第五部 その1 『にかい』
かいだんをのぼると、めのまえのかべから、もう、ゲルテナのさくひんがかざられてあった。
わたしはまず、いちばんひだりにかざってあったえを、おとこのひとがながめていたけど、そのまえをちょっとしつれいして、かんしょうしてみる……
『新聞を取る貴婦人』
(……ぴんくいろ、かわいい)
さっきまでは、ちょっとへんなのだったり、こわかったりしたけれど、
このさくひんは、なんだかかわいくて、わたしもすきになれる。
これをみていたおとこのひとは、なんだか「おもむきぶかい」ようなかおをして、「ふむ……」とうなっていたけれど、ふむ……わたしには、なにをかんがえたらいいか、よくわからなかった。かわいいからいいのでは?とおもうけど。
わたしはこのえをきにいったけれど、ずっと、こればっかりみているわけにはいかないから、つづいて、ほかのえも、みてみることにした……。
だけど、『新聞を取る貴婦人』の、すぐとなりのえには、おとこのひとが、まえをしつれいできないくらいにちかづいていた。だからこれは、あとまわしだなぁ……。
さらにみぎの、ふたつをみることにした。
『??』
『心配』
『??』は、タイトルもよめないし、なにをかいているのかもわからないから、……………………なんともいいようがなかった。
『心配』は……これもまた、「こわい」えだ。どっちのこわいかというと、『深海のえ』のようなこわさ。しんぞうがどくっとするような、こわさだった。
(こっちをみてる、おおきな人のかおが……しんぱい、してくれてるのかな……こわいけど)
じっくりみていると、みているこっちが、しんぱいになってくるえだった。
このへやに、ほかのえはもうない。
だから、つぎは、むこうにかざってあるちょうこくをみても、いいんだけど……
「………………」
ちらり、とひだりをむく。
……たてながの、あのえのまえにいるおとこのひとは、まだ、じぃっと、そのえをみている。
そんなにあのえがすきなのかなぁ、だったら「すいません」ってこえをかけて、じゃまをしちゃうわけにもいかないし……
(…………いっか)
だから、わたしは、ひとまず、それを、いっしゅうしてきてから、みることにした。
……………………………………。
……………………………。
………………。
……。
(おもしろいかみがたのひとだったなぁ……)
しつれいなことを、かんがえてはいけない。