フィアナ伝説:コナンの屋敷の饗宴

本編

素人が趣味で適当にやっているので内容の正しさを保証しません。
翻訳にはTransactions of the Ossianic Societyのニコラス・オカーニー校訂を基本的に採用していますが、読み比べて違う箇所に気づいたらそこだけマウド・ジョイント校訂を参照しています。
マウド・ジョイントはトリニティカレッジにあるH 4. 14手稿に概ね準拠していて、18世紀のエガートン写本やロイヤルアイリッシュアカデミーの写本を参照していません。ニコラス・オカーニーのほうは18世紀の写本に基づいているようです。

1.フィアナ騎士団の狩猟から離れるフィン

 フィン・マックールとしなやかで高貴で見目好く美しいフィアナ騎士団によって、フェル・モールとウィ・コナル・ガヴラの領地のレーン湖のほとりにそびえたつトルク山の上で、獲物が大量の本当に愉快な鹿狩りが催された。鹿追いはエフタの山の快適な緑地で始まって、そこから他所の緑なす山々、険阻な鬱蒼とした森、湿地で赤みがかった急峻な丘、そして隣り合う地区の滑らかな広大な平原へと広がっていった。全てのフィアナ騎士団の隊長は前々から使っていたどんな時でも力を発揮できるような手慣れた場所にある険阻な小道の思い思いの開始地点に陣取った。そして彼らは交互に二人組となって、叫び声を森全体に響かせた。そうやって森の中で最も俊敏な牡鹿を追い立て、赤い毛皮の獲物は岩の上を駆けのぼって狐を蹴散らし、アナグマを岩の裂け目から飛び出させて、鳥を羽ばたかせ、小鹿を全速力で追い立てた。その後に、彼らは貪欲で頭が小さく獰猛で素早い猟犬たちを解き放ち、一緒に追って行き、たくさんの獲物を追跡させた。猟犬たちが傷だらけになって英雄たちの手は血に塗れたとはいえ、アイルランドのフィアナ騎士団は成功をおさめて、苦労はしたけれど華やかな狩猟で猟犬たちを誇りにした。だが、ドヴァー・ダヴナイグの息子のディーレン以外は誰もフィンの近侍として居残った者はいなかった。そしてフィンは言った。
「では、ディーレンよ。私が眠っている間の警備を任せよう。私は今朝早くに起きたから。早朝はもたれかかって寝ている時に手を空にかざしても見えなかったり、ヘーゼルの葉とオークの葉で区別がつかないのだよ」
しかし、フィアナ騎士団長は心地よい眠りに落ちて、朝起きてから夕方に太陽が金色に輝くまで眠り続けた。
フィアナ騎士たちはというと、キン・スリーヴの塚でフィンが眠りにつくとディーレンに任せて、彼らは狩猟に夢中になった。そして未踏の荒野に迷い込んでしまった。ディーレンはフィンがずっと眠っていることにうんざりして、彼を起こした。そしてフィアナたちの叫び声や笛の音も聞こえなかったので狩りをやめてしまったに違いないと言った。
「もう日が暮れてしまうから、今夜はフィアナ騎士たちには追いつけないな。ディーレンよ、森へ行って小屋と囲いを作るための材料を採って来てくれ。その間に私は私たちが夜に食べるものを探してくる」
フィンはそう言った。そこでディーレンは道を進んでいって、そう遠くまで行かないうちに、すぐ近くの森の空き地に煌々と照らされた厳めしい館を見つけた。彼はフィンに知らせに戻った。フィンは言った。
「行ってみよう。見知らぬ人が近くに住んでいるのなら、ここで骨を折ったりして小屋を建てるのはやめたほうが良い」
彼らは砦の門に進んでいくと、門をたたいた。すると門番が現れて、彼らに何者であるか尋ねた。
「私たち二人はフィン・マックールの部下だ」
ディーレンが答えると、門番は叫んだ。
「こんちくしょう、叩き殺してやるぞ。ここのご主人様の父母と四人の兄弟、そして奥方の父母までも殺したのはフィン・マックールだったからな!ここに住んでいるのはキン・スリーヴのコナン、キン・スウァリ水を引かせる者のコナンとも呼ばれるお方だ。なぜなら、そこでマク・アン・ルインを手に入れるために、ラーガン湖の水を引かせたからだ」
門番がフィンに対して言ったことの全ては真実だった。なぜなら、彼らのその全ての虐殺を行ったのはフィンだったからだ。
その後、門番はすぐに戻った。コナンは彼に門にいる一行の品位や出で立ちを訊ねた。彼は答えた。
「若く、礼儀正しく、金髪で、男らしい、誇り高く、真に美男子な英雄がいます。力強い振る舞いで、彼の容姿や顔つきは美しい。彼は英雄たちの中でも最も偉大で、勇士たちの中で最強で、人類で最も美しい。彼は竜の目、狼の爪、獅子の活力、素早い動く怒った蛇の猛毒を持った凶暴で小さな頭の白い胸のなめらかな猟犬を、明るく磨かれた金の首輪に取り付けられた古い銀の巨大な鎖を率いています。そして先の者に同行している、別の茶色の髪で血色の良い顔色をした白い歯の男がいます。彼は明るい真鍮の鎖を手に持って、黄色い斑点のある猟犬を率いています。」
コナンは言った。
「彼らのことをお前は上手く説明した。それで彼らが誰だかわかった。最初に説明したのは、フィアナ騎士団長のバスクナの子孫のフィンで、連れているのはブランだ。もう一人は、ドヴァーの息子のディーレン。彼が手綱を握っているのはスコーランだ。急いで彼らを受け入れてやれ」
したがって、彼らは大いに敬意を持って受け入れられた。彼らは武器を手放して、彼らのために豪華なごちそうが用意されて、その機会に快適に楽しんだ。
コナンは次のような位置にいた。つまり、彼の妻が彼の肩の側に座っていて、反対側にはお淑やかで美しいフィネルブがいた。若い乙女の容姿は本当に素晴らしかった。一夜の純白の雪よりも彼女の四肢や体、優雅な首は美しかった。若い牝牛の血で染めたような深い紅色に彼女の頬は輝いていた。彼女の眉は両方とも水の流れの光沢のように暗かった。彼女の長い巻き毛は磨かれた純金のように輝いていた。彼女の目は、ブーガの花búgha : Allium porrum. アリウムの一種、リーキのように青く、美しく輝いていた。彼女の甘美な響きの美しい言葉遣いをする唇はナナカマドの実よりも赤かった。そして彼女は白い胸の上の留め具により優雅で美しい四色のマントに身を包んでいた。
しばらくして、フィンはコナンに話しかけた。
「コナンよ、きみが私を強く憎んでいることはわかっている。だがしかし、きみは私がきみと奥方を死から救ったということを覚えているだろう。そして、その後に将来の友誼を固く結んだということも。
つまり、奥方は子を妊娠していて、きみは次の条件で子供を贈ると私に約束したのだ。男の子であればフィアナ騎士団の戦列に加えて、女の子であれば適切な教育を受けさせて正当な資格を有するようであれば私が娶る。あるいは私の部下の隊長に授けると。
今、私は彼女がそれに相応しい女性だと思っている。したがって、私はきみに歓待を受けに来たのではなく、彼女を娶るために来たのだ」
コナンは言った。
「よせ、フィン。お前は彼女の婚約者よりも、自らのほうが価値があると証明していない」
ディーレンは尋ねた。
「それは誰のことでしょうか」
コナンは返答した。
「エス・ルアドの王子である、アヴリクの息子ファサハだ」
ディーレンは叫んだ。
「聞いてもいないことをべらべらと喋るその舌を黙らせて切って殺されたとしても自業自得というものです。仮にトゥアハ・デ・ダナンのありとあらゆる価値を一人にかき集めたとしても、フィンのほうが優れていると証明するでしょう」
フィンは言った。
「ディーレンは黙っていろ。私たちは大虐殺をという罪を冒しに来たわけではなく、妻を娶るためにいるのだ。そしてトゥアハ・デ・ダナンの好む好まざるに拘わらず、彼女を迎えるつもりだ」
コナンは言った。
「私はあなたと対立したり抗争しようという気はない。だが、これから聞く質問にあなたの知っている限りでは答えられないのなら、『真の英雄は決して耐えることができない』ゲッシュ制約をあなたに課すつもりだ」
フィンは答えた。
「答えてみせよう」

