では私の名前を教えましょう。私はフェヴィンの妖精の丘のクロナーナハと申します。
[……][判読不能][……]、フィンは物語を続けた。
「[……][判読不能][……]全アイルランド[……][判読不能]、そして彼は私と一緒に一年過ごして私にその角杯をくれたのだ」
「五つの輪[……][判読不能][……]、そしてそこに水を満たせば、甘く美味しい蜂蜜酒に変わり、[……][判読不能][……]、その角杯を運ぶ者が[……]ときに[……][判読不能][……]彼の同僚は[……]そのために[……][判読不能][……]角杯の話と私の悲しみの原因[……]」
フィンはこのように話して詩を作った。
鋲の五つの列がフィンの角杯にあり、それを渡してくれたのは善きものの手、彼はあらゆる点において完全な人であり、それらの五つを作ったのは彼の手だった。
公正な平和を待たなかったことは、その者たちがした悪いことだった。
さらに悪いことにお互いに同僚を殺し合った。
私たちがここでフェヴィンの妖精の丘のクロナーナハを包み隠さず見た。
その者の歌はとても甘美であり、五通りの鋲の角杯を持って来たのが彼だった。
(注:クロナーナハ=鼻歌など歌う者の意味)
11
そこでフィンはとても悲しくなって角杯を手放し、それきり話をやめてしまった。すると宴会場では浮かれ騒ぎが始まって従僕や給仕が角杯や杯といった酒器を持って立ち上がり、彼らはすっかり陽気に喜んで、誇り高いフィアナ騎士団は気さくに仲良く話し合った。
しかし彼らは翌朝早くに起床すると、既に述べたように、荒野の大猪を狩りに行った。そしてアイルランドのフィアナ騎士団は投擲を行える場所と危険な裂け目の間に身を屈めて、猪狩りに備えた。声の聞こえが良く、脚が速い彼らの猟犬は頭を地べたに這わせるように伏せていたが、森林や荒野や渓谷のあちらこちらに解き放たれた。そして彼らは平らで広い場所には狩りの罠を仕掛けた。彼らは血に飢えた猪を追い立てたので、猟犬の群れやフィアナ騎士団の者たちはみなその猪を見つけた。その巨大な猪の姿は死を恐れるに足るものであり、蒼く黒く、荒々しい牙を持ち、[……][判読不能][……]、灰色で恐ろしく、耳も尻尾も睾丸もなく、大きな顔から長く恐ろしい歯が突き出していた。それから、あらゆる方向から猟犬たちが先を争うように一斉に走り出し、戦士たちが立ち向かっていった。そしてその[……][判読不能][……]赤い口の獣の[……][判読不能][……]は、その場でフィアナ騎士団の者たちと猟犬を殺戮した。スコーラン・マクスカンダルの二人の息子たち、ディルグスとディアングスは戦う機会と見て戦いを挑み、激しく勇敢に英雄らしく猪と戦ったが、二人とも戦いのその場で命を落とした。シー・イン・ハーンの素早い腕のルーイーがやってくるとそこで戦ったが彼もまたそこで命を落とした。ウーニャ・イルガラハの息子のフェルタイヒムもまたやってきて猪と戦ったが、戦いの場で命を落とした。フィンはそれらの貴族たちが猪に殺されるのを聞いて、オシーンとオスカーとキールタとフィアナ騎士団の貴族たちとともに来て、血に飢えた猪を見た。
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血気盛んで勇敢なオスカー・マクオシーンは大勢の戦士や猟犬が猪に殺されたのを見て、フィアナ騎士団の高貴な隊長や猟犬や人員の骨が凶悪な猪に砕かれるのを目の当たりにして、憤怒の激情が湧きあがり、高貴な戦士の魂に気高くおぞましく見たこともないような災いの心が宿った。その王族の戦士は、誰がその邪悪なる行いに復讐しようとも、他ならぬ彼自身がやらねば名誉あることではないのだと思った。猪が軍勢に引き起こした恐怖は途方もないもので、オスカーもまた大いに恐れた。しかし彼はそれを一度見てしまえば逃げることなどできはしなかったのである。そしてオスカーがその場に進んで来た時、赤い口をした獣に向かって広い道ができた。それはまるで凶暴な熊のようであり、破壊をもたらす幽霊のようであり、闘争と破滅を寄せ集めた何かだった。猪は歯軋りするとその口と荒々しく研ぎ澄まされた顎から血のように赤くサフランのような黄色の泡飛沫が高貴なる戦士に向かって散った。そしてその背中のたてがみを高く持ち上げると、その粗い恐ろしい剛毛の一本一本に丸い野リンゴがくっついているように見えた。そしてオスカーは、鋭くて剛い戦闘用の槍を手に持って振り回し、猪に向かってまっすぐに投げた。その投擲の狙いは違わず、槍が豚の胸の真中に飛んでいき突き刺さるかのように思えた。しかし槍が岩か角に当たったかのように空に向かって弾き飛ばされた。オスカーは大股の飛びで近寄って剣で激しく打ち据えたが、剣が根元から折れた。猪はオスカーに向かって突進すると盾が砕けてオスカーは荒々しいたてがみを掴んで止めた。すると猪は巨大な後ろ脚で立ち上がってその王族の戦士オスカーにのしかかって押しつぶそうとした。オスカーは太い腕を猪の下から伸ばすと、猪を勢いよく捻って、たてがみのある背中を地面に押し付けた。オスカーは膝を下の方に突き立てるようにして上に乗って両手で上顎と下顎を掴むと、フィアナ騎士団の戦士たちが中から内臓や腸を引っ張り出した。このようにして巨大な猪はオスカーとの戦いで敗れて死んだ。そして猪によって殺されたフィアナ騎士団の隊長や一般の兵士たちの墓がそこに掘られた。
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フィンがやってきてそれらの墓の上に立つと詩を歌った。
今ここはあるのはフェルタイヒムの墓
彼は多くの者に哀しみを与えた人――
驚くような話であり、痛ましい行為だった―
大猪に殺された。
オスカーに倒されるまで、あの猪はフェルタイヒムを殺し、私たちの大勢の貴族たちを殺した。
英雄の狩りであり、素早い戦利品だった。強大な猪、やつは他に私たちの仲間を三人殺した。
ディルグス、ディアングス、ルーイー。さあ、彼らの墓を掘れ!
