フィアナ伝説:ゴルと骨かじりの少年

カリルと呼ばれる若者がフィアナにいた。彼はいつも女性の屋敷にいたが、それは一人前の男性として認められる年齢に達していなかったからだった。
ゴルは”フィアナの大いなる一口”という権利を持っていて、骨という骨の中にある髄の一片までも一緒くたに集められて彼のもとに運ばれるようになっていた。カリルがやってきていくらかの骨髄を奪って、彼とゴルは喧嘩になった。
フィンの取り決めによって、彼らは屋敷の間仕切りになっている編み枝に骨を打込んで、骨を通したきった者に骨髄が与えられることになった。彼らはそうすると、ゴルは骨ごとカリルを引っ張って編み枝を貫いた。その後、彼らは互いに挑戦しあって浜辺に行き、カリルがゴルに勝って、彼は女性の屋敷を去った。
Popular Tales of the West Highlands より

今回はゲール語では≪crom nan cnamh≫や≪cuime nan cnamh≫、英語では≪gnaw-bone≫と呼ばれる少年とゴル・マク・モーナのお話です。
英語の骨かじりというのが好きなのでタイトルは骨かじりの少年にしました。

「Waifs and strays of Celtic tradition」ではゴルの骨髄の権利は、年老いて歯を無くした母親に柔らかく滋養のある食べ物を与えたいという親孝行のためのものでした。
しかしその骨髄を奪う若者≪カリル≫が現れました。
結局、怒ったゴルがカリルに対して投げつけた骨が誤って母親に当たってしまい死なせてしまうという事態になってしまい、カリルは反省するどころか

ゴル、ありがとよ、母親を殺してくれて」
≪Tapadh le Goll, mharbh e mhàthair≫

と言い放ったことにゴルは怒り狂い同じように決闘となります。
ちなみにこの言い回しは自業自得と似たような意味のことわざとしても使われるようです。

このスコットランドのバラッドや民話にはいくつものバージョンがあり、大筋は「Popular Tales of the West Highlands 」で語られるものと同じですが最後の決闘でゴルが負けたり、逆に勝ったりする場合もあります。
骨かじりの少年はフィンの子あるいは孫で、名前はカリルだったりオスカーだったりします。

カリルとオスカーは本来別人のはずですが、この骨髄の争いの伝承では同一人物のようです。

オスカーは言うまでもなく、フィンの孫でオシァンの息子です。

スコットランド伝承ではオスカーという名を得るのは化け物を退治した後に、フィンに名付けてもらってからのことです。
それまで骨に固執する者≪crom nan cnamh≫や骨の者≪cuime nan cnamh≫という名で呼ばれます。
これはゴルとの争いが念頭に置かれた異名に他なりません。


一方でカリルはフィンの孫でコンブロンの息子とされます。

「フィン歌集」では宴席においてコンブロンの息子カリルがゴルの骨髄の権利に異論を唱えてゴルとカリルの間で論戦になります。
一触即発のあわや大喧嘩という場面で終わっていますが、これは骨かじりの少年とゴルの伝承と同類のものでしょう。

「アルムの小さな屋敷」では骨髄の権利にこそ言及されませんが、宴席でのフィンとゴルの論争及び一族間の乱闘が描かれています。
そこでは「フィン歌集」で言及されているのと同様にクヌハの戦いでフィンの父親を討ち取った手柄をゴルが誇らしげに語り、カリルとゴルの問答から乱闘につながっていきます。

カリルとゴルの戦いは古くは「古老たちの語らい」で示唆されていました。
そこでは既にカリルは死んでおり、ゴルが戦利品としてその楯を所有していたと述べられます。
結局、ゴルはフィンに追い詰められて餓死してしまいます。


ゴルと骨髄の権利の争い伝承の異伝としてアイルランド国立大学ダブリン校のアイルランド民話協会会報誌≪Béaloideas≫に収録された 「オシァンとフィアナの物語」という話があります。
こちらはJstorで公開されています。

こちらの物語ではフィアナ最強の戦士であるオシァンと双璧の強さといわれる若者ゴルの間で骨髄を巡って争いとなったものの、オシァンは女を追って海の中の常若の国ティル・ナ・ノーグに行き一週間ばかり過ごした。
しかし彼は郷里を思い出してティル・ナ・ノーグを離れ、フィアナたちが入浴していた石の浴槽に浸かったところ急激に老いてしまった。
それから聖パトリックが宣教のためアイルランドにおとずれた時にオシァンは聖パトリックに会った。

簡単に要約してみました。
ゴルが若くてオシァンが古強者的な扱いという要素がなかなか面白いですが、大筋としては骨髄の権利の争いと常若の国と聖パトリックの三点セットです。

このようにゴルの骨髄の権利の争いは中世から現代、アイルランドからスコットランドまで時代や地域を越えて少しずつ形を変えながら広く知られた題材でした。
食べ物の恨みは怖いですね。


出典
Campbell, J. F. (1860). Popular Tales of the West Highlands (NLS:EGBC). Vol. I–IV. Edmonston and Douglas.
Campbell, Archibald, Lord, 1846-1913.Waifs and strays of Celtic tradition:
Argyllshire series. v. 1-5.
Campbell, J. F. (1872). Leabhar na Feinne heroic Gaelic ballads collected in Scotland chiefly from 1512 to 1871
MacCoinnich, Iain . (1866). Story relating to Oscar
Sgéal ar Oisín agus na Fiantaibh
An Craoibhín. "Sgéal Ar Oisín Agus Na Fiantaibh." Béaloideas 1, no. 3 (1928): 219-22.

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