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真面目な人ほど一人旅に行った方がいい

ヨーロッパに行くのは3度目である。

一度目。3人での旅行だったが、それぞれの国で3人とも行きたいところが別ということで、日中は別行動をし、夜ごはんを食べながらそれぞれが行ってきた場所を報告し合うという、今考えたらよくわからない、しかし自分たちらしい旅行だった。それでも長距離の移動や飛行機は一人きりでなかったため、孤独を味わうことはなかった。

二度目で、初めて一人で海外を訪れた。
仕事を辞めてすぐ、逃げるように日本を飛び出した2年前。胃をキリキリさせて懸命に働きながら、ひっそりと退職後の旅行の計画を立てるのは、脱獄計画のようで楽しかった。一人で降り立ったドイツは、目に入るもの全てが美しかった。しかし、しばらくこんなにゆっくり旅行なんて行けないので楽しまなければという強迫観念めいた気持ち、言葉の通じないヨーロッパで無事に旅行を終えられるのだろうかという小さな不安とが旅行中終始ついて回った。「楽しかった」よりも、「無事に終えた」ことが重要だったように思う。


そして今回の旅行である。
航空券、ホテル、移動手段を全て自分で決めた(これは先日のオーストラリア旅行での経験による。あれ、意外とできるじゃん、と。)。支払いもすべて日本で行なったため、終始スムーズに旅行が進んだ。旅行に慣れていく自分を見つけて嬉しくなった。


観光スポット、食べるもの、お土産など、全てを無理に楽しまなくていいのだと、肩の力を抜いて楽しめた。どうせ自分はアジア人の観光客なのだからと、カッコつけずに人に頼った。話しかけてくれる人の親切に、恥ずかしさではなく、優しさを受け取ることができた。実に多くの人の優しさに触れた。北欧の方々は親切で、電車で起こされたのは一度や二度ではない。長所と短所は表裏一体とはよく言ったもので、私の長所である"どこでも寝られる"は、短所でもあるのだ。
電車のトラブルもいくつかあったが、周囲の方の助けのおかげで無事に到着することができた。

観光中、急に行き先を変更したり、滞在時間を伸ばすなどの変更は一人旅の醍醐味であるにもかかわらず、以前は自分で組んだスケジュールですら遵守しなくては、と真面目に考えてしまうところがあった。今回は思うままにどんどん変更していった。思い立って急遽訪れた博物館は偶然にも入場料が無料になっていたし、予定外に訪れた森の美しさには涙が出た。行き当たりばったりも悪くなかったのだ。

気になったお店にずんずん入っていった。ランチをしたお店の居心地がよくて、食後のコーヒーを頼んでゆっくりした。少し危険な場所にも行ってみた。昔ヴィレッジヴァンガードに売っていた、ヤンキーの車に吊るしてある葉っぱの形の芳香剤の、ホンモノの方がカジュアルに売っていた。空が突き抜けるように青くて明るくて、芝生で寝っ転がったりした。店員さんに話しかけておやつをもらった。あんまりおいしくなかった。船に乗って島まで行った。船が公共交通機関として機能していて、ICタッチで乗船した。日本も島国なのに、海路は一般的ではない。あたたかい庭園で、犬を連れたカップルを眺めてアイスを食べた。鴨川かというくらい均一にカップルが転がっていた。ヨーロッパの公園の芝生は、日本の鴨川のほとりだった。
そんな風に、これまでの自分だったらできなかったことや感じなかったことを、自然に、心からゆっくり楽しむことができるようになった。


楽しめるようになった理由のひとつには、以前の旅行でずっと抱えていた「これが最後かもしれない。後悔のないように楽しまなければ。」という気持ちが無かったことである。転職をして、連休を取ることができるようになった。それも10日間。どうなってるんだ。休みの日まで仕事に追われることがなくなり、上司から来た連絡に卓球のラリーのような速さで返す必要もなくなった。


もうひとつが、あり大抵に言えば、自分自身に素直になれたという、気持ちの成長である。

今まで、自分で決めたことも、ルールを遵守しなくてはと無意識に自分を縛って行動してきた。誰に求められたわけではないのに、張らなくてもいい見栄を勝手に張り、何かを得なくてはいけないと必死になっていた。
そんな真面目で普通の人間である自分が嫌で、人と違うことをしなくてはと、最も実行に移しやすい一人旅に手を出していたのかもしれない。お金を払えば必ず手に入れられる「行動力がある」という称号。一人で旅をすること自体は、全くすごいことではないのだ。
今回の旅行を通して、前回の旅行から1年弱の間で、自分が自分に素直になったことを実感できた。嫌だったらやめてもいいし、疲れたら休めばいいし、予定は変えてもいいし、つまんない観光地はつまんないし、案外、場面で動くのは楽しい。つまんないのに楽しいふりをする必要はどこにもないのだ。一人なんだから。

「せっかくきたんだから」をやめることは勇気のいることだ。けれど、ちょっともったいなくても、自分が楽しくないと何の意味もない。

なので私は、真面目な人ほど一人旅に行くことをおすすめする。
自分自身が、どれだけ自分に縛られているかを理解することが、毎日がちょっと生きやすくなる小さな一歩なのかもしれない。

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