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新章・魔王の娘だと疑われてタイヘンです! 2巻第4章 魔神を倒す力ってなんなんですか!?②
上空で旋回するコルに従って、エリナたちは地下迷宮の入り口にたどり着いた。
その中からは絶え間なく轟音、爆発音が鳴り響き、戦闘の凄まじさを明確に伝えてくる。
コルがエリナの肩に舞い降り、しきりにその頭をエリナの頬に擦りつけてきた。
「わわ、コルも怖いの? 珍しいね」
エリナもその戦闘音には恐怖と緊張を感じていたが、コルのこの行動で少し気を紛らわすことができた。
コルは優しい子だ。エリナとの意思疎通もよくできている。
ただ、コルのこの行動にはエリナは違和感を覚えていた。
コルは、なにか他のことを訴えている気がする。
もっと大切な、差し迫ったなにか。
そんな予感がエリナに強い焦燥を与えた。
「ラティシアさん、わたし、すごく嫌な感じがしてるの。急ぎたい」
エリナのその率直な物言いに対するラティシアの判断は速かった。
「わかった、急ごう。我々の接近に気付かれる可能性は高まるが、みんなそれでいいな?」
フランやカナーンはもちろん、ロミリアもリエーヌも、一瞬の逡巡もなくうなずく。
「ロミリア、リエーヌ、結界の件、任せてしまって構わないな?」
「ええ、リエーヌとも打合せ済みよ。やれるだけやってみるわ。それよりも……フラン」
突然自分の名前を呼ばれてフランは驚き、だがすぐに返事をしてロミリアのそばに行った。
「は、はい。ロミリア先生」
「すでにみんなにはできる限りの加護を与えているけど、いざという時はあなたが頼りになるわ。私とリエーヌが戻ってくるまで、みんなのこと、よろしくお願いするわね」
「はい、先生。私がエリナたちを護ります。……あ、もちろん、私もちゃんと生き延びて、ですけど」
ロミリアは小さく笑ってフランの頭を撫でた。
「いい子ね、フラン。ありがとう」
そうして、リエーヌと視線を合わせ頷き合う。
「ではエリナ様、一時お側を離れますことをお許しください。ご武運を」
「うん、リエーヌも気をつけて。そっちが安全とは限らないから」
「肝に銘じます。それでは失礼いたします」
リエーヌとロミリアはエリナたちの元を離れ、それぞれの方向に走り去った。
「カナーンもよろしく頼んだぞ」
「はい、閣下」
カナーンの迷いのない返答にラティシアは小さく笑う。
「では、急ぐぞ。音から察するに、どうやら一対一の戦いというわけではないらしい。エリナの直感に私も同意しよう。私も非常に嫌な予感がしている」
「ありがとう、ラティシアさん」
「ついてこい。私が先導、カナーン、君がしんがりを務めろ」
「はいっ」
そうして、ラティシアが足早に歩き出した。
相変わらず全身に金属の鎧を纏っているとは思えぬ軽やかな足取りだったが、それ以上に、注意して聞こうとしないと聞こえない程度にしか鎧が音を立てていないことにエリナは舌を巻いた。
地下迷宮の奥から鳴り響いてくる戦闘音は確かに激化しており、ちょっとやそっとの足音を立てたところで聞こえはしないだろう。
だが、こんな甲冑を纏っているラティシアよりも大きな音を立てるわけにはいかない。
エリナもより音を気をつけつつ、ラティシアに遅れないように先を急いだ。
エリナが足音を立てないようにしていることに気がついたフランもそれに気をつけはじめ、元より足音を潜めて歩いていたカナーンは、そんなエリナとフランを見て小さな笑みを浮かべた。
ルナルラーサの傭兵仲間だって、なにも言わずにここまで意思の疎通は図れない。
おそらく、前を行くラティシアさんも、エリナとフランの足音が潜められたことに驚いていることだろう。
