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【剣闘小説】CHAMPION ROAD
アイカツ!一話を見た興奮が治まらず、勢いで書きました。
昼頃、スタータライトスクールは午前の訓練を終了し、休憩に入った。グラディエーター達は油垢が積もった木椀か、ひびが入った粘土製のボウルを持って列をなし、昼食を待っている。
「どうぞ」「おう」「どうぞ」「どうも」「どうぞ」「うん」
大鍋の側に、痩せて、汚れた金髪の少女がおたまで食事を配っていた。ルビー色の目に生気がなく、身体随所に打撲痕が見られる。
「どうぞうわっ!?」「ぎゃっははは!ドロイな新入りぃ!」
新入りと呼ばれた少女は尻餅つき、おたまを落とした。頭を押され、突き飛ばされたのだ。いかにもBULLYっぽい先輩剣闘士が笑い、自分の木椀を鍋に突っ込んだ。
「なんだぁこれ?ネバネバしてゲロみたいの」
木椀を傾けると、中身がゆっくり落ちて、粥っぽい何かが「トバッ、トバッ」と声を立てながら鍋に戻していく。言葉とパフォーマンスを兼ねたBULLY行為だ。慣れていない者なら今頃食欲をなくしたところだろう。しかし新入りは答えもせず、未だに地に座ったままだ。それがかえって先輩を苛立たせた。
「おまえに訊いてんだよ!のろま!」
鍋の中身を掬い新入りにぶっかける!もはや完全暴力行為!しかしこれぐらい力を物言わせる剣闘士養成所では日常茶飯事である。周囲の剣闘士たちは阻止するところか、死と隣り合わせる日常のストレスを発散するため、ことの顛末を楽しみにしているのだ!
「なんか言ったらこうだ?」依然したに顔を向けたままの新人、先輩剣闘士は足を上げ、蹴り出そうとした。
「申し遅れました!今日は鶏と大麦のオートミールですよ!」朗々としたな声と共に、先輩の前に湯気立てているボウル突き出された。「熱いうちどうぞ!」
前歯を晒した媚びる笑顔で先輩に向けた少女の名はミステリオ、日没時の東方の空みたいな、深い青色の髪と目の持ち主。彼女は同様汚れて、身体に怪我が見られるが、まるでそれを介しない明るく振舞っている。
「チッ」先輩奪うようにボウルを手に取った。「ミステリオ、せめて最低限の礼儀を教え込んどけ。もしまたおれの気に触れたら……」「はい申し訳ありませぇん」
ミステリオはベコベコ頭を下げ、先輩を見送ると、座り込んでいた金髪少女を引き上げた。
「あのさ、ストラウベリー。訓練のあと賄いまでやらないといけないのは確かにしんどいけどさ、みんな通った道だよ?それに先輩にあんな態度ないでしょう?本当に死んじゃうよ?」「いっそう殺してほしかった」「あのなぁ……」
ミステリオとストラウベリーと呼ばれた少女は同じ市場に買われ、スターライトスクールに連れてこられた。いわば同期である。二人は訓練以外に雑用をやらされ、一緒に行動することが多いが、既に現実を受け入れキビキビ働くミステリオに対し、ストラウベリーはあまり表情がなく、口を開けばネガティブなことばかりだ。「何があったんだろうな。もしかして良いお家の出身だったりして」とミステリオは思ったが、詮索はしなかった。悲哀を分かち合うほどしんどいことが無い。
「アンタが死んだら雑用が全部私がやることになるから困るけど……」「仕事中に雑談とか随分余裕あんじゃん」「ふぉっ!?オ、オーキッドさん!すみません!」
会話を遮った茶髪の剣闘士、”血染めの”オーキッド。既に一人前で、五連勝中の彼女は年齢が近いため二人の教育係を任せられている。
「すぐお食事を持ちしますので……」「お前はいい。ストラウベリー、大盛り頼めるか?」「……はい」
皿に盛り付けられたオートミールをオーキッドが指で掬い、口に入れ、モゴモゴと下を動かして味わった。ミステリオは緊張しながら反応を待った。
「悪くない」「良かったです」
ホッとしたミステリオ、その直後。
「だがストラウベリーお前、気に入らないな。いつまで辛気臭い顔しているつもりだ」「……」「おい!」「ウッ」
オーキッドはストラウベリーの髪を引っ張り、強引に顔を合わせた。二人の顔が近い。
「悔しいか?腹立つか?なんか言えよ。お前のママではないからお前の我侭に付き合う義理はない」「……!」「だんまりか、良いだろう、ならばその口から泣き言が出るまで!」
オーキッドは右拳を握り、肘を曲げ、裏拳を繰り出し……出さない!右腕は後ろから掴まれ、拳を止めたのだ。
「おい新人の教育を邪魔すんじゃー」
額に血管が浮び激怒したオーキッドは顔を横に向き、言葉を呑んだ。その者は銅像と見間違えるほどの鋼鉄めいた筋肉に覆われ、刻まれてた大小の傷跡がその者が如何なる人生を歩んっできたか語っている。鋼のボディの上に、アメシスト色の長い髪後ろに束ねた、女神と思わしき容顔が繋がっている。この容姿の人間はローマ全土でも二人目がいない、彼女こそがレオニダスの転生、スパルタの血を継ぐもの、動く城塞、闘技場を照らす月の光……様々な呼び名を持つ、スタータライトスクールの首席剣闘士ーーモーンシャインである。
「すげ……」ミステリオは思わず息を呑み、ストラウベリーは目を見開いた。
「すぐに血が昇る。オーキッド」モーンシャインはオーキッドの腕を離し、穏やかに言った。「はじめての教育係はどうやら手こずっているようだな」
