フィアナ伝説:ガヴラの戦い

本文

百戦王コンの息子アルトの息子コーマックの息子カルブレには、美しく柔らかな眼差しの品位があって慎み深い娘がいた。
彼女は美しい光を意味するシュゲヴソラスという名前で、デーシュ族の王子マイルシェハン・オフェーランが婚約を求めに来た。
フィンとフィアナたちがこれを聞きつけると、貢納を求めてカルブレに使者を派遣した。貢納というのは二十個の金塊か、婚前の姫と同衾できる初夜権のことである。
カルブレはこの言伝を聞くとたいそう憤慨して、どちらの条件も飲むことは決してないだろうと宣言した。
そこでフィンは特権が侵害されたことを理由に両方とも差し出すか、あるいは姫の首を差し出すようにという言葉を彼に伝えた。
これを聞いたカルブレは激怒して使者を直ちに派遣した。
その相手とは、アルスター王コナル・キンバガル、レンスター王クリヴァン・クルブデ、マンスター王フィアハ・ムレサンであり、彼らが一堂に会したところでカルブレは問題の本質を説明した。
それはロッホランに迷惑をかけられるのと同じ程度に面倒な一種の条件と制約のおかげで、フィンとそのフィアナたちの下に彼らと民衆が従属していること、特に自分たちよりも下の身分の者どもに義務を課されているということにこれ以上我慢ならないということだった。
当時のアイルランドではコンの一族の王侯貴族はことごとくクウァルの支持者たちの支配のくびきに苦しめられていたのである。

そしてアイルランドの王と貴族たちは激怒して、もはやこれ以上は隷属を耐えることも容認することもできないと結論を下した。
彼らはみんな、各々の自領に戻って民衆と集会を開いてこれ以上服従する代わりにフィアナたちをアイルランドから追放するという決議を得た。
その後、カルブレはフィアナたちに貢納を払わないし、アイルランドにおける彼らの重税や他の個々の要求についても差し出さないと伝えた。
フィンとフィアナたちはこの宣言に激怒して、カルブレに使者を送って宣戦を布告した。

カルブレはアイルランドのすべての王と首長に召集の使者を派遣した。
彼らは総兵力で五十もの大隊を集結させた。
そしてカルブレはコノートの兵士たちとテスヴェの勇士たちを招集した。
デーシュの王ドヴナル・オフェーランは立派な体格の戦士たちを率いて戦いに赴いた。
フィアハ・ムレサンがマンスターの大軍を率いて、コナル・キンバガルがアルスターの大軍を、クリヴァン・クルブデがレンスターの千人の強者を引き連れて参戦した。
フィンとアイルランドのフィアナたちは彼らを打倒せんと志してアイルランド連合軍が集まったことを知った。
そしてフィンは勝利の角笛≪バール・ブアズ≫を鳴らして、フィアナたちは彼らが駐屯していたあらゆる場所から集結した。
すなわち、フィン、そしてフィンの子孫たちでありバスクナ氏族の貴人であるオシァン、オスカー、フィアハ、ディールフィアヴ、クラ・ケードゴイネフ、アイド・ベグ。
そしてディルムッド・オディナをはじめとするフェルカイヴ、シアンサン、コスガルサッハらオディナ氏族の者たち。
ゴル・マク・モーナをはじめとするシアンサン・マク・ドゥアナン、エディーン、モズコルブらマクモーナ氏族の者たち。
フィアナの七つの常備大隊が一堂に会すると、彼らは勝利の角笛とすべての楽器を鳴らし、戦列を適切に配備して強大にして剛勇なる英雄たちが密集隊形でガヴラの山に進んでいった。
カルブレもまた、戦場に参戦したフィアナの英雄たちの三十倍の兵力のアイルランドの戦士団と共に前進した。
そして敵対しあう二つの大軍勢は互いに攻撃の火ぶたを切って落とし、ガヴラの大戦が始まった。
これはそれまでに起こった戦いの中でも最も大規模なものだった。
そして本当に哀れなことに英雄たちが鬨の声を上げ、戦士たちが苦悶にうめき、盾が真っ二つに切り裂かれ、頭が割れ、傷が増し、肉が粉砕され、こぼれ出した血が注がれ川になり、地面のくぼみに流れるまで大した時間はかからなかったし、戦場を駆け抜ける戦士たちの奔走は数えきれないほどだった。それはオスカーの剛勇によって平地に死体が山積みとなったからである。
それからゴル・マク・モーナとマンスター王フィアハ・ムレサンは互いに前進して、殺し合いを繰り広げること長きに及び、殺しに馴染んだ武器をぶつけ合って火花を散らして憎悪しながら絶え間なく斬り結び、死に物狂いで戦った。
ゴルはマンスター王に致命的な隙を見つけるとすかさず肩から先の腕を斬り飛ばし、返す太刀で頭を二つに切り裂いた。
彼とマク・モーナ氏族の兵はマンスター勢を攻撃し、彼らを完全に打ち破ったので大虐殺から誰も生き延びることはできなかった。
フィンの息子オシァンとデーシュの王ドヴナル・オフェーランは互いに挑戦して恐ろしい死闘を繰り広げた。
オシァンがドヴナルとの闘いで窮地に立たされているのを見たフィンの息子フィアハは急いで彼を救援した。
彼とドヴナルは熱心に戦いに臨み、激しく戦ってとうとうフィアハがデーシュの王の首に致命傷を与えて首級を挙げたのだった。
それから彼はデーシュの軍勢を攻撃して完全に追い散らしたのだった。
ディルムッド・オディナとレンスター王クリヴァン・クルブデは互いに攻撃し合った。肝が据わり血塗れになって危険に身を晒しながら憎み合って戦い、鎧から火花を散らし互いの体から吹き出る血の雨を浴びるほどだった。
ディルムッドの放つ斬撃は全て巧みで、彼は肉と骨を大きく切り裂きながら体力と強さと活力に恵まれており、身のこなしも武器の扱いも強い力もとどまるところを知らなかった。
そしてとうとう、鋭く鍛え上げられた剣で王の頭に向かって頭蓋骨を割る会心の一撃を放ち、二の太刀で巨大な胴体から首を刎ねた。

