あおむらさきあかむらさき
朝、パンを買いに行く。アパート脇の小路にはツユクサが咲いている。それを見つけたとき、ここに越してきてよかったと思った。この土地がいいなといつも思っているけれど、ツユクサがすぐそばにあるのは、そこにいてくれると知っていることは、わたしをとても落ち着かせてくれる。
小路沿いの家の庭に、黄色く色づいた梅の実がばらまかれたみたいに落ちている。ところどころうす赤く、みどり色も残っていたりして、とてもきれい。機会があったら、落ちた実をちょっといただけないかなと考えている。もう梅干しは漬けないけれど、梅ジュースは作ってみたい。
信号待ちをしている時に、紫陽花が咲いているのが目に入った。あざやかな濃紫色。なかなか見かけない色だと思った。日を改めてまた来ようと決めた。
パン屋の入り口前にはウスベニアオイが咲いていた。白いめしべが大きく見える花があって、目を凝らすと、白い花粉をまとったハチだった。まるで最初から白い体だったかのように花粉にまみれていて、しあわせそうだと思った。
帰り道に、濃い赤紫の紫陽花を見かけた。紫陽花の色と場所を、ひとつひとつ見つけては覚えていく。ここで過ごす初めての梅雨。
跳びあがるほどうれしいとか、大声で誰かに話したくなるくらいうれしいとか、そういうおおきなよろこびではない、ちいさな自分だけのよろこび。ちいさなちいさな気泡が、水底からゆっくりと浮かびあがってくるような、見逃されてしまうようなささやかな、自分にしか意味を持たないこと。そういうしずかなよろこびをしずかに積み重ねていくのが、やっぱり好きだなと思った。