【Sway要約】ティム・クックインタビュー AppleのプライバシーはFacebookを動かすか?(前半)
今年1月に書き起こしを作って以来、遅ればせながらジャーナリスト・Kara Swisherさんにハマってます。デジタル広告業界への影響は計り知れないATT(App Tracking Transparency)およびiOS14.5への移行が間近に迫ったこのタイミングで、New York TimesのSwayポッドキャストにAppleのティム・クックCEOが登場するということで、一気に聞き込んでしまいました。
2021/4/5「AppleのCEOのマーク・ザッカーバーグとは随分異なる選択」Apple's CEO Is Making Very Different Choices From Mark Zuckerberg
~ティム・クック曰くプライバシーは21世紀の最重要課題。ただ他のテックリーダーは同意しないだろう。(Tim Cook views privacy as 'one of the top issues of the 21st century.' Other tech leaders don't seem to agree.)より、前半・後半に分けてお送りします。
こんにちは、Kara Swisherです。Sway(ポッドキャスト)をお聞き頂きありがとうございます。今日のゲストはAppleのTim Cook CEOです。Cookは、故スティーブ・ジョブズの後を継いで、Appleに23年間在籍、約10年間、会社の舵取りをしています。Cookがトップに就任した当時、Appleの時価総額は約3,500億ドルでしたが現在は2兆円を超えています。Appleは、世界中で絶大な人気を誇る数十億台のデバイスを製造しています。しかし、その巨大な規模と力のために、同社は現在、反トラスト法の照準にもなっています。例えばEpic Games社は、同社が独占的であると主張、Appleを訴えています。他の開発者も規制当局に苦情を言っています。一方、いわゆる言論の自由ネットワーク「Parler」の一部ユーザーも、AppleがApp StoreからParlerを削除したことを問題視しています。これは、議事堂襲撃の後、Apple、Google、Amazonが取った動きです。3社は、「Parler」は1月6日の反乱に関連した危険なコンテンツを抑制できなかったと主張しました。クックは熱弁をふるい、一部の人々にとってはヒーローにもなっています。また、先日行われたプライバシー会議では、消費者データの悪用をめぐってハイテク業界、特にソーシャルメディア企業を非難しました。
Tim Cook)
※熱弁の抜粋※「ユーザーを欺き、データを搾取し、選択肢のないビジネスを展開しているのであれば、それは称賛に値しません。改革が必要です。大局から目をそらすべきではありません。アルゴリズムによって偽情報や陰謀論が氾濫している今、我々はもはやテクノロジーの理論に目をつぶることはできません。それは、『すべてのエンゲージメントは良いエンゲージメントである』というものです。」
Swayへようこそ。なかなかのスピーチでしたね。ソーシャルメディア企業や、データを利用する企業の話をしていましたが、その表現が強くて驚きました。あなたはParlerをBANましたね。その決断についてはどう考えますか?
Tim Cook)
そうですね。App Storeのガイドラインを守っていなかったので、真っ当な判断だったと思います。人々に暴力を扇動させたりしてはいけません。ヘイトスピーチを許してはいけない。彼らは、モデレートしないか、できないようになっていたのです。修正のチャンスも与えましたが、彼らにはそれができなかった、或いはしなかった。だから、BANしなければならなかった。そうは言っても、彼らが戻ってくることを願っています。なぜなら、我々はApp Storeに多く集めるために働いているのであって、締め出すために働いているのではないからです。だから、必要なモデレーションを行い、Storeに戻ってきてくれることを期待しています。なぜなら、ソーシャルネットワークの数とは、減るよりも増える方が良いと思うからです。
事件の日、私はParlerのCEOにインタビューしていました。驚くべきインタビューでした。彼の言葉を聞いた? 「私はいかなる責任も負うつもりはない。」といっていました。
Tim Cook)
明らかにApp Storeの利用規約に準拠していません。
そうですね、以前から彼らとこの問題に取り組んでいました。
Tim Cook)
我々は、ある時点では彼らは規約に準拠していたと考えています。ただ、その後、そうではなくなりました。
Amazon、Google、Appleなど、多くのハイテク企業が同時に行動を起こしました。まるで「ハウス・オブ・カード」が崩れてきたかの様に。以前からやっておくべきだったのでしょうか?
