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田中昭全
2020年12月19日 14:51
ぎしぎしと、階段を上がってくる足音が聞こえる。そして、ドアがノックされる。返事も待たずにぎぃとドアが開く。黒い影が、ベッドに横たわっているぼくに近づく。サイドボードの上に何かがそっと置かれて、ぼくの額に手が触れる。「熱があるよ……大丈夫?……誰か呼んでくる。」-------あ、待って。 ぼくはとっさに、去ろうとする影を掴んだ。バランスを崩した影は、ぼくの身体に覆い被さる。体温があたたかい。
2020年12月19日 12:47
部屋で、ジャン・コクトーの詩集をぱらぱらとめくっていた。「少年水夫」と題された詩を見つけて、これは自分のことじゃないかしらと思う。 死人ほど少年水夫は蒼ざめる 今度は彼の処女航海 彼は感じる 不思議な貝が 下から 自分を呑みこんで どうやら自分を噛んでると ぼくも、大海原に投げ出された気分だ。 ふと、窓の外を見る。ぼくの部屋から、薔薇園の一部が見える。入り口の門扉