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Spalt IPA (Tango, Titan)
先日、11月7日(東京)、11 月8日(大阪)にて、BET社主催のドイツ シュパルト地方(Spalt)のホップのセミナーがありました。こちらのセミナーについて、私も多少なりとも関わってをりまして、ここ数年まともに公開記事での記録を残してなかったこともあり、繁忙期が過ぎましたので備忘録として記すことにしました。
概要
本ホップセミナーのために2種類のビール、Spalt地方のホップを使ったビールを2種類(Spalt IPAとドライホップヴァイツェン)醸造しました。フルーティさやベリーの特徴を感じられながらもクリーンなジャーマンホップIPAとして仕上がりました。セミナー時でも好評だったのでありがたい限りです。
本記事では、セミナーで醸造したシュパルト地方産ホップのIPAと、同ビールで使用したホップ Tango(タンゴ)とTitan (タイタン、ティタン)の紹介を致します。
少し宣伝を兼ねておきますが、2024年11月11日現在、こちらのビールについて、Rough&Laugh Brewingで15L樽の販売してますので気になりましたら以下にお問い合わせください。
ラフアンドラフ担当:
roughlaughbrewing@gmail.com
まづはざっくりとビールスペックから。
ビールプロファイル
Batch size: 500 [L]
初期糖度: 14 Plato
ABV: 6.5%
苦味価: 45 BU
色度: 14 EBC
といった感じで、ベーシックなIPAスペックです。
麦芽レシピ
85% IREKS Pilsner
5% IREKS Munich
5% IREKS Crystal Maple
2% IREKS Spitz
2% IREKS Sour malt
麦芽については、BET社取り扱いのIREKS社の麦芽でレシピを組んでいます。IREKS社の麦芽は風味良く、モルトの味わい深さがしっかりと出てきます。補足としてですが、Crystal Mapleは他社製品だとCarapilsに該当します。
Spitz malt(スピッツモルト)はChit malt(チットモルト)とも呼ばれる麦芽で、ビールの泡もちやボディのために使われる麦芽です。少し発芽した段階で止め大麦そのものに近い状態の麦芽です。泡持ちのために麦芽化されていない大麦、例えば、フレークドバーレイのようなものが使われることがありますが、バイエルン純粋令では非麦芽である大麦は認められませんので、スピッツモルトは純粋令を使うことで純粋令に準ずることができます。
Sour malt(サワーモルト)は乳酸菌の乳酸発酵により酸性化した麦芽で、マッシュのpH調整に用います。クラフトの世界ではマッシュのpH調整のために乳酸が使われることがありますが、サワーモルトを用いることで自然な形でのpHが調整が可能です。書籍によってはサワーモルトについて、ベースモルトに乳酸を噴霧したものと書かれていることがありますが、IREKS社のサワーモルトは乳酸菌発酵のもので製造されています。
余談となりますが、水質調整のための乳酸は、化学合成の乳酸でL-乳酸とD-乳酸と光学異性体が混合のパターン、または、乳酸菌等の生合成によるL-乳酸を主とする乳酸があります(D-乳酸も自然界には存在します)。pH調整剤の乳酸といえど、より自然的なものかどうか、L-乳酸とD-乳酸の酸味の質等、意識してみると醸造をやってゆく上でより面白くなります。
ホップスケジュール
45 [min] - 45BU : Titan
boil end : Titan 750 [g] / Tango 750 [g]
coldpool (78 [℃] ): Titan 750 [g] / Tango 750 [g]
Dryhop: Tango 1000 [g] / Titan 500 [g]
45分段階でTitan (タイタン, ティタン)で45BU分をガッツリととって、その後は煮沸終了段階と、Whirlpool段階で78 [℃]まで温度を冷やしたColdpoolの段階で、Titan, Tango(タンゴ)を展開するレイトホッピングの方法をとっています。ドライホップでは、バランス的にTangoをやや多めTitanを減らしAttenuation70%程度の段階でホッピングをしています。
ウェストコーストスタイルでされるホッピング方法をジャーマンホップで適用させた・・・というイメージをしていただければ、と。
