魔王の娘だと疑われてタイヘンです! 新章 魔神はやっぱりヤバいんです!②
リクドウたちがノクトベルを旅立ってから、早くも一週間が経過していた。
にもかかわらず、彼らがすでに通過しているはずの町や村から、そうした報告はロミリアの元には未だ届いていない。
何かあったのだろうか。
だが、たとえ魔王討伐から十数年の時が流れていようと、たとえ右脚に故障を抱えていようと、リクドウのその剣技にいささかの衰えもないことは、先刻の神聖復興騎士団との戦いでも明らか。
そのリクドウばかりか、魔王討伐以後も傭兵として現役で戦い続けているルナルラーサも、冒険者を続けているレイアーナもいるのだ。どんな相手であっても不覚を取るとは思えない。
(だけど、相手は知略に長けたガビーロール。やっぱり、リクドウたちはなんらかの手段で嵌められたと考えるべきなのかしら……)
この事をエリナたちに伝えるべきかどうかロミリアは悩んだが、その結論が出る前に、彼女の元にそれ以上に悩ましい報告が舞いこんできた。
「ウィンザーベルに魔神が出現。魔神は元魔王軍幹部、『蟲遣い』ロウサーと思われる……」
その緊急の報告書に目を通して、ロミリアは顔を青ざめさせる。
復活した魔神はガビーロールだけではなかった。
しかも、現れたのは近隣のウィンザーベル。
ガビーロールとの関係性がないとは思えない。
となると、考えられる事は陽動。
ガビーロールはロミリア・ユグ・テア・バージに、ウィンザーベルに行けといっているのだ。このノクトベルから離れて……。
「完全に嵌められたということね……」
ガビーロール以外の魔神が出現したということは、他の魔神たちも復活している可能性があることを示唆している。
そうなってくると、リクドウたちの消息がまったく掴めないのも、腑に落ちてしまう。
たとえ八柱の魔神将が勢揃いしていたとしても、簡単にやられるような三人ではないが、連絡そのものが取れなくなってしまう状況はいくらでも考えられるのだ。
そうまでして、『魔王の娘』エリナの存在を求めているのだろうか。
いや、それも少しおかしい。
エリナがほしいのなら、あんな力試しのようなことをする必要はなかったはず。
エリナを拐かす方法など、いくらでもあったはずだ。
ならば、なぜ――。
ロミリアは、そこでかぶりを振った。
それを今考えていても仕方がない。ウィンザーベルは今襲われているのだ。
「すぐにエリナたちを呼んでちょうだい。エリナ・ランドバルド、カナーン・ファレス、フランソワーズ・フラヴィニーの三人を。それから……早馬の用意もお願い」
ウィンザーベルはノクトベルの東にある街だ。
徒歩ならば一日かかるが、早馬を飛ばせば二時間ほどで到着が可能な距離である。
神聖復興騎士団との戦いの際には、この街からの応援も駆けつけていた。
「現れた魔神はガビーロールではなく、『蟲遣い』ロウサー……ですか。なるほど、それは嵌められましたね……」
ロミリアから話を聞いたエリナたちは、すぐにランドバルド邸に帰宅し、リエーヌにそれを伝えた。
「それでロミリアは、ウィンザーベルに行っちゃったの。陽動の可能性が高いけど行かないわけにはいかないって。でも、わたしたちなら大丈夫だから行ってきてって言っておいたよ」
ウィンザーベルへの襲撃が陽動である以上、ノクトベルが襲われるだろうことは、エリナにもわかっていた。
不安がないわけではなかったが、エリナはそれを見せずに笑って言う。
リエーヌはそんなエリナを見て、わずかに目を細めた。
「ロミリア様はノクトベルを包む結界については、なにか言っておられましたか?」
その質問にはフランが答える。
「ロミリア先生がノクトベルを出てから、二時間くらいで効果が消えるはずだから気をつけてって。……ちょうど、大聖堂の夕刻の鐘が鳴る頃に切れると思います」
「もう一時間もありませんね……。フラン様、神聖魔法による対魔結界を張ることは可能でしょうか?」
「は、はい。ロミリア先生から、きっと必要になるだろうからって、習っています。半径三メルトくらいの範囲がやっとだと思いますけど……」
「結構です。それではその結界をお張りいただいて、エリナ様たちはその結界内に籠もっていてください」
リエーヌの指示にピンと来たカナーンが声をあげた。
「待ってください。リエーヌさんはどうするつもりですか!?」
