シグナル:未来学者が教える予測の技術
変化への抵抗は、脳に太古からある、脳幹と小脳の近くの脳の下部に位置する「爬虫類脳」にしっかりと刻みこまれている。心拍数や体温などの自律的な生命維持機能をつかさどっている。
人類の進化の過程を通じて種を保護・保存してきた「闘争・逃走」反応を制御するのもここである。
このシステムが、複雑な新たな概念に圧倒されたり、なじみのないトピックについて判断を迫られたりすると、自らを守るために心理的苦痛、恐れ、不安を引き起こす。
アドレナリンが体内を駆け巡り、必要とあれば闘争あるいは逃走する準備を整える。
ハイゼンベルクの不確定性原理
ある物体の正確な位置と速度を同時に測定できない。
つまり、あらゆるものが他のものの影響を受ける。
未来の基本原則
・未来はあらかじめ決まっているのではなく、たくさんの糸が織りなすものであり、その糸は現在にも織り込まれている。
・未来を織りなす可能性のある糸は、現在に織り込まれている姿によって観察できる。
・現在の時点で、起こりうる未来、起こりそうな未来に影響を与えることは可能である。
未来を予測するための六つのステップ
1.社会の端っこに目をこらす
2.CIPHERを探す
3.正しい質問をする
4.EATを計算する
5.シナリオと戦略を考える
6.行動計画の有効性を確認する
1.社会の端っこに目をこらす
・「『Xの未来はどんなものか』と考えるとき、自分の業界にズームインすると同時に、一歩下がってズームアウトし、周囲の景色を広い視点で見ることが重要。
「端っこのスケッチは、想定外のニューフェース、その関係性やXに与える影響を可視化したもの。
スケッチを始める前に頭に入れておくべきルール
・理論上の話や質の低い情報まで含める。
・現在の障害は、未来には克服されているかもしれないと想定する。
・工夫次第で使えるものは、使われるようになると想定する。
明確化のための質問群
①この分野に直接、間接的にかかわっているのは誰か。
②この分野の実験に資金を出している、あるいは他の形で奨励しているのは誰か。
③この出来事によって直接的影響を被るのは誰か。
④このような変化を阻もうとする動機を持っているのは誰か。そうすることで何か得をする、あるいは損をするのは誰か。
⑤このアイデアをもっと壮大なこと、あるいはもっとすばらしいことの出発点とみる可能性があるのは誰か。
2.CIPHERを探す
「端っこのスケッチ」を作成し、Xに影響を及ぼすノード(個人や組織)とそのつながり(関係性)を可視化したら、「端っこのスケッチ」に詳細情報を追加していく。
六つのパターン識別子、CIPHER(サイファ)でトレンドを明らかにするモデルを構築する。
CIPHER
C: Contradiction(矛盾)・・・今までは組み合わせできなかったものがなぜか結合し進化している様子。例:車内でのわき見運転を助長するネット環境整備の拡充。
I: Inflection(変曲)・・・急激な変化を招く出来事。企業、製品、研究チームの買収など。
P: Practice(慣行)・・・すでに確立されていた慣行(価値観、概念)をそれが壊すこと。
H: Hack(工夫)・・・消費者や、企業、ユーザーが違う用途や方法で使い出し発展させること。
E: Extreme(極端)・・・新天地を切り開くため本気でやっていること。
R: Rarity(希少)・・・社会運動、コミュニティなど一見関係の無い様なものが人のニーズに答えたり社会の要素に影響を与える。
3.正しい質問をする
トレンド候補を分解し、前提条件や知見に疑問を投げかける。
ある結論が既存の常識の枠組みに収まるとき、われわれは疑問を持たなくなる。これは「確信バイアス」と呼ばれ、誰もがその影響を免れない。
確信バイアスを乗り越えるには、たとえ自分の目に映るものを信じているときでも、意識的に反対することが必要だ。
このような反対意見は「ディスアドバンテージ(弱み)」と呼ばれる。
現代の変化の要因を検討し、社会の端っこに広く網をかけて研究成果を集め、CIPHERモデルのパターン識別子を見つけ、点と点をつないだら、第三ステップで自ら検証する。
4.EATを計算する
トレンドがくるタイミング,、EAT(到着予定時刻)を計算する。
トレンドが軌道にのると企業内部の変化、関連企業や政府など外部の変化が起こる。
トレンドのタイミング=テクノロジーの内的進歩I +/- 外的事象E
