華々しく照らしてくれ、ありふれた生き様を ブルーアーカイブ「-ive aLIVE!」感想
カントリ~ロ~ド……(アパラチア地方のあいさつ)
Fallout76をぼちぼち進めながら「お~今日も撃っとるなあ」とのんきに核の炎を眺め、ビチビチ跳ねるモールラットの塊肉食って煤の花のお茶飲んでたらブルアカにスイーツ部イベント第二弾が実装されてました。は、早くない?生放送のキービジュアル公開からほとんど時間経ってなかった気がするけど。えっ誰かV.A.T.S.でも使った???
しかし、スイーツ部イベはこれ、難敵ですね。「来たな…」って感じですよね。読む方としても身構えなきゃいけない。
前回のイベントの感想記事でもイベント初回・復刻レイサ実装の二重の極みで感情を破壊されたので、今回も相当の剛速球を投げてくると想像できます。良いシナリオを読んで受け止めるっていうのはそれなりの「心構え」が必要になる……。
そんなわけでいつにもなく緊張感を持ちつつも、今回も好き勝手ブルアカの幻覚を書いていきます。イベントのネタバレが記事に含まれるほか、公式の根拠に基づかない独自・個人的な解釈がありますので、本記事をお読みの際はご注意ください。
ガールズバンドがわからない
もうまず今回のイベントをちゃんと読み解けるか、味わいきれるかがこの時点で不安すぎる。ガールズバンドのことがなんもわからない。これたぶんベイビーメタル聞いてたり今期放映中のガルクラとかを追っかけてる人だったらちょうど「お~!」ってなる話題だと思うんですけど、おれの好きなロッカーはザック・デ・ラ・ロッチャとジョニー・シルヴァーハンドなので……。
困った。女の子と女の子がイチャイチャするイベントなのに俺の切れる会話のカードがパンク野郎か超パンク野郎の二択しかない。ハートフルというよりハードロック、きらら系というよりサングラスがギラギラ系。文学でたとえるならライトノベルのレビュー書いてもらうのに完全に目が据わった三島由紀夫を連れてきたみたいな空気になってしまう。
ガールズバンドってまさに青春、ブルーアーカイブのお話じゃないですか。ちょっと、こういうパンクでイカれた奴が出てくる感じではなさそ
パンクでイカれた奴が出てきたな
合うんかなと思ったら音楽性のほうがこっちに来た。思想が強ぇ奴なのか…!?おれの音楽の好み、結構このイベントの空気感に合ってるかもしれん……。
ワイルドハントってどんな生徒が出てくるんだろう!?と思ったら一発目からまさかの公園で寝てる路上生活者のおもしれー女が大気圏外から突き刺さってきたんだが…。
ウソつけぇお前ェ!!この喋り方から出るアーティズムはぜってぇやくしまるえつこかDAOKOかACAねか平行線歌ってたあたりのさユりだぞ!!!たぶん「歌詞で何歌ってるか理解しても理解してくれなくてもいい」とか言ってくるタイプだぞ!!!「椎名」の苗字で眠れる森の姫とか「林檎」っぽいこと言ってるのにどんな事変が起きたら魔界からクラウザーさんが召喚されちゃうんだよ!!!!
ていうかなんでこんなバキバキのアナーキストがアイリのお師匠さんポジションに来るんだよ。大丈夫か!?廣井きくり枠で呼んできていいライン越えてねぇか!?!?!?