凶暴な猪、やつは高貴なるオスカーに倒された。彼とやつの戦いに公平さも道理もなく、荒地がそれの死に場所となった。
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それからのフィンはクロナーナハがした予言を恐れてアイルランドを離れる決断をするか、深く考えた。なぜならその年にフィアナ騎士団が虐殺され、彼自身も死ぬのではないかと恐れたからである。
そして彼は決断を下し、アイルランドを離れて海を渡って東方へ行き、そこでフィアナ騎士団を指導することにした(それというのも、彼の王権は東方でもここアイルランドと同じくらい変わりなかったからである)。そのためその年に起こる問題と彼にされた予言の問題はさらに先のことになるかもしれなかった。そして彼は海を渡って東方に行くという決定をブルーのアンガスと彼の臣下の貴族たち、そして全てのフィアナ騎士団に伝えて詩を歌った。
潮騒の穏やかな海を渡ろう、フィンのフィアナ騎士団よ、ターラを出発しよう。
速やかな助けを私は見つけない限り、この美しいアイルランドを離れるべきなのだ。
ルーネの民にとって戦いは運命であり、嘆くことではないが、涙を流す理由となる。
私が正しい助けを見つけない限り、ここで私のフィアナ騎士団と別れるべきなのだ。
親愛のために私たちを助けようとアンガス・マックオグは来るだろう。
旅に出る前にブルーに立ち寄るのは簡単なことだ。
さあ行こう。
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しかしそれからフィアナ騎士団の貴族たちは相談し合い、その年はフィンに海を渡らせないという結論に達した。彼らは言った。
「フィアナ騎士団長、あなたは海を渡るべきではない。なぜなら狩りで獲物が獲れなかったとしても、あなたを年の瀬まで支えるのに十分なフィアナ騎士団の貴族や地主がここにいるのだから。年の終わりまでの夜毎にあなたのために新鮮なごちそうを用意させましょう。」
フィアナ騎士団はこの決定を確認するとフィンを誰の家でも宴に招待できるように準備をするために散らばって各々の砦や家屋敷に帰って行った。そしてその夜にフィンの接待の当番となったのはウーニャ・イルガラハの息子のフェルタイであり、彼はコナレ・ムルセヴネとターラのルーネの民のフィアナ騎士の隊長だった。そしてフェルタイの妻はゴル・マクモーナの娘であるユフナ・アルドモールだった。そして彼には際立って文武両道で冷静沈着な息子がいて、彼の母はユフナだったが、彼の名前はフェルリーといった。フェルリーは体格や風格、戦士の才能や強さ、英雄の資質、寛大さと勇敢さ、活力、胆力、騎士道や身体の美しさにおいて祖父であるゴルに似ていた。
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だがしかし、フェルリーはフィンとその随行者の数が少ないのを見て、騙して謀反しようと画策した。なぜなら、一緒にいたフィンの部下というのはノルウェーの王子ケーダハ・キアハとサルモールの息子のドゥブの息子であるファーナルの民の王子、素早い攻撃のライリーであり、彼らはそれぞれ五百人の戦士を引き連れていたのである。彼らはちょうどフィンに会うために海を渡って来たところであり、その夜フィンが彼らの名誉のために招待していた。そしてフィンの息子のフェーランの息子である赤い手足のアイドと、モインモイから来た三人のクーと他の五百人の戦士を除いて、フィンは自分の一族といつもの護衛を連れてきていなかったので、フィンの部隊は全部で五千人しかいなかった。
そしてフェルリーは、同じマクモーナ一族の、黒膝のガラドの息子のアイドの息子にあたるエーウェル・グルングラスに謀反の計画を打ち明けた。エーウェルは言った。
「そいつは強引だがおあつらえ向きな計画だな。フィンは私たちの父や祖父、そして偉大なるゴル・マクモーナを殺したのだから不倶戴天の敵というわけだ」
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彼らは謀反によって部下と一緒にフィンを殺害する決心をした。そのような決心をした者たちは、フェルタイの息子のフェルリー、ガラドの息子のアイドの子であるエーウェル・グルングラス、そしてミース地方のルーネの民のウルグリウの五人の息子たちと、ファーニーの平原の出身の三人のタイブレナハたちだった。彼らはフィンと彼の部下を殺害することを誓い、謀反の算段を立てた。フィンの部下は猟犬や小姓を除くとわずかに五千人だったので、分散させてフィンと一緒にいる部隊を小規模にしておくつもりなのである。そして彼らは計画を立てた。フィンが部下を集めているフェルタイの砦に恐ろしい男たちが不遜にも襲いに来て、それはフィンの部下がフェルタイの部下を殺戮しているのだと吹聴することで、噂話はフィンを殺すための謀反と総攻撃の始まりになるのだ。
