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[日記] 2022年3月21日(月)晴れ:「犬について考えるいくつかの事柄」

 犬にまつわる作家のエッセイばかりを集めたアンソロジー本「作家と犬」を読み終えた。
「作家のそばに、いっぴきの犬。」
帯に記されたこの惹句、惹かれずにいられようか。
 古今東西(とはいえ日本語圏内)の作家が、どんなふうに犬と付き合ってきたかが分かって、たいそう面白い。「それ、解る!」と思う作家もいれば、「うーん、それはどうなの?」と思う作家もいる。
 ちょうど今、うちの愛犬「つぶ」は交配のため千葉に行っている。いつもの寝床に愛犬がいないと、どうにも調子が狂う。パートナーとふたりして、居ないの忘れたまま寝床を確認しては、「ああ、つぶ今居ないんだった……」と独りごちることがもうすでに何回か。
 行った先のブリーダーさんが、ペットカメラを設置してくれた。愛犬が向こうでどんなふうに過ごしているか、24時間いつでもスマートフォンから確認できる。
 家ではほとんど吠えることのない愛犬が、珍しく遠吠えしたりしている。遠隔でそれを見ている飼い主は、気が気でない。「飼い主と離れて心細いのかな?」「発情期だからなのかな?」「大丈夫かな?」アプリのマイクをオンにするとこちらの声がリアルタイムで届くらしいのだけど、それをしても愛犬は戸惑うだけだろうから、心を鬼にして話しかけないようにしてる。
 愛犬は数年前にも一度、子どもを産んでいる。その際ぼくらは自宅出産を選び、自分たちの手で取り上げた。おなかに宿した命は4つ。しかし無事生まれたのは3つ。残念ながら未熟児だった1頭は、パートナーが人工呼吸をしても息を吹き返すことがなかった。お花と一緒に庭の一角に埋葬して、そこにツタ植物アイビーの苗を植えた。数年が経って、すっかり蔓延っている。それを見るにつけ、生まれて来れなかった命のことを静かに想う。
 健やかに生まれてきた3頭の仔犬には、「もも」「くり」「かき」と名付けた。母犬であるつぶの素行があまりにも良いので、貰い手もすぐに見つかった。ももは「リヨン」、くりは「アメリ」というお洒落な名前に改名されたが、パートナーの実家に行ったかきだけはそのまま「かき」という名前ですくすくと育っている。子どもたちももう5歳。誕生日には毎年、近況報告のメッセージが写真付きで送られてくる。それを見るのが楽しみである。
 ぼく自身は当初、そこまで『犬』に思い入れがなかった。一緒に同棲を開始して半年も経たないうちに犬を飼いたがったのはパートナーの方である。当時はまだ派手な喧嘩なんかもしていたから、今後ふたりが別れることになったら犬がかわいそうだと考えた。それで「犬を飼うのはふたりの関係が落ち着いてからにしよう」とパートナーに告げた。
 それから数年経っても、ふたりは一緒に暮らしていた。喧嘩もだいぶ減り、穏やかな心持ちで過ごす時間が長くなった。そんなタイミングで、犬を譲り受ける話が転がり込んできたのだ。
 千葉に暮らすブリーダーさんの犬舎まで行って、子犬のつぶと対面した。第一印象は、『ぼくらのことなんか全く気にも止めていない子』だった。ブリーダーさんの方ばかり見ている。しかし、パートナーたっての希望で、つぶを迎えることにした。
 当初は、犬と同じ部屋で寝起きするのに抵抗があった。だから、エントランスで飼うつもりでケージを自作していた。しかし、連れ帰ったその日の夜鳴きがとにかく激しかった。仕方なく、ぼくらの目が届く部屋の中に招き入れてやった。そうしたら、安心して眠るようになった。
 一度部屋の中で飼い始めたら、もう外に放り出すという選択肢はなくなった。すっかり安心して、飼い主のそばに寝そべる愛犬は、いつの間にか運命共同体になっていた。
 いちばんに着手したのは、愛犬と一緒に過ごせる店を開拓すること。田舎だからというのもあるけど、愛犬を連れて飲食するというライフスタイルを許容してくれる飲食店は皆無だった。お店のかたもびっくりしただろう。「犬と一緒に行ってもいいですか?」なんて聞かれる日が来るなんて。
 それでも親しいお店のいくつかは、ぼくらと愛犬を「家族」として受け入れてくれた。ぼくらのライフスタイルは、それですっかり変わってしまった。『お犬様』ではないけれど、「愛犬と一緒に行けるかどうか」がお店を選ぶ条件として最上位に来るようになった。
 その代わりと言えばなんだけど、しつけだけはしっかりやった。犬に関して分析している本を何冊も買い込んで、熟読した。愛犬が何を考えているのか、とにかく知りたかったのだ。
 音や人や他の犬にも慣れるように、週末ごとに色んなところへ連れて行った。そうしているうちに、ちょっとやそっとのことでは動揺しなくなった。それに費やした労力や時間もすべて、犬への愛情に変わった。
 会う人会う人が、つぶの素行を褒めてくれる。「こんなに大人しい犬、見たことない!」飼い主のぼくらは、まんまとしたり顔をしている。
 さて、先述した本には「看取り」についても書かれていた。愛犬は今年8歳。犬生の折り返し地点もとうに過ぎてしまった。今のところ健康優良児なので、日頃は大した心配をしていない。しかし、この命にもいつか終わりが来るのだ。それだけは確か。
 今回が最後と思って、交配にチャレンジしている。それで子犬が産まれたら、1頭は残そうと考えている。さて、うまく行きますやら。

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