我が事のように自慢げになってしまうカナーンだが、その瞬間、背中からかけている魔剣の柄の先端が、迷宮の壁面に当たってカツンと鳴ってしまった。
前を行く三人は気にした様子もなかったが、カナーンは自分の気の緩みを魔剣に咎められた気がして、ブルブルと顔を横に振って気を引きしめ直す。
「そうね、アリアンロッド。ありがとう」
そして、小さな声で魔剣に感謝を告げた。
前に向きなおると、戦闘音がかなり近くなってきていることに気がつく。
エリナも気がついたようで、カナーンの方を振り返ってうなずいた。
もうすぐだ。
爆発音の反響からして、同じ階層にやや開けた空間があるはずだ。
戦闘はそこで行われている。
カナーンは魔剣アリアンロッドの柄に手をかけ、抜き放った。
自ずとラティシアと交わした約束が脳裏をよぎる。
マリウスを魔神として斬らねばならない、そうラティシアが判断した場合の話だ。
ラティシアは、それを止めに入るであろうエリナたちを説得してほしいとカナーンに頼んだ。
「……わかりました」
「引き受けてくれるか」
「その時が来れば、必ずそうするとお約束いたします。――ですが」
カナーンは一呼吸入れてから、その続きを口にした。
「そういう事態だという判断は、私自身が行います」
「なに?」
「私はエリナたちと、マリちゃんを必ず助けると約束しています。だから、マリちゃんを助けることは絶対に諦めません。だけど、それでも、本当にその可能性がゼロであるなら、ゼロであると私が判断したときは、その判断を下した私の責任の下に、ラティシア閣下を支持し、支援いたします」
「……君は」
「それが今、私が言えるすべてです」
ラティシアは信頼できる一人の剣士として、その約束をカナーンに頼んだ。
それに対しカナーンは、自分を一人前の剣士として認めるのであれば、その判断は自分自身で行うと突っ返したのだ。
十二歳の少女が、元とは言えヒュペルミリアス皇国の将軍に対してだ。
(あの時はそういう返答しか考えられなかったけれど、よく考えたら無礼極まりないことだったわね……。ラティシアさんは笑ってくれたけれど、その場で斬り捨てられててもおかしくないことを言っちゃったのかも……)
そう考えると同時に、それでもそれ以外の返答はできなかったともカナーンは思う。
(それなのに、なんだろう……)
魔剣の柄を握りしめて、前を往く三人の背中を見つめる。
(私、まったく迷ってない。ラティシアさんがマリちゃんを斬らなきゃいけない事態になんかならないって思ってる……? それとも、エリナならきっとなんとかしてくれるって思っているの……?)
ヴゥン……と魔剣が小さく唸った気がした。
プロシオンの腕を斬った時以来、カナーンはこの魔剣が急速に手に馴染みはじめたのを感じていた。
最初に手にしたときの、あの異様な重さも今はそれほどには感じない。
エリナもフランも、まるで今までどおりに見えるけれど、きっとあのプロシオンとの戦いでなにかを得ている。カナーンにはそんな強い直感があった。
(エリナなら、じゃない。私たちなら――)
その思いを肯定するかのように、魔剣が再び唸った。
(エリナとフランと私なら、マリちゃんを救い出せる。私はそれを今、確信してるんだ……)
子供ゆえの全能感なのかもしれない。
だがカナーンは一方で、魔剣を扱えるようになったことで、それまでは漠然としていたルナルラーサ・ファレスとの力量の差をまざまざと実感してもいた。
単純な剣の実力とはまた別のなにか。
むしろ、そのなにかがあったからこそ、結果として魔神の腕を斬り落とすことができたのではないか。
今の自分の強さは、エリナとフランの存在があってこそ。
その解答がカナーンの胸にしっくりと収まった。
迷いなんかあるはずがない。
私たちは、必ずマリちゃんを救い出す!