2.フィンの名前と幼少期の冒険

コナンは言った。
「では、あなたの知られている最初と二番目の名前を教えてほしい。そして最初に泳いだ場所の名前と、最初に取った戦利品と、毎年ブリキーの割れ目で跳躍していた理由も」
フィンは言った。
「答えよう。グラシュ・ディグウナギ/水の蛇が私の最初の名前だ。その後はギラ・アン・クアサーン木の洞の少年という名前で知られた。私が最初に泳いだのは、エドレカイルの息子スウォーイルの山の側のクリスィルリィン震える湖の噴水だった。南にある今はドゥン・ダ・ブルガと呼ばれているドゥン・ボイで私が掴まえた鴨とその十二羽の雛鳥が最初に取った戦利品だ。
私がブリケ・ブロイゲで毎年跳ばなければならなかったのはこのような理由だ。つまり、私の養母であるボドヴァルがモーナの一族に殺されて、別れることになった最初の日に、私は道に迷い、南のルアハー・デザに入り込んだ。その時、私はシカとノロジカの革で作られた服しか着ていなかったことからもう一つの名前、ギラ・イタ・グロイキンと呼ばれることなった。私は、二つの集団が会っていて、二つの高い塚が向かい合っているを見た。一方は美しい男性の集まりで、他方は美しく咲く女性たちから成っていた。両方の側には高い断崖があり、その間には風の強い恐ろし気な谷があった。私は女性の集まりのところに行って、なぜ分かれて陣取っているのかを訊ねた。彼女たちは、キアリー・ルアハーの王である、クリウァンの息子のカリルの息子のセドナがシス・ダーレのダーレの娘のドネイトへの愛の流れに囚われてしまったのだと、私に伝えた。彼女が彼に出した条件は、毎年谷を飛び越えることだったが、彼は絶壁に来ると跳躍を躊躇してしまった。私は彼女に、飛び越える他の者の求婚を受け入れるかと訊ねた。彼女は私よりも酷い格好をした人を見たことがないと言ったが、私個人の外見は罪ではないと考えていて、跳んで見せたなら受け入れるつもりですと答えた。
そこで私は身体を半分に屈めて、後ろにあった急峻なところに行って、断崖の端まで走って、素早く巧みに反対側まで跳躍した。そしてそれから二度目の跳躍を行って帰ってきた。私はやろうと思ったならもっとたくさん跳んだだろう。そこでドネイトが私のところにやって来て首に手をまわして三度口づけをした。そして彼女は私の革服を剥ぎ取って相応しい服を与えて、その夜、彼女の屋敷に私を連れ帰ったのだった。翌朝早くに私が起きると彼女は私に毎年跳躍するという制約を私に課したのだ。コナンよ、これできみの問いには答えられた」

3.フィアナ騎士団のメンバーの逸話

コナンは言った。
「勝利と祝福あれ、あなたは真に賢明で学識ある人間であり、私はあなたの話を聞いて大いに満足し、楽しめた。
では、フィアナ騎士団の中で、自分の墓石とレーフト石積みの構造物を毎日跳び越え、娘が母親であり、生きながらにして自分の殺人賠償金を請求しているのは誰かということを教えてほしい」
フィンは言った。
「お答えしよう。私の部下のフィアナの二人の隊長、クリウァンの息子のオスカーとカリル・ガスの息子のディールガスはある日二匹の犬の喧嘩のことで諍いとなった。その日に私は屋敷を不在にしており、どのような意図であれ制止することのできた他のフィアナの隊長はいなかった。そこでディールガスは殺害された。ディールガスの結婚適齢期の美しい娘がやって来て、身を屈めて彼に口づけをすると、赤い火の閃光が彼の口から彼女の中に飛び込み、結果的に彼女は妊娠して、やがて広い頭頂の息子を産んだのだ。彼には他に名前をつけられなかったので、彼の父の名前で呼ばれた。そして彼は七歳まで相応しい方法で育てられた。彼がやってのけた若々しい愚かな最初の偉業は、彼自身の墓石とレーフトを飛び越えることだった。彼は今、クリウァンの息子オスカーに殺人賠償金を要求している。よってコナン、君の質問には答えられた」
コナンは言った。
「勝利と祝福あれ。では、フィアナ騎士団長よ、フィアナの戦列で最高であり最悪であり、最大であり最小であり、最速であり最遅である者たちを教えてほしい」
フィンは答えた。
「お答えしよう。最も良い者は私自身だ。そして最悪の者はドゥブ・スリーヴ黒い山出身のデーラ・ドゥブだ。なぜなら彼は非難や挑発以外には誰にも口をきかなかった。そして断食している間に、朝に彼を見た者は誰であれその日は役に立たなかったからだ。ルアハー・デザの出身のリガン・ルミナはフィアナ騎士団で最も速い。アルムの釜炊き係、リフィ・リースゲブィルが最も遅い。なぜなら、夏の長い昼間にアルムの門にある噴水から自分の寝床まで歩いたのがそれまでの生涯で最長の旅だったから。ドゥブガイルの息子のディールガスが最も背の高い者で、マク・ミヌエが最も小さい。これがきみへの答えだ、コナンよ。これ以上はもうやめよう。演奏者や離れ業をもった芸人がいるなら、彼らを連れてきてくれ。いつもなら音楽もなく一晩過ごすことはないのだから」
コナンは言った。
「では、今まで嗜んだ中で最も甘美な調べを教えてほしい」
フィンは言った。
「お答えしよう。我らの平原でフィアナ騎士団の忠実な七つの大隊が集まり、戦旗を頭上に掲げ、乾いた冷たい風が音をたてて吹き荒び頭上を抜けて行く時こそ大いに甘美だ。アルムで酒宴の広間が設えられ、献酌侍従たちが純正な出来栄えの杯をフィアナ騎士の隊長たちに手渡す時、杯がぶつかり合って音が鳴り、祝宴の卓机の上で最後の一滴まで飲み干される時が大いに甘美だ。海鳥と鷺の鳴き声、トラリーの波濤の轟音、メールジャの三人の息子たちの歌、マク・ルガハの口笛、フェルスガラズの低音男声、夏の始まりの月のカッコウの鳴き声、マグ・エスネの豚の鳴き声、デリーでの笑い声の残響が甘美だ」
そして彼はこの詩を歌った。

緑を頂く木々での低音、
波が岸に寄せ、
トラリーの波の力、
それらが白い鮭のリー川で会う時。

フィアナ騎士団に加わった三人の男、
彼らの一人は優し気で、一人は恐ろし気、
もう一人は星を観ていて、
彼らはどんな旋律よりも甘美だった。

大海の紺碧の波、
人が進路を見分けることを出来ない時、
乾いた土地で魚を一掃するうねり、
眠りに落ちる旋律、その効果は甘美だ。
素早い行動のフィンの息子フェルガル、
長く、澱みない彼の栄光の経歴、
心を晴れやかにしない旋律を作曲したことはなかった、
私は彼の曲で落ち着いて休息した。

