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新章・魔王の娘だと疑われてタイヘンです! 3巻第1章 これじゃ世界中が大混乱です!?②
風呂から上がり、エリナたちはそれぞれの部屋に戻って一旦くつろぐことになった。
夕食というにはもう遅い時間ではあるが、準備ができ次第リエーヌが呼びに来る手筈となっている。
「ふぅ……」
部屋に戻ると、エリナはベッドに腰を下ろして大きく息をついた。
フランはエリナの顔を覗き込んで、優しく声をかける。
「エリナが深刻になることじゃないよ。元気出して」
「でも、さ……」
エリナの力ない声に、カナーンも心配そうな顔を向けた。
「久しぶりに見たロミリアのおっぱいが、あまりにも圧巻で……」
「「なんて?」」
いきなり飛び出した予想外の言葉に、フランとカナーンが思わず声を揃える。
「おっぱいだよ、おっぱい! 二人も見たでしょ!? ロミリアの、こんな、ボーンっておっぱい!」
エリナは手振りでその大きさを示しつつ捲したてる。
「しかもね!? あんなにおっきいのになんかこう整ってるっていうか……綺麗なの! 形がっ、いいっ、とても! 張りもあって、こうっ!」
エキサイトするエリナに眉を顰めつつ、フランとカナーンは顔を見合わせてため息をついた。
「ロミリアほどの大きさはないけど、ラティシアさんのおっぱいもかっこよかったよね! いい感じで三角形を描いてて、先っぽの方までこう、シュピーンって!」
尚も興奮冷めやらぬエリナにカナーンは苦笑を零す。
「まあ、エリナがあまり気負っていないようでよかったわ」
「ホントね。でも、心配して損しちゃった気分」
フランも同意して苦笑した。
「フランとカナちゃんだって、最近ちょっとおっきくなってきてる気がするよ!?」
「「えっ」」
エリナの指摘にギクリとして苦笑をやめる二人。
「やっぱり心当たりがあるんだ……。そうだよね。二人とも、寝てる時にわたしに抱きついてきたりするからわかるんだ。なんか、感触がね? こう……『ふにっ』から『ふにゅっ』に変わったきたって言うか……」
「わ、わかった! わかったからエリナ! もうそのお話はやめにしましょう?」
さすがに恥ずかしくなったフランが顔を真っ赤にしてエリナを制止する。
「そ、そうよ。だいたい私たちは成長期なんだから少しくらい大きくなるのは当たり前――」
「カナちゃん、それはダメ!」
「え?」
援護したつもりのフランに否定され、カナーンは目をパチクリとさせた。
「わたしの……わたしの成長期はどこ!? どこで迷子になってるの!?」
エリナは自らの胸を押さえながら立ちあがる。
その時、ギィッ! という鳴き声がして、エリナはその心の叫びをやめた。
鳴き声の主であるコルは、伸ばしていた首をのそのそと戻して寝床に丸まり直す。
「うぅ……コルにうるさいって言われたぁ……」
「コルも疲れているんでしょ。それより、また言葉がちゃんと聞こえたりしたの?」
とカナーン。
「ううん。今のは鳴き声が聞こえただけだけど……さすがにわかるよ、今のは」
「今のは私もそう聞こえたかな。ふふっ」
フランもエリナの解釈に同意する。
「そう言えば、エリナは全然元気だよね。あの双子は、えっと『ジャニュアリー』だっけ? あれを使った後、すごく疲れてたみたいだったのに」
「うん? そう言えば……集中力は結構必要だったと思うけど、疲れるのはそれくらいだったかな……。プロシオンと戦った時みたいに、魔法を連打とかした時の方がよっぽど疲れたような」
「確かにあの時はみんなヘトヘトだったと思うけど……」
プロシオンとの戦いを思い出して、フランは顔をしかめた。
「カナちゃんも魔神と戦ったって言ってたけど、あんまり疲れてないみたい」
「そんなことはないわ。でも、そうね。フェルミリアが自分から降参してくれなかったら、プロシオンの時よりももっとヘトヘトになっていたと思う」
「やっぱりものすごく強かったんだ?」