そう、強く心に誓った時だった。
「――!」
カナーンはピタリと脚を止めた。
「カナちゃん!?」
それに気付いたフランが振り返る。
「先に行って。しんがりを任された以上、ここは私が食いとめる」
「でも!」
「エリナとラティシアさんがどちらも急いだ方がいいって判断してるのよ。急いだ方がいいわ。大丈夫、私もすぐに追いつくから」
そんな二人のやりとりにエリナとラティシアも気がつき、脚を止めた。
「行って、エリナ! マリちゃんを助けるんでしょ!?」
「――わかった、カナちゃん! でも、すぐに追いついてきてね!」
「ええ、約束するわ。フラン、エリナのこと頼んだわよ」
「うんっ。カナちゃんも無理しちゃダメだからね!」
カナーンはうなずき、迷宮の奥へと向かう三人を見送る。
そして、振り返り、魔剣の切っ先を自分たちがやって来た方向へと差し向けた。
「ここから先は通行止めよ。引き返してもらえるかしら」
(よし、今のはちょっとルナっぽかった――なんてことを思ってる場合じゃないわね)
そんなことを考えている間に、切っ先の方向に数匹の蠅が集まりだした。
蠅はすぐに数十匹、数百匹とその数を増し、瞬く間に黒い塊となり、人の形を成していく。
「なンだァ? このガキは」
蟲の羽音が合わさって耳障りな声として聞こえてきた。
魔神『蟲遣い』ロウサー。
ウィンザーベルを襲った魔神だとロミリアから聞いている。
「気をつけた方が、いい」
気がつけば、迷宮の床から三日月のように湾曲した一本の刃が生えていた。
その刃はくるくると旋回し、いくつもの刃を伴いながら、床から這い出すようにそそり立ち、これもまた人の形を成していく。
「この子の剣……魔剣アリアンロッド……。よく覚えてる……。ルナルラーサ・ファレスが持っていた、剣」
魔神『刃を統べる者』フェルミリア。
ロウサーと行動を共にしているようだとは聞いていた。
「あン? じャあこのガキもアイツらの関係者か。おい、ガキ! 今はオマエみたいなガキに付き合ってる暇はねェ! 死にたくなきャ、すッこンでな!」
カナーンは一呼吸してから口を開いた。
「私の名はカナーン・ファレス。ルナルラーサ・ファレスの娘にして、その弟子よ。こちらもあなたたちに付き合ってる暇はないわ。もう一度言うわ。引き返してもらえるかしら」
「なンだァ? このガキ、壊れてやがる。それとも、オレたちが恐ろしい恐ろしい魔神だッてコト、わかッちャいねェッてのか?」
「ロウサー……そう言って十二年前も油断、してた」
「うるせェッ!」
その時、カナーンが不意に魔剣を振り下ろし、なにもない空間を斬った。
そして、油断なく再び構えに移る。
「――チィッ! このガキ、本気でオレたち二柱を相手にする気だぜ!?」
「本当にただの子供だって思ってる、なら……ロウサーだって、蟲を一匹だけ先に行かせようなんて、しない」
「うるせェッつッてンだろッ! オレは新たに産まれた魔神がどンなヤツか、早く見たかッただけだッ!」
「ここは……私に、任せて」
身体の各所から刃を突き出させた人型の魔神が前に一歩出た。
刃だけで作りあげられた彫像のようだとカナーンは思った。
恐ろしさも、おぞましさもあったが、女性的な美しさも感じられる。
フェルミリアは十二年前、ルナルラーサとも戦ったという魔神だ。
そんなフェルミリア相手にも、カナーンは後じさり一つせず、ピタリと構えをとり続ける。
「私は……魔神フェルミリア。『刃を統べる者』……。なまじっかな剣術では……私には、絶対に敵わない」
「敵う敵わないの話はしていないわ。私は、ここを通すつもりはない。それだけよ」
「いいよ。その力……見せて、もらう」
エリナたちがしばらく進むと、カナーンを残してきた方向から剣戟の音が響いてきた。