「アイリらしくなさ」をフックにする巧みな導入
さて、異常デトロイトメタル女の登場で早くもこちらのペースが完全に乱されていますが続きをやっていきましょう。
今回のイベントは導入から巧みな誘導がありますよね……。このままで本当にいいの?という言葉に引っ掛かり、モヤモヤした中で路上演奏と出会ったアイリは衝動的にバンドに傾倒していく。爽やかではありつつも、プレイヤーに「なんかアイリの様子がおかしいぞ」「ちょっとアイリらしからぬ嫌な感じが出てるな」とふんだんに感じ取らせる出だしで始まります。
このアイリらしからぬ、というところがポイントで、あんなに落ち着いていて性格の良い明るいアイリがこんなにも焦るのか?と疑問を感じさせるフックでこちらを引っ掛けてきます。
セムラを言い訳に使ってまでスイーツ部をロックバンドに巻き込むなど、なんだかアイリが心揺れてるな、と察させるスタートなのですが…。
先生もそれには気づいており、要所要所でアイリに声をかけついて行きます。このへんはさすが教育者ですね。本当に生徒の足舐めたりヒナ吸いしてる変態と同一人物なのだろうか…。この後の展開を考えるとここで先生がしっかりフォローに回っていたことで大惨事を免れた感があるので、ツムギとの出会いを含め今回のイベントを大きく左右したなと思わせます。
ツムギの言い回しも非常に聡い。いまのあなたには多分わからないだろうけど、覚えていてほしい……という言い回しは、この子も何かしらの苦難の大嵐をひと波越えてきたのでは、と思わせます。
たとえば自信満々で調子に乗ったルーキーに先輩が何を言っても響かないでしょうが、まあいっぺんやってみなと挑戦させたあとに初陣を一緒に振り返れば、他人のアドバイスもよく理解するでしょう。どんなにいい言葉、名言金言でも「実際に人生経験を積んだ後に」はじめて自分に照らし合わせ、納得して理解できるケースがある。
ツムギはさすが歌詞に乗せて言葉を紡ぐ専門家というべきか、タイミングと条件が揃ってこそ言葉が威力を発揮することがある…ということを知っている人ですね。思慮深く、言葉を慎重に扱う点では、ナツと非常に近いところがあります。
「普通の女の子」のアイリが抱える闇
先生が察していた通り、案の定アイリの中に溜まっていた不安と悩みが決壊し、先生に向かって流れ出します。いやほんと、ここで先生という第三者が受け皿になっていてよかったと思いますね。スイーツ部には言いづらい悩みなので、その外側にいる先生という聞き手がいたのは良かった。これそのまま抱え込んでグズグズになってたら人間関係ぜんぶブッ壊すとこまで行ったんちゃうかな……。
認識を逆手に取った告白
このイベントでアイリがあらわにした苦しみは本当に鬼気迫るもので驚きましたね。栗村アイリとはこんな水準だったのか?と驚愕せざるを得ない。
これ、一朝一夕で出てくる自己嫌悪の精度じゃないですよね。めちゃめちゃ明るくてポジティブな人間のメンタルがたまたまBAD入っただけだったら、ここまで掘り下げて自分の嫌いなところは思いつかない。こういっちゃあなんですけど羽沼マコトからはどう逆立ちしても絶対に出てこないワードの数々ですよ。真壁一騎くらい日々ストイックに後悔と自己否定を重ねてこないと出てこない。
相手が良い人だと知っているけれど、その言葉の裏には本当は言えない私への不満や恨みがあるんじゃないの?私はこんなにダメなんだから、きっとあるはず。でも大切な友達がそんなこと言うなんて想像してしまう自分が嫌。これも私の性格が悪いからそう考えてしまうんだ。もうどうしたらいいかわからない……。
こういう、裏の裏の裏まで勘ぐりだして疑心暗鬼が止まらない状態ってのはネアカの人間に昨日今日で起こるもんじゃないですよね。多少鬱屈とした素地があって自意識の嵐が吹き荒れてないとここまでなんないと思う。おそらくですけど、スイーツ部を結成した当初から少しずつジワジワと溜まっていた心の膿があって、ずーーーーーっとそれを隠し通して明るく振る舞っていたんじゃないか?と思います。
おれたちプレイヤーは、彼女に対して『栗村アイリ』15歳 学生 性格はまじめでそつなくこなすが今ひとつ特徴のない生徒………という認識を持っていましたが、今回それを逆手に取って見事にひっくり返したと言うか……アイリという手のかからない”いい子”には、きっと裏表なんかないんだろうという一方的な思い込み・押し付けがあったんじゃないかと突き付けられたような衝撃がありましたね。導入で「明るく朗らかなアイリらしくない」と思わせつつも、そこから一手進めて、「いや我々プレイヤーはアイリの何を知ってるんだ?」と。こちらが知らないだけでアイリの内面では思春期の悩みが渦巻いてるんだよ…と。
