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「精神科医に会ってきて」と、学校から言われたあの日の話ー14歳で反抗期を終えた息子とオカンの物語(9)

息子の反抗期のことで、いつが一番辛かったですか? 

と訊かれたら……やっぱり小学校4年生の12月だろうか。
もちろん、その数年後に大げんかして警察がやってきたこともあるけれど、第2波は、この時だったと言ってもよいと思う。
第1波は「nobody loves me!」と叫んだ2年生の時

❖ ❖ ❖

2105年の秋、職場に親権問題の裁判でお付き合いしてくださった弁護士さんが偶然やって来て「何か困ったことは無い?」と訊いて下さったので、自分の親権について聞いてみた。

その結果、もう一度親権裁判をやれることがわかって、新しく親権裁判を開いたのが確か11月の半ばだったような気がする。

詳しいことは⬆に書いたけれど、この裁判の時まで2年半も息子と会っていなかった旦那なんだから、さくっと「単独親権どうぞ」と言ってくれるかな、と思っていたら「同意しない」と言ってくれまして、弁護士を立てて親権問題について裁判を行わないといけなくなりました。

とはいえ、わたしも旦那も弁護士代を払う余裕なし。

ということで、市だか州が雇っている弁護士さんの都合を聞いて、新たに仕切り直しとなったのです。

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わたしはこの時、大パニック。

だって、だって、だって。
2年半も会っていなかった旦那が「単独親権を渡すと日本に帰ってニューヨークに戻ってこないと思っているから、イヤだ」という理由で同意してくれないとは夢にも思っていなかったから。

裁判ってね、すごーい時間かかるんですよ。
9時からとなっていても、9時過ぎに職員がやって来ますからね(マジで)。
9時という意味は、10時と思っておいたほうがいい。時には10時半から11時。
すごい国だよ、アメリカってさ。

裁判の最後に「次回は○月○日の午前10時から」と決まっても、正式な手紙をもらわないといけないので、その手紙をいただくのに2時間から3時間待つこともありおりはべりいまそかり……。

その日もいつものように「いつになったら裁判所から出られるかな」と思いながらネットサーフィンをしていたら、小学校から電話がかかってきた。

学校から電話がかかってくることなんてほとんどないから、これは良くない知らせのサイン。

案の定、よくない知らせだった。

スクールカウンセラーのアリスからだった。

「あきつ、あなたの息子Tが2時間目にいきなり暴れたの。床のカーペットを引っ張って、叫びながら本棚を倒して、椅子も蹴飛ばして。生徒達は叫んでいたけれどE先生が廊下に避難させたの。A先生が捕まえたわ。その後は、学校終わるまでTはわたしと一緒にいたから。」
「それでね、明日の朝、MS病院の児童専門の精神科医に会って、Tが精神異常がないか調べてきて」

わたしはアリスが何を言っているのかさっぱりわからなかった。

その時のわたしの心情は、今日一発で単独親権もらえると考えていたから(実際の手続きが時間かかるとしても、もう家庭裁判所には来なくてもいいと思っていた)、旦那が同意しないことは計算外で、また長い裁判生活が始まるうつうつとした、どーんと堕ちた気持ちになっていた所に

え?
病院に行け?
なに?
アリス何言ってんの?

と、1回では理解できなかったのだ。

その後、校長先生が電話口に出て

「精神科医に会って、Tに異常がない、という証明がない限り学校には戻ってこないでね」
「わかる? だってわたしには他の生徒を守る義務があるの。あなたの息子は凶暴で他の生徒を傷つける恐れがあるの。わかるわよね、わたしの立場も」

確かそんなことを言っていたような気がする。
だけどわたしの頭は真っ白で、何一つとして理解していなかった。

アリスは息子の精神科医のマイクとは違って、学校のカウンセラー。
マイクは毎週金曜日しか学校に来ないけれど、アリスは毎日学校にいる。
息子がどうしても辛くなったらアリスの所に逃げ込んでいるので、わたしの状況、息子の状況もよく知っている人。
日本でいうところの、保健室みたいな役割だと思っている。