「エリナ、カナちゃん大丈夫かな……」
「大丈夫だよ。なんだか今日のカナちゃん、一回り大きくなったように見えたし」
フランを安心させるようにエリナが答える。
そして、ラティシアも。
「それがわかるか。さすがだな、エリナ・ランドバルド。カナーン・ファレスは戦士としての充実期に入った。ここからの彼女は一戦ごと、いや、ともすれば一合斬り結ぶごとに見違えるように強くなるだろう。それを間近で見たくもあったが今は――」
「「マリちゃん」」
声を揃えたエリナとフランにラティシアは「そうだ」と短く応じた。
「どうやら、その向こうのようだ。状況も複数対複数と判別できる。おそらくそれぞれの魔神がなんらかの形で配下に命令を下しているのだろう」
「配下?」
エリナの疑問にはフランが答える。
「魔神はすごい魔法が使えることが多いから、召喚した魔物とか精霊とかもあるんじゃないかな……。それに、マリちゃんは魔神を産み出すとか言ってたし」
「ともかく、詳しい状況を把握したい。なるべくバレないように近づくぞ。いいな?」
エリナとフランはコクリとうなずいた。
先ほどにも増して、静かに、しかし素早く迷宮の奥へと進むラティシア。
続くエリナたちも、金属鎧など身に纏っていないとは言え、なかなかの忍び足っぷりだった。
だが、元々そこで控えていたのだろう。三体の人影がラティシアの目の前に立ちはだかった。
鼠頭をした大柄の人間といったその姿に、エリナとフランは息を呑んで驚く。
そんな二人に対し、ラティシアは瞬時にその剣を閃かせた。
「疾れ、宝剣ブルートガング!」
三体の鼠人間が一瞬の間に斬り刻まれ、憐れな肉塊と化す。
「いきなり殺しちゃったの!?」
あまりの早業にエリナは引き続き驚くことしかできなかった。
「ここで手間取っている場合ではない。それに、こいつらはただの魔物じゃない。見ろ」
ラティシアに促されて目を向けると、斬り刻まれたはずの肉片同士が互いに呼び寄せ合うように、少しずつ動いているのがわかった。
「まだ生きてるの、これ!?」
二人が驚いている間に、再び剣を振って、ラティシアはそれらの肉片をさらに細かく切り刻む。
すると、さすがにそれらの蠢きもなくなり、ようやくただの肉片となった。
「な、なんだったんですか、この鼠さんたち……」
「おそらくは魔神……いや、その出来損ないといったところか。魔神マリアがこの様な魔神しか作れないとは思えんが、状況がそれを許していないのだと予想する」
「ってことは……」
「マリちゃん、相手の魔神さんに追いつめられてるってこと……?」
エリナとフランは視線を合わせて顔を青ざめさせる。
「魔神同士が潰し合ってくれる分には構わんが、それで殿下を取り戻す機会が失われることは断じてまかりならん。まずは魔神マリアと戦っている魔神を討伐する! 行くぞ、エリナ! フランは身を隠しつつ、状況に応じて神聖魔法による援護を頼む!」
「「はい!」」
そうして三人は戦闘音が響き合う開けた空間へと突入した。
そこは、ドーム状の天井を持つ広いホールだった。
その方々で戦闘が繰り広げられており、魔法によるものと思われる爆発や衝撃波によって視界は遮られている。
だが、すぐにその一方が先ほどと同じ鼠人間だということがわかった。
「えっ、あれ――」
エリナの声に反応してラティシアが上を見ると、通ってきた回廊部より三倍はあるであろう高さの天井近くに、浮遊する双子の姉妹の姿があった。
「フリージング・ツイスター!」
「ライトニング・バインド!」
二人は対プロシオン戦の時にも見せた姉妹同時の束縛魔法を放つ。
魔法によって巻き起こった旋風によって視界を遮っていた爆炎が吹き飛ばされ、双子姉妹がその標的としているものが目に入った。