4.「ロックはフィンの屋敷に来たから」及び「矛盾する不思議」

「勝利と祝福あれ。では、あなたが今までに諷刺したり非難した全ての人々の名前を教えてほしい。片腕、片足、片目でありながら機敏な動きの結果としてあなたがたから逃げおおせてアイルランドのフィアナ騎士団よりまさった者、そして『ロックはフィンの屋敷から来たから』という言い回しが使われるようになった理由を教えてほしい」
コナンはそう言った。
「お答えしよう。ある日、フィアナ騎士団の隊長たちと私はテウァル・ルアハーに行き、その日は小鹿一匹以外に狩りで獲れなかった。そしてそれが調理されると、取り分けるために私のところに持ってこられた。私はそれをフィアナの隊長たちに取り分けたが、私の取り分は尻の骨しか残っていなかった。ロナンの息子のゴヴァ・ガイセがやって来て、私に尻の骨を寄越すように要求した。私はそれに応じて、彼に与えてやった。すると彼は脚が速いから私が分け前を与えたのだと宣言した。そして彼は広場に出て行った。ほんの少し離れただけで、彼の兄弟であるロナンの息子のカイールテが追い付いて尻の骨を取り戻してきた。そしてそれ以上論争を呼ぶことはなかったが、そう長くない間に、片目で片腕で片足しか持たない、巨大で不快な、くたびれ、黒く、忌まわしい巨人が私たちに向かって飛び跳ねてくるのを見かけた。彼は私たちに挨拶した。私は挨拶を返してどこから来たのかを訊ねた。彼は答えた。
『(片手片足にもかかわらず)私は力強い手と足を使ってやって来た。フィンよ、お前よりも気前よく贈り物をする人は世界には一人もいないと聞いたから、それゆえあなたから富や貴重な贈答品を乞うために私は来た』
私は答えた。
『もしも全世界の富が私のものだったとしても、私はそっくりそのまま送るだろう』
すると彼は宣言した。
『どんな人にも拒絶しないといった者たちはみんな嘘つきだったぞ』
その巨人は言った。
『では、お前が手に持っている臀部(の骨)を持たせてほしい。そうしたら臀部の長さだけ距離を置いて、最初の一歩を踏み出すまで捕まえないという条件で、私はフィアナ騎士団に別れを告げよう』
これを聞いて私は巨人に臀部を手渡すと、彼は町の高い柵を跳び越えた。そして彼は片足で凄まじい速さを出して、フィアナ騎士団を全て置き去りにして行った。
フィアナ騎士団の隊長たちはそれを見て、巨人を追いかけ始めたが、一方で私は吟遊詩人の一団と彼らの成り行きを見るために砦の頂上に行った。巨人が彼らをかなりの距離で突き放しているのを見ると、私は走行用の衣服を身に着け、マク・アン・ルインただ一つを持って、他の者たちを追いかけて行った。私はスリーヴ・アン・リー王の山で最後尾を、リムリックで中団を、アース・ルアン現在のアスローンと呼ばれるアース・ボー牛の浅瀬でフィアナの隊長たちを、コノートのクルアハンの右手側にあるリン・アン・ルアイグで先頭を追い越した。そこで彼(巨人)は投槍の射程内よりも離れてはいなかった。巨人は私より前にモドルンの息子のエス・ルアドの滝を足を濡らすことなく渡り、私は彼を追ってそれを跳び越えた。それから彼は進路をビン・エダールの河口ホウス岬に向けて、アイルランドの海岸線を右手に進んで行った。巨人は(河口)を飛び越えた。そしてそれは海の上を飛ぶのと同じような跳躍だった。私は彼に後ろから飛びついて、腰のくびれたところで捕まえて、地面に倒してうつ伏せにさせた。
そして巨人は叫んだ。『卑怯な真似をしたな。私が指定した戦いはお前とではなく、フィアナ騎士団との戦いだったからだ』
私は『私がいなかったのなら、フィアナ騎士団は万全とは言えない』と答えた。そのまましばらくして、ルアハー・デザのリガン・ルミナが来た。共にフィアナ騎士団で最も速いロナンの息子のカイールテが彼に続いた。どちらも投槍を構えて、巨人を貫いて私の腕の中で殺すために投げようとしていたが、私は彼らの攻撃から彼を守った。この後、フィアナ騎士団の本隊が到着した。彼らは、まだ巨人が殺されていないことの、その遅延の理由を訊ねた。巨人は言った。
『良くない相談事だな。なぜなら、私よりも優れた者が、私殺しの賠償で殺害されるからだ』
私たちはその機会にその巨人をきつく縛った。すぐ後にブアズハンの孫のブラン・ベグが来て、私と全てのフィアナ騎士団を招待するために来て、その場にいた者たちは巨人を伴って彼の屋敷に行った。その時には私たちの歓迎のために祝宴会場が用意されており、巨人は屋敷の中央に引っ立てられてそこで衆目に晒された。彼らは彼が何者であるか訊ねた。
『私の名前はディーカンの息子のロックといい、南の宮殿のオェングス(神)の牧人の息子だ。フィンよ、私の妻はお前の養子である”ダス・カインの息子のスギアス・ブレク”に驚くべき激流のような愛情を向けた。そして一般のフィアナ騎士と特に彼女の愛人について彼らの素早さや武勇を誇らしげに語っているのを聞かされた私の心は酷く傷ついたのだ。だが彼女は私を嘲笑った。それから私は最も信頼する友人である宮殿のオェングスに自らの不運を嘆くために会いに行った。すると彼は私を変身させて、お前たちが目の当たりにしてきたように魔法の風の如き速さを授けたのだ。これがお前たちに聞かせる私の経緯であって、お前たちはこれまでに私に与えてきた傷でもう十分だと満足せねばならない。』
そしてその巨人はすぐに自由の身とされて、それからの彼の足取りを知ることはなかった。『ロックはフィンの屋敷から来たから』という言い回しはこのような状況から生まれた。コナンよ、これがあなたの質問に対する答えだ」
このようにフィンは言った。そしてコナンは言った。
「勝利と祝福あれ。あなたの話を聞くのはとても楽しく満足できるので、フィアナ騎士団の中で見つかった最も不思議なことを教えてください」
フィンは答えた。
「フィアナ騎士団の中に耳の聞こえない者がいる。だが彼が記憶していないフィアナ騎士団を主題として書かれた詩歌は決してなかった。


他にも不思議があって、木の義足の男が走ることでは全てのフィアナ騎士団の犬、馬、人間に勝っている。
他にも不思議があって、昼だろうと夜だろうと目の見えない男が決して槍投げを外さない。
※Maud Joyntの校訂版より


他にも不思議があって、つまり、最後の七年間、私の妻だった彼女は昼に生きて夜に死んでいたが、それでも私が彼女ほど愛している女性はいない。
他にも不思議があって、年ごとに男と女になる者がいる。彼が男性である間に子供を産ませ、女性であるときに彼自身が子供を産んだ。
他にも不思議があって、つまり私の所有するクリウサンの息子のフィアフラの槍は、巧みに投げつけられた者が決して生きて逃れることができないにもかかわらず、その切っ先が傷を負わせることはない。


それは石突を前にして投げると、人や動物に傷を負わせるが、切っ先を前にして投げると人や動物を傷つけることはない。これらがフィアナ騎士団の最大の驚きだ」
※Maud Joyntの校訂版より