この時、オスカーはアルスター勢を斬り散らすことに取り組んでいた。
彼らを細切れに切り刻み荒れ狂うさまは巨大な船が吹きすさぶ強風に対して錨を下ろして懸命にこらえているようだった。
あるいは猛烈に怒り狂う獅子が鹿を襲うように、小鳥の群れを蹴散らす隼のように、或いは羊たちの群れの中で猟犬の凶暴さによって引き起こされた狼の襲撃のようにだった。
そのため、若い男たちがうめき声をあげ、戦士たちが叫び、剣が振るわれる音を聞くのは本当に痛ましいことなのだが、オスカーは平野に血の川を勢いよく流させたのだった。
オスカーの力により殺された多数の遺体が立ちはだかる障害となって、勇士たちは平野を通り抜けられなくなった。
苦悶の表情で口を開く頭、折れた脚、割れた頭蓋、切り刻まれた体、裂けた心臓、使い物にならなくなった手、頭のない胴体が平原に散らばっていたのだ。
この時、ゴルとマク・モーナ氏族はカルブレ及びコノート勢と戦っていたのだが、どちらも恐れや弱さを見せず謗りを受けることもなかった。彼らは互いに、憎み合って、悲しくも勇壮で、抗いがたくも怒り、本当に死闘を好んで憎らし気に攻撃しあった。
それからフィンの息子フェーランと、レンスター王クリヴァン・クルブデの王子ディールクラヴが会敵した。
そして彼らは憎み合い勇気を振り絞って強靭な精神力と肉体をもってして戦い、互いの胴体と頭に斬りつけまくった。とうとう幅広で重く力強く鋭い刃の一撃が彼らの鎧を切り裂き合い、ついに熱闘の果てにディールクラヴがフェーランに屈服するというところに迫った。
クリヴァンの息子のコスガルサッハは兄弟が打ち負かされているのを見てフェーランを倒してやろうと思い、平原を疾走してフェーランの背中から槍で心臓を貫くと彼はあっという間に息絶えてしまった。
フィンはフェーランが二人の兄弟によって卑怯にも殺されたのを見た時、猛然と突進して勇敢にコスガルサッハとディールクラヴの両方に挑戦した。
彼らは二人がかりで必死にフィンに斬りかかったが、フィンはそれ以上に太刀を浴びせ返した。
このようにして彼らは恐れも疲労も謗りも見せないで長い間戦い続けた。フィンの息子のオシァンは父親に危険が差し迫っているのを見て、急いで救援に駆け付けた。
彼とコスガルサッハは大胆かつ勇敢に戦い、ほとんど恐れも疲れも謗りも見せなかった。
同時にフィンとディールクラヴは互いの頭や体を斬りつけまくっていた。
それは本当に素晴らしい戦いぶりで死闘を繰り広げ、武器を振るって何度も激しく打ち合い、互いの体に死に至るような深い傷を負わせていた。
それというのも、フィンは年老いていてディールクラヴは若かったからなのだが。
しかしとうとう、フィンはディールクラヴの胸と腹の間に向かって致命的な斬撃を放ち、それによって体を横切って切り裂かれ、腸が地面に落ちるや否や平原に倒れ込んで彼の息は途絶えた。
そこでコナン・モールは叫んだ。
「恥ずかしいぞ、オシァン、コスガルサッハにこれほど長く手間取るとは!
たたみかけろ!」
コナンの発破をかける声にオシァンは恥ずかしくなって、まずまずの一撃を敵の脳天に入れ、鼻まで頭蓋を切り裂いた。
そして、彼は傷だらけで総身が固まった血に塗れていた。