「ええ、とってもね。今思い出しても、なんで私が勝てたのか……負けを認めさせることが出来たのか、よくわからないくらいよ」
エリナはカナーンのその答えを聞いてうなずく。
「なんだか、そのフェルミリアって魔神はそんなに悪い魔神じゃなさそうだよね。カナちゃんの話を聞いただけだけど、カナちゃんもそう思ってるんじゃない?」
その指摘にカナーンは気まずそうに苦笑した。
「エリナはホント、そういうところ鋭いのね。でも、魔神は魔神。私たちと違う論理を持ってるだけな可能性が高いと思うわ。だから油断はしない方がいい」
「そうだよ。その魔神と一緒にいたロウサーっていう魔神はウィンザーベルで酷いことをしたんでしょう? ロミリア先生にも……」
二人の言葉にエリナは思案顔をする。
「それはそうなんだけどさ、魔神と話し合えるなら、戦わないで済む道もあるのかなって思っちゃって」
「エリナ、それは……」
フランが言い淀み、カナーンもまた真剣な表情になってエリナを見た。
「厳しいことを言うようだけど、私は難しいと思うわ」
「カナちゃん……でもフェルミリアは」
「そのフェルミリアたちも、スールトたちから離反してきたのよ? 話し合いができることで回避できる戦いも確かにあるとは思う。だけれど、それで戦いの全てがなくなるわけじゃない。それは私たち人間自身が歴史の中で証明してきてしまっていることだわ」
今もヒュペルミリアス皇国が戦争を起こしそうになっている事態を思い出して、エリナはがっくりとこうべを垂れる。
「……じゃあさ、スールトたちが言ってる恒久の平和ってどういうことだと思う?」
「推測でしかありませんが、魔王を頂点とした魔神による一極支配を考えているのではないかと」
疑問に答えたその声にエリナは驚き飛び退った。
そこにいたのはリエーヌだった。
「びっくりしたぁ! リエーヌ、いつの間に?」
「お食事の準備が整いましたので、たった今、呼びに来たところです。なかなか興味深い議論をされていたようですね」
そのちょっと前にしていた話を思い出してエリナたちは視線を見合わせる。
「今のお話もされることになるでしょうし、食堂に行かれませんか?」
「ありがとう、リエーヌ。フランとカナちゃんも大丈夫かな?」
二人はエリナの言葉にうなずいた。
「私もそう考えている。祖国を貶めるつもりはないが、我がヒュペルミリアス皇国もかつて大陸全土の統一を目指して戦争を起こしている。今回の場合は特に、現界と魔界を繋ぐことが、恒久の平和に至る道だと言う話だ。魔王とその忠実な配下である魔神たちによる統治を考えるのは必然というものだろう」
食堂に集まると、エリナたちの話を聞いたラティシアはリエーヌの推測を肯定した。
新しい地域との行き来ができるようになるということは、侵略の足がかりになると言うことなのだという。
そして、十二年前の魔王討伐戦争でも、魔王軍の強さは圧倒的だった。
それ故に、リクドウたちが直接魔王の居城に忍びこんで魔王を討伐したのだ。
魔王を討伐したといえば聞こえはいいが、人間同士の戦争に置き換えれば、リクドウたちのしたことは暗殺となんら変わりがない。
そして、そんな作戦が再び通用するほど、魔神たちも甘くはないだろう。
では、魔王軍に屈し、その統治下に入ればよいのだろうか。
食堂から戻ってきて、フラン、カナーンと共にベッドに潜りこんでからも、エリナはそのことを考えていた。
「エリナ、眠れないの?」
フランが小さな声で話しかけてくる。
聞こえる寝息からして、カナーンはすっかり眠ってしまっているようだった。
「なんかいろいろ考えちゃって。戦争になっちゃうのかなとか、ジャニュアリーのこととか、コルのこととか……」
コルは一度鳴き声をあげて以来、再び眠り込んでおり、それから起きた様子はない。
「やっぱり考えちゃうよね。私もそう。でも、きっと大丈夫なんだろなって気もしてるの」
「大丈夫? どうして?」
「ん、エリナがいてくれるから、だよ」
