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水は下に流れてゆく#1 赤坂
いらっしゃぁいっ♡
あら、佐々木さんじゃない。
(佐々木=架空の人物)
年の瀬にあんた、こんなところにきて。
寒かったでしょう。
「いやー、ママ元気だった?今日も美しく舞ってるねぇ。だいぶ年増になったけど。」
なに?聞こえたわよ。そうね、わたしが夜の蝶として舞いはじめた頃、ずいぶん若くて美しかったわ。今と変わらずね…ふふ。
゚。O。゚。O。゚。O。゚。O。゚。O。゚。
どこの国でも
どんな祭りでも、
にぎやかなところは
なぜか侘(わび)しさがつきまとう。
提灯もって、橋を渡ってゆくおんなの子。
そっちへ行っても、月見草はまだ咲いていないよ。
いまはまだ 冬だから。 ゚。O。゚。O。゚。O。゚。O。゚。O。゚。
高校一年生の冬、
はじめてのアルバイト(歯科助手)代を持ってなんとなく新宿アルタに向かった。
お姉さんぶりたいお年頃。
わたしはヒールの高い少しだけ派手なパンプスを買った。
♢
すくないバイト代を、特に趣味でもなかったとはいえ、なんだかお姉さんになれるようなパンプスにほとんどつぎ込み、お財布はとても軽くなってしまったけれど、心はなんだかホクホクと温かかった。
帰宅後、その靴を見た母は、何の脈略もなく鬼の形相でハサミを握りしめて
「この売女が」
「生きている価値ないわね」
などと罵り、その『はじめてのアルバイト』という名の戦利品である靴を見るも無惨な姿に切り裂いてくださった。
何故だかはわからない。
いつものことだ。
わたしは至極冷静だった。
何度となく幼少期から見てきた慣れ親しんだ光景。
その半狂乱になって、買ったばかりの靴を切り刻む母の姿を上から静かに見下ろしていたことだけは鮮明に覚えている。
…
……
ああ、そっか
なにを我慢してきたのだろう
わたしもうこの家にいなくてもいいんだ…
後に死んでもおかしくはなかったと医師に言われるほどの虐待を受けていたわたしは、大きなバッグに身の回りのものを詰め込んで、そのままのろのろと家を出た。
玄関のたたきには、数時間前に買ったパンプスが、引きちぎられたまま乱雑に転がっていた。
こんなもの、もういらないわ。
力なくわたしは笑った。
早生まれのわたしは
まだ15歳だった。
(伊代の永遠の後輩だね)
ここから数か月のことは
16歳になっていたわたしは、想像に容易いかな、紹介とはいえど夜の蝶になることに。
(この頃は色々と規定が緩かったんですね)
当時、自宅が渋谷区の宇田川にあったため、タクシーで近い赤坂にあるTBS裏のコリンズビルが夜の蝶のデビューとなった。
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正直あまり覚えていない。
ただ、ここから30年近く生きてきて、本当にたくさんの男性を見てきた。
それでも、わたしが格好の良い遊び方をすると思う男性は…いまだ両手にも及ばない。
その赤坂の店で何故か記憶に残ったとある一人の紳士。
✳︎
日本人特有なのかしら。
他所で自身の彼女や妻を蔑むことで周囲の笑い誘う風潮にあるけれど、その方は違った。
いつもキレイな飲み方をし、ホステスの気分を害することもせず、
「おれの妻はホントいい女なんだよな、ほら見るかい?」
たった一枚の写真の中で微笑む女性は、わたしたちホステスとは違う、とても平凡で、そして野暮ったく、容姿としてはさほど美しくないものの、この豊かな心を持つ男の手により満たされている、そんなふんわりした嫌味のない温かい表情をしていた。
素直に『いい女』だと讃えた。
こういう男性は素敵だな、と思った一人でもあります。
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マニアックな中華が多かったな
当時の赤坂は朝鮮人が多く、なんとなくもの暗いイメージが付き纏っていました。
ホステスとしての
基本の“き“を学んだわたしは、どうせなら日本一の場所で接客のノウハウを学びたいと思い、超がつくほどの銀座の高級クラブへ行くことになります。
〜いざ銀座の地へ〜
もう、佐々木さん呑み過ぎよぉ。はい、呑み過ぎシール!
んもぅ〜
しんみりしてんじゃないわよぉ。陰気臭いったらないわね。
何億年前の話だと思ってるの。
はい、お会計1億円!!
また来てね♡