死闘の後、彼は休むことなく集まっていた敵勢を攻撃し、斬り伏せ、首を刎ね、切り刻むために前に進んでいった。
そしてカルブレとクラ・ケードゴイネフは会敵して、力を振り絞り血に塗れながら、呪わしくも、真に勇敢な激闘を繰り広げた。力いっぱいに叩き、凄まじい斬撃を休むことなく互いの体に活力に溢れた叫び声をあげていた。
とうとうカルブレがクラ・ケードゴイネフに一撃を加えて腕を肩から切り落として、返す刀でもう一太刀、頭蓋を斬りつけるや、彼は崩れ落ちて命を落とした。
アイド・ベグはコノート勢に斬り込むことに専念して大成功を収めていたその時、カルブレと彼の兄弟の一騎打ちの結末を目の当たりにした。
彼は立ち会うために全速力で突き進んだ。
二人の戦士は一歩も退かずあり得ないような獰猛な戦いぶりだった。
しかもアイド・ベグがコノート勢に仕掛けた攻撃のさなかにカルブレの息子が殺され、そしてカルブレはアイド・ベグの二人の兄弟を殺していたので彼らが敵意をもち憎み合うことを理由に並外れて果敢に戦うのは同じだったのだ。
したがって眼球が膨らんで円形の土塁の塊のようになって、一番大きい星の輝きによって照らされる天空のようにまばゆく光り、頬が鍛冶屋のふいごの蛇腹のように膨らむほどまでに彼らの戦いは激しさを増した。
彼らはとても憎々し気に激しく打ち合ったので、彼らの盾は体を守るちっぽけな残骸になり果てた。
それから彼らは鋭くよく鍛えられた幅広の剣を鞘から抜き払い、互いの体に語り草となるような斬撃を放ち、ついにアイド・ベグはカルブレの完全無欠の一撃によって倒れた。
この時まで、ゴルとマク・モーナ氏族はマンスター勢とレンスター勢を虐殺し、斬り伏せては蹴散らしていた。そしてフィンは蹴散らし引き裂き散り細切れに切り刻むのに彼らを支援していた。そしてこのように彼らの誰も生き残らないようなやり方でついに全滅させた。
その一方で、オスカーはブレフネの王と戦いの中で敵対するまで、アルスター勢を気にかけながらも休みを与えず哀れみや慈悲をかけなかった。
そしてアルスター勢を壊滅させた結果、オスカーはほとんど疲れ果てていた。
それは戦局を左右する重大な決闘であり、絶え間なく致命傷を与え、身のこなしは素晴らしく、戦いに臨んだ者たちの間で知らぬものはいないような技と力を尽くした戦いだった。彼ら以上に一騎打ちで驚嘆させるような者たちはこの世界にはいないだろうと思われてるほどだった。
オスカーはこの世の誰であろうと戦いにおいて自分に相対して長く立ちはだかれたことに大いに驚いた。そして互いの体への打ち込みはさらに激しさを増して、アイルランド中に剣を振るう音が響き渡るほどだった。
王へのオスカーの剣撃は、海と陸に雷の如く轟いた。
激しい呼吸により彼らの胸は膨れ上がり、幅広で鋭い刃は衣服を切り裂き、気力を充実させて、そのような調子で互いに抱いた憎悪と敵意が勇気を奮わせたのでオスカーの剣撃が全て王の骨肉を削り斬る域に達すると同時に武器から火花が散り、新たに勇気を力をかき集めて、戦場はおろかアイルランド全土にさえ彼より大きく強い者はまさにその時オスカー以外にいなかったがゆえに、ついに王を地面に叩きのめし完全に巨大な胴体から首を切り落とした。
この後、オスカーはアルスター勢を攻撃し屈服させ完全に壊滅させた。