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フィンが部下を集めた時に、フェルタイの砦に選り抜きの垂れ幕が懸けられ、真新しいイグサが敷き詰められ、フィンとフェルタイ、そして数人の王子や貴公子たちの前で大きな篝火が焚かれて、宴会場が彼のために用意された。フィンは部下と一緒に宴会を楽しむために座った時に、謀反人たちが武装して、勇士たちが斑点のある楯を背負って宴会場に向かってくるのが見えた。その者どもの血なまぐさい暗殺の意図を見抜いたフィンは彼らが何者であるか悟って、宴会の進行を止めて、宴会場に押し入ろうとする敵の者どもを見つめていた。その時のフィンの装いは次のようなものだった。つまり胸元が広く作られている綿詰めされた胴鎧と、二十七層の蝋引きされて引き締まり板のようになっている布鎧を着て戦いに備えていた。
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彼らがそこにいると、しばらくして怒声と叫び声が聞こえ、恐ろしい不遜な男たちが叫びながら貴族たちが逗留する砦に向かってきた。そして彼らはフィンとフィアナ騎士団の者たちがその土地の牛や農民を襲って殺していると言った。
「このような突然の襲撃は我々の望むところではない」
フェルリーが言うと、フィンが応えた。
「いや大丈夫だ。どのような損害でも適切に回復できるように、私が牛一頭につき二頭、羊一頭につき二頭を保証しよう」
フェルリーが言った。
「そのようなことをするためにお前たちは来たのではあるまい。俺の祖父たちを殺したように俺たちを殺すのだろう」
そう言うや否や、フェルリーは突然狂ったようにフィンに襲い掛かった。しかしそれで不意打ちとはいかなかった。というのもフィンとその部下は怒って屈強に勇敢に立ち向かい、宴会場の真中で男らしく勇敢に彼らと激しく小競り合いを行ったのである。そしてフェルタイは身を呈して立ちはだかりフィンを守っていた。そして勇士たちは二十七人が宴会場の床に倒れ込むまで互いを顧みようとはしなかった。
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それからゴル・マクモーナの娘であるユフナ・アルドモールは大勢の喧騒と、互いに斬り合う戦士たちの雄たけびを聞いて宴会場にやってくるとチェック柄の頭巾をひっつかんで金髪を振り乱し、胸をはだけて言った。
「息子よ、フィアナ騎士団の主君フィンを裏切っては、名誉は滅び、戦士の面目が保てませぬ。そして叱責され、幸運が去るでしょう。すぐに宴会場を出てゆきなさい、息子よ」
するとフェルリーは母に対して宴会場を出た。そして出て行きながら彼は言った。
「明日、あなたに戦いを挑むぞ、フィンよ」
フィンは答えた。
「その挑戦を受けてたとう。同じ数であればそなたに戦いで後れを取ることはないのだから」
その夜フィンは部下のフィアナ騎士たちとともに心ゆくまで陽気になって歓待を受けた。そしてフィンは言った。
「今夜、フェルリーが私に不平等な戦いを押し付けたのは私の騎士道に反する。公平な戦いを挑もうという者が誰もいなくなる時代が来るのだろう」
こう言って彼は詩を歌った。
フェルリー、
いつかその時が来るまで遅かれ早かれ、烈しい人が来る時、彼はお前のような者には屈しないだろう。
青い鉄の武器を携えた異国人の時代に彼は倒れるだろう。私からアイルランドを奪えず、北と南で敗走する。
異国人たちが虐殺されるその時が来るだろう。
いつかその時が来るまで遅かれ早かれ、彼の子孫を打倒するのは誰であっても無意味なことだ。
私はフィン。
お前の酒は美味い、だから飲もう。
お前は公平な戦いを挑まなかったから、ボイン川が死に場所になるだろう、フェルリー。
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歌い終えるとフィンは言った。
「戦士たちよ、私はフェルリーが私たちに対して因縁を思い出して話した言葉を危惧している。クロンウォーンの戦いにでガラド・マクモーナがフィアナ騎士団を切り崩したので、彼らは勇士の沸騰する憤怒のため立ち向かえなかった。そしてそのフィアナ騎士によって熟練の戦士が危機に陥るのを実際に見たのだ」
フィンは言い終えるとこの詩を歌った。
ゴルの娘、ユフナ・アルドモール、細腕のフェルリーの母親。
かしずく者は多い。その息子はゴルに似ている。
欠点のないフェルタイの息子フェルリー、
歴戦の手練れエーウェル、
私の二人の養子は私に殺されるだろう。
彼らには私に対する道義はないように思う。
昔、私はガラドを見た。
彼はそれが流れていようとも湖を吸い込んでいた。
彼はフィアナ騎士団に討たれた日に、嗚呼、嗚呼と叫んだ。
ゴルは楯を砕いていた。
クロンウォーンの戦いで[……]血を流した貴族がいた。
彼の手と怒りが沸き立った。
