不吉百景 5.「妙な女とすれ違った話」
よろしくお願いします。
「あっ、はい。よろしくお願いします。……あのー……これこないだのことで、夕方の、下校中の時の話なんですけど。私帰宅部なんで、部活の子と違って遅くないうちに帰ることもあるんですけど、そういうときは歩道のない、狭くて、あんまり人通りのない道を通って帰るんですね、近道だから。そこ通ってたら、向かいから女の人歩いてきて、私とバチーッと目が合った、んですね。まあまあくらい美人だったかなと思うんですけど、眼力強い人だなーって思いましたね。で歩きながら、とりあえずちょっと会釈して、その人もそれは返してくれたんですけどでもその人まだこっち見てくるんで、なんだろーこの人すごい見てくるな恐いなあ……と思いながら目を逸らせずにいると、その人すれ違いざまに、私のこと横目で見ながら私の後ろに回ったんですね。えっなになにこわい、と思ったんですけどまだ私その人のこと、ずっと見てるんです、でその人そのまま私の後ろ通り過ぎて、えっと右からその人すれ違ったんでそのまま後ろ、で、私の左に来て、そしてそのまま、要は私の周りを回ってUターンして、元来た方、だから、私の進行方向に、こう、来て、そこで、その人私の方見てるんですけど顔めっちゃ強張ってるんです、そんで彼女走り出して、行っちゃったんですよ。行っちゃったあと私、ぼそっと、ええーっ……って言っちゃいましたけど。でも、そのあと強烈な違和感来て。あれっ、ちょっと待てよっ、おかしいぞっなんだなんだあ、って……で、気が付いたんですよ、だって私……あの人のことずっと見てたから、首、さっき、右から一回転してたじゃん?!って……。あれーっおかしい、あれーっ、って、首とか触って、いや、当然なんもないんですけど、ふふっ、家帰ってから鏡見ても特に何もないし。痛みとかないし。あと何回か、ぐいーって首回してみようとしたことあるんですけど、普通に痛いし。えっへへ、そんでそのあとその道何度か通ってるんですけど、女の人のこと気になるし、でもあの女の人ともういっぺん会ったことまだないですね。考えてみたらあの人にとったら私絶対妖怪じゃないですか?たぶん、ろくろ首的な?ってことで絶対あの道二度と通らないですよ、それって私に会いたくないから。そう思うと興奮しちゃう感じないですか?私ろくろ首になっちゃったのかなあ。つって……ふふっ。両親に訊いてみたいんですけどまだ訊いてないんですけど、訊いたら、そうかお前ももうそんな歳か、ついに説明するべきときが来たんだななんつって。言われたら凄い……ふふふ……凄い。うん。あっあと気になってること言っていいですか?すいません一方的に話しちゃって、でもね、首回っちゃったあと女の人が驚いて走っちゃうのはわかるんですけど、その前に私のことじーっと見てたのって、なんなんですかね?なんかもうその時から私、おかしかったのかな?ろくろ首現象の予兆的な……あー、いや、霊感ある人だったのかもしれないですね。あっ、いや霊感て。霊感、私が感じられちゃったってことか。ふふっ!うふふ……えーと、すいません、そういう話なんですけど……どうでしょう?」
最高です。ありがとうございました。今度また首が回ることがあったらぼくにご一報ください。
「あっははははははは!……うくくくく……ありがとうございましたあ!」
(2017/09/15採話)