《Ib》 第一章 「ゲルテナ展にいこう」 -welcome, my friend-
第一部
6がつ2xにちの、おひるごはんをたべたあと。
わたしは、おかあさんとおとうさんにつれられて、となり町のびじゅつかんにきた。
このびじゅつかんは、ここらへんではいちばんおおきなびじゅつかん。
まっしろい、おしろみたいなみためをしていて、そして、とにかく、おおきい。
やねはあおくて、そこもえほんのおしろのようで、きれい。
……きょうがはれだったら、もっときれいだったのに。
ざんねんなことに、きょうはくもり。
ばすたぶにたまったあわのようなくもが、えんえんと、どこまでもつづいているくもり。
でも、あかるいから、あめはふらないだろうと、おとうさんは言ってた。
ふらないといいなぁ。
えほんがしけっちゃうから。
「なあ、イヴ。車の中でそんなずっと本を読んでいたら、酔って具合を悪くしてしまうぞ?」
「そうよ、イヴ。もう少しで着くんだから、外でも見て、ちょっとくらい我慢していなさい」
「……はい」
そういわれたので、えほんをとなりのせきにおく。
でも、わたしは、いちども、車のなかで、ぐあいがわるくなったことはない。
だから、ほんとうはだいじょうぶなんだけど、
そう言ってもしんじてくれないし、おこるので、
わたしはおかあさんのいうとおりに、そとをみた。
「……………………」
びじゅつかんは、おかのうえにある。
車はいま、そのおかをのぼっているところだ。
だから、いま、車のまどからみえるのは、いちめんのみどり。
とはいっても、うすぐらくて、あまりみていてたのしいものではない。
……おとといのおべんとうの、しん(、、)がのこっていたブロッコリーをおもいだす。
今日、おとうさんとおかあさんがびじゅつかんにいこう、といったのは、「ゲルテナ」というひとの、「てんらんかい」というものがひらかれるから、らしい。
「ゲルテナ」というひとのことは、ちょっとだけしってる。
さっきまでよんでいたえほんのさくしゃが、「ゲルテナ」だから。
おかあさんが、わたしがまだ、ちいさかったころにかってくれたえほん。
きんいろのかみのおんなのこが、いろんなせかいでたびをするえほん。
おんなのこは、いまのわたしと、おないどしくらい。
わたしは、このえほんがずーっとだいすきで、おんなのこがきているみどりいろのワンピースがかわいかったから、このまえのときにおかあさんにおねだりしたけど、
「あなたには……緑色より、赤色の方が似合うから」
そう言って、かってくれなかった…………。
でも、そのかわりに、わたしは「ハンカチ」をかってもらった。
レースとししゅうのついた、かわいいハンカチ。
『Ib』
あかいいとで、わたしのなまえがはいっている。
その日は、わたしのたんじょうびだった。