22
それからウーニャ・イルガラハの息子フェルタイがフィンのいる屋敷に来てフィンの隣に座り挨拶をして酒を勧めて歓待して言った。
「フィアナ騎士団長、あなたには大勢の軍がいないがために明日の戦いを告げられました」
するとフィンは答えた。
「そのようなことはない。ファーナルの民の王子、素早い攻撃のライリーがいる。彼はこの戦いで三百人の兵の相手を私から引き受けてくれるだろう。そして私と一緒にいるノルウェーの王子ケーダハ・キアハは私とフィアナ騎士団に対して兄弟たちの復讐をするために来たのだが、フィアナ騎士団の者たちや猟犬を見て、意気投合して襲撃と略奪をする考えを捨て去り、私と一緒にいるのだ。彼もこの戦いで三百人の武装した兵の相手を私から引き受けてくれるだろう。そしてフェルタイよ、他にも戦いを熱望し、争いの中で機敏に動き、疲れ知らずの力を持ち、攻勢にあって激怒して、猛々しく功を挙げる大胆な戦士が私のそばに大勢いるのだ」
フィンはこう言って詩を詠んだ。
外套のマクドゥブ・マクサールモール、素早い攻撃のライリー、彼らは三百人の勇士を殺すだろう、この予言は外れない。
歴戦のケーダハ・キアハ、ここにノルウェーの王子がいる。
彼は猛々しく赤き剱の戦士からなる三百人の軍勢を倒すだろう。
皆が戦いのために立ち上がるとき、フィアンに敵対する者は、災いなるかな。
彼らは厳しい戦いを拒否せず、胸算用もなく一斉に立ち上がる。
翌朝、ルーネの民が戦いに来るとき、楯と刃と腕前のせいで、母親は息子を失うだろう。
23
その夜、彼らは翌朝に指定された戦いについて議論した。そして翌日の早朝になってフィンは起床すると伝令をやって部下を召集すると、彼らはあらゆる方向から逞しく勇敢に誇らしげに応えた。
フィンは五千人の戦士を連れてボイン川南岸のアース・ブレアの浅瀬に行き、浅瀬の中で多くの楯や剣や兜を装備して戦闘態勢を整えた。
24
フェルタイ・マクウーニャ・イルガラハとフェルリー・マクフェルタイは軍勢を召集して立派で勇敢な軍の大部隊を一ヵ所に集めると彼らは三千人もの武装した戦士となった。そして彼らはアース・ブレアの浅瀬に来た。彼らは浅瀬の中で対面した敵の少なさ※を見ると、そのことに不満を漏らして、敢えて戦闘用の武装を軽い防具や重い武器に取り換えた。そして戦いの軸となる部隊の陣頭に立った貴族の面々は次の通りだった。すなわち、フェルタイ・マクウーニャ・イルガラハと、フェルリー・マクフェルタイ、エーウェル・グルングラス・マクアイド・マクガラド・マクモーナ、そして古きターラの民であるウルグリウの五人の息子たち、ファーニーの三人のタイブレナハたち、そしてターラのルーネの民たちである。
25
さて男らしく力強く勇猛果敢なフィアナ騎士団の君主にして、多数の軍勢を従える血気盛んな英雄であるマックールは彼自身に相対する軍列を見て言った。
「あの者たちは意気盛んにも我々に戦いを挑もうとしているようだ。我が使者であるビルガドよ、行ってあの者たちに声を掛けて待遇について申し出るのだ」
ビルガドは訊ねた。
「どのような待遇でしょうか」
フィンは答えた。
「彼らの領土や富、所領は私が与えたものだ。そしてもし彼らが今私に反逆しに来ないのなら同じだけのものを彼らに与えよう。それに彼らは私の養子なのだと、思いなおさせなさい」
26
それから女使者ビルガドはその貴族たちがいる場所に行って、それらのことを話した。するとフェルタイは言った。
「その待遇を受け入れることは適正である。なぜならフィンはフェルリー、お前に親愛の情を抱いておるからだ。お前はフィンの屋敷にいる十二人の家臣の一人であるし、常に彼の筆頭の相談役であり、飲み物を最後に受け取る主役であり、そして彼の養子なのだ。」
フェルリーは言った。
「彼から友好の飲み物を受け取らず、彼の屋敷に入ることも決してないと誓う」
フェルタイは言った。
「それは悪しき通告というものだ。なぜならフィンは高貴で男らしく素晴らしい公子だ。彼は麾下のフィアナ騎士団と共に勇敢であり戦う準備ができている。そして私は戦いの中でフィンを見かけたが、大軍を殺戮する素早さと気迫、激烈さ、大胆さ、恐ろしさ、英雄らしさにおいて彼に比肩する者はいなかったのだから。」
それから彼は詩を吟じた。
フェルタイ
「もしも正気であるのならフィアナ騎士団に戦いを挑む者は悲痛だ。彼らの行いは恐ろしい。
フィンの側に仕え、彼の屋敷に入って従順にするほうが良かったのだ」
フェルリー
「私はフィンのところには行かない。彼とは戦いの場で会うべきだ。そして彼に仕えることも、彼の屋敷に行って服従することもするべきではないのだ」
フェルタイ
「フィンは戦い[……]切り倒すことに巧みだ。あらゆる方向を打ち破る腕は彼のもの。輝かしい王者と戦うものは誰であれ、悲痛だと私は思う」
27
「それは悪しき通告というものだ、フィンに戦いを挑むとは。彼の高貴さと恐ろしさと気迫ゆえに」
フェルタイが言うとフェルリーも言った。