それから彼はコノート勢に向かって斬り込み、休みを与えず哀れみや慈悲をかけずに切り刻み、征服し、皆殺しにして、完全に滅ぼすために前に進んだ。
それから、美しい声のフェルグス≪フェルグス・フィンベル≫がコークの王ディルムッド・モールと会敵した。そしてこのディルムッドが由来で今日までコルカ・モール・マク・ディアルマーダという部族の名が残っている。(注:ディルムッド・オディナとは別人です。)
激しく勇敢で燃えるような鋭く本当に危険な戦いは見るものを感嘆させるほどまでに、フェルグスと彼は激しく勇敢で男らしく力と武勇を誇って戦った。互いに絶え間なく斬り合うことで彼らは頭に斬り傷、体に無数の傷を負った。
そしてとうとうフェルグスはディルムッドに打ちのめされて、先の尖った鋭い剣で心臓を突き刺された。
オシァンはフェルグスがディルムッドの手により倒されたのを見て、急いで駆け付け彼と戦った。
そして彼らは互いの体から返り血の雨を浴びるまで勇気をもって怒り雄々しく力の限り戦った。
それからたたみかけるように素早く動き、奮闘し、激しく斬りつけた。真の英雄の超人的な膂力は激しくぶつけ合うことで武器を使い物にならなくするというありさまだった。
激しい戦いの末に彼らは疲れ果てていたが、ようやく、フィンの息子オシァンがディルムッド・モールに致命傷を与えて彼の巨大な胴体から首を刎ねたた。戦いの後、彼は力を使い果たし疲労困憊していた。
そしてその時、オスカーはアルスター勢を完全に壊滅させた後だった。それから彼はカルブレを目ざとく見つけるとコノート勢に襲いかかった。
それというのも、アイルランドの戦士たちを見れば殺さずにはいられないだろうと彼は心得ていたからだ。
カルブレの二人の息子、コンとアルトが炎の如く彼を迎え撃ち、彼は両者と勇敢で驚くような戦いを繰り広げた。
彼が重く鋭い切っ先の恐ろしい剣を振るえば、彼らはそれ以上に重く強烈な剣撃を返した。
しかし瞬く間に、哀れ、若者たちはオスカーの重い斬撃によって断末魔の声を上げた。
この時、アルスターの王ブリアンの息子ブレフトはカイールテ・マク・ローナンによって最後の最後まで追い詰められ、すぐさま首を刎ねられた。
そして同時にカルブレはカイールテの六人の息子たちを殺した後だった。
そしてその大いなる戦場では無数のうめき声や慰めの言葉、すすり泣き、叫び声が響き渡ってたのだ!
これがカルブレの二人の息子たちとオスカーが戦っていたその時の事である。
とうとうオスカーは彼らの一人、コンの首を刎ねるや否やもう一人の首も刎ねた。
それから彼はカルブレの姿を求めて戦場を突き進んだ。
そしてカルブレの配下の勇敢な指揮官と遭遇し、彼らはすぐさま交戦した。
カイールテ・マク・ローナンが彼の六人の息子たちを悼んで涙を流すのは痛ましい光景だった。
カルブレは二人の息子がオスカーに討たれたのを聞いて彼は急いで戦いに駆け付けた。
カルブレは彼に向って槍を投げ、背中から肩の下を貫いて心臓に突き刺さった。
オスカーはその場に倒れ込んで叫んだ。
「ああ、ああ! 俺の体を貫くのはカルブレの槍だと、それによって俺は死ぬだろうと予言されていたのだ!」
オシァンは絶望して心を痛めた。そしてすぐにフィンはオスカーの死に落涙した。
フィンはこれまでフィアナの誰を失おうとも涙を流したことはなかった。
戦場から一人残らず生き残った全てのフィアナたちはオスカーのもとにやってきて、皆がオスカーの死に涙した。

これがオスカーの死の顛末であり、フィアナたちの最後の戦いだった。


おまけ:フィアナ騎士団の戦旗

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