ジョン・マドックス賞スピーチに思う、子宮頸がんワクチン問題

村中璃子氏がジョン・マドックス賞を受賞された。その受賞スピーチは女史のnoteから読むことができるが、拝読して思う所あったので、いくつか一般市民としての意見を書き留めておこうと思う。

害があるという論文の提造と、安全性の担保

池田氏による実験が提造であるという主張は理解できる。ワクチンを打っていないマウスの脳切片に、自己抗体たっぷりの血清を採ってふりかけ、写真を撮ったというのは、明らかな提造である。
が、これは"子宮頸がんワクチンと脳障害"を結びつける根拠を提造しているだけであって、肝心な"子宮頸がんワクチンは安全である"という根拠にはならない。
さらに、その証拠となる部分で女史は

脳波に異常のない「偽発作」に代表されるように、小児科医たちは思春期の子どものこういう症状は、子宮頸がんワクチンが世に現れる前からいくらでも見てきたと言った。厚生労働省の副反応検討部会も、副反応だと訴えられている症状は、ほぼ間違いなく身体表現性のものだろうという評価を下していた。

と述べている。これは厚生労働省の第15回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、平成27年度第4回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会がソースだ。
子宮頸がん予防(HPV)ワクチンの副反応に関する論点整理の論点8には、

今回の症例は、心身の反応によって惹起された症状が慢性化したものと考えられるのではないか。

と書かれている。ただし、この"論点整理"の「~ではないか」を「ほぼ間違いなく身体表現性のものだろうという評価を下していた」と表現するのは、若干飛躍している印象を受ける。
もし、子宮頸がんワクチンが安全であるという根拠を語らねばならないとするなら、この一節ではなく以下の部分を引用するほうが解りやすいのではないか。

【知見】(第6回 資料11)
① 我が国における子宮頸がん予防ワクチンの接種後の副反応報告全
体の頻度は、海外と比較して格段高いわけではない。
② 副反応のうち、広範な疼痛以外の各疾患・症状が発生したとする
副反応の報告頻度についても、我が国は海外と比較して格段高いわ
けではない。
③ 一方、接種後に広範な疼痛を来した症例については、我が国より
も報告頻度は低いものの、海外でも報告されている。ただし、海外
当局は、これらの症例について、発症時期・症状・経過等に統一性
が無いため、単一の疾患が起きているとは考えておらず、ワクチン
の安全性に懸念があるとは捉えていない。

つまり、「海外において、子宮頸がん予防ワクチンの接種後の副反応は、症例の統一性が無いため、単一の疾患が起きているとは考えていないし、ワクチンの安全性に懸念があるとは捉えていない。そして日本のワクチン接種後の副反応の報告数は標準的」ということだ。

子宮頸がんの診断=子宮摘出ではない

子宮頸がんと診断されても初期の段階であれば、子宮頸部の異常組織だけを切除することができ、この切除後も妊娠できる可能性がある。そもそも、子宮頸がんだけがワクチンで防げるガンというだけで、ガンである以上定期的な検診による早期発見が基本であることは間違いない。加えて、早期であれば9割が完治するガンである。ワクチンの安全性がどうであれ、ここまで議論の的となり、安全性を唱える医師が脅迫されるなどの"ハイリスクな"方法を推し進めるよりは、ガンの予防法として馴染みがある定期検診・早期発見で撲滅を進めていくのが妥当ではないか。HANSの名付け親である西岡医師も、ワクチン以外の対策としてはまっとうに

 20歳以上の女性は、2年に1回は子宮頸がん検診を受診しよう。HPVワクチンを接種したとしても100%子宮頸がんが予防できるわけではなく、がん検診の受診は必須だ。

とコメントしている。

村中女史は、ソースのある正しい主張をしている。そしてその主張に対し、合理的根拠に乏しい主張がそれをもみ消そうとしていることも確かだ。しかし、だからこそ、スピーチは「患者を患者になる前に救いたい」という意志より「合理的根拠に乏しい主張への憎しみ」のほうが多く述べられているように見える。
極めて難しい問題が複雑に絡み合っているので申し上げにくいが、おそらく広く伝えなければならない真実は子宮頸がんワクチンは一般のワクチンと同じ安全性があるということではないか。

村中女史がこれまで大変に苦労されてきたことは確かにうかがい知ることができるが、それによって肝心な「真実を伝える」ということを誤ってはならないと思う。

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