「全くそのようなことはない。我々は戦い以外のものを受け取らない。なぜならあそこの老いぼれた戦士は戦いが始まった時の準備も勇気もないために我々に立ち向かわないだろうから」
そして女使者は戻ってそれらの言葉をフィンに伝えた。
「我らの軍勢が到着していたらそれらの待遇を申し出なかったと誓おう。使者よ、もう一度行って彼らに追加の待遇を申し出るのだ」
使者は訊ねた。
「追加はどのような待遇でしょうか」
「法廷が裁定する額面と、それに加えて彼ら自身が決める額面を与えよう」
28
その使者は再び来て、それらの待遇を申し出た。フェルタイは言った。
「その待遇を受けることは適正だ。そしてフィンに不当にも戦いを挑む者はすべからくフィンに敗れてきた」
そしてフェルタイは詩を吟じた。
「私はフィンが戦いに勝利し軍勢を切り倒すのを見た。
彼と戦うことはすなわち劣勢の渡り合い、彼に戦いに行く者は悲痛だ。
フィンは私の言うように彼がなるまで彼の腕前が凄まじくとも戦うだろう。
モインモイの者たちが強靭な刃を持ってそこにいるだろう。恐れを知らぬフィアナ騎士団よ、そなたらの戦いによって牛は軛から解放されるだろう。」
「私は行かなければならない時間になりました」
使者は言った。
「戦い以外に財産も待遇も受けるつもりはない」
エーウェル・グルングラス・マクアイド・マクガラドは言った。そしてウルグリウ・マクルーイー・コルの息子たちも、ターラのルーネの民たちもそう言った。
29
使者は行って、フィンにありのままを報告した。
「それで、彼らはあなたが衰えきった弱々しい手の老人だと言っています、フィン」
フィンは誓った。
「私は若者のように戦うことを誓おう」
そして彼は詩を吟じた。
「ターラの古きルーネの民の誤った言葉。もしも彼らがブレガに来たら勢いよく戦いを挑むつもりだ。
アイドの息子、ガラドの息子、エーウェル・グルングラスの息子、これが彼の[……]戦いの中にいることは[……]終わり[……]。
ウルグリウの息子たちはそれを目の当たりにするだろう。
私が詳らかにするあらゆる間違いは彼らを破滅させる。
敵は槍を撒き散らす時にそれをスポーツだと見なすだろう。
彼らは古い物語を口にして行くだろう」
その後にフィンは言った。
「行け、私の使者よ。彼らの軍勢が誇り高く技に優れ貴人が大胆であり言葉が勇ましいのだから、さらなる待遇を申し出るのだ。あらゆる敵は情け容赦がないものだからな、私の使者よ。彼らには自らの有する待遇を申し出なさい。折り合いのつけられない戦いは良くないものだ」
そして女使者ビルガドはその貴族たちがいる場所に来て、彼らの有する待遇を申し出た。
「我々は昔からこれまでの過ちを復讐するため、財産も所領も土地も、戦い以外には受け入れない」
老戦士は言った。そしてフェルリーは使者を殺そうとしたが、許されなかった。
「ビルガド、今度お前を見かけたらその命を縮めると誓ってやる」
フェルリーはこのように言った。
30
それからビルガドは衣服の裾を持ち上げて尻を捲り頭を隠して道を戻った。彼女は自らが立たされていた危機のために舌を震わせて、フィンのところに来た。フィンはビルガドのそのような様子を見て詩を吟じた。
「部族を渡り歩く私の使者ビルガドよ、お前の舌は混乱のあまり震えている。真実だけを私たちに語りなさい。もしも楯を肩に負ってルーネの民とクーリーの者たちが来れば[……]は悲しいことになるだろう」
ビルガドは彼に答えて言った。
「ああ、フィン、不幸な人よ。あなたが血飛沫の中にいることは予言されて久しいことです。
楯を肩に負ってルーネの民とクーリーの者たち、そしてエーウェルがあなたのところに来るでしょう」
フィンは言った。
「(注:敵に対して)もしもお前たちが戦いに来るのならその大義は血で汚れるままにさせておくがいい。咎のない大義のために君主に反逆することは間違いなのだ。彼らが正気と大義を台無しにすればフィアナ騎士団が立ち上がった時に私は戦いに行き、胴体を串刺しにするだろう」
ビルガドは言った。
「フィアナ騎士団長、向こうの者たちがあなたに対する議論を一致させました。あの戦士たちとルーネの民たちに勇敢に振舞ってください」
フィンは言った。
「ではそうするとしよう。彼らに貸しがあって、その言葉が血で汚れていて破壊的で怒りに狂っていて冷酷だと私は思っているのだから」
31