いままで多くは掘り下げられてこなかったアイリのキャラクター性を、むしろ掘り下げられないくらい普通であることに着眼してひねってきた巧みなシナリオですね。プレイヤーから参照できる「キャラクターの性格プロフィール」はあくまでプレイヤーの視点から見たらそう見えるだけだよ、腹の中で何考えてるかはその子次第だよ……というトリックに使ってきた。結構、メタ的にも凝った仕掛けと言えます。
アイデンティティがない、生まれない
「普通である」ということは「何かひときわ特別なものがない」ということ。
実際はそうでもないというか、われわれ社会からはみ出したボンクラからすると他人に合わせたり物事を普通にやれるのはすごい才能だと思うのですが、アイリ本人はそう思い込んでしまいます。スイーツ部の面々は自分の考え、個性があって、こんなに特徴があるのに私にはない。
ここでアイリの挙げる「みんなの長所」。あやまたず正確に当たっているところがまたなんとも言えない切なさがあります。
あいつらは天才でどうせ苦労してないんだとか勝手に邪推して偏見で妬み嫉んでいるわけではなく、実際に彼女らが持っている素質や乗り越えてきた苦労を素直に「すごい」と羨んでいる。素の性格が良く、他人をよく見てなだめたり仲裁役に入るアイリだからわかってしまっているんですね。
これが本人の性根が曲がっているだけだったら「君の見方が間違っているだけであいつらも欠点があるぞ」という解決もあったのでしょうが、この場合だいたい事実なのが厄介ですね。まったく屈折せずまっすぐに直視しているぶん、ひときわ激しくその眩しさに焼かれてしまっているのでタチが悪い。綺麗だなあ、なんで私はああじゃない。なんで私は埋もれている……。
アイリの「何者かになりたい」という苦しみは、スイーツ部の面々と比較してのこと。これはあとで本人も過去のことに触れる通り、カズサがスケバン時代を払拭し「スイーツ部に並び立てるキレイな人間になりたい」と思っていたことにも重なります。時間差で同じ問題にぶち当たった、と言ってもいい。カズサが自分を変え、血を流して「何者かになった」をアイリがいままさに乗り越えようとしている。
いわゆるアイデンティティ・クライシスと言える状態ですね。
ちゃんとした説明は発達心理学あたりの専門書を引いてもらったほうがよいのですが、かいつまんで言うと我々が生まれてから死ぬまで人生の中で何度もぶち当たる「自分らしさ」のトラブルです。それまでは自分のそのままの性格でうまく行っていたものが、環境の変化や周囲の人々の変化で不和を起こし始め「新しい自分」「自分の軸となるもの」を見つけないとどうにもうまく行かないぞ、しっくりこないぞと思い始める。
そこで解決すべき何かを探して(アイデンティティ探求)乗り越えることで、「私はこういうことができる人物だ」「私とはこういうものだ」(アイデンティティ確立)という納得感を得ることができるわけです。
カズサはそれが早く来て、しかもスイーツを楽しむ女の子に憧れるという形で外部から「課題」が与えられ、さらにレイサの襲撃という「事件」が起きたので、それを乗り越えることで自分のかつての汚名を振り返って受け止め、新しい自分らしさを確立できた。
アイリはそうではなかった。解決すべき「事件」「課題」がなかった。だからこそ焦り、自分が何者であるかを知りたくて自分からロックバンドという「課題」を探し回って無理やり作るほかなかった。そのうち「みんなでバンドをやってみたい」という課題がすりかわって肥大化し、「みんなを騙して巻き込んだ以上、建前のためにどうしても入選してセムラをとらなければ」と巨大なハードルに膨れ上がってしまった。しかも間が悪いことに、自分のパートがみんなよりも進まないせいでより一層劣等感を抱えるハメに。
自分で乗り越えようとして作った課題が解決できなくなってしまったんですね。あまりにも大きな壁がそびえ立ち、劇中のとおりアイリは逃げ出すほかなくなってしまったということです。
セムラ強奪という事件が起こる