テクノロジーの内的進歩I :トレンド固有の、あるいはトレンドに直接影響を受けるテクノロジーの進歩。通常、組織の中で起こるか、あるいは組織と外部の研究者と協力関係の結果として起こる。
外的事象E:テクノロジーが順調に進歩した場合でも、トレンドの未来に影響を及ぼしうる隣接する出来事や状況。通常、テクノロジー企業のコントロールはまったく及ばない
5.シナリオと戦略を考える
トレンドに対する行動戦略を考えるにあたっての七つの質問
・このテクノロジー・トレンドと関連性のある、収斂しつつあるトレンド候補にはどんなものがあるか。
・このトレンドが成功/失敗したら、さまざまな人や組織にどんな影響があるか。
・このトレンドは特定の産業、企業、政府、およびその構成要素にどんな影響を与えるのか。
・この変化の推進役となるのは誰か、どの組織か。
・トレンドはどのような集団の役に立つのか
・競合企業はどのようにトレンドを妨害し、競合しない類似企業はトレンドをどのように活用しているか。
・トレンドによって産業、企業、政府、あるいは他の組織の垣根を越えて、新たな共同事業や協力関係が生じるのはどこか。
これらを「起こりそうな未来」、「起こるかもしれない未来」、「起こり得る未来」に分類しシナリオを作成する。人の判断は合理的では無いので、テクノロジーの進歩の時間軸と結果に対する非合理な感情的反応を考える必要あり。判断材料が出揃うまで決断を待つのも一つの手だが、最後は直感に頼らざるをえない。
確実性(高)で重要度(高)の場合は、「今すぐ行動する」
確実性(高)で重要度(低)の場合は、 「戦略の参考にする」
確実性(低)で重要度(高)の場合は、「警戒を続ける」
確実性(低)で重要度(低)の場合は、「忘れてよし!」
6.行動計画の有効性を確認する
自分の選んだ対策やその行動戦略が、実行可能であるか妥当であるかの確認。
FUTUREテスト
F: Fundation(基礎)・・・組織内で同意や理解、さらには主要メンバーが変わったとしても支持されるかという基盤があるか。
U: Unique(独特)・・・それは唯一のもので真似されにくく独特か。
T: Track(追跡)・・・それのトレンドを追跡し、その評価指標があるか。
U: Urgent(緊急性)・・・ユーザーに差し迫った必要性があるか。
R: Recalibilate(手直し)・・・作った後のトレンドの追跡とその手直しのためにどれほど資金的時間的、資源があるか。
E: Extensible(拡張性)・・・将来の変化に対応可能か。組織内で解決できるのか、他社の力が無いといけないのか。
現在のパラドックスは、遠い未来、そして近未来のテクノロジーに関するわれわれの判断をゆがめる。一時的に流行しているアプリを本物のトレンドと誤解することもあれば、破壊的変化の波を一時的な現象と見誤り、特異な例として切り捨てる大失態を犯すこともある。
トレンドの明確かつ普遍的な特徴
・人間の基本的ニーズから生まれ、そのニーズを新たなテクノロジーが叶える。
・タイミングよく登場し、しかも存続する。
・出現して以降も変化を続ける。
・互いに結びつけることのできない多数の点として社会の端っこで出現し、主流へと移動していく。
未来を六つのタイムゾーンで整理する
①今(これから12カ月以内)
②短期(1-5年後)
③中期(5-10年後)
④長期(10-20年後)
⑤超長期(20~30年後)
⑥遠い未来(30年以上先)
トレンドに影響を及ぼす「変化の10の要因」
①富の分布
②教育
③政府
④政治
⑤公衆衛生
⑥人口動態
⑦経済
⑧環境
⑨ジャーナリズム
⑩メディア
トレンド→本物の潮流
トレンディ→ 一時的な流行
両者を区別することは、難しい。
二面性のジレンマ
われわれの思考や行動によって、チームが完全な右脳型になり、刺激的ではあっても組織がおよそ実行に移せないようなアイデアばかり生み出すようになることもあれば、プロセス思考しかできない完全な左脳型チームになることもある。
「二面性のジレンマ」を克服するためには、「開放」と「集中」を交互に繰り返す。
①開放思考で端っこを探求する
②集中思考でパターンを見つける
③開放思考で正しい質問をする
④集中思考でタイミングを計算する
⑤開放思考でシナリオと戦略を描く
⑥集中思考で行動計画をストレステストにかける
マジック・リープ推しで、空飛ぶ車はなぜ実現しないと。