5.クアナの屋敷でのフィンのもてなしとフィアナ騎士団の歌唱

コナンは言った。
「フィアナ騎士団長よ、勝利と祝福あれ。あなたは明らかな記憶と甘美な言葉によってこれらのことを述べた。では、”クアナの屋敷でのフィンのもてなし”という言葉の意味を教えてほしい」
フィンは言った。
「そのことについて真実を伝えよう、コナンよ。オシーン、カイールテ、マク・ルガズ、ディルムッド・オディナ、そして私が他でもないあの日にフェルガルの塚に居合わせたことがあった。私たちは五匹の犬、すなわち、ブラン、スコーラン、セル・ドゥブ、ルアス・ルアハー、アヌアルを引き連れていた。ほどなくして、私たちは粗野で背高く大きい巨人が近づいてくるのを見かけた。彼は鉄のフォークを背負っており、フォークの又の間にうめき声をあげる豚を挟んでいた。成熟した年若い乙女が後ろに続いて、その巨人が彼女の前を進むように強制していた。
『誰か進み出て、彼らに声を掛けてきなさい』と私は言った。
ディルムッド・オディナが追いかけたが、彼らに追いつくことはなかった。他の三人と私は出発してディルムッドと巨人を追いかけて、ディルムッドに追いついたが巨人と少女に追いつくことはなかった。そして陰鬱な魔法の霧が私たちと彼らの間に立ち込めたために、私たちは彼らがどの道を進んだのか見抜くことができなかった。霧が晴れると私たちはすぐ近くの浅瀬の縁に屋根が明るく快適そうに見える屋敷を見つけた。その屋敷に進むと、その前には二つの泉がある芝生が広がっていた。一方の噴水のきわに無骨な鉄の器が置かれ、もう一方の噴水のきわに青銅の器が置かれていた。
私たちは屋敷の中で、扉の側柱の右手に立っている年老いた白髪の男と彼の前に座っている美しい乙女に会った。火の前で粗野で武骨な巨人が忙しく豚を料理しており、火の反対側では鉄灰色の髪をして、顔に十二の目があり、それぞれの瞳には十二の不和を発する息子予兆・芽生えの喩え?を映している年老いた男がいた。家の中には、白い腹、漆黒の頭、濃い緑色の角、緑色の足のある雄羊もいた。家の隅には、濃い灰色の衣服をまとった老婆がいた。これら以外の人は家にいなかった。そして扉の側柱の男が私たちを歓迎してくれた。私たち五人と猟犬は妖精の宮殿bruideanの床に座った。そして扉の側柱の男は言った。
『フィン・マックールとその部下に恭順の意を示そう』
『私に言わせてみれば、男が物乞いをしても何も手に入りやしないさ』
巨人はそう言ったにもかかわらず、立ち上がって私たち敬意を表した。
しばらくすると突然喉が渇いたのだが、そのことで愚痴を漏らし始めたカイールテ以外に誰も気づいていなかった。
扉の側柱の男は言った。
『カイールテ殿、不平を言う理由はありませんぞ。ただ、あなたの好きなほうの泉からフィンのために水を汲みに外に出ればよいのですから』
カイールテはそのようにして、なみなみと注いだ青銅の容器を持ってきて私に飲まさせてくれた。飲んでいる間にはその水は蜂蜜のような味わいだったが、口から離した時には胆汁のように苦くなった。そうして私は刺激的な痛みと死の予兆に襲われ、毒を飲み干したことから苦痛に苛まれた。私にはできたのだとしても、そうだとわからさせられることは難しかった。そして私がそのような有様だったことから、カイールテは私の喉の渇きのために言い放った不平よりも激しく嘆いた。扉の側柱の男はカイールテに出て行って別の泉から水を汲んでくることを望んだ。カイールテはそれに従い、なみなみと注いだ鉄の容器を持ってきた。水を飲み干して苦く感じた結果なのだが、飲んでいる間に、戦いの中でも感じたことがないほどの苦難を経験した。しかし器から唇を離すとすぐに、私の顔色と容態は回復して私の部下たちは喜んだ。それから屋敷の男は茹でている豚肉がまだ調理中なのか訊ねた。巨人は答えた。
『もう出来上がりさ、だからおれに取り分けさせておくれ』
屋敷の男は言った。
『どのように取り分けるつもりだ』
後ろの四分の一つまり脚の肉をフィンに。後ろのもう片方の四分の一をフィンの四人の部下たちに。前の部分はおれに。背骨周りの肉とランプ下腰部の肉は火の反対側に座っている老人と、向こうの隅の老婆に。臓物はあんたとその対面にいる乙女に』
屋敷の男は言った。
『誓って、公平な取り分と言える』
雄羊勇士が言った。
『誓って、全く公平な取り分とは言えない。私に関してすっかり忘れられているのだから』
彼はそう言って、私の四人の部下たちの前に置かれていた四分の一を横取りして隅に持って行ってそこで貪り食べ始めた。
四人はすぐさま一斉に剣で雄羊を襲って、激しく攻撃したものの、雄羊はほとんど意にも介さなかった。そして、攻撃は岩石に跳ね返されるようだったので、彼らは仕切りなおして席に着くしかなかった。
『私が真相を語ろう。あなたがそうであるように四人の部下たちのような仲間を悪意から所有することが運命づけられている者が彼なのだ。彼はあなた方の食べ物を奪って目の前で貪るために一匹の羊の中に入り込んだ』
十二の目を持つ男はこのように説明した。そして羊のところに行って、脚を捕まえて戸の外に勢いよく放り出して、地面に仰向けに落ちた。そしてこの時から彼のことは見かけなかった。
この直後、老婆が飛び上がって、彼女の灰色の上掛けを私の四人の部下に投げつけ、萎れてうなだれた四人の老人に変身させた。それを見て私は恐れて警戒感を抱いた。扉の側柱の男はこれに気づくと、私に彼のところに来て、彼の胸に頭を乗せて眠るように望んだ。私はそのようにした。そして老婆が起きて、彼女の上掛けヴェールを私の四人の部下から取り払った。私の目が覚めた時には彼らの姿が元に戻っており、私は幸せに思った。
扉の側柱の男は言った。
『フィン殿、この屋敷の者の見た目と配役に驚きましたか?』
私はこれ以上に驚かせられたものを見たことがないと保証した。
男は言った。
『それではこれらのことの全ての意味をお教えしましょう。
あなた方が最初に見た鉄のフォークの狭間でうなり声をあげる豚を運んでいて、向こうにいる者の名前は”怠惰”です。
私の近くにいて、彼を追い立てていた若い少女は”思考”です。思考が怠惰を働かせていたのです。目を輝かせた思考は、脚で一年間に歩くことができる距離よりもずっと動きます。向こうにいる輝く目の老人は”世界”を意味します。そして彼は誰よりも強力ですが、それは彼が雄羊を無力にすることによって証明されました。あなたが見たその雄羊は、”人の罪”を意味します。向こうの老婆は枯れた老いであり、彼女の衣類ヴェールが四人を枯れさせたのです。あなたが二口飲んだ二つの泉は虚偽と真実を意味します。嘘をついている間は甘美ですが、最後は苦々しいものです。
イニシュキゥイル歌の島のクアナが私の名前です。フィンよ。私はここに住んでいませんが、あなたが賢く、広く知られているので慈しみを感じましたから、あなたに会うために前の道にこれらのものを配置したのです。そしてこの話は世界が終わるまで、クアナの屋敷のフィンへのもてなしと呼ばれるでしょう。あなたと部下の方々は一緒になって五人で朝まで眠ってください』
私たちはそれに応じた。そして朝に目が覚めると、私たちは武器を持って猟犬たちとフェルガルの塚にいることに気づいたのだった。
これがあなたの質問に対する答えだ、コナンよ。ところであなたがそのままで眠らない理由は何なのだ」
フィンは言った。そこでコナンは答えた。
「よせ、フィン。心地よい会話を楽しむには時が短いだろう。さて、アイルランドで最初にフィアナの低音歌唱が作られた場所と、何人が従事したのかを教えてほしい。」
フィンは言った。
「そのことの真実を教えよう。デガズの息子のミルヴェルの子ケルヴァズの三人の息子たち、エソル、ケソル、テソル。彼らがアイルランドで最初に作り、九人でそれを歌っていたのだ。コナンの息子のフォサドがその後に作ったが、九人でそれを歌うという習慣が私の時代まで続いていた。私はそれを五十人を使って歌わせている。コナンよ、これがきみの質問に対する答えだ」