「おそらくはロミリア様の結界が消失した直後にガビーロールの襲撃があるものと思われます。私はこれを迎撃いたします」
「相手は魔神だよ!? 一人で戦うつもり!?」
エリナの反論にリエーヌは一つため息をついた。
「リクドウ様のおっしゃっていたことをお忘れですか? ガビーロールという魔神は人間に憑依することも可能なのだと。だから少数精鋭で当たるべきだと」
「それは……」
「エリナ様方は、この歳の少女としては確かにお強いです。ですが、騎士団の隊長ですら抵抗できなかったものに抵抗できるとは思えません」
その言葉に反論する術は、エリナのみならずフランにもカナーンにもない。
「私のことならご安心を。ロミリア様からも話を伺って、ガビーロールへの対策はすでに練ってあります」
「ほ、本当……?」
「魔王軍の幹部として魔神たちが出現した時から十数年。私が卒業した王立魔法学院では、再びそんな魔神たちが出現した時の為の対策が盛んに研究されていました。自慢ではありませんが、私はそこの歴代首席に名を連ねております。私を信じて、お任せ下さい」
リエーヌの視線は力強く、揺るぎない。
だが、エリナにはそれが自信から来るものではないように思えた。
「……やっぱりダメだよ。一人でなんか、行かせられない」
「エリナ様……ですが……」
リエーヌは反論しかけたが、途中でかぶりを振り、エリナの瞳を今一度見据えた。
「エリナ様がそうおっしゃるなら、仕方がありませんね」
「よかった……! それじゃあ」
エリナのみならず、フランも、カナーンもホッとした笑みを浮かべる。
「ええ、本当に申し訳ございません。それでは、エリナ様――」
リエーヌもまた優しげな微笑みを浮かべて、エリナの頭をそっと撫でた。
「お眠り下さい」
「え――」
その瞬間、エリナの頭がくらりと揺れ、リエーヌの胸元へと吸いこまれていく。
「え……?」
「リエーヌさん、なにを……」
リエーヌの胸元で意識を失っているエリナに、フランとカナーンは目を見開いて驚いた。
眠りの魔法。
リエーヌは今、その魔法をエリナに使ったのだ。
「魔神たちの目的が、ノクトベルを制圧することだとは思えません。どう考えても、その目的はエリナ様。そのエリナ様を、最前線に出すわけにはいかないかと」
フランとカナーンの瞳をリエーヌは見つめて続ける。
「私はエリナ様をお護りするために最善を尽くしたいと思っております。フラン様、カナーン様も同じお気持ちなのではないでしょうか?」
「それは……そうですけど……」
理解は出来るが納得は出来ずにフランは口ごもる。
「だったら、私がリエーヌさんと一緒に戦います!」
「足手まといです」
「――ッ」
申し出を一刀両断されて、カナーンは絶句した。
「それに、結界にはそれが有効な相手というものがあります。フラン様の対魔結界を越えてやってくる者がいたとしたら? 他の魔神を陽動にまで使って来ているのです。さらなる伏兵の可能性も考えれば、カナーン様はフラン様と共にエリナ様を護っていただけるのが最善かと」
「じゃ、じゃあ、リエーヌさんもここで私たちと一緒にエリナを護れば――」
リエーヌはフランの提案にもかぶりを振る。
「収穫祭の日にガビーロールがどんなことをしたのかお忘れですか? あの魔神はエリナ様をあぶり出すためなら、ノクトベル全体を燃やすことを厭わないのではないかと。そして、それを指をくわえて見ていたとあっては、エリナ様にもリクドウ様にもお叱りを受けてしまいます」
反論の糸口を失ってフランとカナーンはこうべを垂れた。
「先ほどは足手まといだと申しましたが、フラン様の神聖魔法にも、カナーン様の剣術にも信頼を置いているからこそ、エリナ様をお任せするのです。お二人とも、エリナ様をよろしくお願いいたします」
そう言ってリエーヌは、安らかな寝息を立てるエリナを、暖炉の近くのラグの上に横たわらせ、そっとその金色の髪を梳く。
「もう夕刻の鐘まで時間がありません。行って参ります」
結局、フランもカナーンも、リエーヌを押しとどめることもついていくことも出来ずに、その背中を見送った。
大きな太鼓を打ち鳴らすような音が聞こえた気がして、エリナはハッと目を開いた。
「あれ? わたし、なんで寝て……」
「エリナ、目が覚めた?」
フランの言葉にうなずきつつ半身を起こすと、近くにはカナーンもいて、魔剣ごと膝を抱えた状態でエリナの方をじっと見ていた。
