すべて世は事も無し
時は春、
日は朝(あした)、
朝は七時、
片岡に露みちて、 揚雲雀(あげひばり)なのりいで、
蝸牛(かたつむり)枝に這ひ、
神、そらに知ろしめす。
すべて世は事も無し。
あえて全文を載せてみる。
ロバウト・ブラウニングの「春の朝」上田敏訳。
「海潮音」の中一編の詩である。
厳密の日本語ではないが、上田敏氏の訳は個人的にとても好きだ。
特にこの詩は日本語の音律を損なわず、けれども見知らぬ異国の春を強く印象付けてくれている。
此処に描かれた風景は、日本にあるようでいて存在はしないように思える。
風が違う、匂いが違う、色が違う、空が違う。
微かな憧れを子供だった私に抱かせる一編だった。
大好きな赤毛のアンシリーズにもこの詩は使われている。
すべて世は事も無し
その大切さを今は強く感じている。