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2020年ベストディスク 10位~1位



10.SOURCE / Nubya Garcia

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10位は近年盛り上がりまくっているUKジャズから。ジャズのジャンルからは、Moses Boyd、Aaron Parksなど、刺激的な作品に多く出会えたことを感謝している。
特にこの作品は、楽曲から伝わる「プレイヤー依存」と「楽曲依存」のバランスと鬩ぎ合いが心地よかった一枚。"

9.The Neon Skyline / Andy Shauf

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ヘイ!ベルセバやニック・ドレイク好きのマイメンたち。サニーデイサービス好きの春うららシティーボーイたち。
カナダのSSWが4年ぶりに出したこのアルバムは、俺たちの琴線や涙腺を完全にビンビンにするから、もう絶対絶対聞いておいた方がいいぜ!!


8.Lianne La Havas / Lianne La Havas

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オーガニックではあるが、細かく深いビブラートが色気たっぷりなR&B系シンガーソングライターの1枚。
倍音が広くてハスキーな声は、すごく感動的な歌唱も合うし、母性を感じる素朴な歌唱もぴったり。
「Paper Thin」の2:40あたりから聞かせる深みのあるしゃがれ声にやられました。

7.Have We Met / Destroyer

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僕はアラサーで、2011年にとある大学の文学部に入学して、そこからインディーにかぶれ始めた人間です(そんな人にたくさん読んで欲しい)
何が言いたいかというと、Destroyerの「Chinatown」は同世代のみんな夢中になったよね!!!って話です。そんな我らのヒーローが今年だしたこのアルバムは傑作でした(前作とか前々作については話したくない)。
ポップな曲とダウナーな曲が交互に配置され、トレブルのたったきらびやかなサウンドに深みのあるホーンやシンセが色をそえ、ベッドルーム限定で演説をかましているような舌ったらずのボーカルが流れていき、気付いたら涙が流れている。

6.JAGUAR / Victoria Monet

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アリアナ・グランデへの楽曲提供で知名度をあげた(らしい)R&Bソングライター。ホーン炸裂のゴージャスな先行曲「Dive」を聞けばわかってくれると思いますが、どこか日本の夏の、湿度の高い空気感を感じて大好き。これがチャラい「熱帯夜」になると最悪なんですが、どこか一人身悶えている感じ、最高です。

5.Heavy Nights / Evening Hymns

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Yo La Tengoは「And Then Nothing Turned In-side out」だよね、って人は聞いて損ないです。
とりあえず各種メディアや他の人のベストでも、このアルバムを見たことないですが、このアルバムは入れないと僕の2020年が嘘になります。再生回数最多でした。
ボブディランを基調としたソングライティングにタイトル通り「夜」を感じる残響系のエフェクトと管楽器(主にサックス)が絡み、方法論としては新しいことは何もないが、もう僕の「好き」に刺さりまくったのだから、仕方がない。

4.Heavy Light / U.S. Girls

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とりあえずYoutubeの再生ボタン押してください。これ1曲目なんですけど、イントロ最高です。古き良きアメリカン・ポップスの匂いがして。

そろそろ歌が入ってきますよ。「ん?なんだ?」っていう違和感がありませんか?
なんだかただの懐古主義には聞こえなくて、ヒリヒリとした怒りや皮肉を感じる。歌詞はわからないけどね。

ぼくなりにこの違和感を考えた。ただ無批判に、「あの頃の古いポップスいいよね!」って感じでやってるようにはやっぱり聞こえない。きっとこれは、「古き良きアメリカ」をシニカルに捉えている人たちが、周縁の視点から「古き良きアメリカ」をやっているから生まれる違和感じゃないだろうか。しかも、そんな音楽を作っているのは、「U.S.Girls」。なんという知性!
ぼくはいつも思う。違和感=新しさ、だ。違和感を受け付けなければそれはそれで平和なライフだろうけど、その違和感を腑に落とすことができたら、自分の視界が広がる。こういう体験には"痛"烈な"快"感が伴う。
今年イチ、""痛快""なアルバムだった。