「あっ! リエーヌは!?」
その時また、ドーンという音が聞こえた。
「たぶん今、戦っているんだと思う。この音が聞こえはじめてから、まだ数分も経っていないわ」
「どうする? エリナ」
「そんなの決まってるよ! リエーヌのところに行く!」
エリナはそう言って立ちあがる。
「本当にそれでいいのね? リエーヌさんがどういうつもりでエリナを魔法で眠らせてまで一人で戦いに行ったのか、その気持ちはちゃんと考えているの?」
カナーンのその言葉と視線に、彼女自身も自分が寝ている間ずっと己に問い続けていたのだと、エリナは直感した。
そして、その問いかけはきっとフランも同じなのだろう。
「……リエーヌのことは、信じてる。信じて任せてくれって言ってたし、きっと本当に大丈夫なんだって思う」
フランとカナーンの視線を受けて、エリナははっきりと言った。
「だけど、狙われてるのはわたしなんでしょ? リエーヌに任せっきりにするのは絶対に違うって、そう思う!」
カナーンもうなずき、魔剣を携えて立ちあがる。
「エリナがそう決めたのなら、私はあなたを護るために剣を振るだけよ」
そして、フランも。
「エリナならそう言うと思ってたし、ね?」
そんなエリナたちを急かすかのように、外ではまた大きな音が鳴り響く。
「これ、爆発の音だよね?」
「ガビーロールがお手玉みたいにしてた火の魔法かも」
「急ぎましょう」
三人が装備を調えて外に出ると、キィィッと鳴く声があった。
「コル!」
コルはエリナたちの上空で何度か旋回し、そして、爆発音がしていたと思われる方向へと飛んでいく。
「案内してくれるの!? ありがとう、コル! かしこい!」
その言葉に応えてキィィと鳴いて街の西側に向かうコル。
エリナたちはコルを追いかけて走り出す。
ちょうどサビオ連山の稜線に、朱い夕陽が隠れていく頃合いだ。
山に近づくにつれて、家屋はどんどんまばらになっていく。
戦いは街から外れた場所で行われているようだ。
「あんな爆発が聞こえたから心配したけど、リエーヌ、上手いこと街外れに誘導したみたい!」
「リエーヌさん、街への被害のこともちゃんと考えていたみたいだからね」
「はぁっ、はぁっ、きっと戦いも……優勢に……はぁっ、ふぅっ」
「にゃははっ、だよねっ」
そんな期待がエリナたちに笑みを浮かばせる。
だが、その場にたどり着いた時、エリナたちが目にしたのは、もはやメイド服とは言えないほどにズタボロに焼け落ちた布を身に付け、長いロッドを支えにして、辛うじて立っているリエーヌの姿だった。
「リエーヌ!?」
エリナは思わず声をあげる。
「なぜ……。いえ、あなたはそういう方ですよね、エリナ様。ですが」
リエーヌはかぶりを振り、今一度、しっかりと地面を踏みしめて、二本の脚で立った。
「お逃げください! この魔神はガビーロールではありません!」
「えっ!?」
エリナたちはリエーヌが対峙している方向に目を向けた。
優に三十メルトは離れた先に見えるやけに大柄な人影には、煌々と光る赤い筋がいくつも走っているように見えた。
その人影がニタリと笑う。
その笑った口元も、まるで口の中が燃えてでもいるかのような光を発していた。
「我の名はプロシオン! 貴様ら人間が『爆炎を纏う者』と呼んだ存在である!」
「お下がりくださいッ!」
そう叫んだ瞬間、リエーヌの元で突如として爆発が起こった。
「くぅっ!」
その衝撃に耐えきれず、跳ね飛ばされるように転がるリエーヌ。
「そこな女はよくがんばったが、もう飽きた。童ども、貴様らのどいつが『魔王の娘』だ? 我にその力を見せてみよ!」
地獄の底から聞こえてくるようなプロシオンのその声に、エリナは怯えるどころか怒りでそのまなじりを吊り上げた。
「フラン、リエーヌに治癒魔法を!」
「わかってる!」
「カナちゃん、行くよ!」
「エリナは無理しちゃダメよ!」
「無理!」
やれやれと思いつつも、カナーンはエリナに続いて走り出す。
リエーヌは魔法使いだから距離を取って戦っていたようだが、相手も火の魔法を使う遠距離型ということだろう。
ルナルラーサから預かった魔剣アリアンロッドも、この一週間のうちにそれなりに扱えるようになってきている。
だからこそ、わかる。感じる。
確かにこの剣は、魔神の身体を傷つけることが出来るものだ。
勝ち目は、ある!
