【悪女は砂時計をひっくり返す】について

悪女は砂時計をひっくり返す」…これは、悪役令嬢漫画、転生系漫画をそこそこ通ってきた人間なら誰しもが一度は目にしたことがある作品ではないだろうか。この界隈を通ってない人でも、一度は広告などで見たことがあるかもしれない。

何を隠そう私も、悪役令嬢漫画デビューはこの作品なのだ。

(完結済み)


では本題に入る。

まず結論から言ってしまうと、この作品は転生系悪役令嬢漫画の頂点と言っても過言ではないだろう。

ストーリー、構成、世界観、作画、結末、キャラクター、どれをとっても筆舌に尽くしがたく、疎かな点がひとつもない。

まさに、悪役令嬢漫画のお手本なのである。

私が悪役令嬢漫画、転生系漫画の批評をするにあたって、まず最初にこの作品を上げずして何をあげようか。


では、模範となる悪役令嬢漫画としてどのようなポイントをおさえているのか?
解説していこう。


基礎配点 (星5点満点)

ストーリー ☆☆☆☆☆
世界観 ☆☆☆☆☆
構成 ☆☆☆☆☆
作画  ☆☆☆☆☆
キャラクター ☆☆☆☆☆
結末 ☆☆☆☆☆
わかりやすさ ☆☆☆☆☆
タイトル ☆☆☆☆


⚠️↓以後、ネタバレの可能性あり!↓⚠️
(なるべくネタバレしないように頑張ります)

【ストーリー評価】
極めて王道かつ、スカッと系を突き詰めたストーリー構成。
主人公であり悪役令嬢のアリアが、断罪で処刑され、目が覚めると幼少期に__という、悪役令嬢漫画で500億回は見た展開。

そこから自分を陥れた伯爵家と妹のミエールに復讐を誓うという、特に変な捻りは一切ない。

この作品の場合、それがかえってわかりやすさを増し、読者を複雑な異世界の世界へ誘いやすくしていると感じる。

アース王子との出会い、接近、結末も違和感なく、非の打ち所がない。

アリアが持ち前の賢さと美貌で読者をスッキリさせてくれる。


【世界観評価】

完全なる異世界とも現実の中世とも明記されていないが、割と現実の中世に近い設定だと感じられる。

あえて時代感を明記しないことにより、より華やかなでおしゃれなドレスや装飾デザインの幅を広げることを可能にしている。(時代感を明記することによってストーリーを広げた成功例も勿論ある。例:継母だけど娘が可愛すぎる)

魔法についても、使える人が限定されていたり、因果や理由がハッキリしているものばかり(砂時計など)
で、ややこしいものがない。

とくに魔法や特別な力は、説明が難しく、扱いを間違えれば物語の邪魔にもなってくる要素なので、その点この作品はうまい尺度で取り入れているように感じられる。

そして、あくまで復讐やスカッと展開に持ち込むのは特別な力を使いつつも問題解決の本質はアリア本人の力、賢さであるというところが非常に好感が持てる。


【構成評価】

この作品は主に

断罪→回帰→幼少期→成長期→成人

の構成で進められるのだが、その構成の変遷に違和感がないのが評価の高いところだ。

いきなり「そして数年後…」のようなモノローグも出てこないし、見違えて誰が誰か分かんなくなるような成長の仕方もしない。

あくまで物語に必要な分だけ見た目も中身も成長させ、年齢も歳相当になるよう調整する、という仕組みがとてもよくできている。

回帰の理由、回帰の方法も、いくらファンタジーと言えども読者が納得できる範疇で収められていて、これが初心者でも読みやすい理由になっているのだろう。


【作画評価】

これはもう何も言うことはない。線画から着色、背景に至るまでの全てが美しい。

作画は長い作品であればあるほど後半崩れてしまいがちなのだが、この作品は最後までブレることなく美しい作画のまま終了している。
なんなら、物語が進めば進むほど美しさに磨きがかかっている。


この作画レベルの絵でもただの物語の1ページに過ぎないのは最早恐ろしささえ感じる。

描きわけもしっかりされていて、服飾や背景装飾も一切手が抜かれておらず、画面の隅々まで楽しめる作品になっている。

絵柄も唯一無二であり、シンプルでありながら絵を見ればすぐに「あ!悪女は砂時計をひっくり返すだ!」と言える、悪役令嬢漫画の作画としては最高の絵柄なのである。


悪役令嬢漫画に必須な要素とも言える「甘美さ」「優美さ」「華やかさ」を全て余すことなく入れ込み、且つ胃もたれのしない清廉さまで兼ね備えているこの計算された画面はどの作品にも真似できないものだと思う。


【キャラクター評価】

主人公であるアリアが、何もできない顔だけの女ではなく、はたまた顔を武器にせず頭だけで戦おうとする傲慢な女でもなく、顔と頭どちらも使いこなす真に賢い女であったことが何よりこの作品を輝かせているだろう。