6.フィンと猟犬ブランとスコーランの血縁関係

コナンは言った。
「勝利と祝福あれ。では、ブランとスコーランにあなたとどのような血縁関係があるのか、そしてどこで彼らを見つけたのか、そしてフィアナ騎士団の戦列の中にいる母方の三人の種違いの兄弟が誰なのかを教えてほしい」
フィンは言った。
「私の母である、ヌアザの息子タドグの娘、ムウィルネ・モングカイウ美しい髪のムウィルネがかつて私を訪ねた折りに彼女の姉妹であるタドグの娘のトゥルネを連れていた。その時、私はアルスターのフィアナ騎士団の隊長であるウラン・エフタハとカス・クアルンゲの息子のフェルグス・フィンモールを伴っていた。ウラン・エフタハはトゥルネに求婚して彼女を深く愛した。そして私は要求した時にいつでも彼女を安全に呼び返すことができ、フィアナ騎士団の隊長たちが安全な帰還を保証するという条件で彼に嫁がせた。私がこのような条件を課した理由は、ウランはコレン・フェズリムの王女であるウフトデルブという名前の女妖精に心を寄せられており、彼女がトゥルネを害そうとする恐れががあったからだ。そして私は彼女のことをオシーンに保証させ、オシーンはカイールテに保証させ、カイールテはマク・ルガズに保証させ、マク・ルガズはディルムッド・オディナに保証させ、ディルムッドはゴル・マク・モーナに保証させ、ゴルはエオガン・タイレアフの息子ルガズ・ラーガに保証させ、ルガズはウランに保証させて言った。
『フィンが彼女のことを求めるのが適切な時に、あなたは義務として彼女を必ず安全に返すという条件で、私はこの乙女を引き渡す』
このような相互の契約によりウランは彼女を自分の家に連れて行き、ずっと一緒にいて妊娠させた。そしてウランに親密な女妖精は変装してトゥルネを訪問して言った。
『姫様、フィン様はあなたの長寿と健康を願って盛大にもてなしたいとお考えです。急いでおりますのであまりご説明できませんが、私についてきてください』
その乙女が彼女と外に出て行って、屋敷からある程度離れたところで、彼女は衣服の下から魔法の杖を取り出して乙女を打ち、これまで人々がみたこともないような美しいグレイハウンドに変身させた。そしてアース・クリアス・メアグライスアイルランド西部ゴールウェイ湾の王であるフェルグス・フィンリアスの屋敷に連れていった。さて、彼は次のような人となりであった。つまり彼は世界で最も社交的でない人であり、猟犬が彼と一緒に同じ家に留まることを許さなかった。それにもかかわらず使者女妖精は彼にこう言った。
『フェルグス様、フィン様はあなたの健康と長寿を願って挨拶の言葉をお贈りになりました。そして彼がここに来るまでこの犬の世話を良くするように求めております。この雌犬は身重ですので、世話をしてやって、狩りには連れ出さぬようにお願いします。そうしなければフィンはあなたに感謝しないでしょう』
フェルグスは答えた。
『このような命令には驚かされた。フィン殿は私が世界で最も社交的ではないとよくご存じなのだからな。だが、フィン殿が初めて贈ってくれた猟犬に敬意を払って彼の要求を拒まないことにしよう』
フェルグスについて言うと、彼はすぐに自分の猟犬を連れ出して彼女の価値を試した。そして猟犬は走れば必ず獲物を追い詰めたのでその日から毎日、一か月間大量の獲物を得た。その時期が終わると彼女は身重になってもう狩りに連れ出されることはなくなったが、フェルグスはその後も強い愛着を抱いていた。そしてフェルグスの妻はその時にお産の床についており、猟犬が雄と雌の二匹の子犬を産んだのと同じ夜に赤子を産んだ。
だが、フェルグスの妻が出産すると、その夜にフォモールがやって来て赤子を連れ去るということが七年行われていた。しかし、エスレンがその年の終わりにフィンに会い、フェルグス・フィンリアスの屋敷で会合を開き、フォモールの厄災からフェルグスを救った。
フィンは、彼の母の姉妹がウラン・エフタハの屋敷で生活していないとわかった時に、彼女を安全に取り戻すというフィアナ騎士団の誓約を果たすように主張した。そしてルガズは最後にその誓約を託されていた。ルガズはウランがトゥルネを生きて安全に返還しなければ彼の首を獲ってくることで誓いを果たして彼女を取り戻すとフィンに誓った。ウランはルガズに義務を果たさなくてよいようにトゥルネを見つけることができなければ身柄を委ねると約束して彼女を探しにいく猶予を与えてくれるように求め、ルガズはそれを許可した。そしてウランはすぐさまその後妖精の恋人リャナンシーであるウフトデルヴがいたコレン・フェズリムの妖精の塚に行って、訪問した目的を伝えるとウフトデルヴは言った。
『それでしたら、あなたの人生が終わるまで私を配偶者として喜んで扱ってくれるというのなら、窮地から救って差し上げましょう』
ウランは彼女の要求をかなえた。彼女は乙女を連れ出すためにフェルグス・フィンリアスの屋敷に行って、屋敷から少し離れたところで本来の姿に戻した。そしてウフトデルヴは乙女を私のところに連れてきて、彼女は犬に変えられる前に妊娠しており、雄と雌の子犬を出産していたことを伝えた。そして彼らは私が人間か犬かを選んだ方になると彼女は言った。私は、彼らを与えてくれるなら犬のままのほうが良いと答えた。その間に、ルガズ・ラーガは保護する者として私にトゥルネを妻として与えることを求めて、私は彼女を嫁がせた。そして彼女は三人の息子、スギアス・ブレク、エドガン・ルアズ、カイル・クロジャを産むまでは彼と一緒にいた。彼らはブランとスコーランの生母が産んだ三人の息子だった。コナンよ、これがあなたの質問に対する答えだ」
このようにフィンは言った。

7.スリーヴ・グリンの妖精姉妹

そしてコナンは言った。
「勝利と祝福あれ、フィアナ騎士団長。我々に教えてくれた知識は良かったのだから。どうか、あなたが白髪灰色になった原因を教えてほしい。なぜ、あなたの容貌に大きな瑕疵が負わされたのか。あなたの髪が台無しになったことと、あなたの肌寒さがどれくらい長く続いたのかを」
フィンは言った。
「その本当のことを話そう。ある日のこと、フィアナ騎士団の貴人たちと一緒にアルムの丘に居た時に二人のトゥアハ・デ・ダナンの女性がやって来て、二人一緒に私に求愛してきた。彼女たち二人の姉妹の名前はクアルグネの娘のミルフラズとアーニェだった。アーニェは彼女の夫は決して老化しないと自慢した。だがミルフラズはこれを聞いて、全てのトゥアハ・デ・ダナンの者を一ヵ所に呼び集めて、スリーヴ・グリンクリン山のなだらかな山腹に魔法の湖を作らせた。この世の人間は誰であろうとこの湖に入浴すれば老人になってしまうのだった。
ミルフラズは灰色の子鹿に変身して、アルムの丘の野原に来て、その時偶然にも私は一人でいた。私は笛を吹いたが、ブランとスコーラン以外には犬も人も聞いていなかった。彼らが来ると私は子鹿の後をつけさせて、その場の人々も知らないうちに、そこから北部のアルスターのクアルグネにあるスリーヴ・グリンに到着するまで追いかけた。子鹿と猟犬の距離は近いといえども、猟犬と私の間の距離よりは離れていた。それにもかかわらず山にたどり着くと、彼女子鹿は猟犬との距離を倍に引き離したので、どこに進んで行ったのかもわからなくなった。このようにとても長い道のりでその猟犬たちから逃れるような子鹿に、私はとても驚かされていた。ほどなくして、私は明るい湖のほとりで色白の可愛らしく美しい乙女を見つけた。彼女は悲しみ落胆しているように見えた。それで私は彼女のところに行って、どうして悲しんでいるのかを訊ねた。すると彼女は答えた。
『沐浴している時に赤い金の指輪を落としてしまいました。フィン様、もしこの湖から指輪を取り戻せなければ、あなたに真の英雄には耐えられないゲッシュ制約を課します』
私は泳ぎたくないと感じていたが、それでもそのゲッシュ制約に長く苦しむことはなかった。私は湖に指輪を探しに入って、それを見つけると乙女に返した。彼女は指輪を手に取ると素早く湖に飛び込んだので、彼女がどこに行ったのか見当もつかなかった。私は陸に上がったが、少し離れたところにある衣服にもたどり着くことが全くできなかった。なぜなら私はくたびれた老人になってしまっていたからだ。猟犬たちが私のところに来たが私の事がわかっていなかった。彼らはわたしのことを放っておいて湖をあちこちに回り始めた。そしてカイールテがフィアナ騎士団を率いてすぐにやって来て、私の前に立っていたがわたしのことがわからなかった。カイールテは言った。
『ご老人、教えて欲しいのだが、子鹿を追っていた二匹の猟犬と、長身で勇ましい姿の男を見かけなかっただろうか。あなたはこの湖でどれほど長く漁師をしておられるのですか』
私は答えた。
『彼らのことを見かけた。彼らが去って行ってからさほど時間は経っていない』
しかし私がこのような有様のために、そして敢えて彼らに私自身がそこにいると言わなかったことに依然として深く落ち込んでいた。
その後すぐにフィアナ騎士団の本隊がやって来て、私は自分の冒険の最初から最後まで彼らに教えた。彼らは私の話の全てを信じて三度叫び声をあげた。その時以来、その湖はロッホ・ドグラ悲しみの湖と呼ばれている。彼らは私にこじんまりとした馬車を作って乗せ、クアルグネクーリー半島のクリンの妖精塚へ運んだ。フィアナ騎士団の七つの大隊が妖精の塚の周りに集まって、三日三晩そこを掘り起こし続けた。そして最後にはクアルグネのクレンがその妖精の塚から出てきた。彼は赤い金の器を手にしており、その器を私に贈った。そこを飲むことで、私は即座に本来の姿かたちを取り戻し、それまで装っていた異常な姿は白髪を除いて消え失せた。それというのも、私の髪の半分は未だ輝かしい銀色のままだった。クレンはそれを元の色に戻そうと提案したが、私もフィアナ騎士たちもそのままの姿でいることが喜ばしかったので、そうしてもらおうとしなかった。その器はマク・レスに渡され、彼はそれを飲んだ。彼はそれをディーレンに手渡し、彼もまたそれを飲んだ。そしてディーレンが隣の者にその器を手渡そうとしている時に、器は傾いて手から転げ落ち、緩い地面に沈み、私たちの目の前で深く埋まってしまった。私たちは全員で急いでそれを戻そうとしたが、地面に飲み込まれてしまったのだった。これは私とフィアナ騎士団にとって痛恨の極みだった。なぜなら、もし彼ら全員がそれを飲んでいたのなら予知と真の智慧を手に入れていたからだ。それが沈んだ場所に生えた蝶の霊樹が生えて、断食中の朝にそれを見た者は誰であろうとその一日の出来事の予知が得られた。このようにして私は白髪になったのだ、コナンよ」
フィンはこう言った。