そこでアイリのことを思ったスイーツ部のメンバーは、部の取消しを覚悟でセムラ強奪を企てる……。
ここもまた、笑えるけどいいシーンなんですよ。
結論から言うとアイリはセムラなんてどうでもいいんですけど、メンバーは全員「アイリの言っていたことを信じた」から勘違いしてセムラを強奪しに行ったんです。
まあもう少しアイリのことを疑ったほうが本当の解決は早まったんですが、「アイリは嘘ついたり人を騙すような奴じゃない。本当にセムラを食べたかったけど自分の練習がうまくいかなかったからそう思っちゃったんだ」「じゃあセムラさえ食べられればアイリといっしょに解決できるはずだ!」という思考回路だったわけですね。アイリのことを1ミリも疑ってないからあの発想が出たんだろうなと思います。
ここでイチカが出てくるのもな〜〜……。絶妙だよなぁ。
いつぞやTRIP-TRAP-TRAINの記事でも書きましたが、イチカは「なんでもそつなくできるけど何にも熱くなれない」ことに悩んでいる人物。あらゆることを天才的に何でも器用にスパッと極めてしまえるイチカは、自分の個性がないと劣等感で苦しむアイリとは遠くもあり、しかし本当の(短気で飽き性な)自分を隠している・自分が見つからない点では同じ苦悩を持つ人物。根っこの悩みは極めて近い、似て非なる存在ですね。
ここでイチカが出てきて一本取られたなと思うのは、アイリとは反対にイチカは「普通になりたい」と思っているフシすらあることです。普通に、みんなみたいに、なにか好きなものを見つけて熱中したい。アイリにはスイーツやチョコミントがありますね。イチカにはそれがない。アイリとは反対側のスタート地点からアイリがすでに持ってるものを探して「ない!ない!」って苦しみながら走って来ている人なんですよ。
たとえ自分よりすごい人、才能がある人であっても、なお自分が見つからずに苦しんでいることもある。それどころか「私は普通じゃないんだ」と感じて普通になりたがっているかもしれない。アイリの「何かに秀でて特別になりたい」の行く先に必ずしも幸せなゴールがあるとも限らない、という示唆をやや感じます。
事件を経て、受容に至る
先生が気を利かせてその場を立ち去り、アイリは自分の内心を苦しみながらも吐露していく…。
アツいし、まっすぐに青春してていいですね。
ここでアイリの抱える様々なズレがなくなった、というのが彼女の中で一つの転機になったのかなと。
アイリはここまででいくつかの誤解をしていて、「みんながすごい、足を引っ張る自分なんかいなくなればいい」というのがひとつ。「セムラを取れなかったら意味がない」というのもひとつ。「自分が何者でもない」というのもそうですね。
スイーツ部からしてみればアイリといっしょにいるのが楽しいので、バンドが楽しければべつに結果とかどうでもいいわけですね。むしろアイリがいる、楽しそうということに重きをおいている。
一方で、アイリのことを過剰に美化していたという点はカズサたちも誤解を抱えていたことになります。
自分とは何なのか?ということがわからなくなっていたところで、「自分は本当はこういう人間なんだ」と打ち明けて、自分から見た自己を明らかにしつつ、そしてナツたちからも「そういう部分もあったんだね」「いやあなたはこういういいところがある」「こういう人間だと思う」と確かめあってくれる。「私はこういう人間だったんだ」ということがまさにしっかり固まっていく大事件ですよね。
ここについては、ツムギがこうなるように仕向けた自身の狙いを解説した通りですね。うーん、トリックスターしとる。
つまりアイリは、アイリの想定したロックバンドでの自己実現ではなく「スイーツ部との関わり」から課題が出現し、自分が何者かの一端を知ることができた、と言えるのでしょう。一番をとることよりロックやるならまずそこじゃねえ?とやんわり遠回しに教えてくれたり、念のためその後の様子を見に来たあたり、ツムギは優しいですね。雑草食ってる女かアル中酒カス女だったらここで食事代ないし電車賃せびってたとこやね。
すごいやつをまとめ上げるのもまた才能
しかしツムギはこうも言っています。「アイリは何者かになりたいって目的をまだ達成してなかったよね?」と。
それに対しての先生の答えやスイーツ部のやり取りもなかなか、含蓄があります。
これですよね。ナツ、こういうときに良いこと言ってくれる。