Tim Cook)
気づいたときに起こったことです。私には分からないのですが、そのためには議事堂襲撃が必要だったのでしょう。気づいていれば、修正の時間を与えた後、外していたでしょう。いくら強調しても足りませんが戻ってくることを願っています。
先月、行われた公聴会について話しましょう。あなたはいませんでした。3つのテック企業のCEO、Facebookのマーク・ザッカーバーグ、TwitterのJack Dorsey、GoogleとAlphabetのSundar Pichaiが参加しました。マイク・ドイル下院議員は、テック企業の経営者に同じ質問をしました。「はい」「いいえ」で答えてもらいましたが、いささか還元主義的な質問でした。私なら違った問いをしたでしょう。しかし彼は、テック企業が誤報を広めたり、議事堂への攻撃を計画したりしたことについて、何らかの責任を負っているかどうかを知りたかったのです。彼らは答えませんでした。その場をやり過ごそうとしました。Jack Dorseyは「はい」と答えました。しかし本質的には、これらの企業、或いはAppleやテクノロジー全般について、あなたはどのように答えますか?
Tim Cook)
私が話せるのはAppleについてのみです。キュレーションを重視してきました。Storeで公開されるアプリを全てレビューしています。完璧ではありませんが、我々はユーザーに何を提供しているか深く考えます。Apple Newsのようなものは、人間の編集者が主要な記事を選んでいます。誤った情報をすべて回避できるのはそのためです。ウェブが闇の世界と化している現実もあります。キュレーションがなければ、増幅器(Amplifier)に入れたくないものが大量に流れ込んできます。
Appleは増幅器だと思ってるんですね。
Tim Cook)
App Storeがプッシュ型であっても、記事選定は、人間の編集者が行っています。ソーシャルメディア企業のように、フィードにプッシュすることはありません。多くの人がApp Storeを訪れますから、安全で信頼できる場所であって欲しいのです。
今回のテロ事件のような状況下で、ハイテク企業の責任はどの様なものでしょうか。あなたはプライバシーに関するスピーチでこの問題を取り上げました。多くの人がソーシャルメディアに責任があると考えていますが、Appleには流行しなかったものはありませんね。Ping(Appleのソーシャルネットワーク)を覚えていますか…(笑)
Tim Cook)
勿論覚えていますよ。その話をさせようとしてますか(笑)
スティーブがPingについて言っていたのを覚えています。 最悪だよ!と言って、彼は本当にそう思っている様でした。
今回の攻撃にはソーシャルメディアが関与していると思いますか?
Tim Cook)
ソーシャルメディアの拡大は、私が深く心配していることのひとつです。広告のそれに使われるものと同じターゲティングツールで、誤報や過激派のターゲティングが行われる可能性がある。最も心を痛めたのは、議事堂への攻撃に参加した人たち、或いは議事堂に侵入した人たちです。同じことを繰り返さないためにも、落ち着いて、他の要因は何だったのかを考えることは、我々に課せられた責務だと思います。歴史上最も暗い日のひとつでした。目の前で繰り広げられたのです。映画か何かのように、現実ではないこと、アメリカではありえないことが起きていると感じました。だからこそ、深い検証が行われることを期待しています。
ひとつが、230条の改正です。230条は「通信品位法」の一部で、ユーザーの投稿内容が元で訴訟を起こされないようプラットフォームを保護する法律。法的な責任は重要だと思いますか?
Tim Cook)
訴えることには抵抗があります。230条は、沢山のものが生まれてくる以前の時代書かれており、想定されていなかったと思います。だからこそ、230条は見直すべきだと思いますが、完璧な改訂の答えは持っていません。
Appleのプライバシー保護について
ソリューションについて話しましょう。Appleが強く推し進めているプライバシーに触れてみたいと思います。現在検討されている、データやプライバシー法案についてどう見ていますか?
