短歌|「prism〈プリズム〉」一首評まとめ
こんにちは、アクツです。今回は、こちらも配信中のネットプリント「prism〈プリズム〉vol.1」より、わたしなりの一首選+評をまとめてゆきます(Twitterの再掲です)。
「プリズム」は、西巻真さん編集・発行。「メンタルケアの当事者・家族・経験者」で作った、こころと短歌のネプリです。できるまでの経緯を含む巻頭言は、こちらでご覧になれます。
わたしは短歌7首・ミニコラム・Q&Aを寄せているほか、デザインを担当しました。短歌は「Borderline / 1」というタイトルの連作で、コラムは「自分のこころと短歌との向き合い方」が共通のテーマとなっています。
では、一首ずつ。
人間の悲しみかたはいろいろで僕はときどき笑ったりする
(永峰半奈)
悲しいときについ笑ってしまう人、怒ったり憎んだりする人、いろんな人がいて、いろんな悲しみかたがあるんですよね。「僕」は今も、少し困ったように微笑んでいる気がしました。悲しみは悲しみとして、大切にしたいな。
突然の告知をされた日の夜は秒針の音だけが響いて
(知己 凛)
シンプルにまとまっていて、「告知」の重みと静寂を打つ「秒針」の硬質な音色が、ありありと伝わってきました。重なるo音によって針の音と告知の言葉が、夜の部屋と自身の胸の奥へ奥へと深く「響いて」いく様子を感じました。
あぁ、ああ
かげでしかない
そのうたを
だれがうたって
ゆくのだろうか
(西巻真実)
ひかりは多く歌われる。「かげ」を見つめ歌にする、その意味と意思を思います。真実さんは絵を描かれる方なので余計に、何かを表すときには光と影の両面が要るということを、強く感じるのかもしれませんね。
森へ行く 胸に宝のように抱く診察券はふるふると揺れ
(鈴木智子「我想死」)
「森」が意外で、でもそれ故に広がりがあります(別の歌に「砂漠」があるので「森」は対照的な位置付け?社会?)。わたしも「診察券」を御守りにしていたので、「ふるふると揺れ」る心細さも分かる気がしました。
欲しいのは力ではなく なにげなく目覚めてそれが朝といふこと
(Nanami「払暁の詩」)
「水脈の」と迷いに迷ってこちらに。力に負けない力が欲しかった、眠れなかった、眠ったら起き上がれなかった。不安やつらさや悔しさを一首の内に幾度も思い出しました。もう力まなくて、いいんですよね。
声色のとてもきれいな猫のことしずかに思い出す十二月
(西巻真「ピカソの森」)
寒々とした年の瀬に浮かび上がる「猫」の存在感。姿も感触も書かれていないのに柔らかい。毛並でも瞳の色でもなく「声色」なのが、愛だなぁと思います。猫が猫なのか比喩なのかわかりませんが、いずれにせよ。
さへづりの。 ☆☆Σ止まない、病まない、/☆☆この、/あれ☆ は、/また、/Σさうなの☆か、/日☆々、/走馬燈☆☆
(とわさき芽ぐみ「ワクワク☆ドリーム〜アンパンマンの右脳はどこよ?〜」)
ある意味、実景だと思います。ひらがなはしっかり57577なのが、なんとか意識を保とうとしているようで痛々しいほど。「止まない」は幻聴などの症状か、絶望感、希死念慮か。断薬した際に頭の中や目の前でぱちぱちと星がはじけていたことを思い出しました。「また、/さうなの☆か.」「走馬灯☆☆」も感覚としてすごくわかる。字面の明るい印象よりもずっとつらく切実。と、勝手に、思いました‥
(掲載なし)
(内山佑樹)
書けないとき、もう書かなくていいんじゃないかと思うとき(それでもどうせ、また書くんだ自分はとどこかで確信するとき)が、わたしにもあります。読者としては、内山さんの短歌読みたいので、次号は載っているといいな‥とは、思いつつ。
くすりに頼るなと言うひとの眼がきれい 空 それは死ねってこと
(亜久津歩「Borderline/1」)
ちゃっかり自分のも並べておきます。これはもう、言いたかっただけ。
以上です。
そして、すみません。本誌の誤りを見つけてしまいました……!9ページに「8人8問8答」とありますが、正しくは9人です。申し訳ありません。お詫びと訂正をさせていただきます。
ネットプリント配信の詳細は画像の通りです。ご覧いただけましたら幸いです。
それでは、また次回。
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