なぜスイーツ部の「すごい」面々がアイリといっしょにいるかというと、アイリが信用に足る人だからです。「この人は良い人だ、一緒にいて間違いねえだろう」と思っている。そのためなら正義実現委員会に特攻だってかけるし、恥ずかしいキャスパリーグの異名も一晩限りで復活させるくらい。
特にカズサの入れ込みよう…と言ってはなんですが、アイリへの憧れは凄まじいものがありますからね。
もう少し言い換えると、アイリは「すごい人を引き寄せて居心地を良くする才能がある人」なんです。
実際、世の中こういう人はいるもんです。個人的な話ですが、いっとき学生時代のおれが生徒会のような組織に属していたときにものすごい人当たりの良い会長がいて、必ず話した相手をいい気分にさせる天才でした。何か指摘するときには「いつも頑張ってくれてるね!ところでなんだけど…」と褒めから入るなど、今でもあの人はすごいな…と思わせるひとたらしぶり。うまくいってる組織のチームリーダーとかはこういう人多いです。
まあ変な話、他作品で引き合いを出せば広瀬康一くんとかおけけパワー中島とかもこの類型に入ると思います。華はないかもしれないけれど明るく人を励まし、素の性格がいいから強烈な個性がある人間が寄ってくる。……人をやたら狂わせたりもしますけどね……。
言ってしまえば、そもそもブルーアーカイブの先生もそういう人ですよね。先生が銃を撃てるか盾を振り回せるかと言ったら違うけれど、ミカやツルギ、ヒナといった物凄い面々とコネを持ち、ひとりひとり誠実に接して信頼を勝ち取っている。その信頼の結果として「色彩」の侵略にありったけの生徒を動員し、奇跡を起こしてみせたのは証明済みですね。その人はすごくないかもしれないけど周りのすごい人に渡りをつけ、人に好かれ、ベストコンディションにするのが天才的にうまい役どころというのがあります。劇中に登場したイチカとはここでも重なります。イチカも人と人を結びつける才能がずば抜けている。
そもそも、居心地がよくない、四六時中キレ散らかしてあたり散らかすような人のところには人が居着きません。アイリのすごいところはまさにそこなんです。「穏当で暖かで、一緒にいてとても気分がいい誠実な人だ」という才能がある。そういう人だからカズサとヨシミがどれだけキャンキャンやっていてもアイリが宥めたら矛を収める。
だからこそ、「あなたの言うすごい仲間たちってのがなんで自分のところにいてくれるのか、考えてごらん?それがあなたの美徳なんじゃないの?」ってことを、先生やナツは言っとるわけですね。
そしてアイリは何者になっていくのかについても、実は答えが出てます。これは「スイーツ部の部長」ですよね。
栗村アイリは、自分の全部を賭けてついて行っても良いと思わせるくらい一緒にいて気分が良く人柄が優れている人で、いずれあんたに部長になってほしい。これが今回のイベントでわかった、アイリとは何者か、そして何者になったのかの答えではないかとおれは思います。
アイリは黄金の釘を打った
これ、ライブシーンが本当に言葉失うくらい良くて…。
アイリが歌詞を書いたんだな、って思うとこの子ひとまわり大きくなったんだな…って…。ツムギの言ってた「音楽は人に寄り添うもの」って本質を見事に突いているんです……。
(ミツキヨさんが担当したらしいですけどめちゃめちゃアイリの心情を汲み取った澄んだ歌詞です)
アイリの書いたであろうこの歌詞は、言わずもがな彼女の葛藤に根ざしたものです。苦しい、自分が見つからない、羨む嫉妬する……ちょっと汚い暗い感情も正直に吐き出している。アイリの人生が乗っかってる歌詞なんですよね。
賞レースに勝ちたいって言うんなら、たとえば売れ線のバンドを研究するとか技巧的にすごい曲をやるとかあるわけですね。
でもツムギが言っていた、人に寄り添う音楽ってのはそれだけじゃなくて歌詞に意味がこもってなきゃダメなんですよ。
おれがちょこちょこ記事の中で引用しているように、戦ってる歌、悩む人の歌や自分の短所をまっすぐ見つめ抜いた情けない歌、嫉妬や羨望を題材にした暗い歌が世の中にはあります。
そういう曲がなぜ評価されるかというと、自分の中から湧いて出てきた、もしくは人を徹底的に見つめ真摯に向き合って心の声を掬い取ることができているから。ずっと仕舞っておいて二度と見たくないような苦悩を引き出しから取り出して、じっと見つめて生み出した歌詞だから。本当の体験や人の負の感情の井戸を直視したとき、そこにウソはない。だからこそ聴いた人が「自分もこういう体験したな…」と感じることができる。それがいわゆる人に寄り添うことじゃないですか。