それからアイルランド、スコットランド、サクソン、ブリトン、ルイス島、ノルウェーに至るまでの土地のフィアナ騎士団長は立ち上がって戦闘用の衣装を身に着けた。それは美しく気品のある約束の地の選り抜きの繻子織で、彼の白い肌を覆う素晴らしい薄手の絹のシャツだった。そしてその上から板の如く堅牢な蝋引きされた二十四層の丈夫な綿の上着を着て、さらにその上には冷たい鉄製の美しい三つ編みの鎖帷子を身に着け、首元を金縁の胸当てで覆い、腰には冷酷な竜が描かれた堅牢な革帯の胴鎧を着けて、それで太ももから脇下まで覆っていたのでそこは槍も剣も弾かれるほどだった。そして五つの切っ先を持つ頑丈な柄の戦闘用の槍が置かれると、フィンは手早く金の柄の剣を左側に佩き、研ぎ澄まされた青く幅広な北欧の槍を掴んだ。それから煌めく明るい金色の中央突起(ボス)と輝く青銅の鋲、ねじれた頑丈な古い銀の鎖が取り付けられた華やかな模様のエメラルド色の楯を背負い、英雄は頭部を守るべく兜を被った。その兜は房飾りがつけられ板金を組み合わせた四つの角があり、精錬された金で出来ており、明るく壮大な水晶や輝き真に美しい貴石が熟練の職人や偉大な芸術家の手によって象嵌されていた。
※二十四層の丈夫な綿の上着
クーフーリン等も身に着けたコットン製の上着。布製だが二十以上の多層構造ともなれば、この上着だけでもかなりの防御力を有しただろう。蝋引きされており、堅牢さとともに防水性を向上させていると思われる。
※兜
16世紀の画家ジョン・デリックの「アイルランドの姿」にはアイルランド人貴族の房飾りを備えた兜が描かれているが、それに近いものではないか。デリックの絵によれば、スパンゲンヘルムのように外枠を有しており、板金を曲げながら枠に鋲で固定したもののようだ。この物語の描写からも類似した構造であることは想像がつく。
32
このような出で立ちでフィンは進み出た。彼は戦いを支える有名な木であり、勇敢な戦士たちを庇護する低木の茂みであり、軍勢の不変の幹であり、西方世界の戦士たちを守る軍門である。彼は立ち止まることなく道を進んで浅瀬の辺に到着した。アイルランド及びスコットランドの王権と全世界のフィアナ騎士団の指揮権がこの当時フィン・マックールの掌中にあったことは疑いようのない事実である。なぜなら彼はあらゆる偉大な業を収めた五人の達人の一人であり、アイルランドに救いをもたらした三人の息子の一人なのである。つまりその三人とは、キアンの息子である長い腕のルー、彼はフォモール族をアイルランドから追放した。そしてケネディグの子であるブリアン・ボル―、彼はアイルランドを隷属と抑圧から脱却させたのでブリアンが追放するまではアイルランドではそクリン(穀物の乾燥窯)にもみ殻を分ける布を使う北方人の奴隷を除いてそれを使う者がいなかったのである。そしてアイルランドを救った三人目の息子とはフィン・マックールであり、彼はアイルランドからならず者や盗賊や怪物、幽霊や多くの獣(竜)、そして追放者の数多の艦隊とそのほかの災厄を追い出したのである。そしてアイルランドの隅から隅へと牛の伝染病が襲った。フィンはアイルランドの人々に一年間食事を与え、全ての農場一か所につき七頭の牝牛と一頭の牡牛を配したのだ。
33
さて、輝かしく[……]強大な古強者は彼に従う小勢のところに来て、彼らに相対する軍勢に対して勇敢に振舞うことを誓った。そしてフィンに従っていたフィアナ千五百騎は主君の力強い弁舌に立ち上がり、自らの鎧に飛びつくようにして着込んで剣と槍を握った。こうしてフィン・マックールと北欧の王子ケーダハ・キアハとサルモールの息子のドゥブの息子であるファーナルの民の王子、素早い攻撃のライリーとフィンの息子のフェーランの息子である赤い手足のアイドとモインモイの三人のクーたちの周りに、彼らは集まって楯と剣と兜の一団となった。
彼らは火の刃と太柄の戦闘用槍や幅広の青い大槍、血濡れた赤い刃の投槍を掲げて、それらはまるで鬱蒼とした広大な燃え盛る森林のようだった。そして決して破られぬように、美しく丸みを帯びた楯と輝かしいほど真っ白な楯と彫刻されたエメラルド色の楯、血のように赤い真紅の楯、輝き煌めく楯、棘のように鋲が打たれている暗い赤色の楯、黄色く斑な牛の角の楯を密集させて陣形を組んだ。彼らの武器の鋭さや、武具に身を固めた手強そうな戦列や、屈強なる精神と旺盛なる士気のために、そのような様子を見た者たちを心から恐れおののかせるには十分なほどだった。そして彼らは生前と密集隊形を組み、破滅をもたらす怒り狂った一軍団になって、浅瀬の中央に果敢に翼を得たが如く突進した。
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さて、もう一方ではターラの軍列と称される三千もの軍装に身を固めた戦士たちが浅瀬に来て、喇叭が鳴り響き、挑戦的な鬨の声が上がり、臨戦態勢を整えて、熱狂的で豪胆な兵士と戦士、そして勇士たち、すなわちフェルタイ・マクウーニャ・イルガラハと、フェルリー・マクフェルタイ、エーウェル・グルングラス・マクアイド・マクガラド・マクモーナと、五人のウルグリウの息子たちとアクレフ・モール・マクドゥブリウとウルグリウ本人と、ファーニーの平原の三人のタイブレナハたちが戦いの最前列にならんだ。そして彼らはフィンとその仲間たちに向かって、反対側から群れをなして素早く激しい突進をし、浅瀬の中央へと向かった。