8.月の泉の智慧の獲得

そしてコナンは叫んだ。
「あなたが長生きしますように!
では、あなたに与えられた間違いのない真の予知はどのようにして得たのか。ただし、クアナの屋敷で得られた予知や鮭の予知ではありません」
フィンは言った。
「お答えしよう。トゥアハ・デ・ダナンのブアンの息子ベグが保有する月の泉があった。その水を一杯飲めば誰であろうと予知と真なる智慧を得られる。二杯飲めば真なる予言者になることができ、飲んだ者の息子も同じようになる。その一杯の水には300オンスの赤い金の価値がある。ベグの三人の娘であるテシオン、テスィヘン、アルウァハがその泉を管理しており、中でもその泉の水を購入しようとする者に水を与えるのはテシオンだった。
ある日、たまたま私は隣接している葦原でディーレンとマク・レスの二人だけを伴って狩りをしていた。私たちが泉に近づくと三人の女性が走ってきて私たちの進路に対峙した。そしてテシオンが私たちを止めるためにその泉の水を一杯私たちに向かってまき散らした。水の一部が口の中に入ったので、その時以来私たちは真なる予知の力を有しているのだ。それではコナンよ、これがきみの質問に対する答えだ」
フィンはこのように言った。

9.フィンの死因となる愛とネイドの屋敷での歓待

そしてコナンは言った。
「勝利と祝福あれ。では、あなたにとって忘れえないが、失うことを恐れない愛の思い出を教えてほしい。そしてネイドの屋敷で受けた歓待も」
フィンは言った。
「きみはそのことを知っておくべきだ。ネイドはアイルランドでもっとも不親切な吝嗇家だった。しかしそれでも彼の富は莫大で、屋敷は広大だった。彼の砦には三つの扉があり、一つの扉にはそれぞれ七人の御用聞きアスホウァルクがついていた。彼の歓迎は盛大なものだったが、それでも扉から出て行って満足していた人は一人もいなかった。ある日、私は偶然にネイドの妖精の宮殿に来た。私は一人で、私より先にいた人はおらず、そこにはネイドと彼の妻と娘がいた。私が屋敷内の席についたところ、ネイドはどうして来たのかと理由を訊ねた。私は歓待を受けに来たと答えた。そしてネイドは言った。
『私が思うに、こちらに来て歓待を求めるとはあなたは当家の評判を聞き及んでおらぬようだ。私がネイドと呼ばれるのは、つまりネイドとは吝嗇家Neoidのことだからだ。そして私は世界でもっともケチな男だ』
私は言った。
『あなたが自由意志で私をもてなさないのなら、あなたは自らの意志に反することになるだろうと約束しよう』
するとネイドは私を追い返すために立ち上がった。私は場内で彼を攻撃して、テーブルの向こうまで彼を投げて、無力にひれ伏させた。そして妻と娘の目の前で彼をきつく素早く拘束した。そして女性むすめをすぐに屋敷内のベッドに連れていった。そしてネイドは言った。
『仲良くしよう。そしてあなたに娘を嫁がせよう。なぜなら彼女に良き夫をめぐり合わせたいと思っていたのだから。これは良い提案だと思う』
私は彼の拘束をほどいて、仲良く交流した。宴会が私たちのために準備されて、ネイドの娘のアイフェが私に嫁ぎ、その夜にベッドで寝た。
翌朝に私たちが起床した時にアイフェは私に、財産の代わりに屋敷の低木の植え込みにいたクロウタドリを追いかけて生きたまま彼女のところに連れて行くという誓約を求めた。そして私は彼女が要求した通りにした。しかしアイフェは鳥を手に取るとそれを放して飛ばさせてやった。そして彼女は私に、毎年それを捕まえなければならず、さもなければ捕まえなかったその年に私が死ぬという重い誓約ゲッシュを課した。
ほどなくしてフィアナ騎士団の隊長たちがネイドの娘のアイフェとの婚約に出席するために集まった。そして猟犬や召使いに与えられた膨大な食べ物や飲み物を見て、ケチな心のつかえが破裂して、それ以来はアイルランドでも三番目に親切な男になった。そしてコナンよ、これが私の死の一つなのだ」
そしてフィンは言った。
「そして私には別の死もある。すなわち、ある日偶然に私は南部のマグ・クレディクレディの平原にいて、見目麗しい若き乙女に出会った。私は、彼女にどうして一人でさ迷っているのかを訊ねた。
『夫を探しています』
彼女は答えた。
『夫とはどのような人物なのか』
私は訊ねた。
『特別な男性ではありませんが、ある条件をかなえてくれる人を探しています』
『どのような条件を求めているのか』
彼女は答えた。
『あなたの目の前の石を跳び越えることです』
私は武器を地面に放り投げて、即座にその石を跳び越えた。
彼女は言った。
『そのようなやり方ではありません。あなたの背と同じ高さにした手のひらの上に石を置いて、それから跳び越えるのです』
私はそのようにした。その時ほど跳躍することを難しいと感じたことはなかった。そして私は彼女に名前を聞いた。すると彼女は言った。
『私の名前はカイン山スリーヴ・カインのエーディンです。今夜は私の家においでになってください』
私は彼女と一緒に行った。・・・
そして彼女は私に、跳躍を怠った年に突如として死を遂げることになるだろうと話した。それゆえ、コナンよ、これが私の二つ目の死因、クレディの石を毎年跳ぶということだ。
そして私の別の死は、つまりスラナジィの豚を毎年殺して、殺す間に傷つけることなくうめき声をあげさせないという誓約ゲッシュを守ることにある。そしてそれを殺した者が調理場に運び、北風が吹き掛からないようにし、焦がさないようにしなければならない。そしてそれが運び込まれうる扉はすべからく閉じられていなければならず、その夜に訪問する通行路にある一つの町で誰も忘れられてはならない。コナンよ、これがきみの質問に対する答えだ」
このようにフィンは言った。

10.あてずっぽうの槍投げ

そしてコナンは訊ねた。
「勝利と祝福あれ。では、これまでに最も困った三つのあてずっぽうの投擲について教えてほしい」
フィンは言った。
「お答えしよう。ある日、クルムリンの塚の近くで狩りをしていた時にその時私がいた好ましくない狩場から私に向かって猪が飛び出してきた。そして猟犬やフィアナ騎士たちは夢中になって追いかけた。私はそれに槍を投げたが私の部下の立派な隊長の腸に突き刺さって、そして彼はすぐに息を引き取った。このことから、マンスターにあるボルグの浅瀬、あるいはボルグの砦と呼ばれるようになった。また、私がムインヒンの息子のエドヴォに投擲をして、彼は死んだ。私は三つ目に投擲して、ルアハーの息子イオムスを殺したことから、イオムスの山スリーヴ・イオムスと名がついた。私はこれらの三度の投擲によって取り返しのつかない行為をしたと感じた。それで私は三人の英雄のために墓を作り、そこで三人の名前が刻まれた。それゆえにこれまで私がしてきた投擲の中でも最も悲劇的な投擲なのだ」