「ですがチャンピオン!このガキー」
ムーンシャインは掌を翳してオーキッドの発言を制止し、前に出て、ストラウベリーの顎をぐいと持ち上げた。アメシストの瞳から発する肉食獣めいた視線を受け、ストラウベリーは緊張し、呼吸が困難になった。
「わたしがお手本を見せよう。この者……ストラウベリーか?彼女の目を見よう、自分のことがどうでもいいと言わんばかりの、自暴自棄の、負け犬の目だ。いい身分から奴隷に堕ちた者どもからよく見られる」
「……ッ!」図星だったか、ストラウベリーはムーンシャインから目を逸らした。
「だが同時に……」ストラウベリーを解放し、今度はミステリオに顔を向けた、そして。
ヒュッ
ムーンシャインの手が霞み、小さな風切り音。一秒後、ミステリオは手で鼻を覆った。更に一秒後、少女の鼻から血がぼたぼたと流れ出た。
「うっ、えっ?」崩壊したダムのように、鼻血の勢いが時間の経過につれて増していき、あっという間に地面に赤い水たまりができた。ミステリオンは膝が崩れ、四つん這いになった。
「ミステリオ!」これまで一番大きな声を出したストラウベリーはミステリオを助けようとしゃがみ、彼女の肩に手を当てた。ひどく震えている。
「はばっ、あはは……どまらぬぁい」パニックに陥ったか、ミステリオンは笑っているが泣いているとも見える表情で広がりつつある血だまりを見つめた。「どま、らぬあい……」
ストラウベリーは何とかしないといけないと思った。だが自分はこの状況理解していないし、手当の術も知らない。だから聞くことにした、愚かな質問だと知りながら。
「お前っ!ミステリオになにした!?」
「同時に、もう自分のために傷つく人間を見たくないと言っている、自惚れ者の目だ。わたしはこれまでたくさん見て来た」月の光が地上を照らすよう、ムーンシャインはストラウベリーとミステリオを見据えた。「これで分かったか?あなたが死を恐れぬとも、友達があなたの分まで苦しむぞ。よく覚えて、姉妹(シスター)」
言い終わると、ムーンシャインはオーキッドの肩を触れた。
「あとは任せた」「……わかりました」
「チャンプ」「やあ」「久しぶりだなチャンプ」「だな。最近調子は……」ほかの剣闘士と挨拶を交わすムーンシャインを見ながら、オーキッドの中で、ムーンシャインに対する敬意と畏怖が行き来した。何より恐ろしいのはその目、市民は蔑みの目で奴隷を見下す様な目と違う。それよりはるかに上の、まるで世界を睥睨する神のような視線だった。
「ぶっ、ぼぇ……」ミステリオの苦しげな呼吸音がオーキッドの思考を現実に引き戻した。「チッ」対してこの二人はどれほどボンコツなんだと苛立った。「何をしているストラウベリー、ミステリオを療者のところに運んでいくぞ」
「……すみません。ありがとうございます」出血しているミステリオを助け起こし、ストラウベリーはオーキッドの後について行った。ルビーのような眼に自分の代わりにお仕置を受けたミステリオに対する慚愧と、ムーンシャインに対する憤りで仄かに、静かに光っている。
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「おう、お疲れさま」訓練所を一望できるバルコニーでは、瘦せぎすの老男はワインが入ったゴブレットをムーンシャインに差し出した。「また悪い役割をやらせてすまなかったね」
「いいえ、当然のことしたまでです」ムーンシャインはゴブレットを受け取り、一気に飲み干した。「きっかけをと目的を与えました。あとは個人のがんばり次第だが」
「当然頑張ってもらわないと困る、金貨いくらかかったと思うんだ」
老人ーーへプレスはバルコニーのフェンスを掴んで言った。今年で71に及ぶが、その目は剣闘を心より期待する少年のように爛々と輝いている。
「ストラウベリーは才能があると思うけどなぁ。まあもし本当に使えん奴だったら、こうだ」へプレスは振り返り、右手の親指を立てて首をなぞった。「ぐえーとね。連座法でミステリオもな」
「そうならないと祈りますわ」
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「これが、実体験と、姉妹から聞いた話と、酒場の与太話を基づいた、私が新人剣闘士だった頃の話だ」
「あんなに拗ねっていたとは思わなかったぜ。笑える」
「そして今はチャンピオンだ。この物語は最高に啓蒙的で、捻くれた子でも適切な調教を加えればと国士無双の戦闘者になれると……」
「はいはいショーオフ。てかオーキッドは剣闘士だったかよ。今は面影もないぜ」
「いろいろあってな。彼女の前で言うなよ。昔のことを忌み嫌っているんだ」
「あとミステリオとムーンシャインは今どうしてんだ?聞いたことないけど」
「それは今後の楽しみだ。ほら、そろそろ練習を再開するぞ」
「待て、最後の質問だ!オーキッドが持っていたオートミールが入った皿がどうなったんだ?途中から言及しなくてめちゃ気になったけど」
「そりゃまあ……怒りに任せて地に投げ捨てたんじゃないか?たぶん」
*このnoteはフィクションです。デーダカードダスアイカツ!とアニメ『アイカツ!』と一切関係ありません。
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