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そして彼らは互いを目にするやいなや突撃した。彼らは大きな力強い叫び声をあげ、その反響は森や岩、崖や河口、地中の洞窟、そして天空の冷たい外縁部にまで響き渡った。彼らの間では、血まみれの鋭利な槍や、投擲用の幅広の半槍、そして堅くて強力な石が雨のように投げつけられた。戦う距離が近づくと衝突は激しくなり、殺戮は広がっていき、争いは激しさを増した。それぞれの戦士は激しく烈しくいらだち、怒り狂ったように相手の戦士を攻撃した。彼らは怒り、憤り、圧倒的で、見事な、活発で、激しい、真剣な戦いを繰り広げ、互いの頭や頭蓋骨や兜を砕くために大量の石を投げつけ、両軍の前衛は入り乱れた乱戦となった。本当に多くの頑丈な槍が折れ、堅い剣が曲がり、盾が砕け、兜や頭飾りが粉々に砕け散り、兵士や勇者が傷を負った。多くの亡骸が傷つき、皮膚は裂け、脇腹は貫かれ、勇敢な戦士が切り刻まれ、勇者が切り倒され、英雄の死体が血の海に散らばった。曲がった刃が兵士たちの肩を切るのを見るだけで、あるいは勇者の断末魔の叫び、盾が裂けるときの轟音、裏地のついた甲冑が壊れる音、兜の頂上で剣が鳴り響く音、勇者から身を守る軍隊の叫び声を聞くだけで、半人前の戦士や臆病者は命を落としかねないほどだった。
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一方からもう一へと浅瀬が赤く濁り、戦士たちの傷口から流れ出た大量の血によってボイン川の激流が浅瀬から下流へと真っ赤な血の泡で(煮えたぎった)釜のようになるまで、戦士たちは死闘をやめなかた。それからフィンの配下の二人、トヌーサハ・マクドゥブサハとトゥアラン・マクトヴァルが軍列に来て、彼ら二人は兵士たちを虐殺して一人で九人の戦士を倒してウルグリウの二人の息子が彼らと戦いに来て、四人は戦った。そしてその戦いの中でフィンの配下の二人はウルグリウの息子たちに討ち取られた。
37
すると、フィンの配下の猛々しく執念深い戦士、ファーナルの民の王子である素早い攻撃のライリー・マクドゥブ・マクサールモールが軍列に挑みに来て戦いの中で自らの前に百人分の突破口を切り開き、ターラのルーネ族に怒りをぶつけたのでフェルリーの配下の百人の戦士が彼に倒された。
しかし、フェルリーは、虐殺が広っていきライリーが民にもたらした王者の大掃討と戦闘による破壊を目の当たりにすると、彼に挑みにきた。
「ライリー、怒り狂って虐殺したな」
フェルリーは言った。
「確かにそうだ。だがお前のせいではないさ。お前も我が軍の者たちと茶飲み話をしてたわけでもあるまい」
それから、フェルリーの配下の百人の燃えるような俊敏な戦士が戦いにやって来て、彼らは皆、主君の目の前でライリーの手にかかって倒れた。そしてライリーはフェルリーに傷を負わせ、その傷の報いとしてフェルリーは彼を傷つけた。
ちょうどその時、フェルリーの配下の怒り狂った執念深い戦士がさらに百人やって来て、その百人も戦いの中でライリーの手にかかって倒れた。そしてフェルリーは彼を傷つけ、彼もフェルリーを傷つけた。しかし、この二人は互いに対峙して戦うことを誓い合い、頑丈な柄の軍用の硬い穂先の槍を互いの脇腹と肋骨に突き刺した。二人の対決を見つめる小部隊は周章狼狽し、大部隊は戦慄したが、戦闘中にライリーがフェルリーに倒され、フェルリーは勝ち誇った。
38
フィンと彼の配下は、そのことで気圧され怯えたりすることなく、戦いを続けて奮起した。[……]
ライリーが討ち死にした後、北欧の王子ケーダハ・キアハが軍列の大部隊に挑みに来た。彼は周りの大部隊に冷酷な仕打ちを行って、敵中、どこへ行こうとも、足の裏と足の裏、腕と腕、首と首が触れ合うほどであった。
エーウェル・グルングラス・マクアイド・マクガラドは、王家の英雄の襲撃による戦士たちの虐殺を目にすると、力比べに挑む怒れる闘牛の如く、自らケーダハに挑みに来た。彼らは互いを見ると、戦うために勇敢に突進し合ったので、見ていた者は皆狼狽した。しかし、三百人の勇敢で猛々しい戦士が彼らの間に倒れ、彼らの家臣も倒れ、近づくことは確実な死を意味したので彼らに対する救援はなかった。彼らは互いに容赦せず、ついにはエーウェルとケーダハ・キアハは大部隊の前で互いに刺し違えて倒れた。
39
それからフェーラン・フィンの息子であるアイド・バルジャーグが軍列の中に進んでいき、戦いの中で彼は広い突破口を斬り開いて、彼は行った場所で恐ろしい姿を見せた。そしてアクレフ・モール・マクドゥブリウとアイドは会敵してウルグリウの息子たちの配下の精鋭戦士の九人がアイド・バルジャーグに三度倒され、彼らは互いに勇敢に血みどろになって英雄的に戦いを繰り広げた。互いの肉体にひどい傷や致命的な斬撃を加えて、とうとうアイド・バルジャーグは戦いの中で倒れた。
40