アリスは淡々と、言う。
児童精神科医の先生がどの病棟にいるのか。何アベニューの何ストリートの間に面している入口から入って、左に曲がって……と事細かに説明を電話口で言う。

「アリス、アリス。ちょ、ちょっと待って。あのね、わたし今、家庭裁判所にいるの。親権のことで新しく裁判始めることになったの、今日。だけどちょっとショックなことがあって、ゴメン、頭に入ってこない。どうして○○病院に行かないといけないの?」

旦那は単独親権に同意してくれなくてショックを受けているのに、さらに学校から追い打ち。病院に行ってドクターからの「異常なし」証明書をもって行かないと息子は学校に戻れないという。

学校に戻れない?
つまり、息子は精神異常者と思われているってこと?

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裁判所から紙をもらって、アフタースクールに行ったであろう息子をピックアップするために地下鉄の駅へと向かいながら、涙が出てきた。

どうしたらいいのかわからなかった。

先ずはマイクに電話をしてみた。

涙流しながらパニックになっていて余計へんな英語になっているにも関わらず、マイクはゆっくりと聞いてくれて「うん、わかった。病院に行って来なさい」と言った。

えっ!?
だってそんなことになったら息子の記録に残って、中学校選びが難しくなるって聞いたよ?
大丈夫なの?

「大丈夫。何の問題もないよ。病院へ行って、担当のドクターと話しをしてあげるよ」

息子がいつも行っているアフタースクールに着いたので、ディレクターにも話をしてみる。

息子が学校で問題を起こしたんだけれど、着いた時はどんな感じだった?
明日の朝、精神科医に診せろって言われたの、行った方がいいのかな?

シングルマザーでもあるディレクターはにっこり笑ってこう言った。

「そう、そんなことがあったの。ここに着いた時は落ち着いていたし、クラスメイトのJとKと仲良くしていたわよ。今もいつものように一緒に遊んでいるわ」
「そうね、Tはちょっと他の子よりも繊細な部分があるし、お父さんに2年半も会えていないから、ストレスが溜まっているのかもしれないわね……。精神科医に診せても平気よ、学校選びには問題はないわ」

息子が通っているアフタースクールは、幼稚園の時からお世話になっているし、学校のない夏休みもサマーキャンプで5週間ずっと通っているから、Tのことは本当によくわかってくれている。

息子の精神科医のマイクとともに、ここのディレクター・マリアとアシスタントのメリッサには本当にお世話になった。

マリアもメリッサもシングルマザー。マリアはラテン系で、メリッサは黒人だから、ブラック・コミュニティーの理不尽なところなどもたくさん相談に乗ってもらった。やはり日本人には理解できないことが多々あったから。


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息子の精神科医のマイク、アフタースクールのディレクターのマリア、アシスタントのメリッサの「大丈夫」という後押しももらって、問題を起こした翌朝、学校から推奨された病院に行き、査定を受けてきた。

もちろん何事もなし。

ドクターは女性で優しく息子に話しかけてくれて、息子も淡々と何があったのか話しをしていっていた。
途中でマイクと話をしてもらい「あなたの息子は異常はないわ、いたって普通、ノーマルよ」と言ってくれた。

学校に提出するための手紙が必要だから、と伝えると書いてくれた。もちろん、手元に来るまで1時間近くまったけれど(きっとシステム上、そうなっているんだろう)。

この病院から息子が通っている小学校は歩いて行ける。

学校に着いて、息子はクラスに行き、わたしは校長先生に「異常なしでーす」と笑いながら、ちょっと嫌みったらしく言って手紙を渡した。

やれやれ、これで一段落かな、と思ったら、まだ続きがあった。

2006年生まれのアメリカ人とのハーフの男の子のいるシングルマザーです。日々限界突破でNY生活中。息子の反抗期が終わって新しいことを息子と考えています。