そこには白銀の鎧に身を包んだ魔神マリアがいた。
「あやつらが魔神か! おのれ、か弱き少女の姿を模すとは卑劣な!」
「わーっ!? 待って待って! ラティシアさん! あれはマナとアラヤだよ!」
「いや、あれは魔神だ! その気配を感じる!」
「ええっ!? でも、プロシオンにトドメを刺したのはあの二人だよ!?」
「だとしてもだ!」
問答している場合ではないとばかりに飛び出すラティシア。
宝剣ブルートガングを鞘走らせ、まだ十メルトはあるであろう間合いから、閃光とも見紛える斬撃を繰り出す。
「舞え! ゴルデネシュワルベ!」
斬撃は衝撃波となってマナに襲いかかった。
だが、マナはすぐにそれに気がつき、宙に円を描く。
ラティシアの斬撃はその円から発生した電撃に阻まれ、消失した。
それもプロシオン戦で見せていたマナの魔法『雷の盾』だ。
マナの姿形にマナの魔法、その上、マナの声でその少女は言った。
「おやおや、どなたかと思えば『堅物騎士』……いえ、今はヒュペルミリアスの凱旋将軍などと呼ばれているのでしたか」
今度はアラヤの姿形をした少女がアラヤの声で話す。
「それに『魔王の娘』もいるではありませんか。ホッホッホッ、観客も揃ったようでなによりです。それでは魔神マリア、そろそろフィナーレといたしましょうか!」
マナとアラヤが発した言葉に、エリナとラティシアは目を見開き、その名を叫んだ。
「「ガビーロールッ!!」」
「不遜ですよ、貴女方。魔神同士の崇高なる戦いに割りこまないでいただきたい!」
その瞬間、さらに二つの人影が現れ、エリナとラティシアそれぞれに襲いかかる。
それらは道化の姿をした人形、エリナが知るあの収穫祭の日に現れたガビーロールそのものだ。
それが同時に二体。
だが、マナとアラヤもガビーロールのような口調でしゃべっていたのではなかったか。
「迷ってる場合じゃない! 『炎の剣』!」
エリナは迷いを振り切り、咄嗟に魔力を込めて短剣を振り払う。
短剣は炎を吹きあがらせ、長剣となって人形を払いのけた。
「フリージング・ツイスター!」
しかし、その瞬間、アラヤの旋風の束縛魔法が、人形ごとエリナを縛りつける。
「ホホホ、そうお時間は取らせませんので、そこで大人しくご覧になっていてください!」
アラヤの声で甲高く笑うガビーロール。
見ればラティシアも同じ手をくらったようで、激しく破損した人形ごとバチバチと火花を散らす雷の縄にがんじがらめにされていた。
「ぐっ……くぅぅぅぅっっ……!」
「ラティ……シア……さ……っ」
エリナの方は電撃によるダメージはなかったが、旋風によって思うように呼吸ができない。
搾り出した声もかき消されてしまうようだ。
「お待たせいたしました、魔神マリア。数ばかりの鬱陶しい小鼠共の駆除もあらかた完了した様子。ここからが私の本当の奥の手です」
「そんな子らを使って奥の手とは、呆れ果てる」
「ホッホッホッ、あなたこそ魔神らしからぬ矜恃をお持ちのようだ。その個性を失うこと、実に残念に思いますよ!」
マナとアラヤ、もはやどちらの口がそれを言ったのか。
二人は向きあって手と手を合わせると、強烈な魔力と共にその身体に紋様を、その周囲に魔法陣を浮かび上がらせた。
「思った通りです。私の憑依でなら、この力も扱える……。魔神マリア、あなたに感謝いたしますよ。あなたの存在がなければ、私はこの賭けに踏み切ることはできなかったでしょう」
「貴公はつくづく小心者なのだな」
無数の魔法陣を周囲に展開したマナとアラヤの背後に、青く透き通った美しい女性の姿が浮かび上がった。
「なんとでもおっしゃってください。さあ、幕引きです!」