第三部 その2  『彫刻』

となりのへやは、あまりひとがいなかったけれど、かわりに、おもしろいものがあった。
 それは、おおきな「バラ」の、ちょうこく。
 それには、おとこのひとがひとりみているだけで、わたしもちかづいてみることができたから、おとこのひとのとなり、さくのギリギリまでいって、じっくり「かんしょう」してみることにする。
 すると、おとこのひとが、なにやらつぶやいていたのがきこえてきた。
 「これ……ちょっとした衝撃で、あのクキの部分、折れちゃったりしないのかな…………」
 くき?
 わたしも、おとこのひとがみているように、バラのくきのところをみてみる。
 ……ほそい。
 ほんとうに、おとこのひとがいっているように、おれちゃいそうなくらいにほそい。
 おおきなバラの「がく」をささえる、たったいっぽんのくき。
 「がく」のおおきさにあわない、そのほそさは、うつくしいけれど、たしかにヒヤヒヤさせられる。
 「……もしそうなったら、一体いくら弁償するんだろう…………うわーっ、コワイなぁ……」
 (…………)
 おとこのひとのつぶやきをきいて、わたしも、ぜんしんがぞわーっとなった。
 おかあさんがいっていたことをおもいだすと、たしかこの『ゲルテナ』のさくひんは、おとうさんの車とおなじくらいのねだんがするらしい、から…………
 (さんびゃくまんえん……くらい…………)
 おとうさんのねんしゅうのはんぶんよりちょっとおおいくらいのはず。
 そんなおかねをべんしょうさせられたら、たぶん、うちはおかねがたりなくなる……
 (…………)
 びじゅつひん、ってすごい。
 わたしが、そうおもっていると、

 「ねーねー、おねーちゃん!」

 (……?)
 だれだろう?
 わたしよりちいさなおとこのこが、ちかくによってきて、はなしかけてきた。
 まだ、しょうがっこうにもはいっていないかもしれない……そのくらいのとしのおとこのこ。
 「ねぇ、おねえちゃん、おねえちゃんも、このバラ、すき?」
 おとこのこは、めのまえのびじゅつひんをゆびさした。
 「……うん」
 わたしは、すなおにこたえて、うなずいた。
 すると、おとこのこは、にこっとわらって、
 「だよねー!……でさ、あそこにさ、バラのはなびら、落ちてんじゃん?」
 「うん……?」
 「あの、落ちてるの、とりたい!」
 「…………!」
 さくのむこうの、あのバラのはなびらは、おちているといっても、かくじつに「びじゅつひん」だろう。
 だから、とって、こわしでもしたら、「べんしょう」。
 このおとこのこがとったら、おとこのこが、さんびゃくまんえん…………
 「だ、ダメだと思う……」
 わたしは、ひやあせをながしながら言った。
 でも、おとこのこは、「べんしょう」のことをしらないのだろうか、
 「えー、なんで?落ちてるならいいんじゃないの?」
 「…………。」
 「ケチー!」
 「…………」
 そう言いのこして、おとこのこはさっていった。
 ま、あ、とりにいかなくて、よかった。
 さんびゃくまんえんは、だれにもはらえないからね……
 


 『精神の???』

 「一見美しい その姿は
  近づきすぎると 痛い目に?い
  ??な肉体にしか 咲くことができない」



 バラのタイトルにも、むずかしいかんじがあって、よめなかった…………


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