さて、フィアナ騎士団長フィンはフィアナの勇士たち、猛者たち、貴族が討ち取られたのを見て、この非の打ち所がなく賢明な古老は名声とは命よりも永らえるものであり、敵の前でたじろぐよりも死んだほうが良いと考えた。その時にフィアナ騎士団長が軍列のいる場所へと勇往邁進して、手を動かし攻撃を加えた。そのため「勇気の鳥」がフィアナ騎士団長の呼吸の上に舞い上がって、戦士の群れは彼の勇敢さに抗えずに、兵士たちは彼の膝の周りに倒れ、彼が戦いに行くところでは傷物になった体と血塗れの生首と肉片が山のように積み上げられた。
そして彼は、ひどく殴られて激怒した獰猛な雄牛のように、あるいは子が傷つけられた獅子のように、あるいは洪水の時に高い山の中腹から噴き出し、達するすべてのものを破壊し押しつぶす大洪水の荒れ狂う波のように、彼らの間を通り抜けて蹂躙した。そして蔓が木に巻き付くように、あるいは愛情深い女性が息子を抱きしめるように、彼は軍列の大部隊の周囲を三度巡って、戦いで彼の剣の刃の下に腿や脛骨や頭の半分が押しつぶされる様子は、鍛冶屋が鍛冶場で打たれるよう、あるいは枯れた木が割れる騒ぎのよう、あるいは騎馬隊の足元の氷の層のようであった。そしてバーナーナハやボカーナハ(山羊のような姿の魔物)、赤い口のバズヴ、谷のゲニト(軍装した女性の魔物)、空の悪魔や、天空のめまいがする幻影が戦場のどこでもフィアナ騎士団長の頭上で戦いを繰り広げながら金切り声をあげていた。そして騎士団長はフェルリーとフェルタイ、ウルグリウの五人の息子を除いて、殺されるか逃げ出すかして軍列の大部隊が全滅するまで始まりから決して止まることはなかった。
41
フェルリーは護衛部隊もなく、背後を守る友人もいない中でフィンを目にした時、進み出てフィアナ騎士団長に対する敵意を語った。フィンはフェルリーに答えて言った。
「お前もその確執により命を落とす」
しかし、二人はその場で戦い始めた。その互いの攻撃は激しく、狼のようで、同じように強かった。二人の戦いは衝動的で、執念深く、厳しく、激しい打ち合いだった。剣と、牙で出来た柄の刃が互いの頭と兜に激しくぶつかり合う様子は恐ろしく、危険で、 [……]フェルリーが剣を磨耗させてしまうと、頑丈な柄の五つの切っ先の槍をつかみ、勇敢に正しく構えてフィンに投げつけた。槍は騎士団長の身にまとった豪華な衣に刺さり、体を切り裂いた後、貫いた。フィアナ騎士団長は、フェルリーが彼に負わせた致命傷に対して、怒って敵を滅するように応戦し、剣で彼に[……] 激しく、烈しく、骨を砕く一撃を与え、彼の頭を体から打ち落とした。そしてフィンは、その戦いの柱となる熟練の戦士を討ち取ったことを勝ち誇った。
42
しかし、フェルタイ・マクウーニャ・イルガラハは彼の息子が死ぬところを見て、フィンのところに苛立ちを隠さず不機嫌に近づいて話しかけた。
「大した手柄だ、フィン!」
フィンは言った。
「その通りだが、どうして今まで来なかったのだ」
「私があなたを手にかけるよりも、フェルリーがあなたを討ち取ることを望んでいた」
フィンは訊ねた。
「お前は私に同情しに来たのか、それとも戦うために来たのか」
フェルタイは言った。
「戦うためにきた。領主の地位や[……]財産のいずれの理由であっても、私が息子の殺害を許すようなことにはならないのだから」
こうして[……]彼は分別もなく、省みることもなく、命を惜しむことなくフィンに襲いかかった。フィンは真に勇敢な戦士に出会った。二人は互いに仕留め、息の根を止めるために多くの英雄的な偉業を成し遂げた。しかし、その戦いの様子を描写することは困難で不可能だった。なぜなら、突撃は雄牛のようで、真っ向からで、激しく、危険で、致命的で、彼らが互いに負わせた傷害は残酷で恐ろしいものだったからだ。そしてフェルタイは騎士団長に傷を負わせる機を逃さず、槍で貫いて、突き刺した側と同様に反対側にも大きな傷口を作った。フィンは傷つけられた仕返しに、剣で激しく打って、長く[……]な胴鎧も、密な綿鎧も、外国の硬い鎧もフェルタイには如何なる守りとならなかった。そのためこの勇士は二つに両断され、地に倒れた。そしてフィンはこの偉大な功業を成し遂げたことを誇った。
43
ちょうどそのときその場に、ウルグリウの五人の息子たちが現れてフィンのほうを見た。フィンは執拗な敵が自分に向かってくるのを見て、彼らに立ち向かった。そして彼らはそれぞれが騎士団長に槍を突き刺した。フィンは五人の勇士に同じくらいの力で応戦して傷を負わせた。ウルグリウの五人の息子たちはこの英雄がフェルタイとその息子フェルリーと戦ったそれまでの戦いで負傷し、失血で弱っているのを見て[……]
(ここで物語は終わっているが、他の物語から補完するなら、フィンは討ち取られて首を持ち去られ、キールタが首を取り返すといった物語になるだろう)
The Chase of Síd na mBan Finn and the Death of Finn
The Chase of Síd na mBan Finn and the Death of Finn