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ダルヤ・ポポリトヴァの仕事

連載コラム「コンテンポラリージュエリーことはじめ」最終回で紹介したダルヤ・ポポリトヴァ。記事に盛り込めなかった補足事項を X でスレッド投稿するつもりでしたが、長くなったので note にしました。元の記事と合わせてお読みください。

コラムに収まるよう短くまとめるのにもっとも苦労したのが、エストニアの気鋭ダルヤ・ポポリトヴァです。この作家は今でこそ画面の向こうを主戦場としていますが、学生時代にはジュエリーの他、ブラックスミス(鉄の加工)やガラスも学んでいたそうなので、出だしは意外にもゴリゴリにフィジカル路線の作り手です。

デジタルカルチャーを主要テーマにしはじめるのは、2010 年代後半。当初はスマホ等の画面操作に伴う問題を解消するためのジュエリーを作っていました。それがやがて、ジュエリーの表徴を通じて画面の向こうから感覚器に働きかける方向へ舵を切っていく。コラムで紹介したような仕事です。

ポポリトヴァの仕事における最大の特異点は、極度のイメージ偏重にあります。ある記事で作家本人も指摘している通り、コンテンポラリージュエリーは長く、直接作品を見てもらうことに心を砕いてきました。その理由は、ジュエリー=身に着ける小さい立体物だからと言えば十分かと思います。

ところがポポリトヴァは直接見てもらうことに興味がないと言い、実際のジュエリー以上にイメージを作ることに重きを置きます。いくらデジタルネイティブ(1989 年生まれだから何ならギリアウト)+ IT 大国エストニア出身とはいえ、ジュエリーやってる人でこの振り切り方は異様です。

そこを紐解くにはいくつかの概念を理解する必要があります。1つは疑似魔術= pseudo-magical。これはコラムで解説したんでそっち読んでください。もうひとつは haptic visuality。対訳と言うにはやや冗長ですが、要は触覚に訴えかける視覚表現のことです。

最後のひとつが、audiovisual jewelry。これはデジタル動画、音声、スマホ画面等の視聴覚系メディアとジュエリーの両方を用いた表現形式を指しています。ポポリトヴァはこの三本柱を軸に据え、メディア論も含めた研究を元に体系だった方法論を構築し、それを作品に応用します。

つまり、ポポリトヴァのイメージ偏重は世代やバックグラウンドのみに還元できるものではなく、確固たる理論的枠組みに依拠しており、それゆえに説得力を持つわけです。興味深いのはその際に、画面越しに伝わる(想像上の)感触を昂進する手立てとして、実際の形あるジュエリーも作ること。

しかも、ちゃんと作り込まれているし、たとえ普段使いに不向きなサイズやアイテムでも、ジュエリーや造形物としてかっこいい。前者に関しては、手では触れられない画面越しのイメージだからより一層、細部がものをいうことを熟知しているからでもあるでしょう。

ポポリトヴァは切り口が多く、これでもまったく言い足りないですが、キリがないので今回は、コラムで紹介した個展「タクティライト:視線をくすぐる石」まわりの内容にとどめます。機会があればいずれまた。

以下、この個展の関連動画です。作家が妖艶な魔女セラフィタに扮してそれぞれのジュエリーの効能をまことしやかに語る、ユニークな解説です。


以下、元のコラムに載せた作家の関連資料を転載します。

Darja Popolitva (Instagram) 
https://www.instagram.com/darja_popolitova/
TACTILITE Stone that Tickles the Gaze, Interview with Darja Popolitova by Vica Gábor
https://www.current-obsession.com/tactilite/
Вскрыть всю «липкость существования», Эльнара Тайдре
https://arterritory.com/ru/vizualnoe_iskusstvo/intervju/25716-vskryt_vsju_lipkost_suschestvovanija/
Darja Popolitva
https://cca.ee/en/artists-database/darja-popolitova
HAPTIC VISUALITY OF JEWELLERY. PSEUDOMAGIC AS ARTISTIC RESEARCH METHOD / Darja Popolitova
https://www.rtru.org/betweenness/participants/darja-popolitova

* 見出し画像に使わせてもらったのは、YouTube 動画『How to Trigger Intimacy』のスクリーンショットです。


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