決して交わりはしないから
それは愛ではなかった。
執着でもなかった。
大事にされていた?そうでもなかった。
飽きたわけではなかった。最初から変わらなかった。
でも彼は、単なる「男友達」ではなかった。
二年ほど前の話だ。
わたしはレズビアンで、恋愛の対象は女性だ。男性を好きになることなど無いと思っていた。
彼と抱き合う夢を見たとき、はっと目覚めて泣きそうになった。自分がわからなかった。本当は男性が好きなのにもてないから、負けた気持ちになるのが嫌で、女性に逃げているんじゃないか。そういう心の声が、どんどん大きくなった。
彼の話を聞くのが好きだった。世界を旅した経験談に、小さな嘘を混ぜるところ。最後の最後で、まあ、あれは嘘なんだけどね、とさらっと白状するところ。どうでもいい嘘は誰も傷つけないから、好きなんだ、とニヤッと笑いながら言うところ。
煙草のにおいも嫌いになれなかった。大人なようで、子供のようないたずらを仕掛ける彼がいとおしかった。女装したいな、と言うから、いくらでも手伝うよ、といった。
あれは、愛ではなくて、恋ではなくて、
はじめて出逢った「仲間」だったのだと思う。
わたしたちはおなじ「そういうタイプ」だったから、お互いの悩みがわかりすぎてしまった。埋められない寂しさをかき消すために、抱き合う夢を見た。夢の中でしか、決して繋がれない、男と女だった。
いま、彼の行方はわからない。ほんの短い夏の間、ぐっと引き寄せあったわたしたちは、互いの寂しさを埋め合わせることもできずに、秋口にはすっと離れていた。寂しさは寂しさのままだ。