たとえばぼっち・ざ・ろっく!の(ことさらアニメでの)後藤ひとりの作詞がなんでスゲえのか、って言ったら喜多ちゃんとか見て空の星がもう眩しくて眩しくて、いままで背負って抱え込んできた「そんなに光るなよ」って暗い感情・劣等感をリョウの後押しを受けて覚悟して詩に落とし込んだからで、だからこそ光れない暗いところにいる人の立場に立ってもがいて戦ってる姿がバカみたいにカッコいいわけで。
まことの心をまことの声に出したとき、間違いなくその思いと同じ境遇にいる人には共鳴するんです。アイリは自分の背負った苦闘からいい詞を引き出したな、と思いますね。
-ive aLIVE!を振り返ってみて
さて、ここまでちょっとエラそうというか俯瞰して上からイベント全体の流れを追って解釈しながら感想を書いてきましたが、自分の個人的な見方で振り返って感じたことも書いておこうかなと思います。
まあまずちゃんとメンバーが各担当でバンドやってて面白かったなと思います。「みんなが大事だと思ったところをやってみたら?」と自然に振り分けた先生の割当てもなかなかセンスがいいですね。
今回ちょっとアイリ主軸で記事を書きすぎてしまったのですが、各メンバーもイキイキとしていて良かった。ヨシミが1日でメンバーに似合う服を見立てて、ついでにシュガーラッシュのロゴデザインやカーニングができているのはすごいなって思う。イラレの天才やんけ。いや今は簡単にそういうことできるアプリもあるかもしれんけど、無数の選択肢から正解のデザインを出してくるのがすごい。これは……アイリが嫉妬しちゃうのも無理ないな~~……。おれやったら創英角ポップ体が炸裂するで。
カズサもかっこよかったね。マンモス校だからファン1万人くらい発生してそう。たまたまライブに通りかかったゲヘナの子の「カズサ様のマスク尊しゅぎ……」ってpostにトリニティの鍵垢から「は?顔ファンがよ………カズサ様は声だろうが、だからゲヘナは」とか100件くらい見えない引用RTついて本人知らんところで火種になってそう。当のカズサはナツをボコったりヨシミとギャースカしたりアイリとシュガラを楽しむこと以外なんも興味なくてそのへん下々の争いを一顧だにしてなさそうで良いですね。まあ冗談はおいておくとして真面目な話、ヨシミの見繕った服飾もアウターを省いて白地のロゴシャツにしたってのがすごい大胆なチョイスよね。シンプルだけど顔がキリッとカッコいいからそれで過不足なく成り立つのよ。
ナツはセッションハゲされてたのも面白かったけど実際良いドラマーなんだろうな~って思う。ナツ自身裏方に回るのが好きな性格だし、よく考えてみたらふだん盾を扱っているので腕力もないでもなさそうなんですよね。ドラムがへたばったらリズムが総崩れになっちゃうので大変なパートだと思うんですけど、一曲終わってからスティック投げる余裕があるってのはなかなかなんじゃないのかな…。カズサにボコられても無限のタフネスでおちょくりつづけるのがなんか知らんけどバンドに活きている。
レイサが突撃してきていまだにカズサ以外にキョドってるのがかわいすぎる。守りたい、このへにゃへにゃ顔。いつでも遊びに来てねって何回言われても慣れないのが愛らしいですね。おれも大概人見知りするから他人のこと言えんけど、おまえもう、生粋の筋金入りやな……。
それにしても宇沢くぅん……君も良い歌詞書けそうな顔してんねぇ。具体的に言うとイベントストーリー1本分くらい人生経験背負ってる顔だよ。ロックやんなさいよロック……(彼はおにころを啜りながら書き終えた)
何者かになりたいという普遍的な悩み
それにしても、今回のイベントでアイリが明かした「何者かになりたい」って悩みは先生が指摘したとおり誰にとっても無縁ではない話ですよね。
いやぁ、あるよぉアイリ!そうだよな!!!全然ありますよほんと。この歳になってもあるからね。何歳になっても劣等感あるし悔しいさ。
昔からワナビーが苦しむってのはよくある話なんだけど、とくに今の時代はすごく簡単にプロと出会ってそのレベルの違いを実感させられるようになっちゃった。