11.フィンとコナンの娘の初夜と予知

そしてフィンは言った。
「すぐにベッドの用意をしてほしい。コナンよ、あなたがしてきた質問の時間が十分だと満足しているはずだ。私自身とフィアナ騎士団の困難の多くの事をきみに教えてきた。もう夜も更けたように思う」
そうして、コナンの娘のフィネルブ・フィンフィーアバッハ長い金髪のフィネルブはフィンと寝所を共にして一夜を過ごした。
フィンが眠っている時に恐ろしい幽霊が現れる夢を見て、恐怖のあまり三度ベッドから飛び上がった。そこでフィネルブは訊ねた。
「フィアナ騎士団長様、どうしてベッドから飛び上がっているのですか」
「トゥアハ・デ・ダナンを見た。彼らは私に喧嘩を吹っかけてフィアナ騎士団を殺戮しようとするだろう」
一方でフィアナ騎士団はというと、彼らはマグナのフォサーラズに夜営して、フィンの消息が知れなかったので悲しんでいた。ブアズハンの孫のブラン・ベグとフェルグスの息子ブラン・モールは翌朝早くに起きて、マク・レスのところに行って、フィンがどこで夜を過ごしていたのかを訊ねた。
(マク・レスは智慧を授ける水を二度飲んでおり、予知が可能だった)
マク・レスは言った。
「もちろん知っているが、女子供がそのことで私に意地悪したり予知をせがむようなことにならないように、悪いことを予知したくはない。しかしフィンとディーレンが昨夜宿泊したのはキン・スリーヴのコナンの屋敷だということは言おう」
それから二人のブランはコナンの屋敷に進んで行った。フィンは歓迎したが、フィンは彼の妻の婚礼にフィアナ騎士団を伴わないで出席したので彼らはとがめた。そこでコナンは言った。
「一か月後に祝宴を開こう。そこにフィアナ騎士団を共に飲み食いするために招待なされよ」
フィンはこのお膳立てに同意した。そうしてフィンとディーレンと二人のブランはフィアナ騎士団の野営地に赴いた。
「アルムの丘での祝宴の準備が整った。みんなで参加しに行こう」
ブランはこのように言った。彼らはアルムの丘に行き、フィアナの隊長たちはその夜の宴会を夢中になって楽しんだ。
しかしほどなくして百戦のコンの家系のコルマックの息子のカルブレ・リフィハーが彼らのところに真っすぐに来ているのを見かけた。そしてフィンは言った。
「喜んで解散しない限り、心地よい宴会をご破算にすることは誓約ゲッシュで禁じられているから、私たちのところに来るとは良くないことだ。だがそれにもかかわらずアイルランド上王の息子は、自分が宴会場で権利を享受することを当然だと思っているだろう」
「そうさせるつもりはありませんが、上王の息子を迎えるために宴会場の半分を明け渡して、残りの半分で自分たちはやりましょう」
オシーンは言った。彼らはそれに応じた。しかし、上王の息子に割り当てられた区画で、その後、ドヴナルの息子フェイルヴェ・モールとドヴナルの息子フェイルヴェ・ベグという二人のトゥアハ・デ・ダナンが席につくということが起こった。そして上王の息子に割り当てられた区画は、彼ら自身がそこの席に座ることになったというだけで爪はじきにされたのだと宣言した。
フェイルヴェ・ベグは言った。
「私たちが今夜、このような侮辱と嘲笑の的にされたということは悲しいことです。ですが、私たちに辛く当たらさせるということがフィンの狙いなのです。そして当のフィンはといえば、トゥアハ・デ・ダナンの中でも三人の指折りの優れた男が婚約している女性を、彼女の両親を意向に反してまでして手に入れてしまったのです」
しかし、この二人は翌朝早く、夜明けに出立してマグ・フェバルのフィンバルのところに行った。そしてフィンとフィアナ騎士団がトゥアハ・デ・ダナンに与えた屈辱とその憤慨を知らせた。

12.コナンの屋敷の戦い

マグ・フェバルのフィンバルはというと、彼は王だったのでアイルランドの各地に使者を派遣して全てのトゥアハ・デ・ダナンを招集した。
そして一か月間で各地からダーグ湖のほとりに整備された六つの大隊が集まった。そしてこの集結はコナンがフィンとフィアナ騎士団のために祝宴を準備していたその日に行われた。
コナンは女性の使者であるソイストレアハをテウィル・ルアハーに派遣してフィンとフィアナ騎士団を招待した。彼女はフィンに伝言を届けると、ダーグ湖のほとりを通って戻っていたところ、トゥアハ・デ・ダナンの者たちが彼女の旅路を見ていたので、フェルヴェ・ベグが彼女の後をつけて近況を訊ねた。彼女は前にフィン・マックールのところにいたと知らせた。フェルヴェ・ベグはフィンがどこにいて、どれほどの数の部下を率いているのか尋ねた。
「テウィル・ルアハーで彼と別れました。彼に同行している者は千人です。」
彼女はこのように答えた。そして彼女はフィンがキン・スリーヴのコナンと共に夜を過ごしたことも語った。フェルヴェはこれを聞くとその女使者を剣で打ち据え真っ二つに斬ったのだった。そして彼は彼女の死体を引きずって川に投げ入れた。このことからその小川はドゥブゲルタハと呼ばれるようになった。
フィンはというと、女使者を追っており、その時に彼に同行していた部隊の大半はクラン・モーナから構成されていた。なぜなら、カイールテの息子のフィン、マク・レス、ルガドの息子のエオハズ・モール、オシーンの息子のスコルブ・シュケーニまたはドルブ・シュケーニ、ネヴァンのカイル・クロジャ以外には彼らの代役をこなせる者はいなかったからだ。
フィンはゴルに知らせて言った。
「ゴルよ、私はこの時より以前にどのような婚礼に参加しても恐ろしいということはなかった。だが、私の軍勢は数では少ない。なぜなら、良くない予言、つまり私に喧嘩を吹っかけて私の部下を殺戮しようとしていることを予知したのだから」
「この度の奴らの攻撃からあなたをお守りします」
ゴルは言った。その後、彼らはコナンの屋敷への道を進んで行った。コナンは彼らを心から歓迎して、宴会場に案内した。フィンは扉の側の寝椅子に座り、ゴルは彼の右に、フィネルブは彼の左手に座った。他の者たちは特に区別することなく思い思いの場所に座った。
一方、マグ・フェバルのフィンバルとトゥアハ・デ・ダナンはというと、魔法の覆いFeigh Fiadhに身を包んで、見られることなく、力強く俊敏に、先を争う者はおらず遅れることなく、武装してよく整備され隊列が整っている十六個の大隊として行進してキン・スリーヴのコナンの屋敷の正面の平野に着いた。
「ゴルがフィンの護衛を務めていては、我らではほとんどどうしようもないぞ」
彼らは言った。
「厳重に警戒されていたとしても私がフィンを屋敷から誘い出すから、ゴルは彼を守れませんわ」
女ドルイドのエスネが言った。彼女は屋敷に行って、その外でフィンの対面に立った。そして彼女は言った。
「私の前にいるのはどなたですか」
「私だ」
フィンは答えた。
「すぐさま外に出てこないと、真の英雄には決して耐えられない誓約をあなたに課します」
そのように彼女は言った。そしてフィンは誓約に苦しむことなく、ただちに歩いて外に出てきた。フィンが外出したことにカイールテ以外に気づいた者はいなかった。フィンは女ドルイドのエスネのところに歩いて行った。同時に、トゥアハ・デ・ダナンは、燃えるようなくちばしを持った暗い鳥の群れを(コナンの)屋敷に飛ばした。そしてこれらの鳥は中にいる人々の胸元に留まり、焼いて苦しめたので、若者や女性たち、子供たちは四方八方へと逃げていった。そしてコナンの妻のカナナは屋敷の外の川で溺れ死んだ。
それから女ドルイドのエスネはフィンに競争を挑んだ。
「あなたを呼び出したのは競争するためでした」
「距離はどうするつもりだ」
フィンは訊ねた。
「西のドレ・ダ・ソークから東のアース・モールまで」
彼らはそのように決めた。そしてフィンは彼女よりも先に浅瀬を渡ったが、一方でカイールテは追いかけていた。そこでフィンはカイールテを催促してこのように言った。
「自分の走りと速さを恥じなさい。女性がお前を置き去りにすることができるのだから」
するとカイールテは前に飛び出し悲壮な面持ちで跳躍して、南部のドレ・アン・テナハで彼女の胸に肩をぶつけると、向き直って彼女の腰を剣で一閃して真っ二つにしたのだった。フィンは叫んで言った。
「勝利と祝福あれ。これまでお前が放ってきた一撃は良いものだったが、今以上の一撃はなかった」
それから彼らが屋敷の前の広場に戻ると、魔法の覆いを脱いだ後に軍容を整えているトゥアハ・デ・ダナンに出くわした。そこでフィンは言った。
「この砦で敵のど真ん中に陥ってしまったようだ」
そうして彼らは背中合わせになって、全ての戦士たちに取り囲まれて攻撃されたので、フィンは不利な戦況に弱音のうめき声を漏らした。
ゴルはこれを聞いて叫んだ。
「トゥアハ・デ・ダナンがフィンとカイールテを誘い出して我らから引き離したから悲惨なことになっているのだ。彼らを助けに急いで行こう」
そこで彼らはキン・スリーヴのコナンと彼の息子たちの支援を受けて戦功を挙げて虐殺すると心に決めて密集して一体となって緑地に撃って出た。
さて、誇り高く攻撃的な勇士たちの長にして、肉体を斬り刻む残忍な英雄、雷鳴の如き恐ろしい叫び声、戦いで肉片の花を咲かせる無敵の枝、コノートの王カルブレ・キンデルグの息子のケト・マク・マガハの息子のサイズヴレの息子のコナルの息子のアイド・キンフラーの息子のアイド・ダナズの息子のガラズ・グルンドゥブの息子ゴル・マク・モーナは激怒した。彼の楯の下にそびえる山が如く。彼は最も勇敢な敵の首領をひれ伏させ、貴族の体を切り刻み、隊長の戦列を突破した。そして手足を寸断して頭蓋を割り、戦いの柱であるマグ・フェバルのフィンバルのところにたどり着いた。
彼らは互いに攻撃し始めて、死闘の末についに双方の王族の戦士は傷つき満身創痍となった。そしてゴルの重く激しい一撃がマグ・フェバルのフィンバルを打ち倒したのだった。フェルヴェはカイールテの手にかかって斃れた。
素早く傷つける英雄、ルガズの息子のエオハズ・モールは敵中に躍り出て兵士たちを斬り断ち始めるとついに猛々しいドン・ウアサに遭遇した。そして両雄は戦いを交え、最期には足と足、顔と顔を突き合わせてその場で死んだ。ラフタ・デルグはオシーンの息子のスコルブ・シュケーニに討たれた。ロハンはガラズ・グルンドゥブに討たれ、二人のスカルたちは互いの手にかかって相打ちになった。三人のドヴナルは誰の助けもなくモーナの息子の禿頭のコナンに討たれた。二人のカルブレはキン・スリーヴのコナンとその息子たちに討たれた。しかしアイルランドにおいてこの戦いほど恐ろしい決心で戦いが行われたことはほとんどなかった。どちらの陣営も対決する相手がいるその場から降伏したり一歩でも退くことを誰一人として考えないか、あるいは不名誉で罪深いことであると思っていたのだから。彼らフィンの男らしく血塗れで頑健なフィアナ騎士団と白い歯で見目麗しいトゥアハ・デ・ダナンはこの世界でも最も激しい戦いぶりの二つの集団だった。そして双方ともにその戦いでほぼ壊滅した。
直後に、その場にいなかったフィアナ騎士団の全部隊が接近してきた。しかしトゥアハ・デ・ダナンは彼らを見るや魔法の覆いを身にまとって大わらわで撤退した。フィンは戦いに加わった全ての者たちと同様に死闘の中で並外れた奮闘を果たした結果、彼自身も失神したのだった。オシーンはその戦いで失われたフィアナ騎士団の多さに驚嘆していた。なぜなら、フィンはキン・スリーヴのコナンの屋敷に千人の英雄たちを連れて来ていたが、百人を除いてトゥアハ・デ・ダナンに皆殺しにされていたのだ。そして彼らでさえ傷つき大量の血を失って弱り果てていた。またキン・スリーヴのコナンの部下の損害は数えきれなかった。フィンはというと、コナンの屋敷に運び込まれ、そこで一か月と二週間治療されながら過ごした。動けるようになると彼と生き残った数少ないフィアナ騎士団たちは広大なアルムの丘に帰還して、完全に傷が癒えるまで長い間そこで過ごしたのだった。