3.Song For Our Daughter / Laura Marling

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大大大傑作。
UKネオフォークの雄Noah And The Whaleのボーカリストとしてデビューし、2008年にソロデビューしたLaura Marlingの7thアルバム。
このアーティストは全てのアルバムが素晴らしいのでアコースティックフリークの方はぜひ聞いてもらいたいのだけど、とりあえず前作から3年ぶりのこの作品は、傑作ということばがふさわしい風格を備えた大傑作です。
マイナーコードを多用しているのに響きは軽妙なソングライティングの妙。こういうのは、ビートルズやキンクスから続くイギリスの伝統だなあと心から思う。すぐに歌える整然としたメロディに、官能的なビブラートが響くアルトボイスがダイナミズムをつけていく。それを素晴らしい生楽器の音が併走し、最高級のソングリストに仕上がっています。
2曲目「Held Down」はLaura Marlingのボーカルを低音高音前後ろ全て余すことなく堪能できる最高級の一曲です。
ちなみに、来日したことは一度もないんですってよ。。。

2.Fetch The Bolt Cutters / Fiona Apple

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ごく私的な、Fiona Appleへの手紙。


僕は、中3の時、ロッキンオンの「BEST DISC500 1963-2007」という本を毎日毎日毎日読んでいました。Bob Dylanの「Free Wheelin Bob Dylan」で始まり、Radioheadの「In Rainbows」で終わる(多分ね。もう手元にないのよ)このディスクガイドを、僕は毎日毎日読んで、音楽を聴き始めた自分の目の前に広がる茫洋に憧れ、この本に載っているアルバムをかたっぱしから聞きました。聞いたアルバムのページにはチェックをつけ、気に入ったものは◎をつけました。この本にはあなたの1stアルバム「Tidal」が載っていました。
創成期のYouTubeで「Criminal」を聴き、CDを借りに行った時、「Tidal」はなく、代わりに2nd「When The Pawn...(タイトルを全て書くことはやめておきます)」が置いていました。

それからずっと、僕のヒロインです。

2ndアルバムの2曲目、「To Your Love」は、初めてDTMを触った時にドラムをコピーしました。
前作「Ideer Wheel...(これもタイトルは全部書けません)」の「Warewolf」の歌詞、「Nothing wrong when the song ends in a minor key」は、大学二年の時に初めて作ったバンドのアルバムのタイトルにしました。

もうずっとずっと、僕の音楽生活にはあなたがいます。そしてあなたが出したこのアルバムは、Pitchforkで10点を取りました。誰のベストを見てもこのアルバムがいます。

・・・・癪ですね。
また、あなたについて、書きますね。

1.grae / Moses Sumney

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Moses Sumney「grae」(グレイ、と読む)。聴きながら感情がぐちゃぐちゃになるアルバムだ。
慈悲深くて残酷、宗教的で身近、オルタナで王道、優しくて厳しい、男性的で女性的、肉感的で情緒的、サディスティックでマゾヒスティック、春のようで秋、夏のようで冬。

ボーカルとリズムの観点から、R&Bやソウル系のレコードではあるのだけど、じゃあその棚にならべれば良いかというと、円盤は飛んでいきそう。
じゃあ何か。これはR&Bやソウルやオルタナとかではなく、Moses Sumneyという「ボーカル」のアルバムなんだと思う。
全ての曲が、このボーカルなしでは破綻していく。それくらい圧倒的なイニシアチブでこの音楽をつなぎとめているのが彼のボーカルだ。つまり、彼の肉体だ。とにかくそれに圧倒されてください。

2020年、あまりにもいろいろあった一年を振り返って発信するのは危険なことだ。一つを言えば一つを言わないことになるから。その「言わなったこと」に自覚的であろうとすればあろうとするほど、世の中は生き辛くなっていく。かと言って、そこに鈍感になることもできない。
IT化とは、人間の肉体以外、知覚や神経を拡張する営みのことだと思っている。それが進めば進むほど、当然「言葉」の役割は大きくなっていく。言葉が肉体から剥がされていくからだ。そこで僕がずっと感じるのは、最近僕たち、「言葉」に役割を負わせすぎてるんじゃないの??ってことだ。

「笑いながら」ありがとう、「半笑いの」ありがとう、「無表情の」ありがとう、「憮然とした顔の」ありがとう、これを伝えなきゃいけないんだよ。言葉だけで。一言で言えば、言葉がかわいそうだよ。だって、言葉は原始、肉体と離れて使役されることを想定していなかったはずだもん(中島敦の「文字禍」がこの問題をとっくに看破していたことにおののく)。


Moses Sumneyの話に戻る。このアルバムで聞けるのは、とにかく渾然一体としたありとあらゆる感情、寄生獣の後藤のラストのように散り散りになりかねないジレンマを、圧倒的な声、つまり「肉体」が繋ぎ止めるダイナミズムです。
もう一回、言葉を体に取り戻したい。



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