「わたしがいるから……?」
「べつにエリナが全部を解決しなくちゃいけないってことじゃなくてね、エリナがここにいてくれるだけで、すべては解決に向かっていくんじゃないかって気がしてるの」
「ますますよく分かんないんだけど……ここってどこ?」
フランはエリナの腕に自分の腕を絡ませて引きよせる。
「ここ。私のすぐ近く。カナちゃんのすぐ近くでもあるかな」
「……じゃあ、わたしたち三人が一緒にいればいいんだ」
「ふふふ、そうなるね」
それはフランの近視眼的な考えではあったが、エリナの気持ちも和らぐ考え方ではあった。
「マリちゃんだって助けられたんだもんね」
「そうね。マリちゃんも明日には目を覚ましてくれるといいね」
「うん。マリちゃんとももっとお話したいしね。……ふぁ」
「眠くなってきた?」
「うん……ありがと、フラン……。お休み」
「おやすみなさい、エリナ」
翌朝、ランドバルド邸を訪れる者がいた。
いち早くそれに気がついたリエーヌは、万全の体勢を整えて、玄関の扉を開く。
「ランドバルド邸にようこそいらっしゃいませ。よろしければ貴女様のお名前を頂戴してもよろしいでしょうか?」
その言葉とは裏腹にリエーヌは普段以上に厳しい表情を見せる。
いつの間にか取りだしていたロッドを差し向けた先にいるのは、まだ幼げな少女だった。
美しい紫色の髪に少し眠たげに見える瞳。年の頃はリルレイアと同じくらいか、それより下か。
「モロウ」
「……モロウ様、とおっしゃられるのですね? はて、エリナ様にご友人にそのようなお名前の方がいらしたでしょうか」
「ふん、エリナとやらは知らぬだろうが、おまえは知っているはずだがな。リエーヌ・ユーエル・グリーヌ」
「…………まさか……いえ、そんなはずは」
「そのまさかよ。わしとて終の棲家と決めた山奥の掘っ立て小屋から出てくるつもりなぞなかったわい。だがの、おまえの愛する平和の象徴たる姫君とすっかりぼんくらジジイに成り果てた不肖の弟子にそれぞれ頼まれてはわしの重い腰も動かさざるを得んかった。もっとも、実際に動いてもらったのは、大賢者モロウの最後の弟子であるこのヴァイオラのアーシェラだがの」
リエーヌはすかさず三歩下がり、ロッドをエプロンのポケットに仕舞いこんで、深々と頭を下げた。
「た、大変失礼いたしました。まさかリーク様の師匠であらせられる大賢者モロウ様がこちらにおいでになるとは。では、そのお姿、ヴァイオラのアーシェラ様とおっしゃいましたか。その方を媒介に会話を為されているということでしょうか」
「さよう。リークのぼんくらよりは多少は物わかりがいいようじゃの。さ、わかったならさっさと通せ。『魔王の娘』とやら、わしに見せてみよ」
「いかにモロウ様とは言え、主人の許可なく屋敷に入れることはできません。少々お待ちを」
モロウの不躾をリエーヌは丁寧に頭を下げて断る。
「ほう、このモロウの言葉に従えぬと言うか」
「はい。私はランドバルド家のメイド。今の私に命令してよいのは、主人のリクドウ様とエリナ様のみです」
リエーヌはそう言いながらも額に脂汗を滲ませていた。
一桁に見えるその少女から、魔神にも匹敵するほどの強力な魔力を感じていたからだ。
「ほっほっほっ。やはりおまえはリークのぼんくらよりは多少は面白いみたいだの。よいよい、待っててやるから、早く聞いてこい――と思ったが、主の方が先に来たようだの」
「リエーヌ、どうしたの? 誰か来た?」
「エリナ様……実は――」
朝食はモロウを加えた七人で摂ることになった。
マリウスとコルはそれぞれまだ目を覚ましていない。
「ほうほう、なかなか面白い事態になっておるの」
ラティシアやロミリアからも状況を聞き、モロウは興味深そうに笑った。
「大賢者殿、あまり笑える事態ではないと思うのだが」
「ほっほっほっ。相変わらず皇国の騎士は堅苦しいの」
モロウは尚も笑う。
見た目は完全に幼い少女なのに、老人のような言葉や笑い方が出てくる方がよっぽど面白いけど……。などとエリナは思った。
