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おばあちゃんのコロッケ

 今年七月に亡くなった祖母の作ってくれるコロッケが昔から大好きだった。小学生のときに引越しし、離れて暮らすようになってからも、高校卒業後、上京して年に二、三度ほどしか会うことがなくなってしまってからも、祖父母のうちへ行くたびに、祖母はやる気を出して私のためにコロッケを作ってくれた。

 塩コショウの効いたスパイシーな丸っこいコロッケだった。料理上手な祖母が時間をかけて作ってくれたコロッケを、私は平気で七つも八つも食べた。それは幼い頃から食べ続けた、私にとっての「おふくろの味」ならぬ「おばあちゃんの味」だった。

 体調を崩して、自分で料理ができなくなってからも、私が帰ってくるたびに祖母は台所に立とうとした。が、どう頑張っても揚げ物をするのは無理だった。祖母の味を引き継いだのは母だった。母は祖母のレシピを踏襲し、私ののぞむ「おばあちゃんのコロッケ」を見事に再現した。

 祖母が亡くなってから一月ほど後、まだ夏真っ盛りの東京の自宅で、私は一念発起した。普段から凝った料理をしなれない私が、おばあちゃんのコロッケを作ってみることにしたのだ。電話越しに母に作り方を聞き、妻の助言に救われながらの、私にとっての〝本格料理〟への挑戦。塩コショウの分量や、じゃがいもの適度な湯で加減を見極めるのも素人には難しかった。はたして、できあがったコロッケは、見た目も味も「おばあちゃんのコロッケ」そのものだった。

 美味しかった。と同時に、時間も手間もかかるこの作業を、年老いた祖母は体が動かなくなる直前までやり続けてくれようとした。いただきます、と手を合わせることの意味が、いまさらになって、身に染みて分かった気がした。

我ながら完ペキな出来でした👏

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