Tim Cook)
一般的に言って、プライバシーは21世紀の最重要課題のひとつだと思います。そして今、我々は危機に直面していると思います。何年か前までは、企業は自分たちで規制して、少しずつ良くなっていくものだと思っていました。しかし、もうそんなことは信じられません。また、私は一般的に規制に熱心な人間ではありませんが、規制は必要だと思います。
何があなたをそう考えさせるようになったのですか。
Tim Cook)
私が考える合理的なレールからどんどん外れていく企業を目の当たりにしたからです。
スピーチの中であなたが言ったことのひとつ。「我々の生活のすべてが集約され、販売されることが当たり前のことで、避けられないこととして受け容れてしまうと、データ以上に多くのものを失うことになる。人間であることの自由を。」このことの意図を教えてください。
Tim Cook)
監視の世界とは、あなたがしていることを誰かがいつも見ている世界のことを指します。携帯電話やコンピュータの場合、あなたが考えていることも監視されます。あなたは検索ワードを入力したりしていますから。このような世界では、やること、考えることが減ると思います。表現の自由が狭まっていきます。壁が迫ってくるのです。私はその自然ななりゆきについて考え始めました。私はそのような社会の一部にはなりたくないのです。
Appleがこの事について発言することが何故重要なのでしょうか? Appleは、これらをアプリでできるようなスマホを販売しています。ブランディングや広告に利用し、プライバシーを守る強力な広告も打っています。何故それでも強く主張するのですか?
Tim Cook)
率直に言って、ブランディングが目的ではありません。我々にとって、プライバシーとは基本的人権です。他の権利の基礎やコアとなる権利でもあります。数年前に決めたことではありません。確か10年以上前にスティーブが分かり易い言葉で何度もコメントしていました「プライバシーとは、人々が自分が何にサインしているかを知ることだ (Privacy means people know what they're signing up for.)」とね。誰もが自分のデータを所有すべきです。そして、誰がそのデータを取得するかを決める権利を持つべきです。誰が自分のデータを入手し、何に使用するか決めることができる。率直に言って、今日の状況はそうではありません。
彼はデータ盗用の多さに驚いていました。
愕然としました。栄養表示のようなプライバシー表記も出ています。何ページもあるプライバシーポリシーになっていて、ユーザーはやみくもに「同意します」と言うだけ。そうでないと次の画面に移れないませんから。プライバシー保護の栄養表示ラベルは、食品のそれのように、重要な情報が一目で分かるようであるべきです。時間をかけて改善していきます。そして、恐らく最も注目されているのが「ATT」と呼ばれるものです。
それについて掘り下げて行きましょう。
Tim Cook)
アプリ追跡の透明性(App Tracking Transparency)。これは、他社のアプリを使ってあなたを追跡しようとしている企業を対象としています。つまり、あなたが何を考え、何をしているかの全体像をまとめ、24時間365日、ウェブであなたを監視するものです。
車の様に毎日使うデバイスを通じてね。
Tim Cook)
彼らはあらゆるテクノロジーを使っています。
リスナーの皆に、いつ頃そのテクノロジーがリリースされるのか伝えて下さい。
Tim Cook)
ほんの数週間(Just a few weeks)です。
ありがとう。アプリ追跡の透明性(App Tracking Transparency)ですね。
Tim Cook)
その通り。
Facebookとの戦い
明らかに、Facebookをはじめとする多くの企業は、トラッカー(追跡プログラム)で収集したデータから多くの利益を得ています。 消費者にはどう見えますか? そして何が起こるのでしょう?