どうやらこの大賢者はリクドウたちも十二年前に世話になったらしい。
もっともその時は年老いた老婆の姿であり、自由に歩きまわることもできい身体だったそうだ。
「それにしてもお弟子さん身体を借りてまで、モロウ様がやってくるとは思いませんでした」
ロミリアもモロウの訪問に驚く。
「まあの。一つにはリルレイア姫に頼まれたから。あの姫はわしもお気に入りなのでな。まあ、リークから頼まれたのもここに入れてやるか」
「わたしもリルちゃん好き!」
エリナが手を挙げて発言したが、フランがやめなさいとその手を引っこめさせた。
「二つめには、このアーシェラの身体を使う秘術、実は先日完成させたばかりでの、どの程度実用出来るか試してみたかったのよ」
「実験……ですか。今、そのアーシェラさんはどうなさっているんです?」
「アーシェラの意識は寝ておる。目を覚ましたら挨拶させるわい」
「わぁ、楽しみ! アーシェラちゃんっていくつくらいなんだろ? リルちゃんよりちっちゃく見えるよね? 八歳くらいかな……あれ? でも、そんな歳で大賢者様のお弟子さんってすごいんじゃない?」
「エリナ」
今度はカナーンが前のめりのエリナを引っこめる。
「ほっほっ。三つめにはの、『魔王の娘』のジャニュアリーを直接見たかったというのがある」
「ジャニュアリーがなにか知ってるの!?」
「ほっほっほっ。もちろん知っておる」
エリナは今度こそ二人に引っこめられずに言った。
「じゃあじゃあ、ジャニュアリーと魔王の関係について教えてください!」
「ふむ…………」
モロウはエリナをじっと見つめる。
「……ロミリアよ」
「なんでしょう、大賢者様」
「この娘が『魔王の娘』か? こんな、お日様みたいに天真爛漫なのが?」
「イメージと違うとおっしゃりたいのはよくわかります」
「だってわたし、りっくんの娘だし! にぇへへ」
ロミリアが苦笑すると、エリナは自分で答えて笑顔を見せた。
「ふん、よかろう。ジャニュアリーについてはどこまで知っておる?」
「えっと……『界霊』って言って現界と精霊界を繋ぐ門の役割をする存在……だっけ? それで、魔神は精霊界に存在できないから、精霊界に送られちゃうと精霊に作り直されちゃう……」
「まあ、大まかにはそんなところじゃの。そして、かの魔王はジャニュアリーについての研究を極秘裏に進めておった。魔王を討伐した数ヶ月後、サイオウが見つけおったのよ、魔王の研究室をの」
唐突にサイオウの名が飛び出してきて、ロミリアとラティシアは椅子から立ちあがる。
「そんなこと私たちにはなにも!」
「大賢者殿はいったいそれを何故知っておられるのですか!?」
「いい歳した女がそういきり立つな。みっともない」
モロウは虫でも払うように手を振り、ロミリアとラティシアは歯噛みして再び椅子に座った。
「あやつ自らわしのところに訪ねてきたのよ。あのプライドの塊のような男が、わしの知恵を借りたいと言うての」
「サイオウが……? 魔王のしていた研究なんて、サイオウなら絶対に自分一人で解き明かそうとしそうなものだけれど」
ロミリアは疑問を投げかける。
「あやつも魔王討伐の英雄の一人。人の命がかかっているとなれば、そういうこともあろう」
「人の命?」
それはエリナの声だったが、みな同じ疑問を抱いたという顔をしていた。
「サイオウがわしを訪ねてきたのは、今から五年前になるか。つまり魔王討伐から六年が経過した頃じゃった。二人の幼子を連れて来ての。名はマナとアラヤと申したか」
「あの二人、やっぱりサイオウって人の子供だったんだ!?」
「拾い子だと言っておったぞ。魔王軍の残党が巣くっていた村にいた生き残りだったそうじゃ」
今度はカナーンがその言葉に反応する。
「じゃあ、あの二人、私と同じ……。え、でも、人の命ってまさか」
