新人は映画見すぎてメンターの俺を困らせる
「おい待て、何をする気だ」
ジッポを高く掲げて投げようとした新人に、俺はその手首を掴んて止めてやった。
「えっ、駄目なんすか?映画では皆こうやったんすけど……」
昔の俺も同じことをやろうとして、兄貴に止められた。
『アホかおまえ!映画見すぎだ。ジッポはいくら掛かると思ってんだ?』
ああ……兄貴の顔が目に浮かんだ。忘れねえぜ、兄貴。
「ジッポはなぁ、俺らヤクザの……男の象徴だ。軽率に捨ててどうする。百円ライターで親分のタバコに火ィ点けるつもりか?」
「そう言われると、そうですよね。でもこれじゃどうやって火ィ点けるんすか?」
「創意工夫だよ」俺はトイレットペーパーを一段毟り、一端をガソリンの溜まりに浸すと、すぐガソリンを吸い込んだ。
「このベーパーに火花を当ててみろ」「はい」
新人がジッポのホイルを擦ると、炎の蛇がペーパーを沿って這いずり、床に重なった死体を飲み込んだ。
「ワオ……」「飯に行こうぜ」
俺は新人の肩を叩いた。
(つづく)
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