警察のお世話になった話

今は昔、20代前半の頃、警察のお世話になったことがある。
痴漢で。
ちなみに、私は、痴漢をしたわけではなくされた方である。
犯罪被害者(と書くと重々しいが)として、警察の方にお世話になったのだ。

当時、私は電車通勤をしていた。
田舎なので、通勤ラッシュの時間帯でも隣の人との間に人が0.5人くらいは入れる位の距離が開いていて、隣の人と密着することはまずない。これで痴漢してたらすぐにばれるし、こんなところで痴漢をするのはどうかしているという状態。そもそも、痴漢する思考を持っている人がどうかしているというのは置いておいて。
田舎なので駅の周りにいくつか自転車置き場があって、多くの人が自転車でやってきてその自転車置き場に自転車を置いて電車に乗って出勤や通学をしている。
私もそんな一人だった。

私がいつも止めるのは、立体駐輪場。3階建て。
運がよければ1階に止められるが、そんなことはまず無くて大抵2階、たまに最上階の3階に止めていた。

その日は、朝ちょっと家を出るのが遅くなって3階に自転車をとめていた。それを帰宅時、電車から降りて思い出した。シフトの関係で時刻は16時頃だった。
3階まで上がるのめんどくさいなぁー、と重いながら鉄製の階段をブーツでカンカンと音を立てながら上っていた。これまた、このブーツが歩きにくいんだよな。と思った。買ったばかりのシフォンスカートの裾はひらひらとゆれて階段を上るのにはむいてないわ。

と、そこで、後ろを上がっていた人に、ブーツが当たった。
振り返って「あ、すみません。」と声をかけると、青いフード付きパーカーを着た40代くらいの男性だった。

そのまま階段を上りきり、自転車が置いてあるところにいって鍵を外そうとカチャカチャしてると、後ろから声をかけられた。

「すみません。」
振り返るとさっきの男性。蹴ってしまったことに文句を言われるのかしら?と思ったら、とんでもない言葉が飛び出した。

「おしり触っていいですか?」

なんでやねん、と心の中でつっこんだ。が、口から出たのはそれを自分なりに敬語にした
「なんでですか。」
という何とも間抜けな言葉。理由を聞きたいわけではない。
私が力が抜けるつっこみをすると同時に青いパーカーの男は私のおしりを触っていた。

はぁぁぁぁぁぁ??????
もう、びっくり。今の、何?もしかして、痴漢?
あんな痴漢、あるわけ?おしり触る許可得て触る痴漢聞いたこと無いけど。
てか、はいどうぞ、って差し出す人いるの?

驚きで、体が固まり、一瞬でいろんなことが頭を巡る。
男はそのまま階段とは反対の奥の方に歩いて行っていた。

私はその後ろ姿を見つめて、そのまま自転車を動かして押しながら、猛スピードで立体駐輪場を降りて、徒歩1分ほどの距離にある交番に飛び込んだ。

パトロールなどでいない時間もあるが、幸いにもその時は若いおまわりさんがいた。
記憶にある限り交番に入ったことはないし、このおまわりさん、なんか線も細いし、若いし、大丈夫かいな、と失礼なことを思いつつ、駐輪場でおしりを触られたことを伝えた。
一緒に行ってみようと言われ、私は自転車を交番に置いたままでおまわりさんと立体駐車場方面に歩いて行っていた、ら。

あの男、くわえ煙草でこっちに歩いてきてる!!!
なんなの?おしり触って一服してるわけ?は?

「あの人です!」と若いおまわりさんに伝えると、おまわりさんがその男に近づいて
「ちょっとすみません。今、自転車置き場から来ました?あのね、この方(私)があなたにおしり触られたって言ってるんですけどお話きいてもいいですか?」
と、世間話的に話しかけていた。

私は、犯人に顔を覚えられるのも嫌で柱の陰に隠れるという端から見ると私の方が怪しい人間状態で、その様子を見ていた。
おーい、そんな悠長なこと言っていて逃げられたりしたらどうするの。おまわりさんーーーー!
と失礼なことを思いながら・・・。今になって思うと、えん罪の可能性もあるから私だけの話を最初から信用してはいけないですよね。当時はそこまでえん罪に対する意識は高くなかったですが・・・・。

話を戻すと、男は私たちの方に向かってやってきたので進行方向が交番の方だったわけだ。そして、私が柱の陰に隠れているうちに、彼らは交番の中に入って行った。
私は、中に入るのも怖いし、かといって帰るのもよくないし、で場所を変えて交番の近くの柱の陰でうろうろしている怪しい人アゲイン状態だった。

途中で、中に入って一緒に話を聞くようおまわりさんに提案されたが、顔を覚えられて逆恨みされるのが怖い、とやんわりお断りした。
そうこうしているうちに、大分時間が経っていたので、実家で待っている母が心配するだろうと電話をかけて事情を説明したら、迎えに行く、と駅まで来てくれることになった。

母が到着する少し前にまた別の年配のおまわりさんが出て来て
「このままじゃ話もゆっくり聞けないから、あの人本庁の方に送って行くわ。パトカーで出ていくから、それが終わったら交番で話を聞かせて」
と言われた。
私、柱の前で隠れながらパトカーが出るのをしっかりと見つめる。ほんと、あやしい。

その後、母がやってきて、交番の中でおまわりさんに詳しい事情などを話している時に年配のおまわりさんに
「あいつ、自分がやったって認めたわー。行く途中で認めたみたい。」
と教えてもらった。

それからは、いわゆる事情聴取。現場に行って(ご丁寧に自転車も持っていた)言われるままに指を指して写真を撮ったり、色々と話をしたり。
私があまりにも「逆恨みで刺されるのが怖い!」と騒いでいたので
「わかった、わしがあいつに、絶対刺すなよっていってやるから。」
と年配のおまわりさんに諭されるという今思えばかなりのリップサービスをいただいた。

ちなみに、犯人の個人情報は被害者に開示された。
「あいつ、(住所)に住んでいる○○って人だけど面識ある?」
と捜査上必要なのだろうことも教えてくれたし、聞いたら年齢も教えてくれた。40代、無職。

今にして思うと、だが。
きっと犯人は常習者だったのだろう。
自転車置き場に、自転車を持たずに入って自転車を持たずに出てくる。
つまり、自転車を止めたり、止めた自転車を出す目的ではないのだ。
そう考えると、私、どこからつけられてたんだろう、と怖くなるが。

階段でブーツが男に当たったのは、それだけ近くにいたからだろうし。

私が自転車置き場から出て、交番に入ってからまた戻るまでは結構な時間があるのに自転車置き場付近で再開したと言うことは、あの日他の人にも痴漢をしていたのだろうか。

結構インパクトの強い痴漢で、今では誰に話しても爆笑される私の鉄板ネタの一つだが(そして私も笑い話にしている)、当時はその日履いていたブーツやシフォンスカートは長い間履けなかったし、当分の間通勤が怖かった。

この程度の痴漢でもこれだけ怖いのだから、満員電車で痴漢被害に合う人はどれほど怖いことだろう。
私自身は、警察に男を捕まえてもらったからそれでも怖さが少し減っていたように思う。どうかどうか、痴漢被害がなくなりますように。



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