なんといっても眼高手低がつらい。他人のいい作品を見れば見るほど、目が肥えて「自分の作品がダメだ」ということをよく理解してしまう。みんなそういう悩みを抱えながら「何者かになりたい」「高みに行きたい」と苦しむことになる。
おれもそうですよ。ゲーム機に分配器つけて動画録って体験版の編集ソフトかけて泣かず飛ばずのプレイ動画投稿したり、図書館からデッサンの本を借りて練習しては線が震えて迷ってガタガタしてペンタブを棚の奥深くに仕舞ったり、音楽理論わからないのにサンプラーいじって撃沈したり……。なにかをしても何にもなれなくて、自分の才覚と根気のなさをまたひとつ知るだけ。
それもクリエイターがやってる芸術の分野だけじゃなくて、マニアやオタクがやってる遊びの範疇でも日々すごい二次創作や模型の作例なんかが飛び出してくる。何やってても自分のダメさを人と比べてしまうよ。
もはや何も作っていない、ただ作品を読んでいる受け手の立場ですらそういう苦しみから逃れられないときがある。チェンソーマンの考察なんかで「すごいな…モチーフとかテーマとかこんなとこまで読んでわかるのか…」なんて思って他人の引き出しを羨んで、自分の思索の浅さに少し嫌になったり。
いまの若い人が名作映画やアニメを倍速で見たりするのもタイパコスパだけの問題じゃなくってそこらへんに起因してる部分もあって、「早くたくさん知識を蓄えて深いオタクになりたい!」と焦ってしまっていたり……。
おれらの世代は自然にいままで作品鑑賞してきた積み重ねがあるから「オタクなんてなりたくてなるもんじゃないでしょ」なんて言えちゃう立場なんだよな。ブルアカの思想的源流に奈須きのこから影響を受けた部分があるって言われても、あー月姫FateらっきょにDDDねとなんとなく代表作のあらましがわかったりする。彼らの立場になって考えたら、せっかくの娯楽の名作を”元ネタ履修”として義務感に追われて見なきゃいけないし辛いだろう……。
何者かになりたい。自分より専門的知識がある人に追いつきたい。ディープで一目置かれる個性派のスターになりたい。アルファになりたい。そういった自分の失敗の数々と、素晴らしいファンアート、考察、二次小説etc…の差が残酷なまでに数字で見えて、理想とショボい現実のミスマッチに苦しむ。
わかりますよ。おれだってそう。こうして記事書いてる今だって、良い解釈や感想を目にしては富野由悠季とかホノオくんみたいに嫉妬してますからね。やめろーーッ!!!おれより面白い記事を書くんじゃねえ!!!!おれを置いていくなアンノーーーーーッ!!!!!!
ただ、そこの答えもアイリやツムギが示してくれていて。
おれたちは何のためにクリエイトして、思索して、キーボードカタカタしたりタブレットでスタイラスをグニグニやってるのかっていったらそれは「楽しいからやってんじゃないの?」「言いたいメッセージがあるからやってんじゃないの?」ってことですよね。
ツムギが難色を示したように、賞レースやPV稼ぐためや点数取るためにお前らこんなことやってんのかよ?うまいこと言って大喜利で座布団もらいてえのかよ?っつったら違うわけで。
数字のためにこんなことしてんじゃなくて、思ったことが抑えられず出てきてしまうから書いていたはずなんだ。本当はおれたちはまことの心から出てきたまことの声を喋りたかったはず。それに気が付かないときがある。こういうこと、忘れがちだよな……。
そして何より、苦しめば苦しむほどに真に迫ったいい詞が出てくる。誰にでもある悩みだし、そして悩んだことはぜんぶ無駄じゃないんだな…と教えてくれる優しいストーリーだったと思います。
おれもなかなかこれといった特技がなくて同じところをグルグル回っている気がするけども、少しずつ前に進めているんやろか…。そうだといいなぁ…。
おれもシュガラのみんなの若さを見て、勇気づけられた気がするよ…。
あっヴァルキューレ警察学校の方ですか?
なに?トリニティ総合学園の周辺で生徒を見つめてブツブツ言いながらパック酒飲んで同じところグルグル回ってる変質者がいる?ハァ…それは怖いですね。春だから変な人が出てくるんですかねぇ………?
…あっ!あんなところに水着で散歩する変な女性が!!
おれはシュガラを純粋にすごいと思ってじっと観察していた
……それは本当だ
だがポリスメンがそのことを認めてくれているとは限らない…
法に触れていないことを心底願う───
この場はただ……
逃げるしかない