「ふむ。童二人で来るか。よかろう!」
プロシオンがカナーンの方に指を差し向けた。
その瞬間、背筋に凄まじいまでの悪寒が走って、カナーンは咄嗟に自ら横っ飛びに身体を放り投げる。
間一髪だった。
次の瞬間には、そのままカナーンが走っていたらそこにいたであろう空間が、火を噴き爆発したのだ。
「ほう、よく避けたな! よいぞ! もっと我を楽しませよ!」
プロシオンは今度はエリナの方に指を差し向ける。
「風の精霊シルフィード!」
そして、また爆発。
エリナは咄嗟に風の精霊に命じて、自らの身体を宙に翔させていた。
「貴様もよく避けた! だが――」
空中を舞うエリナに、再びプロシオンの指が差し向けられる。
「げっ!?」
「慈愛と癒しの神リデルアムウァよ! 泉の聖霊ナイアスよ! エリナに御身の加護と祝福を与えたまえ! ホーリー・プロテクション!」
フランの絶叫のような聖句と同時に爆発が起き、エリナは叩き落とされるように地面に転がった。
「あたたた……。くっ、でも、まだ……ッ」
フランによる加護の力が間に合ったのだろう。
エリナはすぐに立ちあがり、プロシオンを睨みつけた。
「ほほう、神聖魔法の使い手もいるのか。よくぞ間に合わせたものよ!」
プロシオンは上機嫌に呵々大笑する。
だが、その右手側から突如として黒髪の少女が現れ、プロシオンは目を瞠った。
「もらった!」
カナーンは魔剣アリアンロッドを閃かせ、横薙ぎにプロシオンを斬りつける。
プロシオンの反応はそれほどの速さではなかった。
やはり、距離を置いた戦いを得意とするタイプであり、接近戦には対応できていない。
アリアンロッドの刃がプロシオンのわき腹に吸いこまれるように入っていった時――
リエーヌが叫んだ。
「いけない!!」
その絶叫と同時に、プロシオンの元で大きな爆発が起きた。
その爆発により、カナーンの身体は五メルトは吹き飛ばされ、焼け焦げた身体が地面に転がる。
「カナちゃん!?」
エリナの声に反応したのか、カナーンの手が地面に生えた草を掴んだのが見えた。
だが、立ちあがることも出来ない様子だ。
「慈愛と癒しの神リデルアムウァよ。カナーンに癒しの力をお示しください!」
フランの祈りの声を聞き、エリナはカナーンへの心配を振り切って、プロシオンに目を向けた。
「今のはなかなかの攻撃であった。だが、残念であったな。我の爆炎は身を護るためのものでもある。生半な攻撃では、我の爆炎を貫くことはできんぞ?」
「じゃあ、これならどう!? 水の精霊ウンディーネ!」
エリナはガビーロールの炎の魔法を打ち消した時と同じように、ありったけの魔力を込めて大きな水の矢を作り出し、それを放った。
「エリナ様! 離れてください!!」
リエーヌの叫びも虚しく、エリナの水の矢はプロシオンに命中し、そしてまた、大きな爆発を起こした。
爆発は水の矢を蒸発させ、プロシオンの周囲に高温の水蒸気を立ちこめさせる。
「うわっつぅっ!」
「エリナ!?」
「す、すっごい熱かったけど大丈夫! フランの加護がなかったら、危なかったけど……。でも、魔神は……」
立ちこめていた水蒸気が霧散していくと、そこには平然とした様子のプロシオンの姿が現れる。
「足りぬなぁ。その程度が魔王の娘の力というわけではあるまい? 貴様らにはどうにも緊張感というものが足りぬようだ」
その言葉にエリナは絶句した。
冗談じゃない。