最近は変に優しさだけで戦おうとする清楚ビッチみたいな主人公も多い中、アリアの強く逞しく美しい生き様は本当に惚れ惚れさせられる。


また、王子であるアースも、嫌味ったらしいところがない正ヒーローでありながら、賢くやるべきことをやり遂げられる男であるため、本当に最高のカップルと言えよう。

アースは王子でありながら傲慢な部分が一切なく、常にアリアへの敬意と愛情表現を忘れない。

尚且つ、愛で目の前を眩ませることなく、公務をやり遂げるその姿は王族として尊敬でしかない。

2人ともサッパリとしていながらもお互いを真に思いやっているので、読者も心から応援ができる。


一方、誠の悪役であるミエール。
アリアの腹違いの妹という設定で、アリアに似過ぎず遠過ぎない丁度いいルックスをしている。

清廉さを連想させるビジュアル

しっかり美人で清楚な雰囲気も出しているが、「美しさ」においては勿論アリアを越えることができないという何とも難しいバランスをちゃんと取っている。これは技術がとても高く、素晴らしいポイントだと思う。

ミエールの頭の足りなさも、読者が「それは流石にないやろ…」ともならず、あくまで賢さも適度に持ちつつアリアには当然及ばないため足を掬われる、という1番ウキウキな展開を広げられるのである。


この作品は全てのキャラクターに無駄がなく、全員が全員の役割をしっかりと果たしているため、説明しようと思えば無限に説明できてしまう。

しかし、ここは作品紹介の場ではないのでここで控えさせてもらおう。


【結末評価】

直接的なネタバレは控えて簡潔に書くと、「王道で清純で素直であるべき姿に戻る結末」と言えるだろう。

無理やりこじつけたエンドもなく、全ての関係があるべき場所に戻り、それぞれはそれぞれに相応しい対応を受ける。

これこそ、完璧で至高の悪役令嬢漫画だ。


変に「え、そ、そうなんすか?」ともならず、謎の存在も現れず、意味のわからない出来事も起こらず、至極真っ当に華やかに物語は幕を閉じる。

正直、拍手を送らずしてはいられない。


【わかりやすさ評価】


これも、ほとんど完璧と言えよう。

ただ一つ言うなら、正ヒーローのアースと、噛ませ犬ヒーローのオスカーが初見の人には区別がつかなくなる時があるかもしれない。

そこそこ不憫ではあるオスカー


しかし、作者はそれを踏まえてか否か、内面での区別をしっかりと付けられているように感じる。

最初はん?これはどっちだ?となるかもしれないが、読み進めれば進めるほど彼らが全く違う2人の人間であることに気づき、いつしか区別は完全につくようになる。

私はかえってそれは評価されるべき点だと感じられた。

よくありすぎる「ツンデレ」「ヤンデレ」「オラオラ」などのワードでまとめられる性格にとどまらない、彼らの複雑な事情や生い立ちが絡み合った、生きている彼らにしかない性格が確かにそこにあるのだ。


いかに制作チームが彼らを1人の「人間」として扱っているかが良くわかる。



ストーリーも設定もキャラクターも、悪役令嬢漫画の中ではかなりわかりやすい方だと思う。


契約結婚もないし、爵位継承もないし、王族内の派閥争いや継承争いも特にない、至ってシンプルなアリアの復讐と愛の物語なのである。



【タイトル評価】


私が唯一星を少なくしたこの観点である。

この作品がかなり黎明期の作品であることも要因の一つだが、世の中には「悪女は○○〜」系の作品が多すぎるのだ。


かなり埋もれやすくあり、現在の縦スクロール式フルカラー悪役令嬢漫画界隈では今はオリジナリティの高いタイトル名が好まれる傾向にある。


例:最近連載開始した注目作、人気作のタイトル

・誰かが私に憑依した
・お求めいただいた皇帝陛下の悪女です
・母が契約結婚しました
・この結婚はどうせうまくいかない


しかしこれは一概にも言えない場合もある(このタイトル論争についてはまた別の機会にまとめようと思うが)。

しかし、悪女は○○系は増え過ぎてしまい、このタイトルを口にしてもすぐに頭で一致されない可能性があるというのが非常に勿体なく感じてしまう。


シンプル且つ、素直に内容の分かりやすいタイトルであるという部分は高く評価されるべきである。




【総評】

悪役令嬢漫画黎明期を代表する作品であり、ここまでこの界隈を盛り上げた功績の持つ偉大な作品であることは間違いない。

初めてこの作品で「悪役令嬢的に胸がスカッとする」経験をした人も少なくないだろう。


悪役令嬢漫画の基礎を築き、後世に残る作品に多大なる影響を与えたこの作品は言わずもがな最高なのである。


いつの時代になっても繰り返し読み返されてほしい、伝説の作品だ。


回帰直後の幼少期のアリア

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