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スイッチの一枚

たまには、恋バナなんかどうでしょ!?

今から、さかのぼること、十数年前。
仕事から帰ってきて一息ついていたら、携帯が鳴った。ヤツからだった。
「もしもーし」
「もしもし?」
「もしもし?どうしたと?」
明らかにいつもと何かが違う緊張した声だったので、きっと何事かあったんだと思った。

「・・・あのさ、今から時間ある?」
「あるよ?どうしたん??何かあったと?」
「うん、いや・・・あのね。話があるっちゃけど・・・」
「話?」
「うん。ちょっと出てこれる?」
「うん、いいよ。あ?何で来る?車?」
「ええ、車ですが・・・」
「夜景が見たい!夜景見に行こうよ!夜景ドライブ~♪」

当時、一人暮らしをしていた私。まだ車を持っておらず、どこかへ出かける時は列車やレンタカーを使っていた。なので、車を持っている友達から誘いがあると、昼夜問わず、問答無用でドライブへ連れて行けと言っていた図々しい輩だったのだ。

ヤツとは・・・。

ヤツとは、高校時代の同級生。高校の時に出会ってから、ずっと友達で、共通の友人と数人で遊んだり、旅行に行ったり、ライブに行ったり、時々悩みや愚痴を聞いてくれたり、私の本音を話せる数少ない男友達だった。

たわいのない話から、真剣な恋の悩みや仕事の愚痴をファミレスやファストフード店や、時には近くの公園へ行って、お茶を飲みながら語ったり、聞いたりしていた。

そんなヤツが、何か思いつめたように電話をしてきた。これは何かがある。絶対何かあるぞ。
そう思って出かける準備をしていたら、ヤツが車でやってきた。

どこに行きたいとね?

「うーん・・・今日は志賀島に行こうよ!」
「りょーかい」
車は福岡市東区にある、陸続きの島、志賀島へ向けて出発した。

途中、都市高速で空港近くを通過する。
あー、空港の夜景も捨てがたいなあと思いながら、夜景ドライブにルンルンの私。
「で、話って何ね?」
「んー・・・まあ、着いたら話すわ」
「そうなん?」
やっぱり、こいつ、変だ。

ここで私はピンときた。
これは、あれだな。恋愛系の話だな。いや、もういい歳だから、結婚が決まったんだな。この前もお見合いの話を聞いたばかりだし、そうだ、それに違いない。きっと絶対、私に結婚式の受付を依頼するつもりだな、こいつ。

やがて、車は都会の夜景を越えて、海へと出た。そして海辺の道を走りながら、島の展望台へと向かう。すれ違う車もだんだん減ってきて、やがて、目的地である展望台に到着した。

ここに着くまでの間、どんなに面白そうな話をしても、生返事だったヤツ。そして、いつもあんなにおしゃべりなのに、今日は沈黙の方が長い。もう、変を通り越して、気持ち悪いぞー。

車を降りて、展望台に登る。雨が降った後の夜の潮風は、冷え性の私にとっては、まだ肌寒かった。

「で?話って何なん?」

びゅうびゅう吹く潮風に軽く引っかけてきた薄手のカーディガンをぎゅっと握りしめて、身体が冷えないように、風から身を守る。
展望台の一番上から見る景色は、博多湾の夜景。都会の灯りが夜景を盛り上げている。

「あのさ・・・付き合わん?」

「・・・・・・・・・は?」

「やけん・・・俺と付き合わん?」

「・・・・・・・・・へ?」

それはそれはもう自分の耳をこれでもかというぐらい疑った。なんか今「付き合う」とかって聞こえてきたっちゃけど・・・。

「え・・・誰と?」
「だから、あなたと、ですよ」
「それ、マジで言いよると!?」
「うん」

いやいや、ちょっと待ちんしゃい。え?この前お見合いした話はどうしたと?いい感じって言いよったやん。っていうか、あんたの好みのタイプ知っとーとよ。高校の時から、ずっとMちゃんが好きやったやん。まあ、告白してフラれてたけどさ。いや、そうじゃなくて、だいたい俺の彼女の第一条件は「O型じゃない人」って言ってたやん。私、真っ先にアウトよ!?・・・っていうかさ、

「あのねぇ、いま、そのセリフを言うって、分かっとーと!?」
「分かっとるって?」
「歳も歳だから、それって結婚前提なんよね?」
「・・・もちろん」
「っていうか、あんたの彼女になる第一条件から外れてるって、ずっと言いよったやん。もぉ、マイナスからのスタートっちゃけど。分かっとーと!?」
「分かっとるよ。これから頑張るけん」

この日の夜から、ヤツとは友達から恋人の関係になり、恋人としてほんの2、3ヶ月ほど付き合って、そのまま結婚したのであった。

撮った!

いや、なんで今この話をするのかというと、季節が春になって、あまりの天気の良さに「海を見たい病」が発症した私は、志賀島へひとりドライブに行ってきたのだ。この季節はよくこの病が発症する。

島へ車を走らせながら、そういえば、そんなこともあったなぁ~と思い、せっかく行くならと、数年ぶりに展望台へ行って、ぱちり。
まあ、今思い出しても、ベタなんだか、ツッコみどころ満載なのか、よく分からない、あの日の出来事だった。

で。
当時の私にとって、とてもとてもあり得ない衝撃の告白があった数日後、あらためて、何故あの告白だったのか?と聞いたら、旦那はこう白状した。
実は、高校卒業してから数年経った後ぐらいから、ずっと気になっていたのだと。そして、さらに数年後の今このタイミングで・・・。

「うん・・・スイッチが入った(^^)」



記事を書くための栄養源にします(^^;)