リエーヌもカナーンもズタボロになり、これなら効くだろうと放った渾身の水の矢も通用しなかった。
このままでは、全滅は必至だ。
それなのに、この魔神は緊張感が足りないなどと言う。
この上、一体どうすれば……。
「ふむ。貴様だな」
プロシオンがスッと指を差す。その先には――
「フラン、逃げて!」
ただ指を差し、その先が爆発する。
たったそれだけの動作からどうやって逃れればよいというのか。
ましてやそれが、戦い慣れていないフランソワーズ・フラヴィニーならば尚のこと。
「きゃあああっ!」
爆発と共に悲鳴があがり、フランの華奢な身体が跳ね飛ばされたのが見えた。
「回復役などがいるから緊張感がないのだ。童にしてはなかなかの使い手であるが興が冷める。魔王の娘よ。これならば多少は本気にもなれよう?」
「よくも……フランを……」
「ふむ?」
「よくもフランをッ!」
エリナの怒りとともに、その身体に紋様が浮かび上がっていく。
「おお、そうだ。その魔力だ。そして……ふむ、こいつは……」
プロシオンはエリナの姿を見て、思案げに顎に手をやったが、その時には懐にエリナが迫ってきていた。
引き抜いた短剣には凄まじいまでの魔力が迸り、長剣の様な長さになっている。
しかも、プロシオンに迫っていたのはエリナだけではなかった。
「アルグルース・セレネー!」
懐から斬りあげるエリナの攻撃と、上空から叩きつけてくるカナーンの攻撃。
だが、それも強力な爆発の前に弾き飛ばされる。
もんどりを打って転がるエリナとカナーン。
「私、リエーヌ・ユーエル・グリーヌの名において命じます! 風に舞う乙女ファダよ! 大気の槍を持て! その矛先ですべてのものを穿ち貫け!」
そこに、ようやく呪文を詠唱できる程度に回復したリエーヌが、間髪を入れずに強力な攻撃魔法を放った。
が、それもまた爆発と共にかき消されてしまう。
「そん……な……」
魔力も気力も使い果たして、リエーヌは膝をついた。
エリナも、カナーンも、そしてフランも。
生きてはいるようだったが、これ以上戦えるような状態ではなかった。
「……つまらん!」
プロシオンは声を張りあげる。
「もう少し楽しめると思ったのだがな! 実に残念だ! 貴様ごときが魔王の娘である事自体が、魔王に対しての不敬であり、不快である!」
そして、芋虫のように這いつくばる少女たちを睥睨して、慈愛さえ感じる落ちついた声で言った。
「せめてもの情けである。我が最強最大の爆炎にて、この街の者らと共に消え去るがよい」
その時だった。
「なんだよ。せっかくなんだから、今度はオレたちと楽しもうぜ?」
プロシオンはその声に振り向いて、不機嫌そうに低く呻く。
「むぅ? また童か……」
「あら? 子供だからって馬鹿にしたものじゃないわよ? わたしたち、あなたのような魔神を倒す力なら、ちゃぁんと持っているんだから」
「そうだぜ? 舐めんなよ、おっさん!」
あからさまに恐ろしげなプロシオンを前にして、余裕ありげな子供たちに、爆炎の魔神は興味を持った。
「我を楽しませてくれるというならばよかろう! 童ども、その度胸に免じて、名を名乗る栄誉を与える!」
「ハッ、ノリがいいのは嬉しいぜ! オレの名はアラヤ! アラヤ・エナンジーだ!」
「わたしはマナよ。マナ・エナンジー」
プロシオンの前に立ちはだかる二人の少女を見て、リエーヌはただただ言葉を失っていた。