Tim Cook)
シンプルなポップアップが表示され、基本的に質問に答えるよう促されます。「追跡されてもいいですか?」承諾された場合は次に進み、承諾されなかった場合は、そのアプリに関して、個人の追跡はオフになります。
なるほど。その際、何が追跡されているのかを伝えた上で、判断できるのでしょうか? 「追跡されたいですか」と言っただけでは、殆どの人は「やめて!いいえ、結構です」と言うでしょうに。
Tim Cook)
開発者は他の情報も入れることができます。「より良い広告を出すため」とか「より良いターゲット広告を出すため」とか、そういうことです。我々がやりたいのは、判断できるツールを提供することです。
何故、今これをしようと思ったのですか?
Tim Cook)
Kara、毎年、我々はプライバシー保護機能を追加しています。振り返ると。企業を対象としたものではなく個人を対象としたもの。その原則は、追跡されるかどうか、誰が自分のデータを持っているか、は個人が管理すべきだということ。とてもシンプルなことです。今、あなたがこのようなシステムをイチから設計するなら、当然その様にするでしょう。もちろん、自分のデータをどうするかは、私や他の誰かではなく、あなたが決めるべきことです。反対する人たちは、「以前はインフォームド・コンセント(治療前の説明=状況説明と同意)がなかった」と言っているのです。そのこと自体が大きな意味を持っていると思います。
確かに。しかし、Facebook・・・同社のプライバシー保護の姿勢は、あなた(Apple)自身の利益のためだと言いました。そして、AppleはFacebookと戦っています。Facebookの反応についてどう思いますか? かなり激しい反応で、彼らにとって、あなたはビジネスの存在の危機だと言います。
Tim Cook)
我々が行っているのは、ユーザーに追跡されるかどうかの選択肢を与えることです。反論するのは難しいと思います。 ここまで反発されていることにショックを受けています。だって、なぜゆえに反論するの?それは、まるで...
沢山持っていますからね・・・中小企業を。あなたも分かっているでしょう?(笑)
Tim Cook)
薄っぺらな議論であることは分かっていますよ。
この反発に驚いていると言いましたか? 私も驚いてます。あなたはそういったビジネスの核心を狙っていると推測します。
Tim Cook)
その主張には同意できないですね。
オーケー。
Tim Cook)
追跡なんてなくても、デジタル広告で稼ぐことができると考えています。時間が証明するでしょう。我々が過去に行ったことについて、存亡に関わることだと聞いたことがありますが、実際はそうではありませんでした。
Facebookのビジネスに影響を与えた結果、何が起こるのでしょうか? 私がFacebookを使うのは、一番大きくて、多くのデータを集めているからだと思いますか?しかし、Googleもそうです。他の多くの企業もね。
Tim Cook)
別にFacebookにフォーカスしてる訳じゃないんだ。分からないな。私はただ・・・。
つまり、そのようには見ていないということですね。アップルの競合相手とは見ていないという。
Tim Cook)
競合相手はいると思います。でも、最大のライバルは誰かと聞かれても、彼ら(Facebook)は出てきません。我々は、ソーシャル・ネットワーキング・ビジネスをしている訳ではありませんから。
もうひとつだけ、Facebookに関して質問させてください、すみません。3年前、ケンブリッジ・アナリティカのニュースが流れた後、シカゴのステージで、ザッカーバーグの立場で彼の状況を想像してみてほしいとあなたに話しました。この映像を聞いてください。あなたの意見です。
Tim Cook) 我々はいつも責任を感じているんだ。
Kara Swisher) マーク・ザッカーバーグのこと? 貴方ならどうしましたか。
Tim Cook) 私なら? 私ならそんな状況にはならないよ(観客笑)
オーディエンスは答えが気に入った様ですね。今もそう思いますか?
Tim Cook)
ご存知の様に、私はAppleの選択についてしか話せない。
ムムム、、、そしてこの、ATTというのは良い選択であると。
Tim Cook)
データ最小化とは、必要なものを必要なだけ確実に入手することであり、ますますデータ量を減らすことに挑戦することだと、強く感じています。セキュリティは、プライバシー権や暗号化を支えるものであり、それだけでもたくさんのことを語ることができます。
(後半につづく)
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