個人的な意見ではありますが、ドイツ系ホップでの過剰なドライホップはグリーンな印象が強くなりがちで(人によってはクレヨンとの表現も)、ドライホップについては控えめに行うか、もしくはボイルエンドやcoldpool等のレイトホッピング重視で行う方が結果が良くでるように感じます。
沼津クラフトの方で、欧州産ホップの組み合わせで、「夏の沼津ブロンド」という名でホッピーなブロンドエールを醸造しましたが、ドライホップなしのホットサイドのレイトホッピング重視で仕上げたところ、ホッピーで良い仕上がりになり今年のハイシーズンのイベントでも好評でした。
Titan (タイタン, ティタン)
α酸: 17.5%
β/α ratio: 0.3
Cohumulone: 22%
Total oil [mL/100g]: 3.2
タイタンは2022年にリリースされた比較的新しい高α酸ホップでPolarisを系譜に持ちます。Herkulesに代わる形で一部の大手ビールでも、ビターホップがタイタンに切り替わっていっているという話も出ていますので、今後安定して入手が可能なホップとなることが予想されます。ビターホップとしてリリースされてますが、トロピカルなフルーツの特徴、フェンネル、ダンクな特徴を持ちますので、伝統的なヨーロッパのビアスタイルでのビターホップとしての適用が可能で、特筆すべき点は、高αのビターホップでありながらもユニークな香りの特徴があるので、IPAへのビターホップ、レイトホップへの適用が可能です。ドイツホップらしいクリーンで飲み良い苦味の品質ですのでドリンカブルな仕上げを目指すことができます。
Tango (タンゴ)
α酸: 8.5%
β/α ratio: 0.9
Cohumulone: 23
Total oil [mL/100g]: 2.8
タンゴはCascadeの系譜をもち、パッションフルーツ、グレープフルーツ、レモンやリンゴ等の香りの特徴を持ちます。オイル含量は高くペレットホップはオイルリッチな特徴からでしっかりとくっついて崩すのもなかなか大変なくらいです。使い勝手として、他のホップとの組み合わせながら使うといい結果が生まれやすいと思います。以前にCitraとの組み合わせでおこなったところ、単体のCitraよりもより柑橘感やフルーツ感が増す結果となりましたし、エンハンサーホップ的なホップとして重宝できます。
また、Tangoが出始めの頃に、Tangoシングルホップのヘラーボックを醸造したことありますが、こちらの場合では、フルーティさに加え、ビールを飲んだ時に喉を冷やす爽やかな冷涼感があり、フルーツレモネードのような特徴が出ました。
Weizenのバナナ香とのコンビネーション、IPAやHazyIPAでのホップポテンシャルのエンハンサーとしての使用、黒ビールのコーヒーやカカオの特徴を活かすためにスタウトのようなビールと組み合わせてみても相性が良いかと思います。
酵母選択
Whitelabs WLP001 California Ale Yeast
主発酵 19 [℃]
酵母は米国の液体酵母(リキッドイースト)のメーカー Whitelabs社のCalifornia Ale Yeastを使用しました。クリーンでニュートラルな特徴を持つChico系の酵母となりますので、対抗品としては、
・Fermentis US-05
・Wyeast 1026 American Ale I
US-05との使用感の違いの感覚的な話ですが、US-05は発酵時に硫化水素をある程度出すものの仕上がりはニュートラルでまろやか、WLP001は同じくニュートラルなもののよりクリスピーな仕上がりの印象を受けます。WLP001の方がUS-05に比べクリアになるまでに時間を要するように感じられましたので、清澄剤(ゼラチン等)の適用を視野にいれることも状況に応じて適用を考えた方がいいかもしれません。
WLP001 California Ale Yeastは、Lallemand社への委託でドライイーストも製造され販売もされていて、日本国内での代理店はSceti社となります。液体酵母版については、BET社が代理店となります。
終わりに
以上、Spalt地方のホップ2種 Titan / Tango のIPAですが、特筆すべきところは、ジャーマンホップIPAを目的とせずとも、アメリカンスタイルへの適用も可能も良いかと思いますので、苦味の質が良いTitanをビターホップとして適用させ、ニューワールドホップの香りのサポートとしてTangoを加えるIPAの醸造をしてみるのもビールの味と香りの幅が広がり面白いかと思います。
11th / Nov. / 2024
Takeshi Akuzawa