脚注

ウィ・コナル・ガヴラ(Ui Conaill Gabra)
現在のリムリック州を中心に栄えたウィ・フィジェンティ(Ui Fidgenti)の一派。

ドヴァー・ダヴナイグの息子のディーレン(Diorruing mac Dobhairdamhnaigh)
邦訳だとディアリン・マク・ドバと書かれていることがある。
フィン歌集等によればドルイド(draoi)。

ロナンの息子のゴヴァ・ガイセ(Gobha Gaoithe)
フィン歌集にも登場するロナンの息子のゴス・ガイセ(Goth Gaoithe)、ロナンの息子のガル・ガイセ(Gal Gaoithe)と同一人物だろうか。風を意味するGaethが二つ名となっているように、素早い人物である。

巨人(Aithech)
Aithechは本来の意味では、rent-payer(賃料を支払う人)、家臣、農民であり、貴顕ではない庶民・賤民を表すが、ここでは怪物・巨人といった意味になる。片目・片腕・片足の者とフィアナ騎士団の競争はバレンの民話/ロン・マク・リーヴァの伝説でも語られている。フィン歌集にも同様の話が存在する。

ダス・カインの息子のスギアス・ブレク(Sgiath Brec mac Dath Caoin)
ダス・カインはフィンの母の姉妹であり、スギアス・ブレクはフィンの従兄弟にあたる。彼女は元はウィルネ(またはトゥルネ)という名前の女性だったが、犬に変化させられてダス・カインという名前を与えられていた。勇士であるルガズ・ラーガがダス・カインを救出して人間の姿に戻し、フィンの許しを得て娶った。彼らの間に生まれたのがスギアス・ブレク、そしてヴィントリーの戦いで名を馳せたカイルである。(ただし、カイルの血統はネヴァンの孫、クリウァンの息子など様々に伝わる)
また、彼女が犬だった時期に産んだ子がブランとスコーランである。

クリウサンの息子のフィアフラの槍
Transactions of the Ossianic Societyに掲載されているニコラス・オカーニー版に準拠したがマウド・ジョイントの校訂ではクロイングィンの息子のフィアハの槍(Sleagh Fhiacha mic Croinghind)のとなっている。おそらくフィンがタラを脅かしたアイレンを殺した時に使ったフィアハの槍ビルガのこと。

五匹の犬(Bran, Sceoluing, Sear Dubh, Luath Luachar, and Anuaill)
Transactions of the Ossianic Societyに掲載されているニコラス・オカーニー版に準拠したがマウド・ジョイントの校訂ではBran & Sceólang & Caoldubh & Adhnuall & Luath Luacharとあり、セル・ドゥブではなくカイルドゥブである。他にフェルドゥブ(Feardubh)とするものもある。アヌアルはブリテンの王子アーサーに奪われた犬の一匹アズナルのことだろう。

雄羊(reithe)
通常は雄羊であるが破城槌(ラム)、火船として使用される艦艇も示す。また、勇士の比喩の用例もeDILで確認できるので、おそらく勇士の意味として解釈してよいかもしれない。悪意という違いはあるもののフィンと同じような立場であることが示唆されている。解説によれば人の罪であるとされる。マタイ伝に由来する羊の皮をかぶった狼(悪人)的な存在なのかもしれない。

思考の乙女(meanma)
meanmaには他に精神、活力等の意味もある。ニコラス・オカーニーの訳ではENERGYとされているが、フィアナの脚よりも速いものとして思考の訳がふさわしいと考えた。

老婆
カリアッハの訳。カリアッハとは元来、ヴェールを被った者を意味し転じて既婚の女性、老婆・魔女の意味になった。よって上掛け、衣類とあるのはおそらくヴェールのこと。

イニシュキゥイル(Innsibh Ciúil)
ニコラス・オカーニー版ではinnistiuilと表記されている。ここではマウド・ジョイントの校訂に従った。Ciúilはceólの変形として歌と解釈できるが、eDILを参照すると他に船の意味とする例もある。前者ならば歌の島、後者ならば船の島の意味。

ミルヴェルの子ケルヴァズの息子たち
マウド・ジョイントの校訂では名前を挙げられていないが、ニコラス・オカーニー版でEathoir, Ceathoir, and Teathoirとされる。また、以降のブランとスコーランの話までの箇所で前者と後者の校訂で挙げられる人名や描写がかなり異なる。参照した写本による違い。

トゥルネ(Tuireann)
マウド・ジョイント版ではTurrnae Durrbhél硬い口のトゥルネ。他にUirne等のつづりがある。

蝶の霊樹(Feidhliocan coille)
Feidhliocanは蝶を意味する。coilleは木の枝、編み細工、ロープのほかに、植物の名前とされ、妖精の亜麻(fairy flax)と訳される。「蝶の妖精」の亜麻という誤解を避けるために蝶の霊樹とした。

魔法の覆い(Feigh Fiadh)
アイルランドの伝説に登場する不可視にできるもの。魔法の霧だったり、マスクや覆面、ローブだったりする。ここではおそらく何らかの衣類、ローブのようなものだろう。

スコルブ・シュケーニ(Sgolb Sgeine)
ほかにドルブ・シュケーニ(Dholb Sgeine)という名で記述される。オシーンの五人の息子の一人としてドルブ・シュケーニはフィン歌集に登場する。それによれば輝く盾を持つ。

出典

Transactions of the ossianic society for the year . (1855).
Feis Tighe Chonáin. (n.d.). CELT: The online resource for Irish history, literature andpolitics. https://celt.ucc.ie//published/G303010/

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