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新章・魔王の娘だと疑われてタイヘンです! 2巻エピローグ
『失われし時の迷宮』と呼ばれる古代の迷宮、その中枢たる広間には、複雑怪奇な幾何学模様と文字と思われる記号が埋め尽くされていた。
魔力が流しこまれるとそれらは怪しく光り、蠢き、迷宮の全てで以て構成された古の術式を起動させる。
「おまえたちのことを完全に信じたというわけじゃない。だが、罠にしてはあまりにも回りくどすぎる」
「結局、信じられるのはそこだけってことね」
「感謝する。貴公らのその判断に」
スールトのその返答にルナルラーサは面白くもなさそうに鼻をならした。
「まあ、これはもう行くしかないっしょ」
「悪いな、ルナルラーサ、レイアーナ。また、こんなことに付き合わせちまってる」
「なにを今さら」
「にゃはは、ホントだよね」
彼女たちの苦笑にリクドウはうなずく。
「やってくれ、スールト」
「承知した。では参る」
スールトが右手を掲げると、魔力の明滅が強さと激しさを増しはじめた。
やがて金切り声のような高い音が鳴り響き、魔力の光でなにも見えないほどとなった。
そして、音と光が限界を超えて高まると、まるでガラスが砕け散る様に弾け飛び、止まる。
広間の中央にいたはずのリクドウ、ルナルラーサ、レイアーナの姿は消えていた。
「安堵する。勇者らは本当に行ったようだ」
「魔王陛下の遺された術式、疑うつもりはありませんけれど、彼らが向かった先には本当に……?」
ヘルマイネは素朴な疑問を呈する。
「然り」
スールトはうなずきつつ、リクドウたちが消えた場所に黒い鎧の顔を向けた。
「そこには、魔王陛下ご本人が在らせられる」
◇ ◇ ◇
バサッ!
エリナたちが地下迷宮から出てくると、大きな羽音を立ててコルがエリナの肩から飛び立った。
太陽が西に傾きつつある空にぐるりと大きく円を描くと、再び降りてきて、エリナの正面にあった大岩の上にとまる。
「コル……?」
そんなコルを見て、エリナはパチクリと目蓋をしばたたかせた。
「どうしたの? エリナ」
エリナの様子に気がついて、フランもコルがとまる大岩に目を向ける。
距離の具合だろうか。
コルの身体が大きくなっているように見えた。
これまでにもコルが急に大きく成長したことはあった。
だが、先ほどエリナの肩にとまっていた時と比べても倍以上に大きくなっているように見える。
それに色だ。
赤みを帯びていたはずの身体が、今は黒い影のように見えるのだ。
異様さを感じて、カナーンもロミリアもリエーヌも、そしてマリウスを背負っているラティシアも脚を止め、コルの姿を見あげていた。
「なあに、コル? わたしになにか言いたいことがあるんだよね?」
「エリナ、コルが言いたいことがわかるの?」
エリナの言葉にカナーンが疑問を挟む。
「細かいことはわかんないけど、コルがなにかを伝えたがってるってことくらいはわかるよ」
コルがさらに長くなったように見える首をしきりに巡らし、そして、またゆっくりとエリナの方に顔を差し向けた。
そのシルエットに誰もが息を呑んだ。
「エリナ」
涼やかな少女の声で名前を呼ばれて、エリナは驚き、辺りをうかがった。
フランの声ではない。
カナーンの声でも、リエーヌの声でも、ロミリアの声でも、ラティシアの声でも……。
未だラティシアの背中で眠りに就いているマリウスの声でもなかった。
「コル……なの?」
「エリナ」
「コル! 本当にコルなんだ! コル、すごい!」
エリナはその事実に歓喜の声をあげる。
「エリナ、魔神マリアから伝言がある」
だが、コルのその言葉にエリナは驚き、その口をつぐんだ。
「魔神マリアはエリナに感謝している。エリナがしたことは双子がしたことと似て非なること。他の魔神やできればガビーロールのことも、エリナによって葬ってほしい」
「ど、どういうこと……? それにコル! コルがどうして魔神マリアからの伝言なんて」
「ごめん、エリナ。今はここまで……」
コルの姿がゆらりと揺らめき、そして、脱力したようにとまっていた大岩から倒れ、落ちてくる。
「コル!?」
エリナは咄嗟に駆けより、コルをその両手で受けとめた。