「察しがいいの、黒髪の。そうじゃ、その二人は生き残りではあったが、その命は風前の灯火であった。運の悪いことに、その村を支配していた残党の頭は『激流公』ハイアーキス直下の水妖ルサールカ。生贄にされかけていた二人には、すでに強力な水妖の呪いがかけられていての、ひとたび眠りに就けば、たとえ砂漠にいようとも溺死してしまう状態じゃった」
「え……砂漠って砂だらけで水もないところだよね。そこで溺れ死んじゃうってこと?」
エリナは顔を青ざめさせた。
「聞いた覚えがあるわ。魔王軍の水妖ルサールカは、溺死した子供が大好物だって……」
ロミリアの言葉にエリナのみならず、フランやカナーンの顔も青くなる。
「しかし呪いであれば、ロミリアならば解呪できるのではないか?」
ラティシアが疑問を呈した。
「水妖の呪い……。呪いにも種類があるからなんとも言えないわね。リデルアムウァは水が属の神だから相性は悪くないと思うのだけれど、サイオウが大賢者様の元に行ったと言うことは――」
「さよう。あやつはこちらの方が確実性が高いと踏んだのじゃろ。もっとも、あやつに言わせれば『ついでの用も同時に済ませられるから』だったそうじゃが。もちろん、その『ついでの用』というのがジャニュアリーに関する知見ということになるかの。リエーヌよ、どういうことかわかるか?」
唐突に話を振られたリエーヌだったが、驚いた様子も見せず、ただそれでも必死に思考を巡らせながらという様子で答える。
「なるほど……。ルサールカの呪いは精霊性のものだったのですね。精霊性の呪いは呪いをかけた者か、その上位の精霊にしか解呪できない……。ですが、そこにジャニュアリーという例外があった。マナとアラヤに水以外のジャニュアリーを宿すことによって、その呪いを分解した……。詳しい理論は私にはわかりかねますが、このようなところではないでしょうか?」
「うむうむ、やはりリークのぼんくら小僧より頭が回るの」
「恐縮です」
リエーヌはモロウの賞賛に頭を下げた。
「もっとも、言うほど容易いことではなかった。当然のことじゃがの。ジャニュアリーを人に宿す方法、サイオウとわしとで必死に調べ、意見を交換しあった。その間、幾度となく溺れかける二人を起こしながらの。目を覚まさせる術も幾重にもかけていたが、それももはや現界に達しておった。じゃが、あの幼子らはそれでも最後まで耐えきりおった。わしらは幼子らが死に至る前に、なんとか二人の身に風の精霊界のジャニュアリーを宿すことに成功したのじゃ」
「おおおおお……」
エリナが感動して拍手を送る。
「あ、でもでも、マナとアラヤ、一人ずつじゃなくて、二人で一つのジャニュアリー使うよね? あれはどうしてなの?」
「おぉ、その説明を忘れておったか。儀式の関係上、一回しかチャンスがないことがわかっていたのじゃよ。わしらはどちらかを見殺しにする選択を迫られたのじゃ。じゃがの、マナもアラヤも朦朧とした意識の中で二人一緒がいいと申すものでの、サイオウが苦肉の策で二人を一つとしてジャニュアリー宿す方法を編み出したのじゃ。成功した後でわかったことじゃが、あの状況で一人だけを選んでいてもジャニュアリーを宿した疲労で死んでいた可能性が高かった。二人に宿したことでその負担が分散されたのも成功の一因だったというわけじゃ」
「すごい……すごいよ……マナとアラヤ……ううううっ」
引き続き惜しみない拍手を送るエリナ。
涙と鼻水まで出はじめて、控えていたリエーヌがハンカチを当てていた。
「私もあの二人を見る目がちょっと変わってしまいそう」
「でも、やっぱりエリナが信じたとおり、いい子たちだったんだね」
カナーンとフランも涙ぐむ。
「感動話はわかったが、話を進めてもらっても構わないだろうか。私は少し嫌な予感がしているのだ」
「……奇遇ね、私もよ」
ラティシアの言葉にロミリアが賛同した。
「嫌な予感って……?」
リエーヌのハンカチで鼻をかんでからエリナが言う。
「君のことだ、エリナ。君のジャニュアリーがどの精霊界のものなのか。そして――」
ラティシアは、一拍おいてから慎重に言った。
「魔王はなぜ、それを君に宿したのか」