不思議なことにコルの身体はエリナの肩にとまっていた時と同じ大きさに戻っており、黒い影のように見えていた羽の色も赤みを帯びたものに戻っていた。
「コル!? コル!?」
「エリナ! コルは大丈夫なの!? それにさっきの大きな姿は……」
エリナの次にコルをかわいがっていたフランも心配そうに駆けよる。
「えっと……大丈夫……だと思う。コルは寝ちゃってるみたい。でも、さっきの姿のことはわたしもわかんないよ。それに、コルがわたしに言ってきたことも……」
「コルが、なにか言ってきたの? あ、そっか。エリナ、細かいことはわかんないけど、コルの言いたいことくらいなんとなくわかるんだもんね」
「え、そういうんじゃないよ。今コルがわたしの名前を呼んで、魔神マリアからの伝言があるってはっきりしゃべったじゃん」
「え?」
「え?」
驚いたフランの顔にエリナは驚き、同意を求めて辺りを見回した。
カナーンも、リエーヌも、ロミリアも、ラティシアも、誰しもがそんな声は聞いていないとばかりに首を横に振る。
「えええ……。わたし、コルがしゃべってるの、はっきり聞いたのに……」
がっくりと肩を落とすエリナに、ロミリアが声をかけた。
「信じるわ、エリナ。元々、あなたの言うことを疑うつもりもないけれど」
「ロミリア」
「それに、コルが黒く大きな姿になったのは私たちも見ていることよ。それでようやくこの子の正体に思い当たったの」
コルは鳥のような姿をしていたが、精霊性の存在であること以外、それがどういったものなのか誰もわかっていなかった。
「コルがなんなのかわかったの!?」
「たぶんね。それも正確なところはやっぱりなにもわからない。だって、それを見たことがある人がほとんどいないんですもの」
「なんなの、ロミリア。もったいぶらないでよ」
焦れたようにエリナが言う。
「ドラゴンの幼生よ」
「ふぇ? ドラゴン……? ドラゴンの子供ってこと……?」
エリナの腕の中でうずくまるコルの姿に目を向ける。
それはどう見ても鳥のようだった。
だが確かに、先ほどの大きな姿は……。
それに黒い影に呑みこまれてよく見えなかったが、大岩にとまる両脚の他に、前脚のようなものがありはしなかったか。
「コルがもし本当にドラゴンということならば、エリナ様がおっしゃったこともうなずけます。ドラゴンと言えば、人間をはるかに凌駕する知性を持つ存在。その上、エリナ様はコルを召喚したと聞き及んでいます。召喚主と意思疎通する術を持っていたとしても不思議はないかと」
リエーヌの補足にロミリアも大きくうなずく。
「エリナ、コルは大丈夫なのよね?」
タイミングだと思ったようでカナーンが切り出した。
「もうすぐ日が落ちます。ともかくノクトベルに続く山道まで出てしまいませんか? マリちゃんのことも心配ですし」
「カナーン・ファレスの言うとおりだ。『魔神マリアからの伝言』というのも気にかかるが、それは道すがら話してくれればいい」
ラティシアが追従するとエリナたちも次々にうなずく。
「あ、わたし、カナちゃんが通路に残った後、どうしてたのかも聞きたい! 絶対魔神出てたよね!?」
「ええ、もちろんそのことも話すわ。でも今は山道に出る方が先よ。落ちはじめた太陽は、びっくりするほど早足なんだから」
「それは、わたしもよく知ってる……。ね、フラン」
「だね。急ご、エリナ」
エリナと山の中で遊んでいて遅くなった経験を持つフランは、エリナのその言葉に苦笑してから鬱蒼と生い茂る木々の間を歩き出した。
どんなに危険な目に遭っても、どんなに強い力を持ってもエリナはエリナ。
日が暮れるまで二人で遊んでいたときと、なにも変わらないエリナに安堵し、フランは改めてエリナのことが大好きだと思うのだった。
■□■2021/10/15更新■□■
二巻分はこの回で終わりとなります。
ちょっと無軌道にやり過ぎてペース配分間違えた感が半端ないので、三巻分はもうちょっとちゃんとプロット切ってからやろうと思います。
というわけで、三巻分の開始となる次回更新は年内は難しいと思います。もう少々お待ちください。
また二巻の方も見直し修正を大幅に入れてから頒布したいと思います。
あ、冬コミがあるから、サークルが当選すれば一巻の物理本(笑)の頒布はできると思います。
その告知はまたさせていただきますね。
よろしくお願いいたします。
■□■2021/10/15更新■□■ここまで